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復帰第一段の仕事2
しおりを挟む時間にして、一時間弱。
終始和やかムードでイベントは進んだ。
新しく発売されるシャンプーのキャッチコピーは、東洋の神秘。
日本人女性古来の美しさを引き出すべく、研究、開発されたシャンプー。
何故、シャンプーのPRに女芸人が呼ばれたのかは疑問だけれど、それを口にすると、この場に居る私や間宮の立場がなくなるので、敢えて知らん振りをした。
「昔から、緑の黒髪とはよく言ったもので……」
「日本人の髪に合わせて開発されたシャンプーですので、洗い上がりがとにかく美しくなります……」
「環境に考慮して、泡立ちも控えめで、泡切れも良くなるよう研究を重ねられたそうで……」
「すっごく良い香りなんですよ!優しくてホッとするような…」
「洗い上がりがさっぱりで、オススメです」
私と間宮で嫌味ったらしく押し付けないよう、気を配りながら商品をPR。
イメージキャラクターとしてCMに出演予定のモデルさんも途中で参戦。
髪についての談義に花が咲いた。
無事にイベント終了………と、思いきや…
私と間宮が袖に捌けようと立ち上がった瞬間、それまで息を潜めていた記者達が一斉にマイクを向ける。
「森川さん、例の彼とはどこでお知り合いになったんですか?」
「デートは楽しかったですか?」
「いつから交際されているんですか?」
「森川さん、何か一言」
この機を逃すか……とばかりに一斉に質問を投げ掛けてくる報道陣。
その勢いに圧倒され、私はタジタジ……
「え、あの………あはは…」
笑って誤魔化そうにも、報道陣の追及は止む事を知らない。
「森川さん、お願いします!何か一言!」
「俳優の彼と付き合ってるんでしょ?」
質問と同時にキツいのが、カメラのフラッシュ。
色彩感覚がおかしくなりそうな程の眩しい光が飛び交い、つい顔を顰めてまう。
明らかに瞳への負担は大きい。
「彼とは、その……お友達です…」
ぎこちなく笑いながら、何度も練習した台詞を言ってみたけれど……
「事務所にそう言うよう言われたんですよね?」
「森川さん、真相は?!」
その効果は微塵もなく、逆に報道陣を煽る結果に終わる。
「大変申し訳ありません。イベントに関係のない質問はご遠慮願います」
司会者が制止しても、やはり効果はみられなくて…
「森川さん!」
「森川さーん!」
ヒートアップする報道陣に、このままでは埒があかないと判断したイベントスタッフが飛んでくる。
「すみません、終了となりまーす!!」
大声で喚きながら、私と間宮を袖へと押しやった。
終了間際に、報道陣の暴走を受け、強制的に終了となったイベント。
主催者側は、話題になった私を使う事でイベントの盛り上がりを見込んだのだろうけれど……
盛上がり過ぎて、想定外の混乱を招く事となった。
「……何とか無事に終わりましたね」
ヘマを踏む事なく、無事に復活第一弾の仕事を終えられ、達成感に浸ると同時に、10㎏のダンベルが乗っているみたく重たかった肩の荷が降りる。
「まっ、ブランク明けの仕事としては、よくやった方ね。お疲れ様」
労いの言葉と共に、川瀬さんからミネラルウォーターが手渡された。
キャップを捻り開けて飲み口に口を付けると、一気に中身を半分程減らした。
「質問を受けた時の森川のキョドり方に、こっちが冷や冷やさせられちゃったよ」
「ご、ごめん…」
間宮のボヤキに苦笑い。
「何度も練習したんだけど、咄嗟の時にスラスラ出てこなくて……以後気を付ける」
今回の売名では、交際の明言を避けるよう指示されている。
敢えてお友達という言葉で逃げる事で、マスコミや一般の人達の関心を集める事と、探求心を擽る事を目的としているからだ。
本当はどうなの?付き合ってるんでしょ?という感じに。
寧ろ「付き合ってます」と、堂々と宣言するのは、不自然に思われ、売名を疑われるのではないかとの懸念もある。
完全に売名が目的なのだけれど、あくまでも、交際を匂わす程度に留めて話題を後々まで引き延ばす作戦だ。
確かに芸能界での傾向は交際を大っぴらにせず、明らかに嘘でもお友達で押し通している芸能人が多数いる。
イメージを守る為、マスコミを引っ掻き回す為等、目的は様々。
私の場合は、売名を疑われないように事を運ばせる為と、マスコミの調査意欲を掻き立て、何度も記事にして貰う為……という二つの目的を併せ持っている。
妙な力みからの気疲れはあるものの充実感は満載で、華やかな光の中で輝く自分にたんまり酔えた。
暗室で育ったモヤシが、日の光を浴びて猛烈に光合成し始めたみたいに、生き生き喋る自分。
フリートークは素人並みに下手でも、瑞々しさを取り戻して笑顔を作る自分自身に喜びを感じた。
スポットライト、カメラのフラッシュ、沢山の拍手……これ等は、中毒性が非常に高い。
モグラが自分は艶やかな蝶だと思い込んでしまう程。
「それじゃ、森川、お疲れ様~」
次の仕事へ向かおうとする間宮。
「あ、間宮!」
彼女の華奢な背中を引き止める。
「ん?何?森川」
私と同じく充実感に満ちた表情で振り返った間宮を真っ直ぐ見据えて言う。
「今まで全部任せっきりにしていてごめん。今度、空き時間に一緒にネタ作ろう。また二人でコントの頂点狙いたい」
「森川……」
強い意志をありったけ込めた私の言葉に、間宮は何度も大きく頷く。
「うん………うん、うん!やっぱ、ピンでの仕事より、コンビでの仕事の方が楽しい!森川あってのまんぼうライダーだよね!」
間宮が嬉しそうにハイタッチを求めてくる。
「違うよ、間宮。私も間宮あってのまんぼうライダーだと思ってたけど………二人揃ってのまんぼうライダーだよ」
得意気に返してみせた私は、彼女の小さな手を大きく弾く。
パチンッ……と、小気味良い音に、私と間宮は顔を見合わせてニヤリと笑った。
もう光のない所での暮らしは懲り懲りだ。
ずっと、いつまでも輝いていたい……そんな風に願っていながら、私に不足していたのは笑いに対する貪欲さ。
芸能界………特に、お笑い部門は目が回る程サイクルが早く、消耗品みたく次から次へと沢山の芸人が消えていく。
胡座を掻いている内に、あっという間に新人に居場所を取られてしまうから、淡白でなんか居られない。
だからこそ、貪って貪って、笑いの神を味方につけてやる。
そして、確固たる地位をこの手に収めてみせる。
息の長い芸人として業界に君臨し続ける為に、私は相応の努力を惜しまないつもりだ。
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