ヒロインになりたい!!

江上蒼羽

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ヒロインたる者①

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平日の昼下がり、1年後輩の秋本さんという女の子と謎の薬草だらけの倉庫の整理作業に従事していると、営業の浜田さん(通称:浜やん)がやって来た。


「山田さん、秋本さん、どう?進んでる?」


50代オッサンの割には小綺麗な浜やんに「まぁ、ボチボチ…」と返すと、彼はニヤニヤしながらチャック付きの小袋をチラつかせる。

何やら茶色いカプセルが数粒入ったそれを食い入るように見ながら、秋本さんが「何ですか?それ」と問う。


「社長が新商品として売り出そうとしている秘薬だよ」

「秘薬……?」

「何でも、カマキリの巣を粉砕してカプセルに詰めたやつらしいよ」


カマキリの……と聞いただけで、気持ち悪くて顔がひきつる。


「これはサンプルなんだけど、良かったらモニターやらない?」


私と秋本さんは顔を見合わせた。


「気持ち悪いですよ」

「カプセルに詰められてるとはいえ、さすがにちょっとねぇ……」


苦笑いでやんわり断ると、浜やんがカプセルの入った袋を振りながら「うーん……残念…」と唸る。

「美容に良いらしいんだよね。肌がキュッと引き締まるっていうか…」


美容に良いらしいというのは魅惑的だ。


「社長が愛人に飲ませたら、張り艶が違うって喜ばれたとか…」

「へぇ……」


というか、社長に愛人の存在がある事をサラッと公表する浜やんが恐ろしい。


「特に彼氏のいる秋本さんにはピッタリだと思うよ」

「えっ?」

「アッチの方で、彼氏喜ぶんじゃないかな?」


ここで秋本さんが「詳しくお願いします!」と、食い付いた。

浜やんが嬉しそうに目を細める。


「何でも………濡れ易くなって、締まりが良くなるって話さ…」


秋本さんがゴクリ……と喉を鳴らす。


「……ほ、本当ですか?」

「社長も実証して、お墨付きさ。まぁ、個人差はあるだろうけどね」


何だか盛り上がってるけど、私は何が何だか理解出来ず、話に参加出来ない。


「ちょっとだけ試してみない?で、結果教えてよ」


浜やんのニヤニヤいやらしい笑顔に嫌悪感を感じていると、秋本さんが「モニターやります!」と申し出る。


「えぇっ?!やるの?!秋本さん大丈夫?」

「試してみる価値はありますよ、先輩」


秋本さんの目がギラギラしている。


「カ、カマキリだよ?あの虫のカマキリ」

「最近マンネリ気味なんで、彼に喜んで貰いたいんです」

「へぇ……でも、どう喜んで貰うの?」


カマキリカプセルが秋本さんの彼氏にどんな喜びを与えるのか不思議でならない私に、浜やんと秋本さんが顔を見合わせてから同時に吹き出す。


「いやだぁ~先輩ったら」

「彼氏ナシの山田さんには、このカプセルはまだ早いみたいだね」


二人の反応から、私は小馬鹿にされているらしい事を知る。


「そんな山田さんには、これをあげるよ」


浜やんはポケットから、これまた謎のカプセルが入った袋を取り出す。


「新製品の乳酸菌サプリ。便通が良くなるよ。毎日スッキリでバッチリ!」


満面の笑みと謎のガッツポーズに、私はただ苦笑い。

若干お便秘気味な私にピッタリなサプリをありがたく頂戴した。




お昼休憩時、浜やんから貰ったサプリを早速服用する。

その隣で秋本さんがカマキリのカプセルを口に含んでいる。

うわー……本当に飲んでるわー…なんて軽く引き気味に眺めていると、お弁当の横に置いておいた携帯が震えた。

どうせまた変な広告メールだろう……なんて思いながら操作すると、我が目を疑った。



【突然LINEしてゴメン。
今日の夜って予定空いてるかな?】



驚いたのは、LINEの内容よりもその送信主。


「うそ……」


既読を付けた後に、もう一通受信する。



カズ
【良かったら、飯でもどうかなって思って】



それまで一度も個人間でのやり取りナシ。

カズさんからの初LINEに、ただただ驚くのみ。

憧れの君からのLINEは、まさかの食事のお誘い。


「山田先輩、どうしました?」


秋本さんの問いに「別に……」と濁して、携帯を仕舞う。

カズさんからのお誘い……

少し前の私なら跳び跳ねて喜んだに違いない。

だけど今は、ちっとも気が乗らない。
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