私は彼の恋愛対象外。

江上蒼羽

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王子よ来たれ!side:涼亜

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コンビニでのアルバイトを初めて1週間。

まだまだ分からない事だらけだけど、それでも基本的なレジ操作は出来ている。

接客も、店長から表情が固いと言われながらも、笑顔を心掛けている。

たまに噛んだり、お釣りを落としたり………ちょいちょいやらかしているけど。



「何でまたコンビニでバイトなんてする気になったの?」


友達の奈々が不思議そうに聞いてきた。


「あのね、あのコンビニ、レイくんに似ている人が出入りしてるんだよ!」


それを聞いて、もう一人の友達の麻友里が驚く。


「マジ?レイくんって、涼亜が好きなあのレイくん?」

「そう!メチャメチャ格好良かったの!お近付きになりたいじゃん!だから、あの店でバイトする事にしたの。金欠もあったし」


興奮気味に話す私に、二人は苦笑いを浮かべた。


「そんな不純な動機じゃ続かないんじゃない?」

「そうそう、その前に、レイくん似のイケメンだったら彼女いるでしょ」


口々に否定的な意見を述べる二人に、むうっと頬を膨らませる。


「頑張るよ!それに、彼女がいたとしても……」


ドンッと、力強く机を叩く。


「強奪すればいいだけじゃん!!」


強気発言をしながら立ち上がった私を見て、奈々が苦笑いしながら拍手する。


「凄い……前向きじゃーん」


その隣から麻友里も口を挟む。


「いいぞーその意気だ。頑張れー」


見事な棒読みでの応援を受け、逆に気合いが入った。


「見てなよ。絶対レイくん似の彼をゲットしてやるんだから!」


私がバイトを始めてから、彼の来店はまだない。

今日こそは来て欲しい、私の王子様に。



とかなんとか張り切ってはいるものの、実際はそうそうお目に掛かれない。

レジの合間におでんの具を継ぎ足しながら溜め息を吐く。


今日も来ない……


店の壁掛け時計は、7時を示していた。


もしかしたら、あの日は起きていながら夢を見ていたのかもしれない。

テストの点数がショック過ぎて、頭の回路がちゃんと繋がってなかったのかもしれない。

だって、あのレイくんに似た人だよ?

あんな完璧で美しいレイくんに似た人が、こんな中途半端な田舎町にいる筈ない………なんて事を思いながら、パウチの中身を空けていく。

と、その時、客の出入りを知らせる軽快なメロディーが鳴り響いた。


「いらっしゃいませー!」


レイくん似のイケメンに会えないイライラをぶつけるように声を張り上げる。


「あははっ、元気良いねぇ、新人ちゃん?」

「あ………」


入店してすぐに私がいるレジの前に立ったニコニコ笑顔のその人は……

ずっと会いたくて、その顔を拝みたくて、待ちわびていた憧れの王子だった。


「は、はい、少し前からアルバイトさせて貰ってます!」


力み過ぎて運動部の声出しみたいに大きな声が出た。


「そっかぁ、頑張ってねぇ」

「はい!頑張ります!」


完全に油断していた時に現れてくれちゃうもんだから、心の準備が間に合わない。


「後ろの棚のが欲しいんだけど………新人ちゃんなら、銘柄より番号で言った方が分かり易いよね?」


私の後ろの棚には、種類豊富に煙草が陳列されている。

色々な銘柄があるけど、新人な上に未成年で煙草を吸えない私は銘柄を言われても何が何だかさっぱりだ。

店長やベテランバイトさんなら、位置と銘柄をしっかり把握しているから、お客さんを待たせずに提供出来るけど、私は商品を探し出すまでに時間が掛かってしまう。

だから、こういう時は銘柄よりも番号で言って貰えた方が助かる。


「んーとねぇ……21番の箱1個頂戴」

「畏まりました。この青いパッケージのですね」

「うん、袋は要らないよん」


流石は王子、気遣いも王子級。

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