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ヒロインたる者③
しおりを挟むよく知らない料理の中から辛うじて知っているロコモコを注文し、それを待つ間、何か話題は……と必死に探す。
かといって、これといった気の利いた話題は浮かばず……
「急に……ゴメンね?」
やっと口を開いたカズさんは、恐る恐るといった具合で切り出す。
「凛香ちゃんの事………なんだけど…」
「………」
ですよね……と、内心思った。
カズさんが私に用があるなら、確実に凛ちゃん絡みだ。
寧ろ、それしか思い付かない。
というか、どんだけ凛ちゃんが好きなんだ、このイケメンは。
「この前………漣と何かあったのかな?って…」
「……何かって?」
わざとすっとぼけてみせる私に、カズさんは「俺、先に寝ちゃってたから全く状況が分からないんだけど…」と、前置いてから言う。
「……夜中に誰かの足音で目が覚めて、リビングの方に行ったら凛香ちゃんが一人……ほぼ裸の状態で踞ってて…」
「………」
「漣と輝子ちゃんの姿が見当たらなくてさ…………あの時、凛香ちゃん、泣いてて…」
胸がチクリと痛む。
「状況がよく分からなかったから、どうしたらいいのか分かんなくて………何があったか知ってたら教えてくれないかな?」
「…………」
「凛香ちゃんの力になりたいんだよ」
カズさんの熱い想いに、あわよくば……がチラつくのは、私の心が薄汚れているからだと思う。
「漣に聞いても、はぐらかされるばかりで……」
あの夜の事は、私の口から話して良い内容じゃない。
ましてや、高瀬さん本人がはぐらかしているなら余計に。
だからといって、黙っていられる訳もないだろうし……
私の言葉を待つカズさんの期待に満ちた視線から目を逸らしながら、グラスの水をチビチビ煽る。
勿体ぶってるつもりはないけど、カズさんからしてみれば、そう思えるかもしれない。
こんな風に時間稼ぎしても、意味はないだろうけど。
「………凛香ちゃんって、漣の事が好きなんだよね?」
痺れを切らしたカズさんが、質問を変えてきた。
これには、首を縦に振るしか出来ない。
「……凛ちゃんを見てればすぐ分かると思う…」
「やっぱり……」
カズさんが一つ大きな溜め息を吐いた。
「何気にモテるんだよなー……漣のやつ…」
頭を抱えるようにしてテーブルに突っ伏すカズさんを見ながら、素敵なヘアスタイルが乱れちゃうよ……と、心の中で呟く。
そして、高瀬さんがモテるという意外な事実に、少なからず驚かされた。
「……あの夜の事は何となく察しはついてるけど、憶測だけじゃ慰める事も出来なくて…」
苦悩の表情を浮かべるカズさんは、やっぱりイケメンだ。
察しがついてるなら、私を呼び出す必要なくない?との疑問は胸の内に留めておいた。
「………恐らく、カズさんの察しの通りです」
カズさんがどこまで察しているかは分からないけど、多分合ってると思う。
「私の口からは、それしか言えません」
「………そっか…」
凛ちゃんのプライドを守る為に、何があったか明確にしない。
下手に同情なんかされたくないだろうから。
「凛ちゃんの事、相当お気に入りみたいですね」
手拭きで手を拭きながら、皮肉を込めて言ってみる。
「彼女が好きなんだよ、初めて会った時から本気で」
ここで、タイミング悪くロコモコの付け合わせのサラダが運ばれてきた。
店員さんの目には、私がカズさんにフラれているみたいに映るだろう。
「………カズさんがどんなに想っても、凛ちゃんの中では高瀬さんが一番なんですよ?」
「今は一番じゃなくても、最終的に彼女の一番になれれば良い。寧ろ、そうなれるよう最大限努力するよ」
最高に格好良い顔で格好良い台詞を吐くカズさん。
歯の浮くようなキザな台詞でも、イケメンが言うなら様になる。
カズさんみたいなイケメンに、ここまで想われる凛ちゃんの方が、ヒロインになりたくて、それを目指している私を完全に差し置いて、ヒロインみたいだ。
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