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中途半端な優しさ⑤
しおりを挟む思い込んだら突っ走るタイプの子なんだろうな、この子は。
勢いつけて飛び出して、ぶつかって自滅するパターンが容易に想像出来る。
だからこそ、彼女の暴走を冷静に止めてあげた帯刀さんは正しい。
けど、こんな風に涙を流す姿は見たくなかった。
彼女がいつも元気で明るいが印象強いからこそ余計に。
「本当はね、ちょびっと期待してたんですよ。彼女がいようが何だろうが、それでも一回くらいは私とデートしてくれるんじゃないかなって」
「………そっか…」
「でもね、完璧なまでな一刀両断………瞬殺されました。あはは……今思えばそりゃそうだよなって感じです」
涙を拭い過ぎて目元が真っ赤になっている彼女を眺めながら、彼と引き合わせる前にきちんと諭して諦めさせてあげられなかった己を悔いた。
「………王子にフラれた直後に、大好きなレイくんの熱愛報道が出たんですよ」
彼女の涙は中々止まる気配をみせない。
「歳上のモデルさんが相手みたいで……調べたら目鼻立ちくっきりの美人さんでした」
「……そういえば、そんな報道、ネットニュースで見たような気がするな…」
タイトルが【超人気アイドル、歳上モデルと熱愛】みたいな感じだったから、さして興味を持てなくてページを開かなかったけれど。
「ファンの皆が俺の彼女だよって言ってたくせに……裏切られました」
「……いや、アイドルって立場上、そう言うしかないだろうからね。アイドルも人間だから、人並みに恋愛するだろうし…」
「だけどっ……隠し通して欲しいです!落ち込んでいた所からの追い打ちとしては、殺傷力半端なかったですもん!お陰で涙の製造が止まりません!」
失恋と好きなアイドルの熱愛発覚が重なるなんて、何というタイミングの悪さ。
彼女にとって相当キツかった事だろう。
「………王子の奥さん、きっと綺麗な人なんだろうなぁ。私なんかが太刀打ち出来ないくらい………レイくんの相手のモデルさんも綺麗な人だったし」
「……だろうね…」
彼女が王子と呼ぶ彼の奥さんの事はよく知っている。
お世辞にも美人とは言い難いけれど、柔らかい雰囲気を纏った可愛らしい女性だった。
「青柳のお兄さんは、見た事ないんですか?」
「ん?………うん」
嘘は言っていない。
実際、帯刀さんの奥さんになってからの彼女を見ていないのだから。
「どんな人なんだろう。見てみたいなぁ」
「そっか……」
自分がフラれた相手だとは口が裂けても言えない。
だから
「さして興味ないかな…」
胸をチクリと刺す痛みに耐えながら、曖昧に笑って誤魔化した。
「バイトはどうするの?このまま辞めちゃうの?」
帯刀さんとの接点を作る為にあのコンビニでアルバイトしていたのだから、彼にフラれてしまった以上もうその意味はなくなっただろう。
「…………辞めるつもりでいたんですけど、お姉ちゃんのワンピ弁償しないといけないし、折角仕事覚えたのに勿体ないので、もう少し続けます」
「そっか」
「王子はもうあのコンビニに行かないと言ってたから、顔を合わせて気まずい思いをする心配はないだろうし……頑張れると思う」
「それは良かった」
何気なく言った言葉に、彼女が反応する。
「良かった……って…?」
「あぁ……涼亜ちゃんの元気の良い声が聞けなくなるのは寂しいから、続けて欲しいと思ってたんだよね。頑張って、応援してるよ」
本音を乗せて励ますと、彼女は一瞬キョトンと目を丸くさせた後、照れたようにはにかむ。
「あは、ありがとうございます」
「お礼を言われる程じゃないよ」
やっといつもの笑顔が出て来て、少なからず安心した。
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