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《24》
しおりを挟む本格中華は、丸◯屋やクッ◯ドゥで育った私の舌にはどうも馴染みがないらしく、どれもこれも大人な味に感じてしまう。
美味しいには美味しいのだけれど、麻婆が私の知っている麻婆じゃない。
山椒が強くて、こってり濃厚。
「……お口に合いませんか?」
箸の進みが悪い事を察知して、親跡さんが不安気に眉を顰めた。
「いえ、どれも凄く美味しいです。ただ、普段食べているものと同じ料理の筈なのに、全くの別物なんだなって少し驚いてしまって……」
正直に感想を伝えて「子供舌なので」と付け加えると、親跡さんが箸を置く。
「朝比奈さんは素直な方ですね」
彼が真っ直ぐに私の目を見てくるものだから、つい恥ずかしくて視線を逸らす。
「食事中にする話じゃないかと思うのですが……」
そう前置かれて、胸がざわついた。
この流れはもしかして……と、私も箸を置く。
「一目惚れ、なんです」
言われる前から何となく予感はしてた。
夏川さんや帆貴さんから言われてたからというのもあったけれど、親跡さんが私を見詰める優しい眼差しから彼からの好意を感じ取れていた。
自惚れだとずっと自分に言い聞かせていながらも、もしかしたら……という思いがあった。
「お付き合いして頂けませんか?朝比奈さんの事をもっと知りたいです」
まだほんの数回……片手で数えられる程しか会っていない。
しかも仕事上だけの付き合いだ。
それでも私の中での彼の印象はとても良い。
見た目の清潔感や誠実そうな雰囲気、仕事に向ける真摯な態度はどれも魅力的だと思う。
実際、彼から思いを打ち明けられて嬉しいと感じる自分がいる。
だけど。
「ありがとうございます」
苦い記憶が私を臆病にさせる。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、今は誰ともお付き合いするつもりはありません」
親跡さんの目をまともに見れなかった。
「失礼します。お待たせ致しました。フカヒレの姿煮です」
ここで間が悪い事に、フカヒレが運ばれてきた。
ドンと大皿に盛り付けられた大きなヒレ。
細やかな繊維から成り立っているソレは、トロミのあるスープを纏って艶を放っている。
微妙な空気を打破するように親跡さんが明るく言う。
「冷めない内に頂きましょうか?」
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