売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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躍進

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………今度のお正月は、高級デパートのおせちを予約して、リッチにいこう。



年の瀬が迫る12月後半。

手帳にぎっしり書き込まれたスケジュールを眺め、一人満足気にほくそ笑む。

売名の恩恵で、クリスマス、大晦日、元日といった大々的なイベントは全て仕事が入っている。

小正月の辺りまで、まともな休みはなさそうだ。

体力的には少々キツいけれど、仕事がなかった時の惨めな気持ちを味わうよりはまだ全然良い。

弁当屋で働いていた頃のクリスマスは、チキンを揚げて…

年末は、注文されたオードブルの唐揚げを揚げて…

正月三が日は、店が休業日だったから、家で間宮の活躍をテレビで観ながら店で余った唐揚げを食べて…

何とも、鶏尽くしな年末年始だった。

それが今回は、仕事、仕事、仕事。

もう、さっきから頬が緩むのを止められない。

売名行為、最高。


「森川、前にあんたが雑誌で連載していたコラムを纏めて本にしたいって話を頂いたんだけど」

「えっ……あの女性向け月刊誌で書いていたやつですか?」


過去に私は、主に20代~30代の女性をターゲットにしたファッション誌にコラムを連載していた事があった。

コラムのテーマは働く女性。

女芸人を代表して、当時活躍していた私は、世の女性達に向けてのメッセージ性の強い文章を書いて毎月掲載していた。

文章を書くのが苦手ながらも一生懸命書いていた記憶がある。


「そうそう、それ。ページ数が圧倒的に足りないから、加筆する必要があるようだけど……どうする?出来る?」

「大丈夫です。やります」

「そう。じゃあ、後日出版社と打合せって事で。頭に入れといて」

「はい」


売名でメディア露出が増えた途端、手のひらを返したようにこういった依頼が急増。

スポンサー契約を打ち切られたCMにも再度出演してくれないかと打診もあったし。

話題になっている人間を起用する事で、利益を生み出そうという思惑が見てとれる。

これぞ、正に便乗商法。

まるで、この機を逃さないと言わんばかりだ。

仕事は順調。

寧ろ、順調過ぎて、怖いくらいだ。

コンビとしては勿論、ピンとしての仕事も少しずつ入ってきている。

今まで間宮の活躍をテレビで複雑な気持ちを抱きながら眺めているだけだった私が、今では彼女と同等とはいかないけれど、それに近い立ち位置にいる。

スタジオからスタジオへの僅かな移動時間が、貴重な睡眠時間。

忙しくて、満足に食事を摂れない時もある。

それでも、不満は一切ない。

仕事がある内が華だから。

歴史に名を刻むような凄い人にはならなくて良いから、末長く輝く存在でありたい。

その為に、売名の効力が切れない内に芸人としての力を身に付け、自らの地位を確立しておこうと思う。

せめて、中堅芸人の位置には食い込んでおきたい……なんて、欲がどんどん出てくる。



売名同盟の相方である、忍足さんはというと……

売名作戦の以前から決まっていた舞台の公演中。

舞台の合間にちょこちょこドラマの仕事があったり、雑誌の写真撮影もあったり……と、聞いているだけでも目まぐるしい。

舞台は、午前と午後の2回公演……その他に舞台稽古もある訳だ。

体力的にも精神的にも大変だと思う。

それプラス、連ドラの撮影もあるから、私以上に忙しい筈。

きっと、余裕もないのだろう。 

LINEも滅多に入らない。

体を壊さないかと、気が気でなくて…

かといって、こちらも仕事に追われる日々で忙しくて余裕がなく、連絡出来ずにいた。



クリスマスはバラエティー番組の収録でスタジオに縛り付けられ、年越しは海外でのロケの為、日本から遠く離れた異国の上空でカウントダウン。

お正月は、帰国早々生放送に出演という殺人的過密スケジュールをこなし、合間作業に書籍の原稿をせっせと書く……

完全にキャパオーバー。

それでも、立ち止まってはいられない。

一度は見放された世界から、そして世間から私は再び必要とされた。

出来る事は何でもしたい。

例え、体がボロボロになっても。

売名行為で遠ざかっていた光が、また私を照らし出したのだから。

その光が弱まらないよう、消えないように、とにかく必死だった。

そんなある日、漸く忍足さんからLINE で連絡が入った。


「…………川瀬マネージャーから明日午後からオフだとお聞きしました…」


メッセージを読んでいる内にもう1件メッセージが送られて来た。


「ちょっと出掛けませんか?……とな」


忍足さんもオフなのだろうか?

取り敢えず、了承の旨を伝えようと、敬礼しているウサギのスタンプを送信した。

すぐに既読の表示が付く。


「3時に自宅までタクシーを送り込みます……へぇ、タクシーのお迎えですか。リッチですな。これまた了解…っと」


スタンプを送信して、また偽装デートか……と溜め息を吐いた。

嫌ではないけれど、貴重なオフに疲れる事はしたくない……というのが本音だったりする。 
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