26 / 37
side:妙香―14
しおりを挟む鏡に映るのは、くたびれた顔した小太りのおばさん。
目元の小皺とほうれい線が気になるすっかり見飽きた顔とにらめっこしながらメイクを念入りに施す。
血色がよく見えるようにチークも忘れない。
ヘアスタイルを整え、仕上げに香水を振り掛ける。
「………よし」
姿見で全身チェックをすると、自然と背筋が伸びた。
「ママ、キレイだね」
「ね~」
子供達に褒められ、気分が上がる。
「ありがと。ほら、奏太そろそろ学校行く時間よ。美空も幼稚園バス来ちゃうからお支度して」
「はーい」
「あ~い」
バタバタと忙しない光景はいつも通り。
けれど、いつもと違うのは私の意識。
先日の会社の飲み会の帰り、酔っ払ってフラフラだった私を見兼ねて、浅倉さんが車で送ってくれる事になった。
何気無い会話から、私の余計な一言をきっかけに微妙な空気になり、そこから何故か浅倉さんから手を握って欲しいとお願いされた。
彼の意図が分からないまま、言われた通りに手を取ると、忘れていた蕩けるような感覚が蘇ってきた。
『…………何か悪い事してるみたい………ドキドキします』
温かくて、ふわふわとした心地好さを堪能している私に浅倉さんが静かに言った。
『…………何なら、もっと悪い事しますか?』
『………え…』
一瞬聞き間違いかと思った。
反応に困っていると、彼が「フッ……」と息を漏らす。
『冗談っすよ。ここは笑って流して下さいよ』
全身の力が一気に抜けた。
『で、ですよねぇ……あ、はは………びっくりした…』
取り繕うように可笑しくもないのに笑ってみせる。
『で、こっからどう行けば水川さん家に着きますか?』
『あ、えっと………この先の十字路を右で…』
心臓がドキドキと喧しい。
ただの冗談を真に受けた自分を恥ずかしく思いながら、繋いだままの浅倉さんの手を離した。
その日はそれっきり。
なのに、その日を境に私は浅倉さんを意識している。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる