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時には自棄食いしたい夜もある⑤
しおりを挟む舌の上でほどける旨味と柔らかな食感を楽しんでいると、高瀬さんが「ところで……」と切り出す。
「ヒロインについて詳しく聞きたいんだけど」
「………ぐふ…」
忽ちご飯が喉に詰まる。
「な、何の事か良く分かんない」
咄嗟に濁して、お冷を流し込んだ。
高瀬さんは「そっか」と笑って肉を頬張った後、ゆっくり咀嚼し、飲み込む。
「ドラマや漫画のヒロイン目指してんでしょ?」
「ぶっ……」
今度は口からお冷が飛び出した。
「な、何故それを……」
高瀬さんがしれっと言う。
「楠木から聞いた」
「………凛ちゃんめ…」
というか、知ってて聞いてくる辺り、高瀬さんは性格が悪い。
「何でヒロイン目指そうと思ったの?」
興味津々に前のめる高瀬さんとは反対に、決まり悪く縮こまるしか出来ない私。
「いつ頃から?物心ついた時にはもう既に……って感じ?」
「………」
相当興味を惹き付けたらしく、高瀬さんからの追及が激しい。
「黙秘してないで教えてよ」
「…………」
高瀬さんが分厚い肉を私の皿に乗せる。
その行動が、旨いもの食わせてやってんだから、さっさと吐けや……と言わんばかりだ。
仕方なく、腹を括る。
笑われるのを覚悟して。
「まぁ………昔から夢見がちな子だったんですよね。それが姉の集めていた少女漫画の影響で更に加速した感じです」
少女漫画好きな姉は、勿論恋愛ドラマや映画も大好きで、良く観ていた。
その傍らで一緒に観ながら胸を高鳴らせていた私は、いつしか自分をヒロインに投影するようになっていった。
幼い私にとって、ヒロインは眩しくてキラキラした存在だった。
私もヒロインのように華やかでキラキラした人生を送りたいって強く願ってる。
折角女の子として生まれてきたんだもの、一度切りの人生だし、ドラマチックに謳歌したい。
地味で冴えない女の子が、ひょんな事から高身長で性格が良い、ハイスペックなイケメンに目を付けられて、一途に想われる。
数ある恋の障害を乗り越え、最後は必ずハッピーエンド。
私の人生、幸せだったなぁ………最高だったなぁ……なんて振り返りながら死んでいくのが理想だ。
………な~んて話を、面白可笑しく話している間、高瀬さんは終始にやにやしていた。
ほっそ~い目を開いているのかいないのか分からない位か細くして。
「もう20代半ば……ヒロインっていうにはちょっと歳がいき過ぎてるよね…」
溜め息混じりに言うと、高瀬さんが「だね」と頷く。
「そもそも、地味で普通の女の子がイケメンと………ってのは、物語の中でしか成り立たないもんだからね」
現実的返しが、ナイーブな心にズドンと響いた。
「まぁ、ここまで突き抜けていると面白いけど」
大真面目にヒロインを志望している私からしたら、面白くも何ともない。
高瀬さんに言われなくても、今まで散々凛ちゃんに否定されてきたから十分分かってる。
物語の中で、イケメンに言い寄られる地味女はゴロゴロいるけど、現実じゃそんな事は滅多にない。
大抵のイケメンは、ヒロインのライバルとして登場するようなちょっと派手めな美女とくっついてる。
良い男は、良い女が好き………これが自然の摂理なんだろうけど、もしかしたら……って事もあるじゃんか。
「切なげな表情のイケメンに“世界中がお前の敵になっても、俺だけはお前の味方だ……”なんて言われたい」
「ははっ、ラブソングの1フレーズみたいな台詞だね」
高瀬さんが「でもさぁ…」と続ける。
「世界中を敵に回すような状況ってどんなの?」
「そ、それは……」
まさかの切り返しに、言葉が詰まる。
「例えば、てるりが幼い子供を人質に立て込もってる。皆がやめろと説得する中で、そのイケメンの彼だけは“俺はお前を支持する、もっとやれ”的な状況だよね」
「勝手に私を犯罪者にしないでよ……」
「でも、それって愛じゃなくない?彼女が間違った事をしたら、それを正してやるべきだし……“世界中が敵になっても俺だけは……”的な台詞を吐くような男は薄っぺらいと思う」
「…………それは確かに…」
思わず納得させられてしまった。
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