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過酷なロケ
しおりを挟む飛行機で数時間、現地ガイドが運転するボロ車に揺られる事3時間、更に人の手が入っていない険しい道を1時間歩いて、目的の秘境の地を踏んだ。
「うわー…」
とは言ってみたものの、来る時期が悪かったらしく、それ程感動出来る風景ではなかった。
生憎の霧の所為か、折角の秘境も霞んでいる。
到着までこれといったハプニングもドラマ性もなく、割りとすんなり来れてしまったが為、同行していた番組ディレクターの表情は渋い。
「もうちょい、面白い画が撮りたいんだけどなぁ……」
3日間滞在の予定ではあるけれど、1日で終わったとしても発生するギャラは同じ。
寧ろ、こちらとしては儲けもの。
番組的にも無駄なコストを減らせるから良い事だと思う。
なのに、面白さと視聴率を求めるディレクターは、早期の撤収を許さなかった。
機材を片付けるカメラさんと帰り支度をする私と川瀬さんを尻目に、現地ガイドと通訳を交えて話をしていたディレクターが突如「よしっ!」と声を挙げた。
後はホテルに向かうだけ状態の私を始めとする一同が一斉にディレクターの方を見る。
「明日は現地のアクティビティに挑戦しよう!」
誰が?と聞かなくても、挑戦するのが私である事は明らかだ。
「どのみち編集したら尺が足らない。ガイドさんに聞いたら凄く面白いアクティビティがあるって言うから、明日はそれね!頼むよ、森川さん」
絶叫系は苦手な私にとってディレクターの言葉は死の宣告みたいなもの。
宿泊先のホテルに向かうまでの間、私はずっと暗かった。
眠れぬ夜を過ごした私にとって、夜が開けた朝は朝日が眩しい事この上なかった。
「晴天ですねー!」
ADの辻井くんが空を見上げて言った。
「雲一つない空!アクティビティ日和っすね!」
何故かテンションの高い彼とは反対に、私はテンション低め。
「嵐でも来れば良かったのに……」
恨み言を吐いても雨雲が集まって来る気配なし。
憂鬱さから喉を通らない朝食を無理矢理押し込んで、アクティビティを体験出来る現場へと向かった。
「なっ………」
ヘリコプターでの移動で降り立った先は、足がすくむような崖っぷち。
今時2時間ドラマですら出て来ない危険な香り漂う断崖絶壁に目眩さえ覚えた。
身を乗り出して下を除けば、かなり下の方に水があるのが辛うじて見えた。
全体的に岩場で覆われたその場所には、テキトーに作り付けられたような足場があって、私は瞬時にアクティビティの内容を把握した。
「この岩場からバンジージャンプして貰うから」
岩場を吹き抜ける風の音が、何か禍々しいものの雄叫びのようなものに聞こえてならない私は、目の前の恐怖に体を強張らせるのみ。
「ヘルメットとハーネスつけたら、サクッと飛ぼう」
「さ、サクッと……ですか…」
簡単に難題を言ってのけるディレクターに殺意が芽生える。
高所恐怖症かつ、ビビりな性格な私は、ハーネスを取り付けられる音にもビクビク震える。
「き、危険ですよね……?」
助けを求めるように川瀬さんを見詰めるも、彼女は他人事のように言う。
「大丈夫よ。失神したり、失禁する人はたまにいるらしいけど、今のところ死者は出ていないそうだから」
今まで死者は出ていなくとも、私が死者第1号になるかもしれない。
岩場に頭を強打したり、ハーネスが切れてしまったりするんじゃないか……とか、死にはしなくても、後遺症が残るような大怪我してしまったりするんじゃないかって思ったら、足場の先端まで歩を進める事が出来ない。
「森川、早く行きなさい」
「っ、ですが……」
膝がガクガクで言う事を聞かない私を見かねて、川瀬さんが背中をグイグイ押す。
「ちょっ………待って下さい!怖い怖い怖いっ!!」
先端に近付くにつれ、鼓動が早まり、息苦しさや目眩で気持ち悪くなる。
いっそこのまま失神してしまえれば良いのに、それも叶わず「怖い怖い」と裏返った声で叫ぶばかり。
現地アクティビティを運営する金髪のお兄さんが笑いながら何か言っているけれども、英語力のない私には彼の言葉が理解出来ない。
ただ、何となく馬鹿にされているようなのだけは分かった。
遠巻きに見ているディレクター達も恐怖に戦く私を滑稽そうに眺めている。
「嫌だ!無理っ!怖い!!」
正面には岩の塊、下を向けば底がどこか分からない不気味な空間が広がっていて、地獄への入り口のように感じるのは私の気の所為だろうか。
「無理です!!出来ません!」
あと二歩でダイブという所で、限界が来てしゃがみ込んだ。
「こんな高いとこから飛ぶのは無理ぃ……」
堰を切ったように涙が流れ落ちる。
「無理ですって……」
「森川、飛びなさい」
「嫌です。怖いです」
川瀬さんに促されるも、私は泣きながら首を振るしか出来ない。
「あんたは芸人でしょ?番組を盛り上げる為に自分を奮い起たせなさい」
「無理なものは無理です。だったら、ディレクターや川瀬さんが飛べば良いじゃないですか?!」
遂には、恐怖で逆ギレ。
現地ガイドが通訳を通じて「無理ならやめた方が……」と中断を提案して来たけれど、ディレクターは応じない。
鬼だと思った。
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