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2度目のデート2
しおりを挟むお陰で記憶がぶっ飛んだ。
必死で乱れた呼吸を整える。
鼓動を速めたままの心臓、一瞬にしてかいた冷や汗……
我ながら、動揺し過ぎだと思う。
本当にキスされる訳ないのに。
私をからかって満足したらしい忍足さんは「そうそう……」と、明るく切り出す。
「森川さんの出演した番組を拝見させて頂きましたよ」
「え、えぇっ?!」
まだ動揺が落ち着かない私に更なる追い討ちが掛かる。
「やだ………恥ずかしい…うわぁ…」
顔を覆いながら嘆く私に、忍足さんは笑いを含ませて言う。
「やっぱり、印象が違いますね。バラエティーでまんぼうライダーの森川としてトークしている姿は、まるで別人というか……」
「…………自分としては、ちょっと無理してますんで…」
「森川さんの普段の大人しめな性質を知っている身としては、不思議な感じがしました。あっ、個人的な感想としては、トークにもうちょいキレが欲しい所でしたね」
「………そ、そっすか…」
完全に形勢逆転した所で開演の時間となった。
開演を知らせるブザーが鳴り響き、照明が落とされる。
「いよいよ始まりますね」
期待に胸を膨らませる私の横で忍足さんが頷く。
「楽しみです」
一般の観覧席から一段高い位置にある、このプラチナルーム。
座高の高い人や、おじさんのハゲ頭等といった障害が何一つないお陰でステージが良く見える。
まるで、この劇場を貸し切って独り占めしているような気分だ。
『この売女がぁっ!!』
『きゃああああっ!!』
いきなり怒り狂う男性が女性を殴るシーンから始まり、目が点になった。
『あぁっ、神は遂に私を見放したのね……』
男性の激しい暴力を受け、ボロボロになった女性は天を仰ぎ、手を伸ばした。
そこへ若い男性がやって来る。
『ミゼルダ!!何て姿に……』
『……私なら平気よ』
『あの男にやられたのか?!』
『違うの………私の事は放っておいて』
涙を堪えるミゼルダと呼ばれた女性を見て、若者は激昂する。
『ええい、こうなったら、私がこの手であの男を……』
『ウィル?貴方……まさか……もしそうなら、やめて頂戴!!』
『止めるな。キミを傷付けるヤツは誰であろうと許しはしない!たとえ、それが神であろうと!!』
耳をつんざく雷鳴が劇場内に響いた。
「…………」
「………」
………えーっと、これって、恋愛ものなのだろうか?
どう見ても、男女のドロドロな愛憎劇でしかない気がする。
まぁ、確かに恋愛ものといえば、恋愛もののカテゴリーかもしれないけれど。
もっとほんわかした甘いストーリーを想像していただけに、予想を裏切られ、衝撃を受けた。
今の所、コメディー要素も出て来ていないし。
さりげなく忍足さんの方をチラ見すると、彼の横顔は真剣で。
余程集中しているのか、睨み付けるように舞台を見詰めている。
俳優という職業の所為か、目の色が違うような気がする。
流石役者さんだな…と、感心させられた。
「………何て言うか、壮絶な内容でしたね…」
劇場内に響く拍手喝采。
勿論、私も一緒になって手を叩いている。
「最後のどんでん返しは意外性がありましたけど……」
幕が降りていく様を眺めながら言うと、忍足さんは苦笑いを浮かべる。
「……うーん…もっと気軽に観れるかと思っていたけど……重たかったですね…」
「あ、はは……でも見応えありましたね」
舞台はテレビとは違って臨場感がある。
役者さん達の緊張感も伝わってくるし。
いつもは観られる側である私だけれど、観る側として客席に座わるのもまた新鮮で、純粋に楽しめた。
「ちょっと仲間に挨拶しに行きたいんですが、お付き合い頂けます?」
「あ、はい。ご一緒して良ければ」
場内が明るくなってから忍足さんに連れられて舞台役者の楽屋へと向かう。
私も一緒に行って良いのだろうか……と戸惑いつつ、手を引かれるままに彼について行く。
「芹やん、モガ、お疲れ」
軽快にノックをした忍足さんが部屋のドアを開いた瞬間、私は卒倒しそうになった。
「おっ、おっしー!来てくれてサンキュー」
「ありがとうございます」
忍足さんに向かって駆け寄ってきたのは、半裸の男衆……
汗に濡れて輝く引き締まった肉体は、免疫のない人間にとって猛毒で。
両手で覆いながら顔を背けた。
それに気付いてくれたらしい忍足さんは笑いを含ませながら「ちょっ………二人共、服着ようよ」と、二人に服を着るよう促した。
「おっと、失礼」
「すみません」
目のやり場が定まらない私に配慮して、手近なTシャツを着込む二人。
「優雅に女連れで観賞かよって思ったら………噂の彼女じゃん」
「あっ、本当だ。見せ付けてくれちゃいますね」
二人の男性に囲まれてジロジロ見られる………どうにも居心地が悪い。
「あんまり見んなって……怖がってるじゃん」
物珍しげに私を観察する二人をたしなめた忍足さんは「紹介しますね」と、二人を紹介し始めた。
「こっちの茶髪の下品な方が、芹沢 流希、前にミュージカルで台共演して仲良くなったんです。通称、芹やん」
「下品って………おい…」
「で、こっちの黒髪で若い方が、事務所の後輩の最上 宗介、通称モガ」
「初めまして、森川さん」
愛想良く笑う最上さんと、腑に落ちない顔の芹沢さん。
「こ、こんにちは………まんぼうライダーの森川です。初めまして……」
緊張気味にペコッと頭を下げる私に、最上さんは優しく微笑み、芹沢さんは意外そうに目をパチクリさせている。
「なんか………テレビとキャラ違うくね?本当は大人し系なの?」
「………えっと……まぁ、はい…」
緊張に震える私に、芹沢さんがニカッと笑う。
「なーんだ、芸人も俺達役者と同じで演技してるって事か。ねぇ、何かネタ見せてくれない?」
「えっ……」
いきなりの無茶なフリ。
ギョッとする私に彼は「良いじゃん、ちょっとだけ」と、迫ってくる。
「い、いや………あの…」
突然ネタを………と言われても、一人で披露出来るネタはない。
モノマネでも出来れば良いのだろうけれど、生憎そんな芸当は持ち合わせていない。
「芹やん、駄目だよ」
困惑している私を見かねて、忍足さんが助け船を差し向ける。
「プロの芸人さんなんだから、ネタ見せは金取るよ」
忍足さんは「ですよね」と、私に同意を求めてきた。
それに乗っかり「高いですよ?」と言うと、芹沢さんは「マジか」と苦笑い。
見事に芹沢さんを黙らせた忍足さんに密かに感謝し、ホッと息を吐いた。
「てかさ、事前に聞いてた内容と違うくない?この舞台…」
忍足さんからの疑問を受け、最上さんは「そうですか?」と、小首を傾げてみせる。
「究極の愛ってのがテーマだから、多少大袈裟な演出になってるかもしれませんが、それ程相違はないかと…」
「いや、こんな昼ドラさながらのドロドロ具合だと思わなかったからさ……見応えはあったけど」
「あはは、彼女さんと観るにはちょっと……な感じでした?」
「ん、うん……ちょっとね。ところでモガ、登場の所、少しトチらなかった?台詞の発し方が変だった気がするんだけど」
「…………バレました?上手く誤魔化したつもりだったんですが……さすが、忍足さん」
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