「僕が闇堕ちしたのは、君せいだよ」と言われても

月咲やまな

文字の大きさ
18 / 41
【第2章】

【第7話】二度目の攻略⑤(弓ノ持棗・談)

しおりを挟む
 ソロで“ツノウサギ”を倒し終え、三戦目は少し場所を変える事にした。『あの場所でレベルの低い敵ばかりを倒すよりかは、せっかく二人でダンジョンに潜っているのだからもっと強い敵を倒そう!』とメランに言われたからだ。『勃ってきた』とぬかした直後の話だったので、また青姦がどうのと言いやしないかと内心ヒヤヒヤしていたのだが、普通に歩き始めたからアレは彼なりの冗談だったのだろう。

(…… 全然笑えないけど)

 でもまぁ場所の移動に関してなら反対する理由は無い。メランが大量の兎とかを倒してくれた時の報酬で無事“転移石”も入手済みなので奥に進んでも帰りの心配はしなくていい。なのですぐに同意し、入り口付近から、もっと奥の方にまで場所を変えた。

「この辺がいいかなぁ」
 先程の草原よりも周囲には木々の方が多い。でも森って程ではなく、起伏のほぼ無い平地ばかりなので見晴らしも悪くはないからサーチスキルを持っていなくても敵の発見に難儀する事はなさそうな雰囲気だ。適度にちょっとだけ難易度の上がった、まさに10レベル付近向けのレベルアップポイントといった感じである。
「さて、ここからはお互いに名前を呼ばないように気を付けないとね」

(あ、そうか。録画される時に会話の音声も拾っちゃうからか)

「了解です。えっと、“バトレル”さん…… でしたっけ」
「うん。でも面倒だったら“バト”でもいいよー。別にこだわりがあって名乗っているわけじゃないから」
 メランの選んだハンドルネームは、確かどこかの国では『執事』って意味だったはずだ。自分が、ボクの執事的な役割でもするつもりで選んだ名前なんだろうか。でもそれなら元は天使だったんだ、『エンゲル』とか『アンジュ』とか、それっぽい方が合っているんじゃないだろうか。

(あ、いや…… 今はもう“堕天使”なんだから、そういった名前を名乗るのは返って嫌か)

 堕天している事実を思い出す度に申し訳なさが押し寄せてくる。『意図したものじゃないんだ、ボクのせいじゃないぞ』とは正直思っていても、この瞳と加護がボクの特性である以上、結局はボクのせいなんだよなぁ、向こうからしてみれば。

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて『バト』さんって呼ばせてもらいますね」
「棗の“クラウン”もちょっと長いから、『クー』って呼ぶね!」

(めっちゃ短くしたな)

 でもまぁ『お嫁さんと呼ぶ』とか言われなかったから良しとするか。
「あとはそうだ、『夫夫ふうふ』として配信したらどうかなと思うんだ」
「…… は?」
 めっちゃ眉間に皺を入れながら一歩引く。アンタは何を言ってんだと口にしたいが、その前にメランが「待って!ちゃんと理由があるんだよ」と慌てて弁明を始めた。
「“BLカップル”って事にして、タグ付けして配信するとね、腐男子という層もいるにはいるけど、それでもやっぱり男性の視聴数が減る傾向があるんだ。棗は双子の義兄達から出来るだけ長い期間隠れ続けたい状態だろう?それこそ、今後の生活が安定するまでは確実に。ならまずは男性の目に留まる可能性を減らすべきだよね!それに僕が棗に抱きつこうが、嬉しさ余ってキスしちゃおうが、『お嫁さん』発言をしようが、僕らがカップルだってていならいくらでも誤魔化せるし、一石二鳥って感じじゃない?」

(そもそもやるな)

 途中までは納得出来ていたのに後半は欲望がダダ漏れだ。でも、事実とは相反するけど、男性の視聴者の割合を減らせるといった利点があるのはまぁ悪くはないかもしれない。
「だけど、そもそも兄さん達は冒険者配信なんか観ないんじゃないかなぁ…… 」
 ぽつりと独り言の様にこぼすと、「いやいやいや。検索エンジンのおすすめ欄とかでどうしたって回ってくる可能性は捨てきれないよ。弟の澪の方は芸能界に居るから冒険者達と関わる機会も多々あるしね。兄の潮に至ってはネット関係の分野は幅広くサーチしているから油断は大敵だよ」と熱弁された。流石は“守護天使”を語るだけある。ボクの義兄達の情報だってきちんと把握済みの様だ。

(まぁ、メランの言い分は納得出来るし一理あるな)

 今までの彼の行動を鑑みても、何かしらの変態行動は絶対にやらかすだろう。堕天しているせいでなのか、倫理観や常識といった一緒に行動するにあたって最低限持ち合わせて欲しい部分をすっかり無くしてしまっているみたいだし。

(となると、『カップルである』というていがあった方が確かにあしらい易い、のか、も?)

 ぐだぐだ考えていると段々メランの提案が最良案に思えてくる。どうせ不特定多数の人々に冒険中の様子を観られるんだ、事実とはかけ離れている方が“道化師クラウン”がボクであるかもとは想像しにくくなるし、匿名なうえに仮面もしているんだから、一層特定が無理難題となる情報が多い方が良いのか。
「…… わかりました。じゃあ、それでいきましょう」
「わーい!」と諸手を挙げてメランが喜ぶ。あれ?やっぱコレって判断を誤ったんだろうか?とちょっと思ったが、嬉しそうにボクへと抱きつき、こっちは顔面を全て覆うタイプの仮面をしてるっていうのに何度も頬擦りをされた事でその考えは確信に変わった。なのに、『やっぱやめましょう!』の一言が口から出てこない。堕天してるっていうのに、天使みたいな笑顔を浮かべて喜んでいるヒトの心に水を差す様な発言を出来る程ボクは、自分優先で自己中心的な人間にはなれないみたいだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...