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中途半端な優しさ④
しおりを挟む通り掛かったファミレスの駐車場内に車を進入させる。
と、彼女が「えっ…」と声を挙げた。
「ファミレス………寄るんですか?」
恐る恐るといった具合に聞いてくる彼女。
その問いには答えずに、店の入り口近くに車を駐車した。
シートベルトを外して言う。
「腹減ってない?何か温かいもの食べて行こう」
「え………あ、いや……」
「腹が減ってなくても少し付き合ってよ。俺もう腹減っちゃって減っちゃって」
「でも、私お金………そんなに持ってない…」
中々シートベルトを外そうとしない彼女に焦れて、ベルトのロックを解いてやる。
「女子高生から金取ろうなんて思ってないよ。俺が払うから行こうよ」
「でも………」
いつもの明るくて溌剌とした姿が嘘みたいにしおらしい彼女にもう一度「ほら、行こう」と声を掛ける。
「涼亜ちゃんの気が済むまで話聞くから。その為に寒い中俺を待ち伏せてたんだよね?」
「っ…」
「違う?」
「…………」
泣く寸前の顔をしながら、彼女は口をきゅっと固く結んでいる。
痛々しいその表情に胸を締め付けられそうだ。
店員に禁煙席の窓際の席に案内された。
テーブルを挟んで向かい側に座る相手は、明るい店内に反してとても暗い。
背中を丸めて俯いたままの彼女に、そっとメニューを差し出す。
「好きなの頼んでね」
「……………食欲ないです…」
彼女が呟いた瞬間に、ぐぅ~と音が鳴る。
「………お腹の方はそうでもないみたいだよ?」
「…………」
俺の指摘を受け、彼女は決まり悪そうに視線を泳がせた。
その様が可愛らしくて、悪いと思いつつ吹き出してしまう。
「遠慮しないで沢山食べて」
「…………ありがとうございます」
注文を済ませ、食事が運ばれて来るのを待つ。
相当泣き腫らしたのだろう。
パッチリ二重が一重になりかけている程腫れた瞼が痛々しい。
そんな瞼を重そうに持ち上げながら、彼女が言う。
「……あの、この度はご迷惑お掛けしました」
「ん?迷惑?」
真っ赤に充血した目からは、今にも涙が滲み出てきそうだ。
「お兄さんにしつこく無理なお願いして申し訳なかったです…」
「迷惑だなんて思ってないから」
「………でも、お兄さんを困らせたのは間違いないじゃないですか」
「気にしなくていいよ。それより………大丈夫?」
この場で大丈夫と聞くのはそぐわない気がしないでもないけれど、聞かずにはいられなかった。
彼女はぐっと何かを飲み込むような素振りを見せた後、ゆっくり話し始める。
「………なんてゆーか、若さと勢いだけで何でも上手くいくと思い込んでたんですよね、私。相手の事考えないで一方的に……」
「涼亜ちゃん……」
「友達にも呆れられちゃって………あ、でもちゃんと慰めて貰ったんですよ。馬鹿だねって言われたけど」
涙が彼女の頬を次々と伝い落ちていく。
「本当、馬鹿みたい………めっちゃ気合い入れて、お姉ちゃんのお気にの可愛いワンピ拝借したり、慣れないメイク張り切ったり……冷静になって考えたら、私みたいなちんちくりんが相手にして貰えるわけないのに…」
ダボついた服の袖口で涙を拭いながら、彼女はぎこちなく笑ってみせた。
「まさか、結婚してるなんてなぁー……結婚指輪見せ付けられちゃいました」
「………レジで金銭のやり取りをしている間に、彼の手元見たりしなかったの?」
「正直、顔しか見てなかったです」
「あ、はは………そうなんだ…」
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