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演者の楽屋にて
しおりを挟む舞台についての感想とダメ出しを最上さんに伝えている忍足さんをぼんやり眺めていると、不意に頭の天辺のお団子が揺れる。
「意外と……小さいんだね。テレビだと結構身長あるように見えるんだけど……」
それに「え……」と思えば、手の主が興味深かそうに私を見ている。
「そ、そうですか?確か、160㎝はあったかと思うんですが……」
「ふぅん……女の子としては標準的な感じだねー…」
ワッシャワッシャと前髪付近を犬のように撫でられるこの状況に、私はどうしていいのか分からず、顔を引き攣らせながら硬直。
「こうして見ると、案外地味め感じ」
「地味、ですか………良く言われます」
引き気味の私に構わず、芹沢さんが更に距離を縮めて来る。
「てか、この真ん丸なお団子頭、どうやって作ってんの?」
どうやら、私は彼の興味の対象に選出されたらしい。
変に食い付かれても対応に困るというか……
「えっと、あの………まず最初に頭の高い位置でポニーテール作って、ボリュームを出せるスポンジみたいな輪っかを通すんですよ」
何故、初対面の人にお団子の作り方を伝授しなければならないのかは疑問だ。
「………で、グルグルグル~って髪を丸めてヘアピンで固定するだけ、です」
「へぇ………なーんだ、お団子の中に飴玉とか入ってんのかと思ってた」
「あ、飴玉………?」
何やら、芹沢さんはトンチンカンな想像をしていたらしい。
「そ、飴玉。てっきり、中に目一杯詰めて膨らませてんのかと……」
それがジワジワ来て、遂には吹き出してしまう。
「ぷっ……あはは、お腹空いた時用の非常食みたいな感じですか?」
「そうそう、そんな感じ!」
「ちょっと良いかも………今度やってみようかな…」
「収録が長引いた時に便利かもよ?」
「あはは、確かに」
思いがけない会話から緊張が解れた。
第一印象は少し怖そうに見えたものの、芹沢さんは意外とフレンドリーで話し易い。
初対面なのに話が弾む。
「舞台の感想聞かせてよ」
「いや~予想外の内容と展開に終始驚きっぱなしでしたよ。とても面白かったです。役者さん皆迫真の演技で凄かったぁ」
「マジ?嬉しいな。俺的にも今日の公演の出来は120点だったんだよね。あっ、今度さーー…」
打ち解けた芹沢さんと砕けた会話をしていると、横から「ストップ」の声が掛かった。
「芹やん、俺の彼女に馴れ馴れし過ぎ」
私と芹沢さんがほぼ同時に「え…?」と声を挙げた。
「あと、過度のボディータッチはNGね」
私の角度からは、忍足さんの表情は窺えない。
それでも笑いを含んだ声から、笑みを浮かべているだろう事は察知出来る。
「や…だなーおっしー、下心なんか全然ないよ?」
「うん、そうだと思うけど………やめて?不快だから」
冗談っぽく芹沢さんに釘を差しているけれど、言葉には棘と抑制力がある。
「もしかして、おっしー、妬いてんの?」
「そんなんじゃないよ」
「またまたぁー守りに入ってんの?」
おいおい……
これは演技だと分かっていてもかなり嬉しいシチュエーションじゃないですか。
一体、私はどんな顔をしていれば良いのでしょう?
忍足さんの演技に乗っかって照れたようにはにかめば良いの?
はたまた、芹沢さん同様に「えっ?ヤキモチ?」なんて、からかってみたりするとか?
どうリアクションするのが正解なのか分からないまま、顔が不自然ににやけそうになるのを必死で我慢。
そうこうしている内に、最上さんが「……ところで」と話題を変える。
「………鷹林さんへのご挨拶は済みましたか?」
途端に、忍足さんが小さく「……しまった」と呟く。
「鷹林さんの楽屋にも顔出しておかないとマズイよね……」
「そりゃそうでしょ。大御所への挨拶忘れちゃマズイよ?今日のプラチナシート取っといてくれたのも鷹林さんだったし」
話が見えないでいる私に、忍足さんは苦笑いながら「以前共演した大御所なんです」と。
「これから挨拶しにーーー…」
「その必要はないわよ。こちらから赴いてあげたから」
その声に一斉に振り返ると、部屋の入り口に凭れる女性の姿があった。
彼女は緩くウェーブの掛かったロングヘアをかき上げながらゆっくり前進してくる。
「ノックもせずに失礼」
女優オーラと熟女の色気を醸し出す彼女は、忍足さんの前にやって来ると妖艶に微笑む。
「私に顔を見せないなんて……つれないわね、忍足くんたら」
「鷹林さん……すみません、お着替えの最中だったら失礼かと思いまして…」
「あら、そんな事気にしなくて良いの」
艶かしい手つきで忍足さんの胸元をなぞるこの女性が大御所の鷹林さんらしい。
「相変わらずの良いオトコね、惚れ惚れしちゃう……」
「ありがとうございます」
迫力の美女相手に流石の忍足さんもタジタジで、彼の顔から余裕が消えている。
「また共演したいわ。ねぇ、どうだった?私の演技」
「凄く妖艶で惹き付けられました」
「あら、嬉しい」
まるでラブシーンを見せつけられているかのような、濃厚な絡み。
見せ付けられているこっちがドキドキしてしまう。
「あら?こちらは………噂の彼女?」
鷹林さんが漸く私の存在に気が付いた。
「は、初めまして、森川と申します」
鷹林さんの白魚のような手が、緊張気味に挨拶する私の頬に向かって伸びてきた。
「……お肌艶々でスベスベね…若いって羨ましいわ」
「え、あ………ありがとうございます…」
私の頬をそっと撫で上げる彼女の手。
若いといっても、もうアラサーなんですが……と言ったら、明らかに私より10以上は歳上であろう鷹林さんの気を害してしまうような気がして素直にお礼だけ述べた。
「初めまして、この舞台の座長を務める鷹林 怜子よ。舞台を中心に活動しているから、私の事なんて知らないわよね?きっと」
「あ、えっと……知識不足ですみません…」
戸惑いながら答える私に、鷹林さんが「ふふ……可愛いわね」と笑う。
それからすぐに「そうだわ!」と、手を叩いて忍足さんを見た彼女は、淑やかな笑みを作って言う。
「これから打ち上げなの。忍足くんも一緒にどう?勿論、彼女も同伴で」
思ってもみない提案に、私と忍足さんは互いの顔を見合わせた。
「久し振りに忍足くんと飲みたいわ。積もる話もあるし………ねぇ、良いじゃない、そうしましょ?」
「ありがとうございます。折角のお誘いなんですが、明日、舞台の公演がありまして……酒飲んで声が出ないなんていったら、洒落になりません」
「あら、ちょっとだけなら平気よ」
「ですが、彼女も仕事を控えてるし……」
「遅くならない内に締めるわ」
何かと理由を付けて断りの姿勢でいる忍足さん。
それでも、鷹林さんは折れる気配はない。
「部外者がお邪魔する訳には……」
「私が良いと言っているんだから平気よ。誰にも文句は言わせないわ」
「ですが……」
「ねっ?良いでしょ?」
押しの強い鷹林さんを前に、忍足さんの抵抗は何の効果もなかった。
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