オフィスラブは周囲の迷惑から成り立っている。

江上蒼羽

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おまけエピソード1―⑥

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何とか血飛沫を見る事なく、無事に家族への紹介を終えられた。

朝から………正確には昨日の夜からだけど、ハラハラドキドキし通しだったから、今になって疲れがどっと押し寄せて来た。


「今日はありがとう………ごめんね、色々と嫌な思いさせちゃって…」


玄関を出て門扉の前で彼を見送る。

離れがたい気持ちをもて余しながら家族の非礼を詫びる私に、帯刀さんは「そうじゃないでしょ」と真面目な顔で言った。


「え?何で?」


キョトンとする私。


「ここは、遼くん今日はありがとう、大好き………って言う所でしょ?凪ちゃん」


これまた大真面目な顔して言うもんだから、思わず半笑いで「えぇっ?」と聞き返した。


「今日の俺、かなり頑張ったんだから、とっておきのご褒美頂戴よ」

「ご、ご褒美…」


確かに、今日の帯刀さんは頑張ってた。

あの父に怯まず立ち向かっていってた。

逆に兄には怯んでいたけど、それでもあの状況下で堂々としていた帯刀さんは凄いと思う。


「凪ちゃんの為に頑張ったよ?」

「…………分かったよ」


物欲しげな顔して迫ってくるから、拒否る事も出来なくて。


「………りょ、遼くん、今日はありがとう…………だ、大好きだよ」


普段言い慣れない言葉を辿々しく発する。


「…………言わされてる感満載で嬉しくない」

「実際言わせてるじゃん!」


帯刀さんはガッカリ気味だけど、言わされるこっちの方は顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。


「凪ちゃんのお兄ちゃん達って格好良いのね。特に一番上のお兄ちゃんかな?すんごい美形」

「ん、うん………かもね。よく言われる」


私の二人の兄は、世間的に見てもかなり格好良い部類に入ると思う。

妹の私から見ても格好良い。

学生時代は勿論、現在にかけても女性にモテる。

次兄は既に結婚しているから殆どないけど、未だ独身の長兄には女性からのお誘いが絶えない。

反面、私は極々平凡。


「私が生まれる前に、お兄ちゃん達が良い遺伝子全部持っていっちゃったんだよ………だから私だけ出がらしみたいな顔になっちゃって……よく私だけ父親が違うんじゃないかって言われたし」

「あはは、あの溺愛っぷりからしてそれはないでしょ。それに、俺からしたら凪ちゃんは最高に可愛い よん」


嘘でも、帯刀さんから言われたら嬉しい。

あの兄達を前にしても、帯刀さんは男らしかった。

本当に格好良かった。


「………本当に今日はありがとう。今日のりょ、遼くん、凄く格好良かった…」


駄目だ、遼くんなんて呼び慣れないから吃っちゃう。

恐らく顔を真っ赤にさせているであろう私の頭を優しく撫でた帯刀さんは嬉しそうに満面の笑み。


「もう凪ちゃんたら、可愛過ぎてこのまま連れて帰りたい」


「けど……」と言いながら、帯刀さんは明後日の方角に視線を送る。


「あの人が怖いから、今日は止めとく……」

「………え?」


帯刀さんの視線の先には、窓に貼り付いてこちらを睨み付けている父の姿があった。


「お父さん……」


それは、背筋が凍りつく程ホラーな光景だった。

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