18 / 46
躍進
しおりを挟む………今度のお正月は、高級デパートのおせちを予約して、リッチにいこう。
年の瀬が迫る12月後半。
手帳にぎっしり書き込まれたスケジュールを眺め、一人満足気にほくそ笑む。
売名の恩恵で、クリスマス、大晦日、元日といった大々的なイベントは全て仕事が入っている。
小正月の辺りまで、まともな休みはなさそうだ。
体力的には少々キツいけれど、仕事がなかった時の惨めな気持ちを味わうよりはまだ全然良い。
弁当屋で働いていた頃のクリスマスは、チキンを揚げて…
年末は、注文されたオードブルの唐揚げを揚げて…
正月三が日は、店が休業日だったから、家で間宮の活躍をテレビで観ながら店で余った唐揚げを食べて…
何とも、鶏尽くしな年末年始だった。
それが今回は、仕事、仕事、仕事。
もう、さっきから頬が緩むのを止められない。
売名行為、最高。
「森川、前にあんたが雑誌で連載していたコラムを纏めて本にしたいって話を頂いたんだけど」
「えっ……あの女性向け月刊誌で書いていたやつですか?」
過去に私は、主に20代~30代の女性をターゲットにしたファッション誌にコラムを連載していた事があった。
コラムのテーマは働く女性。
女芸人を代表して、当時活躍していた私は、世の女性達に向けてのメッセージ性の強い文章を書いて毎月掲載していた。
文章を書くのが苦手ながらも一生懸命書いていた記憶がある。
「そうそう、それ。ページ数が圧倒的に足りないから、加筆する必要があるようだけど……どうする?出来る?」
「大丈夫です。やります」
「そう。じゃあ、後日出版社と打合せって事で。頭に入れといて」
「はい」
売名でメディア露出が増えた途端、手のひらを返したようにこういった依頼が急増。
スポンサー契約を打ち切られたCMにも再度出演してくれないかと打診もあったし。
話題になっている人間を起用する事で、利益を生み出そうという思惑が見てとれる。
これぞ、正に便乗商法。
まるで、この機を逃さないと言わんばかりだ。
仕事は順調。
寧ろ、順調過ぎて、怖いくらいだ。
コンビとしては勿論、ピンとしての仕事も少しずつ入ってきている。
今まで間宮の活躍をテレビで複雑な気持ちを抱きながら眺めているだけだった私が、今では彼女と同等とはいかないけれど、それに近い立ち位置にいる。
スタジオからスタジオへの僅かな移動時間が、貴重な睡眠時間。
忙しくて、満足に食事を摂れない時もある。
それでも、不満は一切ない。
仕事がある内が華だから。
歴史に名を刻むような凄い人にはならなくて良いから、末長く輝く存在でありたい。
その為に、売名の効力が切れない内に芸人としての力を身に付け、自らの地位を確立しておこうと思う。
せめて、中堅芸人の位置には食い込んでおきたい……なんて、欲がどんどん出てくる。
売名同盟の相方である、忍足さんはというと……
売名作戦の以前から決まっていた舞台の公演中。
舞台の合間にちょこちょこドラマの仕事があったり、雑誌の写真撮影もあったり……と、聞いているだけでも目まぐるしい。
舞台は、午前と午後の2回公演……その他に舞台稽古もある訳だ。
体力的にも精神的にも大変だと思う。
それプラス、連ドラの撮影もあるから、私以上に忙しい筈。
きっと、余裕もないのだろう。
LINEも滅多に入らない。
体を壊さないかと、気が気でなくて…
かといって、こちらも仕事に追われる日々で忙しくて余裕がなく、連絡出来ずにいた。
クリスマスはバラエティー番組の収録でスタジオに縛り付けられ、年越しは海外でのロケの為、日本から遠く離れた異国の上空でカウントダウン。
お正月は、帰国早々生放送に出演という殺人的過密スケジュールをこなし、合間作業に書籍の原稿をせっせと書く……
完全にキャパオーバー。
それでも、立ち止まってはいられない。
一度は見放された世界から、そして世間から私は再び必要とされた。
出来る事は何でもしたい。
例え、体がボロボロになっても。
売名行為で遠ざかっていた光が、また私を照らし出したのだから。
その光が弱まらないよう、消えないように、とにかく必死だった。
そんなある日、漸く忍足さんからLINE で連絡が入った。
「…………川瀬マネージャーから明日午後からオフだとお聞きしました…」
メッセージを読んでいる内にもう1件メッセージが送られて来た。
「ちょっと出掛けませんか?……とな」
忍足さんもオフなのだろうか?
取り敢えず、了承の旨を伝えようと、敬礼しているウサギのスタンプを送信した。
すぐに既読の表示が付く。
「3時に自宅までタクシーを送り込みます……へぇ、タクシーのお迎えですか。リッチですな。これまた了解…っと」
スタンプを送信して、また偽装デートか……と溜め息を吐いた。
嫌ではないけれど、貴重なオフに疲れる事はしたくない……というのが本音だったりする。
0
あなたにおすすめの小説
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる