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アンニュイな一日③
しおりを挟む凛ちゃんのファッションショーがやっと終わったと思えば、差し入れどうしよう……と始まり、お茶菓子的な物を買いに付き合わされる。
というか、手伝いに行くのに必要なくない?……は、張り切ってる凛ちゃんの手前、口が裂けても言えない。
「何か………通勤するみたい…」
「あぁ、輝子の会社から近いんだっけ?高瀬のアパート」
いつものやる気ないキャラはどうした?って位、テンションも声のトーンも高い凛ちゃんを助手席に乗せ、愛車を走らせる。
通勤時に通る道を走ってるものだから、見慣れた景色に、私のテンション下り坂。
「凛ちゃん、アパートの位置聞いたんでしょ?どの辺なの?」
「確か、コンビニの角曲がって少し奥まった所にある新しめのアパートだって言ってた」
「角ってこっち?」
「ん、多分………」
「多分って……凛ちゃん…携帯で検索してよ」
どうやら曲がる角を間違えたらしく……
軽く迷子になりながら周辺をグルグル回って辿り着いた頃には、昼近くになっていた。
ペット可の賃貸だからか、クリーム色の外壁に猫の足マークがペタペタっとデザインされている。
「何か………可愛いアパートだね」
「うん、高瀬っぽくない…」
駐車場の片隅に車を停めて降り立ってみるも、辺りは閑散としている。
見覚えのある白い車はあれど、引っ越し作業をしているようなドタバタした感じはない。
「確か、B棟の二階の右端だったかな」
凛ちゃんの言葉を信じて、駐車場から向かって右側の棟の階段を上る。
部屋の前に着いて、インターホンを押そうと手を伸ばすと「待って」と凛ちゃん。
手櫛で髪を整え、服の皺を伸ばし出した凛ちゃんに、思わず苦笑い。
「そんなんしなくても、今日の凛ちゃんも可愛いよ」
「………るさい。よし、輝子、行け」
凛ちゃんからのGoサインを受け、インターホンを押す。
玄関のドアがガチャリと開く。
「あれ、どうしたの?」
相変わらずの細目の彼が、私と凛ちゃんを交互に見た。
「引っ越し、手伝おうと思って」
「………と、その付き添い」
どんな男もイチコロな悩殺スマイルの凛ちゃんに対し、気怠さ100%の私。
はっきり言って、回れ右して帰りたい。
「あー……そうなんだ…」
高瀬さんはばつが悪そうに苦笑しながら言う。
「折角来てくれたとこ悪いけど、引っ越し、ほぼ終わったんだよねー…」
「えっ……」
凛ちゃんショック。
「荷物自体そんなになかったし、友達にデカい家具や家電の運び入れだけ手伝って貰って、さっき帰って貰ったとこ」
「嘘………」
ほら見ろ、凛ちゃん。
早く家を出ないから、出向き損になったじゃないか。
そういう事ならば、さっさと撤収すべし。
カズさんが居ないなら尚の事。
「それなら帰ろうか、凛ちゃん」
折角の休日をつまらない事に消費したくない私は、凛ちゃんの腕を強めに引っ張る。
「あ、でも、折角来てくれたんだし、ちょっと上がってかない?」
「そうする」
高瀬さんが余計な事を言ってしまうもんだから、凛ちゃんの目がキラッキラに輝いた。
しかも、私の意見無視の即答。
「どうぞ。まだよく片付いてなくて散らかってるけど」
「お邪魔しまーす。あ、これ差し入れ。良かったら食べて」
「おっ、嬉しい。ありがと」
なんてやり取りを交わして、靴を脱ぐ凛ちゃん。
私が呆けていると「輝子、何ボサッとしてんの」と冷たく言われる。
私と高瀬さんとじゃ、凛ちゃんの態度が180°違う。
「………お邪魔しまーす」
仕方なく、私も上がらせて貰う事に。
渋々………というか、かな~り嫌々。
思えば、男の人の部屋に足を踏み入れるのは初めてだ。
ドラマの中の男の部屋って、優雅か貧乏臭いかのどちらかだったりする。
前者だったら、海外製の大きな革のソファーやお洒落に観葉植物なんか置いてあったりするパターンが多い。
壁にどこかの風景のフォト(セピア色)だったり、棚に拘りの良く分からない雑貨が飾られていたりもするもんだ。
観葉植物をちゃんと世話してるのか疑問だけど、所謂出来る男の部屋って感じ。
後者の場合は、違う意味でセピア色だ。
昭和チックな6畳に壁は土壁のボロアパート。
日光で色褪せたアイドルのポスターが貼ってあり、無造作に積まれた本(ジャンプやらマガジンやら)と脱ぎ散らかされた、いつ洗濯したのか分からないような服の山。
食べかけて放置してカビの生えたようなコンビニのパンに、飲みかけのペットボトルが散乱していたり……
狭い部屋にゴチャゴチャとガラクタばかりにあるもんだから、居られるスペースは万年床の煎餅布団の上のみ。
正しく、THE男!って感じの部屋だけど、こちらは遠慮したい。
……等と考えてはみたけど、高瀬さんの部屋はそのどちらでもなく、シンプルでこざっぱりしていた。
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