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衝突④
しおりを挟むショックだった。
報道が事実である事は勿論、それ以上に、二人の関係にショックを受けてしまっている自分自身が一番信じられない。
「わ、たしは、ただ……間宮の軽はずみな行動が許せなくて…」
『だったらはっきりそう言えば良いじゃんか!』
「だっ、だって…」
珍しく本気で怒る間宮。
いや、もしかしたら、ここまで怒るのは初めてかもしれない。
そんな相手に、すっかりたじろいでしまった私は、不満を言葉にする事も出来なくなった。
『態度に出すだけじゃ分かんないよ。はっきり言ってくれないと困る』
「言ってるよ」
『いーや、森川はいつも言いたい事半分以上我慢してる。そんで態度にばっか出すから最悪なんだよ。もっと素直にならないと損するよ?』
初めてコンビを組んだ日から6年と少し。
相方との格差に悩み、落ち込んだ日々。
再浮上して、彼女と肩を並べたつもりでいたけれど…
明らかに間宮の方が大人だ。
幼稚な私は、彼女と肩を並べるどころか、肩を掴む事さえ出来ていない。
気に入らない事があった時、不満を飲み込む事は出来ても、消化までは出来ない。
物や人に当たるだけ当たって、最終的には自己嫌悪に溺れる。
こんな精神的に未熟な私には、この先間宮の足を引っ張る事しか出来ないだろう。
間宮に対して抱いていた劣等感は膨れる一方だし……
このままコンビを組んでいては、お互いに駄目になるような気がした。
今回の件で入った小さな亀裂は、6年培ってきたコンビの絆を粉々に砕いてしまえそうな程の致命傷へと変わった。
「………もう、無理」
ポツリと零れ出た言葉に、間宮が『えっ?』と反応する。
「もう、間宮とはやっていけない……コンビ、解消しよう…」
つい、口に出してしまった本音。
現実から目を背ける為とも取れる私の言葉を受け、間宮が数秒押し黙る。
それから、少しの間を置いてから、ただ一言『………いいよ』と呟いた。
思いがけない間宮の承諾に、言い出しっぺのくせして驚いた私は「えっ……いいの?本当に?」と、聞き返す愚行を働いた。
電話だと、間宮の表情が分からないからもどかしい。
スマホ越しに、間宮の大きくて深い溜め息が耳に届いた。
『………でもさ……こういう大事な話は、お互いの顔を見てするべきだよ』
抑揚のない声で言った間宮は、私の言葉を待たずに続ける。
『これからウチに来れる?会ってちゃんと話そう』
「え………あ……うん」
多少渋々ではあったものの、ケジメをつける為に、彼女の提案に乗っかる事にした。
通話を終えた後、簡単な身支度をして部屋を出る。
すると、間宮からLINEが入った。
内容は、ほんの少し前に引っ越したという事。
「………そんなの聞いてないし…」
鍵を締めながらブツブツぼやいている間に、続けてメッセージがもう1つ入る。
それには、新しい住所が記されていた。
「………案外近いな」
だったら、尚の事教えてくれればいいのに………と、不満を吐き出しながら、タクシーを拾った。
間宮の新居だというマンションに到着した頃には、夜の9時半を過ぎていた。
「……稼いでいる間宮としては、意外と普通のマンションだな…」
なんて嫌味を言ってはみたものの、私の築ウン十年の格安アパートとは違う立派なマンション。
「売れっ子なんだから、もっとお高そうでセキュリティも鬼のようにしっかりした所に住めば良いものを……」
一人でネチっこい感想を漏らしながら先へ進むのは、この後の話し合いへの憂鬱な気持ちを少しでも楽にしたいが為。
さっきの電話の剣幕が多少は軽減されていればいいのだけれど……
すんなり話し合いが終えられる事を願いながら、エレベーターで上層階を目指す。
間宮の部屋があるフロアに降り立つと同時に、足が鉛のように重くなった。
それを引き摺るようにして恐る恐る進む。
逃げたい気持ちが私をエレベーターへ引き返すように誘惑してくるけれど、惑わされないよう必死に耐える。
嫌な話は、先延ばしにすればする程、拗れてしまいそうな気がする。
ここは、嫌でもケリをつけておくべきだ。
今日、間宮とコンビ解消して、明日には事務所の方へ意向を伝える……
そして、早い内に引退表明をして、芸能界から立ち去ろう。
もう、この世界に未練はない。
間宮の部屋の前で、一度深呼吸をした。
たった数十メートルの距離を歩いただけなのに、心臓が煽り、冷や汗までかいている。
相方の部屋に訪問するだけなのに、ここまで緊張するのも可笑しな話だ。
だめ押しとばかりに、もう一度深呼吸をする。
それから、お笑いコンビ、まんぼうライダーの森川から普通の女子になるべく、間宮の部屋のインターホンを押した。
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