花の終わりはいつですか?

江上蒼羽

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side:妙香―14

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鏡に映るのは、くたびれた顔した小太りのおばさん。

目元の小皺とほうれい線が気になるすっかり見飽きた顔とにらめっこしながらメイクを念入りに施す。

血色がよく見えるようにチークも忘れない。

ヘアスタイルを整え、仕上げに香水を振り掛ける。


「………よし」


姿見で全身チェックをすると、自然と背筋が伸びた。


「ママ、キレイだね」

「ね~」


子供達に褒められ、気分が上がる。


「ありがと。ほら、奏太そろそろ学校行く時間よ。美空も幼稚園バス来ちゃうからお支度して」

「はーい」

「あ~い」


バタバタと忙しない光景はいつも通り。

けれど、いつもと違うのは私の意識。




先日の会社の飲み会の帰り、酔っ払ってフラフラだった私を見兼ねて、浅倉さんが車で送ってくれる事になった。

何気無い会話から、私の余計な一言をきっかけに微妙な空気になり、そこから何故か浅倉さんから手を握って欲しいとお願いされた。

彼の意図が分からないまま、言われた通りに手を取ると、忘れていた蕩けるような感覚が蘇ってきた。



『…………何か悪い事してるみたい………ドキドキします』


温かくて、ふわふわとした心地好さを堪能している私に浅倉さんが静かに言った。



『…………何なら、もっと悪い事しますか?』

『………え…』


一瞬聞き間違いかと思った。

反応に困っていると、彼が「フッ……」と息を漏らす。


『冗談っすよ。ここは笑って流して下さいよ』


全身の力が一気に抜けた。


『で、ですよねぇ……あ、はは………びっくりした…』


取り繕うように可笑しくもないのに笑ってみせる。


『で、こっからどう行けば水川さん家に着きますか?』

『あ、えっと………この先の十字路を右で…』


心臓がドキドキと喧しい。

ただの冗談を真に受けた自分を恥ずかしく思いながら、繋いだままの浅倉さんの手を離した。



その日はそれっきり。

なのに、その日を境に私は浅倉さんを意識している。

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