売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

文字の大きさ
19 / 46

2度目のデート

しおりを挟む


翌日、時間通りにタクシーが自宅アパートにやって来た。

タクシーに乗り込むと、自動的にどこかへと向かう。

タクシーの運転手さんには、予め行き先が告げられているのだろう。

でも、私は何も知らされていない。

どこへ連れて行かれるのだろう?と、何となく落ち着かず、胸の辺りがムズムズしている。

だったらどこへ向かうか尋ねればいいのに、何となく聞くに聞けず、一人悶々と過ごす車内。

これといった会話もなく、ウィンカーのカッチンカッチン……という音が異様に響く。

かといって、変にベラベラ喋られても嫌なんだけれど。

居心地の悪さに耐える事、数十分。

とある劇場の前に差し掛かった辺りで、タクシーが徐行し、停車。

どうやら、ここが目的地だったようだ。

タクシーのドアが開いたので降りてみると、少し離れた所に人が列を成しているのが目に入った。


………はて。


「森川さん」


状況がまだ全然把握出来ていない私の背後から待ち合わせている相手の声がした。

振り返ると、やっぱり忍足さんだった。


「こんにちは。お疲れ様です」

「どうも、こんにちは」


前回、前々回同様、変装もせず堂々のご登場だ。


「今日はどういったプランで?」


私の問いに、彼はニッコリ微笑む。


「マスコミに定期的にネタを提供しないと……と思いまして。今日は俺の俳優仲間の舞台を仲良く観賞するといった感じで行きましょう」

「な、なるほど」


忍足さんは、私の手を取って、人が列を成している所へと向かう。

当然、変装も何もせず、堂々とした姿の忍足さんは目立つ。


「嘘、忍足 慧史と森川 素良!」

「マジ?!カメラカメラ!」


流石は今話題の俳優と女芸人の組み合わせ。

あっという間に周囲の人々の視線を集める。


「マジで付き合ってるんだぁ」

「忍足 慧史……ちょっと良いなって思ってたのにな~何で森川なの~?」


劇場入り口に並ぶ人達の視線を二人占めして気分良さげな忍足さんの横顔を眺めて若干不満を抱える私。


「お待ちしておりました。忍足様」


奥から出て来た女性スタッフが私と忍足さんを一般客とは別の通路へと案内する。

えっ……席普通の所と違うの?なんて戸惑っている私を他所に、忍足さんは先へ先へと私を引っ張って行く。

薄暗く狭い上、入り組んだ通路を進み、階段を上がると、また通路。

突き当たった先のドアを開くと、そこには高級感漂う革のソファが。

大して広くない部屋の真ん中にデーンと置かれ、その存在を主張している

所謂、VIP席というものなのだろう。

ゆったりとした二人掛けのソファに、忍足さんから少し距離を取って腰を下ろす。

ソファの脇には、小さなテーブルがあり、ドリンクと軽食が用意されている。

眼前には舞台が、そこから下へ視線をずらせば一般の観覧席があり、見渡せる。


「どんな内容の舞台なんですか?」

「んー……仲間から聞いた話では、恋愛要素ありのサスペンス要素ありのコメディーもありな感じらしいです」

「えっ……ごちゃ混ぜ感凄いですね」

「ある意味面白そうですよね。楽しみです」


どれだけ壮大なストーリーなのだろう。

期待に胸が膨らむ。


「ずっと観に来いって言われてて……一度は観ておかないとなって思ってたんですよ。で、今日観に行くって言ったらプラチナルームを用意してくれて……一般の席で十分だったんですけどね」

「良いお友達じゃないですか」




開演までまだ少しだけ時間があるな……と思っていると、忍足さんが言いにくそうに口を開く。


「………あー、あの……この前はすみませんでした」

「えっ……この前とは……?」


何ぞや?と考えて、すぐに閃く。


「あぁ……忍足氏泥酔事件の事ですね?」


得意気に言うと、忍足さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「泥酔事件ってタイトル付けないで貰えません?確かに通常よりかなり酔ってましたけど」

「あははっ、次の日二日酔いで辛かったんじゃないですか?」

「……まぁ、かなり。保科マネージャーにも厳重注意を受けました」

「それはそれは……」


災難な事で……といっても、こういった事案は自己責任だし、当然っちゃ当然だ。


「でも忍足さん、凄く楽しそうに飲んでましたね。見てるこっちも楽しくなる位……よっぽど嬉しかったんですね。名が売れたのが」


忍足さんが「ははっ…」と苦笑する。


「今後アルコールは一杯までと心に決めました」

「そうなんですか?千鳥ってる忍足さん、凄く新鮮だったのに」

「………忘れて下さい」


ほんのり赤くなった頬を隠すように顔を背ける忍足さんがこれまた新鮮で、悪戯心が擽られる。


「忘れられませんよ。男の人を担ぐなんて貴重な体験」


普段嫌味を浴びせられている仕返しとばかりに言ってやると、羞恥心で赤らんでいた顔が変わる。


「………記憶を飛ばしてやりましょうか?」


急に真顔になった忍足さんが私に顔を近付けてくる。

その距離は、鼻先が触れていまう程近い。

キスされそうな超至近距離に私は声も出せずに固まるだけ。

何か苦しい……と気が付けば、私は何故か息を止めている。

何となく、忍足さんのキレイな顔に私なんぞの汚い息を掛けてはいけないような気がして必死に耐えている。

男の人に触れられる事、パーソナルスペースを越えての接近に免疫のない私にとって、彼の行動は恐ろしいものだ。

ゴクッ……と喉が鳴り、目の前がグルグル回る。
今の私は、目や鼻の下だけでなく、頬も紅潮しているに違いない。

奥歯を噛み締めながら身を固くする私を見て、忍足さんは「ぶっ…」と吹き出す。


「これ位で真っ赤になってるような人にからかわれたくないですね」


小さな声で呟くと、彼はそっと私から体を離した。

その途端、プハッ……と、塞き止められていた息が漏れ出る。

苦しかったのと、恥ずかしかったのと……

もう、思考回路はグチャグチャのゴチャゴチャ。


「ウブ過ぎです」

「っ……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...