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真夏の夜、花火の下で①
しおりを挟む張り切って浴衣を着てきたものの、暑くて蒸れる。
頑張って髪を可愛くアレンジしてきたものの、上手くピンで固定出来ているのか不安。
慣れない下駄は歩きにくい上、親指と人差し指の間に食い込んで痛い。
折角の気合いメイクも汗でよれていそうだ。
「……あづ~い」
「浴衣って涼しそうに見えて意外と暑いよね」
カズさんとの待ち合わせ場所は、花火会場に一番近いコンビニ。
花火の打ち上げ開始は午後7時だから、待ち合わせは1時間前の午後6時。
移動やら場所取り、出店での買い物時間を考慮してLINEで打ち合わせてある。
待ち合わせのコンビニの前は激込み。
きっと私達のように待ち合わせに利用している人が多いんだろう。
待っているついでに飲み物も買えるし、トイレも済ませられるし。
人が多過ぎてカズさんが来ているのかどうかも分からない。
「カズさん、来てるかな?」
「さぁ……そんなに浴衣見て欲しいの?」
「そりゃ勿論!」
今日の日の為に浴衣を新調した。
白地に椿をあしらった上品で清楚な柄で勝負に出るつもりだ。
「凛ちゃんこそ、早く高瀬さんに浴衣見せたいんじゃない?」
「ば、馬鹿言わないで。アンタと一緒にしないでよ」
「またまたぁ~素直じゃないんだから」
同じく凛ちゃんも今日の為に浴衣を購入。
綺麗な藍色に朝顔柄が大人っぽく、彼女に良く似合ってる。
「てか、凛ちゃんまで浴衣で気合い入れてたら、私が霞むじゃん…」
「はぁ?何で?」
ただでさえ顔面偏差値が違うのに、浴衣で艶やかに決められたら、更にその差が開いてしまう。
浴衣を纏った背筋はピンと張り、髪をアップにした事で露になったうなじは白くて色っぽい。
私は産毛だらけで、慌てて剃ってきたけど、凛ちゃんは日頃から手入れを怠っていないんだろうと思う。
見るからにスベスベ滑らか肌で、女の私ですら撫でくり回したい衝動に駆られる。
これじゃ、高瀬さんを落とすどころか、カズさんまで持っていかれそうだ。
「……凛ちゃんの美貌はズルい」
「はぁ?生まれ持ったもんケチつけられたら堪ったもんじゃないんだけど」
「くぅ~!嫌味!」
我ながら、今のは川平慈英っぽい「くぅ~!」だった。
「あ、居た居た。お~い!」
人の壁の端っこ辺りで大きく手を振る人が居る。
「あ、カズさん!」
神々しい程のイケメンオーラを放つカズさんは、本日濃紺の浴衣を着用。
それを見て、凛ちゃんがボソッと呟く。
「花火大会に浴衣を着てくる男は自分に自信があるナルシスト……ってのが私の持論」
凛ちゃんは馬鹿にしたように鼻で笑うけど、私から言わせれば
「実際格好良いんだからナルシストにもなるでしょう」
カズさんクラスのイケメンなら、ナルシストになって当然だと思うし、彼がナルでも全然OKだ。
「てか、カズさん素敵過ぎ~!」
「………そう?私にはさっぱり…」
凛ちゃんてば、見る目なし。
「既に人いっぱいだね」
私達の元へ駆け寄って来たカズさんが辺りを見回しながら言った。
「しかも暑い!」
手にしていた団扇でパタパタ扇ぐ彼に「ですね~」と同意。
「その団扇は自前ですか?」
カズさんの持つ団扇には【今ならお得!!フリーローン】の文字が書かれている。
イケメンの彼が持つに相応しくない気がする。
「あー、何かさっきこの通りの銀行前でお姉さんから貰った。暑かったし丁度良いよ」
ニコニコ顔で爽やかに言うカズさんとフリーローンという言葉は無縁であって欲しい。
というか、近くで見るとやはりイケメンだ。
浴衣の襟元から覗く喉仏がやけにセクシーで、思わず「おおうっ!」と唸ってしまいそうになる。
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