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【過去の記憶①】
しおりを挟む――高校3年の冬。
少しずつ春の足音が近付いているような気配がしていた。
電車通学の私は、ホームで電車を待つ間、お気に入りの銘柄のミルクティーを飲みながらベンチに腰掛けてファンタジー小説を読むのが日課だった。
その日もミルクティーを飲みながら小説を読み、電車が来るのを待っていた。
不意に視界が暗くなり『ねぇねぇ』と、馴れ馴れしげな声が頭上から降ってきた。
『え……?』
その呼び掛けに顔を上げると、目の前に見知らぬ男子高生が三人立っていた。
『…っ?!』
驚いて声が出せなかった。
地元では素行が悪い生徒が多い事で有名な工業高校の制服を纏い、ニヤニヤと笑いながら私を取り囲むようにして見下ろしている彼等を見て、瞬時にヤンキーに絡まれている事を悟った。
ヤンキーと言っても、よく学園ドラマに出てくるような派手な金や赤の髪色をしている訳ではなく、校則違反スレスレの明るい茶髪な程度。
それでも彼等が素行の悪い連中だというのは明らかだった。
制服は、冬なのに中のワイシャツから胸元が見えそうなくらいはだけた感じに着崩され、ズボンは腰穿き。
首元にはシルバーのネックレス、耳には大振りのピアスがじゃらじゃらとぶら下がっていて、匂いのきつめな香水の香りに目眩を覚えた。
三人の内、一人からは微かに煙草の匂いもした。
教科書なんて入っていなそうなペッタンコな鞄を小脇に抱えて、ガムをクチャクチャ……
そんな連中が真面目である筈ない。
怖くなってベンチから立ち上がろとすると、正面に立っていた一際派手な外見の人が私の肩を押し戻した。
『ねぇ、待ってよ。大事な話があるんだけど』
この時点で涙目だったと思う。
『な、何でしょうか……?』
自分で言っていて、声が震えているのがよく分かった。
見知らぬヤンキーに絡まれる理由が分からず、ただひたすら鞄を抱えて怯えてた。
『お、お金………ですか?』
カツアゲなら、財布ごと渡せば良いのだろうか……?等と考えていると、正面の彼がニヤニヤしながら口を開く。
『アンタ、名前は?』
『あ、あ……朝比奈 沙羽……です…』
恐怖のあまり、偽名を使う事すら思い付かなかった。
『へぇ~沙羽チャンね。その制服北高でしょ?何年?』
『え……っと、3年……ですけど…』
『ふぅん……彼氏いんの?』
『え………』
思いがけない質問に言葉を詰まらせると、右側に居た目付きの鋭い人が『おい、どうなんだよ?!』と凄む。
それにまた怯えて、つい……
『………い、いません…』
本当の事を教えてしまった。
『そっかそっか、そりゃ良かった』
正面の人が嬉しそうに頷くと、私の腕を掴んでベンチから立ち上がらせる。
『おう、シゲ、この子男いねーって』
彼の視線の先には、彼等と同じ制服を着た仲間らしき人が立っていて
その人は、私と目が合った瞬間、決まり悪そうに顔を背けた。
『アイツ、シゲっつーんだけど、アンタの事気に入ったらしくてさぁ。付き合ってやってくんない?』
『え………』
まさかの衝撃展開に目の前が真っ暗になった。
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