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にゃんてこった!!⑩
しおりを挟むで、結局……
「門限はないんですけど、夕飯はカレーらしいので、夕飯までに送って下さい」
「えっ?カレー?あはは、そりゃ帰らないとね。了解」
仕方ないので、最後までお付き合いする事に。
凛ちゃんに恨まれるだろうけど、恋愛感情は一切ないから、その辺は目を瞑って貰うしかない。
「猫って可愛いよね~癒される」
締まりのない顔をしながらキャットタワーの出っ張り部分で丸まる猫に向かって手を伸ばす高瀬さん。
「デレデレですね……でも分かります。超絶可愛いですよね、猫」
彼に同調しながら足元の猫を撫でる。
「そんなに猫が好きなら飼えば良いのに」
私が言うと、高瀬さんは「無理なんだよねぇ」と苦笑する。
「母親が生き物全般大っ嫌いなの」
「へぇ……ウチは父親が猫アレで……って、高瀬さん、実家住みなんですか?!」
私が驚くと、彼は「何で?」と逆に驚く。
「信じられない!いい歳して実家暮らし?!」
私の中で、20半ばの男が実家暮らしというのは有り得ない。
だって、自立してない証拠だもの。
ドラマや漫画の世界じゃ、大抵大人の男は、アパートで一人暮らししてるものだ。
それを実家に寄生して、ママンの手料理を頬張り、ママンにお洗濯をして貰い~の、パパンのお金で生活をする……
私の偏見かもしれないけど………絶対生活力ないわ、この人。
「信じられないって……輝子ちゃんだって、実家暮らしでしょ?口振りからして」
「私は二人だけの姉妹で、姉が嫁いじゃったから、私まで家を出たら両親が寂しがると思うんで実家に居るだけです」
尤もらしい理由を付けたものの、実は楽だから実家から出れないだけ。
本当はお洒落で優雅に一人暮らししたいけど、今の給料じゃ厳しいし。
「両親を想うが故に実家を出れないだけです」
ドヤッとしながら言った私に、高瀬さんが吹き出す。
「輝子ちゃんって、家事出来なそうだもんね」
「………」
悔しい事に全く否定出来なかった。
猫カフェだけで、ほぼ半日を費やした。
高瀬さんが帰りたがらないのもあったけど、私自身も猫とのお戯れが楽しくて、腰が重くなってしまっていたからだ。
だから気が付いたら、入店時に居た筈の客が皆別の人間に入れ替わっていた。
「そろそろ出るか……腹減ったでしょ?何か食べに行こう」
「そういえば胃の中空っぽだ………猫にばっかおやつ与えてて、自分のおやつ忘れてました」
すっかり懐いてくれた猫達に別れを告げ、店を後にした。
この時点で帰りたいと申し出たものの、聞く耳持ってくれない高瀬さんの運転でファミレスに向かう。
「中華フェアだって」
店先に出ている幟を見付けて高瀬さんが言った。
「へぇ~良いですね。杏仁豆腐食べたい」
「良いね。俺も食べよ」
こんなカップルみたいな会話は、カズさんとしたいのが本音。
「ファミレスの割りに、本格的な中華ですね」
「だね、悪くない」
お昼にしては遅過ぎ、おやつにしては早いような中途半端な時間にがっつり中華を食べる。
カロリー云々はなるべく考えない事にした。
「明日から仕事だぁ~!」
「やな事言うね…」
口直しの杏仁豆腐を食べながらぼやく私に高瀬さんが苦笑い。
翌日の月曜日を意識したら、もう既にサザエさん症候群を引き起こし、心が出社拒否している。
「もうすぐ給料日だし、やだけど頑張ろ……」
「はは、その意気。俺はこの前昇給したよ」
「良いですね、羨ましい。私なんて入社時から給料変わんないし……ボーナスなんて雀の涙」
「この時世、ボーナス出るだけ良いんじゃない?年金とか保険料の値上がりとか痛いよね。総支給額と手取りの差に泣きたくなる」
「分かります、痛い程分かります。引かれる額が多過ぎなんだよ~」
不思議と高瀬さんとの会話が盛り上がる。
不本意な外出ではあったものの、何だかんだで最後はすっかりちゃっかり楽しんでしまっていた。
会話は普通に続くし楽しいし。
気を遣ってか、素だったのかは分からないけど、高瀬さんが色んな話題を振ってくれてた。
私の馬鹿な返しにも、笑いながら乗ってくれてたし。
時々ある沈黙も別に苦にならなかった。
一緒に居て退屈しないタイプ……というか、心地好い人だろうな….というのが、今日一日一緒に居てみての感想だ。
まぁ、この人じゃない感満載ではあったけど。
応援ありがとうございます!
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