その声は媚薬．２

怠さが残った朝に…②

ベタついた体をさっぱりさせた後は、汗と匂いが染み付いたシーツを洗濯機にぶっ込んだ。

瑞希はまだ熟睡しているようだ。

洗濯機を回している間に部屋の窓を開けて空気を入れ替える。

体調を崩してからろくに食べ物を口にしていない為、若干の空腹を感じる。

かといっていきなりがっつり固形物を取り込める程の強靭な胃袋をしていないから、部屋の片隅に転がっている瑞希が買ってきてくれたであろうレトルトのお粥をありがたく頂戴する事にする。

冷蔵庫の中はスカスカ。

一晩中冷たいフローリングの上に居て体が冷えているであろう瑞希に何か温かいものをと思うものの、材料がなくては何も出来ない。

一旦閉めた冷蔵庫の扉を睨み付けながら困ったな……と悩んでいると、背後に人の気配を感じた。


「おはよう」


その声に大きく体が跳ね上がる。


「もう体調は大丈夫？」


夢と現実がごっちゃになり、恥ずかしさから彼女と顔を合わせられなくて振り向けない。

冷蔵庫を正面にして黙ってコクコク頷く。


「あ、まだ声は駄目な感じ、ですか？」


不安げな声に慌てて「大丈夫！」と返す。


「熱も喉も良くなったよ。お陰様で！」


彼女の方へ顔を向けられないので、まるで冷蔵庫に向かって話しているみたいだ。


「………声はまだ少し違和感あるけど……まぁでも動けるまでに回復したみたいで良かった」 

「う、うん……」


瑞希が俺の声がまだ完全復活していない事を見抜いている辺り、流石だと思う。


「な、何かごめんね、折角お見舞いに来てくれたのに、床なんかで寝かせちゃって……体痛くない？」

「あー……多少は。でも勝手に押し掛けて泊まる判断をしたのは私なので久世さんが謝る事じゃないです」

「そっか、あはは……あ、お腹空いてない？今あり合わせになるけど何か作ろうかなって思ってたとこで……」

「え、久世さんが手料理ですか？嬉しい。正直昨日の夜から何も食べてないので凄くお腹が空いてたんですよね。私も手伝います」

「あ、いいよ大丈夫、座ってて」