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本編
前編
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私には兄の様な存在が一人いる。
血の繋がりは、ほぼ無い。
遠い親戚といったところか。
大きな桜の木がある、この付近でも特に大きくて歴史のある純日本家屋で二人。湯川大和という名の彼と暮らし始めてから、もう十年が経過した。最初は彼の祖父も居て三人で仲良く、今は彼との二人暮らしを平穏に。
仕事で多忙な両親が、私が寂しい思いをしない様にという理由でこの家に連れてきてくれた。それからはほぼ肉親とは生活出来ていない。でも私はその事を一度も恨んだことなど無い。
黒い髪と瞳の、明治初期の男性を連想させる風貌にノンフレームの眼鏡をかけ、着物を私服として着こなす彼との平穏な生活が、私はとても好きだから。
好き……過ぎて、実は最近とても困っている。
初めて彼に会ったのは五歳の時。
見た瞬間私は、子供心に王子様みたいだと思った。一緒に暮らすうちに、お兄さんみたいだなとも。
参観日の参加や親子遠足への同行。作ってくれるお弁当を幼稚園で食べる時なんかは、まるでお父みたいだなとも思って彼を見ていた。
彼は十歳という年の差のせいなのかとても落ち着いていて、紳士的に私に接してくれる。穏やかに、ただひたすら怖いくらいに、優しく。
思春期を迎えた私が恋というものに興味を持った途端、優しい大和兄さんに対し兄とは違う感情を持つのは自然な流れだったと思う。
小さな感情は時間と共に膨らみ、側に居るだけで、とても切なく感じる様になっていった。
心が苦しい。
彼の事ばかり考えてしまう。
もしかして、これが初恋というものなもかもしれない。そう思った時私は、直ぐにこの感情は隠し通さねばならないと思った。
彼にとって私は、妹なのだから、と。
◇
雲が厚いな、雨が降るかもしれない。
学校の教室で一人、夕方になった窓の外を見てそんな事を思った。
そういえば今朝大和兄さんが『今日は雨になるから、傘を忘れずに』と言っていたかもしれない。今までならばきちんと言葉を聞き、忘れずに傘を持っていけていたのに、最近の私ときたら…… そんな簡単な事が出来ない。
兄の様な相手にこんな感情を抱いてはいけない。
そうは思っても、感情など不器用な私では操る事も出来ず、余計に意識してしまう。
彼を意識し過ぎて、距離を開ければなんとかなるかもと、変な行動をしてよそよそしくなってしまう。そのせいで、結果的に大和兄さんに迷惑をかけてしまっているので、本末転倒だ。
鞄を開けてみたのだが、折り畳み傘は無かった。晴れが続き、図書館へ返す本をしまうスペース欲しさに、きっと自分で抜いてしまったのだろう。
「困ったな…… 」
一人ボヤいていると、教室のドアを開ける音が聞こえ、数人のクラスメイト達がジャージ姿で入ってきた。
「雨降りそうだよね」
「あー傘無いわ。マジどうしよう。ねぇ、降り出す前に走って駅まで行っちゃわない?」
「それいいかも。急がないとねー、コレいつ降ってもおかしく無いって」
口々にそう話しながら、彼女達が机の横にかけてある鞄を持ち上げる。
「那緒も急いだ方がよくない?って、しっかり者の那緒は傘あるよね」
彼女達が私にも声をかけてきた。
「それが、私も今日は忘れたの。折り畳み傘まで置いてきちゃって」
はにかみ、肩をすくめると少し驚いた顔をされた。
「過保護のお兄ちゃんいるのに、意外だわー。押し付けてでも持たせそうな人なのに」
「あはは、わかるー」
「ウチら高校生なのに、あのお兄さん参観日に全部来るし。しかも着物で!イケメンだからさ、実は私…… 参観日楽しみになっちゃってるんだよね」
「私もーっ」
笑い合う彼女達に、私は無言で笑顔を向けた。気持ちはわかるのだが、何と答えていいのか思い付かない。
「あ!ねぇんな事より急がないと、雨っ!雨降っちゃう」
一人が気付き、声をあげた。
「那緒も一緒に行かない?」
「んーどうしようかな。走るの苦手だから、迷惑かけちゃうかも」
生粋のインドア派の自分では、運動部に入る彼女達にはついて行けないだろう。
「そんなの気にしなくてもいいのに」
渋る私に彼女達はその後も優しく誘いをかけてくれたが、結局私は誘いを断った。家まではそう遠くない方だし、すぐに出ればきっと本降りになる前に帰る事が出来るはずだ。
間に合うと、いいなぁ……。
◇
自宅で一人、仕事をしながら不意に外を見る。厚い雲が空を覆い、夕方だという事もあって周囲が暗い。天気予報を見ていなかったとしても匂いで気が付くくらい、雨の気配は目前だ。
「さて、そろそろ那緒を迎えに行かないといけませんね」
黒く長い髪の少女を想い、腰を下ろしていた座布団から僕は立ち上がった。
“大和撫子”。
那緒の事を伝えるのに、これ以上適した言葉は無いと思う。穏やかで、嫋やかで、慎ましい。
両親から離れ、肉親でも無い僕との暮らしを不満一つ言う事なく過ごす彼女は、僕にとって妹の様な存在だった。
千草那緒、現在十五歳。
彼女は、僕とは十歳離れた同居人だ。
お互いに仕事で多忙な両親を持ち、破天荒でここ数年旅に出たままの祖父に影ながら支えられ、今から十年前、僕は彼女と共にこの家で暮らし始めた。
両親へ心配をかけたく無いと、必死に寂しさを隠す五歳の少女の姿は、自分の子供の頃と重なるものがあった。
親近感から始まった感情が時を経て、女性へ向ける恋情へとかわっていく事に僕は長年悩み続けた。当然だ、僕に小児性愛の趣味は無いのだから。
『大和兄さん』と僕を呼び、無邪気な親愛を示す姿にじわじわと身を焦がす。赤く激しい炎の様に燃える気持ちは、次第に青い炎へと変わっていった。
彼女を慈しみ、優しく育てる。
僕しか見えない様に、僕にしか想いを寄せない様に。
誰にもこの子は渡さない、近づけさせない、僕以外を慕う事など絶対に許さない…… 。
触れられない存在へ募る想いは、少しづつ…… でも確実に、心を歪めていくのが自分でもわかる。
それもあと少し、あと少しだ——
そう思った時、表情の変わらぬお面のようだと揶揄される事のある僕の顔が、少しだけ
微笑んだ気がした。
玄関へ向かい、傘立てを見る。
案の定那緒の傘がそこに取り残されていていた。今朝、予報で雨が降ると言っていた事を那緒には伝えていた。だが、聞いていないという事は分かっていた。
最近ずっと、那緒は僕に対してよそよそしい。妹だと思えば気にもならない程度の些細な態度の変化。でも、想いを募らせる相手からだとなると、僕の心を不安にさせるには充分なものだ。
どうにかしなければ。
どうしたらいい?
このまま放っておいては、那緒が誰かのモノになってしまう。
この微妙な距離をどうにかしたい。
……あぁ、なんだ。答えは簡単じゃないか。
思い悩む日々の中、ふと気が付いた答えに天啓を受けたかの様な気持ちになった。
もう少しで……それが出来る。
そう思った僕は、今朝那緒の鞄から折りたたみの傘を抜いた。持たずに出かけたせいで傘の無い彼女を、僕が迎えに行くのは自然な流れだ。
待ち望んでいた日が目前に迫り、僕の気持ちは浮かれ、少しでも早く那緒に会いたいと叫んでいる。
傘立てからお互いの傘を二本抜き、それを持つ。玄関を出て空を見上げると、すでに少しだけ雨が降り始めていた。
傘をさし、那緒の通う学校へと足を向ける。妹みたいな存在である彼女へもう少しで心を曝け出せる。でも、想いが膨らみすぎて気持ちが上手く伝えられそうにないなと、想いながら。
◇
教室から一階へと移動した私は、どんよりとした灰色の空を玄関前で仰ぎ見た。雨がもう、小雨だが降り出している。
雨に当たると体が冷えてほぼ確実に風邪をひいてしまう私は、悪天候が人一倍苦手だ。風邪になると本が読めないのが辛い。大和兄さんがつきっきりで看病してくれるのは嬉しく思うが、今の私の心境ではそれも辛い。
このまま私はきっと、彼の妹として知らない女性と一緒になる彼一番近くで傍観せねばならないだろう。そうなれば、看病などもうしてはもらえない。家も出ないといけないかも。
そう思うと、今はまだ少しだけ…… 甘えてしまいたいなと思ってしまった。まだ風邪をひいては、いないのに。
「雨だねぇ。傘はどうしたのかな?」
不意にした声に振り返った私は、声の主が誰なのかわかって驚いた。
「り、理事長?何故ここに…… 」
一歩下がり、彼を仰ぎ見る。
金髪に碧眼、ハーフのはずなのに生粋の外国人にしか見えない理事長の姿は今日を含めて、いつも通りにくどかった。
「理事長だなんて他人行儀だなぁ。昔みたいに、ロイって呼んでよ」
眼鏡の奥に見える青い瞳に、少しだけ寂しさが滲んだ。
大和兄さんの幼馴染でもあるこの理事長は、私にとって二人目の兄みたいな存在だった。なので、この関係になった事で距離を置こうとする私の態度が、寂しいのだろう。
「そうはいきません。ここはまだ学校で、私はここの生徒ですから」
「真面目だなぁ。でも、そんな君が僕は大好きだよ」
無邪気な笑顔で言われた。
昔から言われ過ぎて言葉に重みが無い。慌てる必要も無い、もう挨拶みたいなものだ。兄から妹への『好き』と変わらない。ロイがその言葉を口にするたびに私は、大和兄さんも同じ様に思っているのだなと感じ、心が抉られる。
そんな私の心境を理解しているのか、ロイが私の頭をポンッと軽く叩いてきた。
「仕事に飽きてきたから、どうやって逃げようかなって外を見ていたらね、彼が門の所に立っているのが見えて、来てみたんだ」
そう言い、ロイは正門の方へと目をやった。
大きな正門と、その門を飾る様に数多く咲いている白い紫陽花の側に、私は和傘をさして立つ大和兄さんの姿を見つけた。
「…… 大和兄さん?」
私が驚いていると、こちらに気が付いた大和兄さんが私達の方へと小走りで向かって来る。着物姿では足元が少し肌蹴てしまい、雨でぬかるみ始めた足場から跳ねる泥が彼の脚を汚した。
そんな彼に駆け寄ろうとしたが、私はロイに肩を掴まれ、止められてしまった。
「風邪をひくよ。風邪をひいて大和を困らせたいのかい?あぁ、いっそのこと僕が看病をしてあげようか!」
振り返る私に、ロイがいい事でも思い付いたと言いたげな顔を向けてきた。
玄関まで着いた大和兄さんが、私達に対し剣呑な表情を浮かべている。
「やめて下さい、那緒にバカな提案をするのは」
「だって、いつも君が那緒の面倒をみていてズルイじゃないか。僕だって那緒が好きなのに。ね?」
「ね、と言われても…… 」
急に話を振られ、返答に困った。
正直ロイに看病はして欲しくない。彼の突飛な行動にヒヤヒヤして悪化してしまいそうだ。
「僕には今日しかチャンスは無そうだしね、遠慮はしないよ。看病されるなら、どっちにされたい?那緒」
意味がわからない。チャンスがどうとは…… 何のことだろうか?
キョトンとした顔をして二人を見上げると、大和兄さんが溜息をこぼした。
「やめて下さい。本気じゃない癖に…… 」
「本気じゃないと、どうして言い切れる?大和、僕がもし本気だったら——」
「あり得ない」と、大和兄さんは、ロイの言葉を遮った。
「あったらとっくに、貴方との縁を切ってますよ」
額に手を当て、大和兄さんが息を吐いた。そんな彼の様子を、何故か満足げな顔で、ロイが見詰めている。
二人にしかわからないやり取りに、私は少し嫉妬してしまった。
積み重ねてきたものの長さを、痛感した気がした。
そんなやり取りをしている間に、雨が本格的に降り出してきた。豪雨ではない事だけが救いだ。
「…… 時間切れだ。ごめんね、那緒。僕にはもう何も出来ないや」
空を一瞬見上げ、ロイが肩を竦めてそう言う仕草が、完全に洋画のアレだ。金髪の碧眼には似合い過ぎる。
「ロイの事はもういいでしょう。那緒、これ以上雨が激しくなる前に帰りますよ」
そう言い、大和兄さんが私の傘を渡してくれた。
制服に合わせて、大和兄さんとは違い、和傘では無い。雨に濡れると桜の花弁が浮き出る作りになっているこの赤い傘は私のお気に入りで、大和兄さんの贈り物だ。
「あ…… 」
傘を開き、私は残念な気持ちになった。
内側が壊れていたみたいで、金属の骨組みが傘の布地部分に突き刺さり裂けていたのだ。これでは傘を差しても役割を果たす事は出来ないだろう。
「…… 壊れていますね」
「おや、これでは使えないな」
二人が私の開く傘を覗き込み、言った。
「傘を貸そうか?ちょっと取りに行くのに時間がかかるけど」
「いえ結構です。あまりこの気温の中で待っていたくはありませんから。那緒、僕の傘で一緒に帰りましょう」
「…… 一緒の傘、ですか?」
って事は、相合傘?
ただ同じ傘で帰るというだけなのに、考えただけで少し頰が熱を持つのがわかる。恋に関しての知識なんか、小説の世界でしか知らない私には充分照れ臭いものだ。
返答に困っていると、大和兄さんが自分の傘を私の方へと差し出してきた。
「さぁ、帰りましょう」
見慣れた笑みに促され、無言のままそっと従う。
肩が触れそうで触れない、微妙な距離。幼い頃以来の距離に、否応無しに心臓が速さを増す。
「おやおや。仕方ない、邪魔者は消えるとするか」
腰に手を当ててロイがそう言うと、私達に背を向けて校舎の中へ、先に戻って行った。
「えっと…… お先に失礼します」
背に向かい声をかける。ロイは振り返る事無く、手を軽く振って返事をしてくれる。
あぁ、何度見ても行動が洋画のワンシーンの様だ。ここまでくるともう、わざとかもとまで思えた。
◇
シトシトというには少しだけ強い雨の降る中を、一本の和傘を差して帰路につく。
「体調は大丈夫ですか?もう辛いなら、タクシーを拾いましょうか?」
私に向かい心配そうな顔を向け、大和兄さんが気遣いの言葉をくれた。
「大丈夫ですよ」
緊張から、ぎこちない声になる。
こんな距離では心臓がもちそうにない。相合傘の予想外の攻撃力に私の心はもうパンク寸前だ。文字での描写を読んでいただけではわからなかった。相合傘は、互いの距離が半端なく近くなるから、こんなにドキドキしてしまうのか。
家まではそう遠くない。タクシーをわざわざ拾う為に大きな通りまで出るよりもきっと、このまま歩いた方が早いだろう。
「こ、このまま帰りましょう?」
このまま相合傘でという事には抵抗があったが、側に居られる事を役得と考えなければ。
「わかりました」
短く答え、彼は頷いた。
触れそうな、でも触れない二人の隙間。
本心では触れてしまいたい私の心は、彼の肩を容易く濡らす雨にすらも嫉妬してしまいそうだ。
どうして私は、彼の妹の様な立場なのだろう?
もし違う出会い方をしていたら、関係を壊したくないと心を閉ざす事もせずに済んだだろうに。
いや……違う。
きっと私は、どんな出逢い方をしたとしても、大和兄さんへのこの気持ちは隠そうとしただろう。彼からもらえる親愛は、何物にも変えられぬ程大事なものだから。
シンと静まり返る住宅街の中に静かな雨音と、二人の足音だけが響いている。
雨音の中に、少しくらい素直になったら?って声が混じる気がした。
そんな事考えてしまうのはきっと、大和兄さんが当たり前の様に私の歩幅に合わせて歩いてくれているからろう。
どこまでも深く優しい彼の行動に、結局私は益々気持ちを押し殺した。
たとえ少しだろうと、気持ちを伝える事でこの関係を壊してしまいたくない。
その想いはもう、不動のものなのだ。
◇
あれから特に会話をする事無く、家まで着いた。
会話が無いとはいっても気不味い空気ではない。いつも通りの事だ。沈黙が苦しくない相手だという事も、とても嬉しい。
大和兄さんが傘立てに和傘を戻し、靴を脱ぐ。二人で室内へと足を向けると、彼がそっと私の背中へ触れてきた。
何年…… ぶりの、事だろうか。
「那緒、貴女は部屋で休んでいて下さい。無理をして、倒れてしまってはいけませんから。食事はもう作ってありますから、用意が済みましたら呼びますね」
「そんな、私も手伝います」
首を振って答えたが、背を押され部屋へと促された。
「今日は、無理はいけません。きちんと食事を取り、体を休めて下さい」
背中に感じる体温に私は、首肯する事しか出来なかった。
◇
自室に入り、濡れた制服から浴衣に着替える。洋服にしようかとも思ったが、久方ぶりに触れてくれた彼の体温に触発され、浴衣を着たい気分になった。お祭りなどで着る様なしっかりした物では無く、温泉地で着るラフな物だ。
十分程度で食事に呼ばれ、二人で夕食を済ませる。年季の入った大和兄さんの手料理はどれも美味しく、健康的なメニューばかりだ。彼ならばいつでも子育てだって出来そうだと思う。私には、無関係な話だが…… 。
食事に対しお礼を告げ、片付けを申し出ると予想通り断られた。
「片付けの後になりますが、お風呂場を洗い終わったら呼びますね。それまでは休んでいて下さい。雨に濡れたのですから、慎重に行動せねば」
彼はそう言うも、私は殆ど濡れていない。傘はほぼ私に向かって差してあって、濡れたのは大和兄さんの方ばかりだ。それを指摘したかったが、体調管理を優先し甘えたのは自分なのだと口を閉ざす。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
私は一礼し、自室へと戻った。
◇
——瞼が、ゆっくりと開いていく。
背中には布団の柔らかな感触があり、掛け布団がしっかり体にかかっている。どうやら私は寝てしまったみたいだ。
自室で本を読んでいてうたた寝でもしてしまったのだろう。それを、大和兄さんが布団へと運んでくれたのだろうか?だとしたら恥ずかしい事をしてしまったな…… 子供みたいで、居た堪れない。
そんな気持ちのまま壁掛け時計へ目をやると、とんでもない時間でなっていて驚いた。もうあと五分程度で日付が変わってしまう。
まだお風呂に入っていないのにどうしよう?
少し迷ったが、早起きするのは苦手なので、私は朝お風呂に入るよりは今入ってしまう事にした。
箪笥から着替えを出しそれら一式を持った私は、風呂場へと急いだ。
この家のお風呂は純和風の家屋に相応しく、檜作りの設えだ。小さめの旅館程度の広さがあり、しかも温泉掛け流し。大和兄さんの祖父が、リフォームする時気紛れに業者に頼んで地下を掘ってみたら湧いて出たという代物だ。有効活用しているのは我々だけで、お爺様がまだ使っていないのは勿体無いと思う。
持ってきた着替えやバスタオルを棚に置き、長い髪を無造作に結い上げてゴムでまとめる。浴衣の帯を落とし浴衣や下着も脱ぐと、それらを全て脱衣籠へとしまった。
引き戸を開けて中へ入る。
洗い場のスペースで、室内に置かれている低めの椅子へと腰をおろした。
「ふぅ…… 」と息を吐き、シャワーへと手を伸ばした時だ——私に、予期せぬ事が起こった。
「…… えっと、これはどう捉えたら?」
聞き知った声が耳に入ったのだ。
掠れていて、とても小さい。
珍しく少し上擦っている感じもある。
…… ?…… っ⁈
ギ…… ギギギッと、音をたてる錆びついた人形の様な動きで、私はゆっくり声のした方へと顔を向けた。
まさか、ありえない。
だって…… ここはお風呂場だ。
頭が必死に叫んでいる。
必死の叫び虚しく、口元を手で隠しながらこちらを向いて湯船に入っている大和兄さんと私はバッチリ目が合ってしまった。
「——っ!!!!!!」
声にならない叫びをあげ、私はその場で丸まり前面を隠した。
時間も時間だ、居るはずが無いという思い込みで全然大和兄さんがお風呂に入っている事に気が付かなかった。脱衣場の籠で気がつく事だって出来たはずなのに!
「ご、ごめんなさいっ」
茹で蛸並みの顔の赤さのまま、顔は向けずに私は必死に声を出した。ワザとだなんて思われたくない。こんな、恥ずかしい事、自分からするはずが無いのだから。
「なぜ謝るのです?悪い事をしていないのに、謝るのは感心出来ません」
「は、入っているとは思わなかったんですっ。すぐにでま…… 」
無理だ!立ったら見えるっ。
出られない、でもこのままココには居られない。
かと言って、大和兄さんに助けてもらいたくもない!
もう完全に四面楚歌の気分だった。
パニックになる頭の中は考えが纏まらず、答えが出せない。硬直状態の私を更に追い詰めたのは、困った事に大和兄さんだった。
「那緒、お湯に入って下さい。体を冷やしてはいけません」
大和兄さんはそう言い、私の腕を引っ張り上げた。
いつの間に近くに⁈
もう慌て過ぎて頭が真っ白になっている私では、彼がお風呂から出て、こちらに近づいていた事にすら気がつく事が出来なかった。
されるがまま、全裸の大和兄さんに腕を引かれ、湯船へと促される。
視界に映る水に濡れる男性的な背中に、心が騒つく。好きな人の肌を伝い落ちる雫をつい目で追ってしまい、私はゴクッと喉を鳴らしてしまった。
ろくな抵抗も出来ないまま、二人で湯船に入る。
離れて…… ならばまだ冷静になる余裕がミリ単位程度には得られただろうが、そうでは無かった。
どうしてこうなった!
その一言しか、私は考えられなくなった。
当然だろう、私の背後に全裸の想い人が居て、肩には額まで乗せてこられているのだから。二の腕を固定され、離れる事も出来ない。『完全に包囲された!』と、友達のアプリゲームで聞いた効果音が聴こえた気さえした。
「はぁ…… 」
大和兄さんの吐き出す息の意味がわからない。呆れて…… いるのだろうか?こんな、子供みたいな失敗を。
「日付…… は、変わりましたか?」
「え?」
問いの真意がよくわからない。なので仕方なく、私は言葉通りに捉えて首肯した。
私の反応に対し、「良かった…… 」と大和兄さんが零した瞬間、彼は私の首へ何かを当ててきた。
それがなんなのか、一瞬わからなかった。でも、その正体不明の感触が、ヌメりを帯びながら肌の上を滑った事で、それが舌だという事にやっと気が付いた。
「えっ⁈」
驚き、声が上がる。
抵抗し、体を動かす。すると二の腕を掴んでいた大和兄さんの手が離れ、私の事を背後から完全に抱きしめた。
「やっと、やっとだ…… 」
切なさを帯びた声に、私は抵抗する気持ちを削がれた。
こんな声…… 初めて聞いた。
「那緒…… 私はね、ずっと待っていたのですよ、この日を…… ずっつ、ずっとずっと」
私の頭に、大和兄さんが頬擦りをする。
「こ、この日を…… ?」
「免罪符を得られる日、ですからね」
クスクスと笑い、そう言う彼に少し違和感を感じた。
こんな彼…… 知らない。
でもそんな違和感は、私を抱き締める腕が離れ、両胸にそっと手が添えられた事で一気に私の中から消え去った。
何が起きているの⁈
「や、やまとにぃ…… ぁっ——」
羞恥に彼の腕を胸から引き剥がそうとして、声が出せなくなった。胸に添えてあっただけの手が意思を持ち、動き始めたからだ。大和兄さんの手にすっぽり収まる程度しか無い私の胸が、強く揉まれ、形を変える。
激しい動きに水飛沫がたち、水音が浴室内に響いた。
「そんな…… まって…… だめぇ」
初めての刺激が少し痛い。熟していない私の体では、その刺激は気持ちいというより、違和感の方が強い。こんな事をされる理由も分からず、私は拒否の声をあげた。
それでも大和兄さんは行為を止める事無く、胸を刺激し続けた。
「…… な、なんでこんなっ」
わからない。
どうしてこんな状況に?
必死に考えて、何となく察しがついてしまった。
普段大和兄さんは、彼女を作る事も合コンへ行ったりする事もせず、驚く程禁欲的な生活をしている。そんな彼の前に全裸の異性が現れれば、如何に自制的な彼でも理性が飛ぶ事だってあるだろう。
その事に気が付いた私に、悪魔が囁いた。
『——このまま、彼に捧げてしまえば?』
妹の様という立場では一生叶わぬ行為でも、今なら勢いのまま愛しい人に抱いてもらえるかもしれない。彼が抱いた事を後悔し忘れても、私がその事さえ覚えていれば…… 。
一生気持ちを伝えられなくとも、その事実さえあれば慰めにはなるかもしれない、と。
耳元に大和兄さんに荒い吐息が聞こえる。興奮していて、予想通り自身を制御出来ていないのだと確信出来た。
抵抗の声をあげられなくなってきた事に気がついたのか、彼の手の動きが大胆になってきた。揉んでいた手の動きが止み、指先が胸の尖に触れる。指がギュッと先を摘み、私は耽美な声をあげてしまった。
「んあぁぁっ!」
「…… 気持ちいいですか?」
掠れる声で訊かれても、答えなんか言えなかった。
恥ずかしいとかじゃない、もう頭が働かない。体が熱くなるが、温泉のせいでなのか、行為によるものなのか、わからない。
「あぁ…… 可愛いですね。こんなに乱れるなんて、思ってもいませんでした」
両の尖りから感じる快感に、この身が溶ける。お腹の奥がギュッとなり、私は経験の無い疼きを感じた。
「那緒、こちらを向いて…… 」
懇願する声に逆らえない。
私は言われるまま振り返り、大和兄さんの顔を見上げた。
高揚し、男性的な色香を放つ姿に心臓が激しく跳ねるのを感じる。
いつもの穏やかで慈しみ深い彼はどこにも居ない。でも、その事になぜかひどく安堵する自分がいる。私の中に常にあるタガが、外れていくみたいだ。
「僕を受け入れて下さい、那緒…… 」
そっと頰に大和兄さんが触れ、顔を近づけてくる。愛しい人の接近はとても魅惑的で、避ける事が出来ない。
「…… 一生大事にすると誓います。だから僕に、貴女の口付けを…… 」
蠱惑的な言葉に高揚し、私は瞼を閉じてしまった。欲望を吐露する為の囁きだとしても、やっぱり嬉しい。
それを合図に、重なる唇。初めてのそれはとても熱くて、でも少しぎこちないものだった。行為を知らぬ者同士のような触れ合いが、しばらく続く。
唇が啄まれ、軽く吸われる。
呼吸したさに私が少し口を開くと、それを待っていたみたいに大和兄さんが口腔へと入ってきた。甘い吐息を零しながら、舌が絡まり合う。
眦に涙が溜まり、スッと喜び落ちた。
「んぁ…… んっ」
呼吸が上手く出来ず苦しいのに、やめたくない。この甘さがもっと欲しいと、私は彼の胸へを縋り付いてしまう。
そんな私を大和兄さんは抱き締めると、唇を離しながら持ち上げた。
「このままでは、のぼせてしまいますね」
微笑みがいつものもので、私は一瞬強張ってしまった。本当にこのまま付け込むような真似をしていいの?と、我に返ったのだ。
「あ、あの…… 」
でもそんな考えがまた、簡単に消えていく。
湯船の縁に座らされ、胸の先を口に含まれてしまったからだ。丹念に優しく吸われ、カリッと甘噛みされる。舌先で尖りを転がされては、もう喘ぎ声を抑えることも出来なくなった。
「ああぁっ!ぃっ…… んんっ」
自分の声なのに、他人の喘ぎを聴かされているみたいに他人事に感じる。
(こんな声知らない…… )
やわやわと胸の膨らみにも触れられると、私は双方の脚をモジッと動かしてしまった。でも、自分が何故そうしたのかわからない。
大和兄さんには私の反応が理解出来たのか、うっすらと微笑み、足湯に入る様な状態にある私の膝へと手を置いた。力の入らぬ脚を、ゆっくり彼が開いていく。
「ぃ、いやぁ!」
彼がしようとしている事に対し、羞恥に声を上げて私は脚を閉じようとした。が、それは難無く阻まれてしまい、大和兄さんの前に秘部を晒してしまった。
体が震え、前を向けない。唇を噛み、辱めに堪える。
「怖いですか?…… 大丈夫、優しくしますよ」
「ほら…… 」と言いながら、大和兄さんが私の脚の間に入り込むと、そっと指で秘部の陰裂をなぞった。零れだす蜜が指に絡み、淫猥に光る。指が動くたびに蜜は増え、太ももまでもを伝い落ちた。
その様にうっとりとした顔を彼はすると、蜜の絡む指をくぷっと中へ浅く沈めてきた。同時に和毛を軽く撫で遊び、その指をずらし、くいっと肉芽を押し潰した。
「ひゃっぅ!」
変な声が出て、全身が跳ねる。その事で湯船の縁から落ちないかと怖くなったが、太めの縁のお陰でなんとか堪えた。
秘部へと顔が近づき、快楽よりも羞恥が増す。
「ダメ!ダメェェッ」
大和兄さんの頭を押して止めようとしたが、ぬるつく舌が肉芽を舐めた瞬間、背が仰け反り全身が快楽に染まった。入り込む指が深さを増し、より深く膣内に入り込み内部を犯す。刺激の強さに驚き、私は彼のお湯に濡れる髪をギュッと掴んでしまった。
それでも構わず、大和兄さんが貪る様に舌を絡ませ、自身の指が沈む陰裂をも舐めた。甘い吐息が秘部に触れ、心地よい快楽を生む。でもそれは膣内に与えられる違和感の方が強い刺激により簡単に身を潜める。
中で質量が増し、大和兄さんの指が増えたのがわかった。膣壁が少し引っ張られた事で軽い痛みを感じたが、それもすぐに散っていく。
『優しくする』という言葉通りに、じっくり時間をかけて中を解される。
更に質量を増して膣内を撫で上げる事が出来る様になると、大和兄さんはゆっくり指を抜き取った。抜ける瞬間感じる、切なさと甘い刺激。もっと欲しかったのにとでも言いたげに膣内がヒクつき、また蜜が溢れ出た。
「那緒…… 僕は、貴女を…… 」
思い詰めた顔で、大和兄さんが私の頰をそっと包んだ。
「一緒になりましょう?貴女だけを、僕は…… 」
熱に浮かされたみたいな声で、彼が囁く。
色々と限界の近い私では声が出ず、ただそっと腕に手を添える事しか出来なかった。
そんな私を大和兄さんは立たせ、浴室の壁側へと誘導する。両手を壁に添えて体を支える私の後ろに彼は立つと、私のお尻に何かを擦り付けてきた。
すぐにそれが、何なのかわかってしまった。
「やまと、にぃさ…… 」
ダメ…… と懇願する目を向けると、大和兄さんが困った顔をしてしまった。
「那緒?貴女は兄と…… こんな事をする様な、いけない子なんですか?」
耳元で囁かれ、ギュッとお尻を掴まれた。
「し、しなぃ…… ですぅ…… 」
小さい声でどうにか答え、首を軽く横へ振る。
「じゃぁ、もう僕を兄とは呼んではいけません。一緒になるなら、もっと相応しい呼び方があるでしょう?」
一緒に…… って、えっと、この先をするって事だよね?
で、でも、こんな事。
どうしよう、私は、どうしたら…… 。
大好きな人に求めらて、嬉しくない筈が無い。
でも、でも…… 。
お尻に怒張を押し付けられるたびに双丘が彼の先走りで濡れ、身が震える。
「あぁぁっ」
「…… 那緒、愛していますよ。だから…… 貴女を貰いますね」
言うと同時に、大和兄さんの怒張が私の陰裂に触れ、蜜をまといながらゆっくり挿入されてきた。膣壁がギチギチ音をたて無理矢理拡がっていく様な感覚が、下腹部を占有する。
「愛してます、心から貴女だけを」
何度もうわ言の様に、あり得ない言葉を大和兄さんが口にする。
何故そんな事まで言ってくれるの?
「ひぅ…… ぃた…… んんっ!」
破瓜の痛みに体が硬くなり、呼吸が上手く出来ない。
知識では知っていても、まさかこんなに早く自分が体験してしまうとは思っていなかったこの身では、いくら捧げようと覚悟しようとも簡単に耐えられそうなものでは無かった。
「はぁはぁ…… はっ… は… 」
「な…… 那緒、息を止めてはいけません。もう少しですから、力を抜いて」
なだめる様に、大和兄さんが私の肌を優しく撫でた。子供をあやすような動きが、この空間には合わず、背徳的な行為に思える。
「那緒…… あまり、しめないで」
辛そうに声を発し、大和兄さんが私の後頭部へ額を押し当てた。
何かを耐えるようにその額を擦り付け、息を吐き出しす。
動きたそうに中で怒張がヒクつき、少し…… また少しとゆっくり入ってくる。
浅い呼吸を繰り返しながら私は、必至に挿入の違和感に耐えた。痛みは、幸いもう余り無い。峠は越えたのだろうか。
最奥を触れられる様な感じがして、ビクッと体が動いた。指ではそこまで触れられてはおらず、知らぬ刺激に膣壁がギュッと彼を抱きとめる。
「ぁ…… 」と大和兄さんが甘い声を零す。
震える手で背中をすっと撫でられ、お尻を軽く揉まれた。その愛撫にうっとりとした気持ちになる。誘発されるかの様に私まで甘い吐息をもらすと、大和兄さんが私を気遣いながら快楽を欲し始めた。
ゆっくりとギリギリまで引き抜き、また押し込める。何度も何度も、その身を私へ刻み付けるように挿入される。
「ぁ…… んあぁ…… っんん」
最奥に、起立する先端がキスでもするかの様に当たるたびに、私の嬌声が室内に響いた。お湯がバシャッと脚にあたり、こんな場所で初体験とは淫乱だな…… と羞恥を叩きつけてくるみたいだ。
狭隘な中は彼を掴んで離さず、もっとしてと催促しているみたいだった。
視界の端に大和兄さんの恍惚とした表情が見え、更に膣内がギュッと収斂する。どこまでも献身的だった彼の乱れる姿にゾクッと体が震えた。
「く…… 」
彼が唇を一瞬噛み吐息を吐き出すと、動きが早さを増し、肌のぶつかる音が大きくなった。
心の体も快感に支配され、享楽的に腰が動く。自らの動きのせいで快楽は更に増し、劣情にふけってしまう。
「那緒、那緒…… っ」
名前を呼ばれただけで心地いい。
「や、大和にぃ——」
兄さんと続けそうになった事に気がついた彼が、背後から私の肩を甘噛みしてきた。
「違いますよね?…… 名前だけで、呼ばないと」
噛んだ箇所をペロッと舐め、また挿入を楽しむ。
緩急をつけて繰り返される動きにいたぶられ続け、私の体がもう限界に達しそうだ。噂にきく絶頂というものが近いの?と思うと不安になる。
初めてでは経験出来ないと聞いていたのに何故?私の体は、そんなに淫猥なの?
「あぁぁ!もう、むりぃっ…… 」
体を支える手に力が入り、壁を勢い余って引っ掻いてしまいそうだ。そんな私の手をそっと掴み、爪を痛めそうになるのをやめさせてくれた。
「大丈夫ですよ、流れに任せて下さい、那緒」
熱い吐息交じりの声で大和兄さんが耳元に囁き、耳の中を舌で愛撫された。
「あぁ!んぅっ!」
耳朶を舐め、吸われ、噛まれる。膣内に入る怒張は淫楽を楽しみ続け、とうとう私を絶頂へと完全に押し上げた。
「んんんっ!」
白い喉元だけでなく、背をも反らせ全身が震える。頭の中が真っ白になり、奥からは蜜が溢れ出て太ももを伝い落ちた。ビクッビクッと何度も体が痙攣し、徐々に体から力が抜けていく。
「ぅぁっ…… 」
大和兄さんが短い声をあげ体を強張らせた。膣内で享楽に耽っていた怒張が二、三回中でヒクついたと思ったら、私は最奥に熱いモノを注がれるのを感じた。
「あぁぁ!ダメっ…… そんな…… 」
そこまでされるなんてと思うのに、本能的にその熱い白濁としたモノを貰えた事に喜び、震えるてしまった。
「やま…… とさ…… ——」
ブルッと一瞬体が震えた後、私は快楽の余韻とのぼせた事が原因で、意識から手を離してしまった。
「…… 那緒?」
壁に手をついて体を支えていた彼女の体から力が抜ける。自身の突起を彼女の秘部からズルッと抜き、それにつく破瓜の血に恍惚としながらもお湯へと沈みそうになる那緒を支え、抱きとめた。気を失っている事をすぐに悟り、私は急いで彼女を横抱きにし持ち上げ、風呂場から自室へと急いだ。
廊下が濡れるのも構わず全裸のままだったが部屋へと急ぐ。
襖を足で無理やり開け中に入ると、畳の上に敷いてあった布団に那緒を寝かせた。新しい布団を出したり、体を拭いたり、着替えたり——。それらの作業をさっと済ませ、自室へと戻る。
私は一息つこうと那緒の側に腰掛けた。
そっと頰に触れると、心が満たされる。
「やっと、私のモノになったのですね…… 」
嬉しさからつい、囁いてしまうのを我慢出来ない。
「愛してます、私を受け入れてくれて…… 本当に嬉しいですよ」
那緒の眠る布団に手を入れて、彼女の左腕を中から引き出す。左手を持ち上げ、私はその手の甲へと口付けを落とした。
「証を、差し上げますね」
眠ってしまっている事は残念だが、明日の朝彼女がこれを見た時の反応を思うと、自然と口元が緩んでしまう。喜ぶ顔が楽しみだ。
手の中にあるプラチナで出来た指輪を、那緒の薬指へと通す。私の者である証をつけた指に心がとても満たされ、人生の中で初めての安息を得た気がした。
「誰にも渡す気などありませんでしたが、本当に手に入るなんて…… 」
指輪にまで口付け、ギュッと手を握った。
「では、私も休まないと」
彼女の眠る布団へ私も潜り込み、背後から那緒を抱きしめる。ずっと夢見ていた状況に私は、幸せな夢を見られる確信を持ちながら眠りの底へと落ちていった。
血の繋がりは、ほぼ無い。
遠い親戚といったところか。
大きな桜の木がある、この付近でも特に大きくて歴史のある純日本家屋で二人。湯川大和という名の彼と暮らし始めてから、もう十年が経過した。最初は彼の祖父も居て三人で仲良く、今は彼との二人暮らしを平穏に。
仕事で多忙な両親が、私が寂しい思いをしない様にという理由でこの家に連れてきてくれた。それからはほぼ肉親とは生活出来ていない。でも私はその事を一度も恨んだことなど無い。
黒い髪と瞳の、明治初期の男性を連想させる風貌にノンフレームの眼鏡をかけ、着物を私服として着こなす彼との平穏な生活が、私はとても好きだから。
好き……過ぎて、実は最近とても困っている。
初めて彼に会ったのは五歳の時。
見た瞬間私は、子供心に王子様みたいだと思った。一緒に暮らすうちに、お兄さんみたいだなとも。
参観日の参加や親子遠足への同行。作ってくれるお弁当を幼稚園で食べる時なんかは、まるでお父みたいだなとも思って彼を見ていた。
彼は十歳という年の差のせいなのかとても落ち着いていて、紳士的に私に接してくれる。穏やかに、ただひたすら怖いくらいに、優しく。
思春期を迎えた私が恋というものに興味を持った途端、優しい大和兄さんに対し兄とは違う感情を持つのは自然な流れだったと思う。
小さな感情は時間と共に膨らみ、側に居るだけで、とても切なく感じる様になっていった。
心が苦しい。
彼の事ばかり考えてしまう。
もしかして、これが初恋というものなもかもしれない。そう思った時私は、直ぐにこの感情は隠し通さねばならないと思った。
彼にとって私は、妹なのだから、と。
◇
雲が厚いな、雨が降るかもしれない。
学校の教室で一人、夕方になった窓の外を見てそんな事を思った。
そういえば今朝大和兄さんが『今日は雨になるから、傘を忘れずに』と言っていたかもしれない。今までならばきちんと言葉を聞き、忘れずに傘を持っていけていたのに、最近の私ときたら…… そんな簡単な事が出来ない。
兄の様な相手にこんな感情を抱いてはいけない。
そうは思っても、感情など不器用な私では操る事も出来ず、余計に意識してしまう。
彼を意識し過ぎて、距離を開ければなんとかなるかもと、変な行動をしてよそよそしくなってしまう。そのせいで、結果的に大和兄さんに迷惑をかけてしまっているので、本末転倒だ。
鞄を開けてみたのだが、折り畳み傘は無かった。晴れが続き、図書館へ返す本をしまうスペース欲しさに、きっと自分で抜いてしまったのだろう。
「困ったな…… 」
一人ボヤいていると、教室のドアを開ける音が聞こえ、数人のクラスメイト達がジャージ姿で入ってきた。
「雨降りそうだよね」
「あー傘無いわ。マジどうしよう。ねぇ、降り出す前に走って駅まで行っちゃわない?」
「それいいかも。急がないとねー、コレいつ降ってもおかしく無いって」
口々にそう話しながら、彼女達が机の横にかけてある鞄を持ち上げる。
「那緒も急いだ方がよくない?って、しっかり者の那緒は傘あるよね」
彼女達が私にも声をかけてきた。
「それが、私も今日は忘れたの。折り畳み傘まで置いてきちゃって」
はにかみ、肩をすくめると少し驚いた顔をされた。
「過保護のお兄ちゃんいるのに、意外だわー。押し付けてでも持たせそうな人なのに」
「あはは、わかるー」
「ウチら高校生なのに、あのお兄さん参観日に全部来るし。しかも着物で!イケメンだからさ、実は私…… 参観日楽しみになっちゃってるんだよね」
「私もーっ」
笑い合う彼女達に、私は無言で笑顔を向けた。気持ちはわかるのだが、何と答えていいのか思い付かない。
「あ!ねぇんな事より急がないと、雨っ!雨降っちゃう」
一人が気付き、声をあげた。
「那緒も一緒に行かない?」
「んーどうしようかな。走るの苦手だから、迷惑かけちゃうかも」
生粋のインドア派の自分では、運動部に入る彼女達にはついて行けないだろう。
「そんなの気にしなくてもいいのに」
渋る私に彼女達はその後も優しく誘いをかけてくれたが、結局私は誘いを断った。家まではそう遠くない方だし、すぐに出ればきっと本降りになる前に帰る事が出来るはずだ。
間に合うと、いいなぁ……。
◇
自宅で一人、仕事をしながら不意に外を見る。厚い雲が空を覆い、夕方だという事もあって周囲が暗い。天気予報を見ていなかったとしても匂いで気が付くくらい、雨の気配は目前だ。
「さて、そろそろ那緒を迎えに行かないといけませんね」
黒く長い髪の少女を想い、腰を下ろしていた座布団から僕は立ち上がった。
“大和撫子”。
那緒の事を伝えるのに、これ以上適した言葉は無いと思う。穏やかで、嫋やかで、慎ましい。
両親から離れ、肉親でも無い僕との暮らしを不満一つ言う事なく過ごす彼女は、僕にとって妹の様な存在だった。
千草那緒、現在十五歳。
彼女は、僕とは十歳離れた同居人だ。
お互いに仕事で多忙な両親を持ち、破天荒でここ数年旅に出たままの祖父に影ながら支えられ、今から十年前、僕は彼女と共にこの家で暮らし始めた。
両親へ心配をかけたく無いと、必死に寂しさを隠す五歳の少女の姿は、自分の子供の頃と重なるものがあった。
親近感から始まった感情が時を経て、女性へ向ける恋情へとかわっていく事に僕は長年悩み続けた。当然だ、僕に小児性愛の趣味は無いのだから。
『大和兄さん』と僕を呼び、無邪気な親愛を示す姿にじわじわと身を焦がす。赤く激しい炎の様に燃える気持ちは、次第に青い炎へと変わっていった。
彼女を慈しみ、優しく育てる。
僕しか見えない様に、僕にしか想いを寄せない様に。
誰にもこの子は渡さない、近づけさせない、僕以外を慕う事など絶対に許さない…… 。
触れられない存在へ募る想いは、少しづつ…… でも確実に、心を歪めていくのが自分でもわかる。
それもあと少し、あと少しだ——
そう思った時、表情の変わらぬお面のようだと揶揄される事のある僕の顔が、少しだけ
微笑んだ気がした。
玄関へ向かい、傘立てを見る。
案の定那緒の傘がそこに取り残されていていた。今朝、予報で雨が降ると言っていた事を那緒には伝えていた。だが、聞いていないという事は分かっていた。
最近ずっと、那緒は僕に対してよそよそしい。妹だと思えば気にもならない程度の些細な態度の変化。でも、想いを募らせる相手からだとなると、僕の心を不安にさせるには充分なものだ。
どうにかしなければ。
どうしたらいい?
このまま放っておいては、那緒が誰かのモノになってしまう。
この微妙な距離をどうにかしたい。
……あぁ、なんだ。答えは簡単じゃないか。
思い悩む日々の中、ふと気が付いた答えに天啓を受けたかの様な気持ちになった。
もう少しで……それが出来る。
そう思った僕は、今朝那緒の鞄から折りたたみの傘を抜いた。持たずに出かけたせいで傘の無い彼女を、僕が迎えに行くのは自然な流れだ。
待ち望んでいた日が目前に迫り、僕の気持ちは浮かれ、少しでも早く那緒に会いたいと叫んでいる。
傘立てからお互いの傘を二本抜き、それを持つ。玄関を出て空を見上げると、すでに少しだけ雨が降り始めていた。
傘をさし、那緒の通う学校へと足を向ける。妹みたいな存在である彼女へもう少しで心を曝け出せる。でも、想いが膨らみすぎて気持ちが上手く伝えられそうにないなと、想いながら。
◇
教室から一階へと移動した私は、どんよりとした灰色の空を玄関前で仰ぎ見た。雨がもう、小雨だが降り出している。
雨に当たると体が冷えてほぼ確実に風邪をひいてしまう私は、悪天候が人一倍苦手だ。風邪になると本が読めないのが辛い。大和兄さんがつきっきりで看病してくれるのは嬉しく思うが、今の私の心境ではそれも辛い。
このまま私はきっと、彼の妹として知らない女性と一緒になる彼一番近くで傍観せねばならないだろう。そうなれば、看病などもうしてはもらえない。家も出ないといけないかも。
そう思うと、今はまだ少しだけ…… 甘えてしまいたいなと思ってしまった。まだ風邪をひいては、いないのに。
「雨だねぇ。傘はどうしたのかな?」
不意にした声に振り返った私は、声の主が誰なのかわかって驚いた。
「り、理事長?何故ここに…… 」
一歩下がり、彼を仰ぎ見る。
金髪に碧眼、ハーフのはずなのに生粋の外国人にしか見えない理事長の姿は今日を含めて、いつも通りにくどかった。
「理事長だなんて他人行儀だなぁ。昔みたいに、ロイって呼んでよ」
眼鏡の奥に見える青い瞳に、少しだけ寂しさが滲んだ。
大和兄さんの幼馴染でもあるこの理事長は、私にとって二人目の兄みたいな存在だった。なので、この関係になった事で距離を置こうとする私の態度が、寂しいのだろう。
「そうはいきません。ここはまだ学校で、私はここの生徒ですから」
「真面目だなぁ。でも、そんな君が僕は大好きだよ」
無邪気な笑顔で言われた。
昔から言われ過ぎて言葉に重みが無い。慌てる必要も無い、もう挨拶みたいなものだ。兄から妹への『好き』と変わらない。ロイがその言葉を口にするたびに私は、大和兄さんも同じ様に思っているのだなと感じ、心が抉られる。
そんな私の心境を理解しているのか、ロイが私の頭をポンッと軽く叩いてきた。
「仕事に飽きてきたから、どうやって逃げようかなって外を見ていたらね、彼が門の所に立っているのが見えて、来てみたんだ」
そう言い、ロイは正門の方へと目をやった。
大きな正門と、その門を飾る様に数多く咲いている白い紫陽花の側に、私は和傘をさして立つ大和兄さんの姿を見つけた。
「…… 大和兄さん?」
私が驚いていると、こちらに気が付いた大和兄さんが私達の方へと小走りで向かって来る。着物姿では足元が少し肌蹴てしまい、雨でぬかるみ始めた足場から跳ねる泥が彼の脚を汚した。
そんな彼に駆け寄ろうとしたが、私はロイに肩を掴まれ、止められてしまった。
「風邪をひくよ。風邪をひいて大和を困らせたいのかい?あぁ、いっそのこと僕が看病をしてあげようか!」
振り返る私に、ロイがいい事でも思い付いたと言いたげな顔を向けてきた。
玄関まで着いた大和兄さんが、私達に対し剣呑な表情を浮かべている。
「やめて下さい、那緒にバカな提案をするのは」
「だって、いつも君が那緒の面倒をみていてズルイじゃないか。僕だって那緒が好きなのに。ね?」
「ね、と言われても…… 」
急に話を振られ、返答に困った。
正直ロイに看病はして欲しくない。彼の突飛な行動にヒヤヒヤして悪化してしまいそうだ。
「僕には今日しかチャンスは無そうだしね、遠慮はしないよ。看病されるなら、どっちにされたい?那緒」
意味がわからない。チャンスがどうとは…… 何のことだろうか?
キョトンとした顔をして二人を見上げると、大和兄さんが溜息をこぼした。
「やめて下さい。本気じゃない癖に…… 」
「本気じゃないと、どうして言い切れる?大和、僕がもし本気だったら——」
「あり得ない」と、大和兄さんは、ロイの言葉を遮った。
「あったらとっくに、貴方との縁を切ってますよ」
額に手を当て、大和兄さんが息を吐いた。そんな彼の様子を、何故か満足げな顔で、ロイが見詰めている。
二人にしかわからないやり取りに、私は少し嫉妬してしまった。
積み重ねてきたものの長さを、痛感した気がした。
そんなやり取りをしている間に、雨が本格的に降り出してきた。豪雨ではない事だけが救いだ。
「…… 時間切れだ。ごめんね、那緒。僕にはもう何も出来ないや」
空を一瞬見上げ、ロイが肩を竦めてそう言う仕草が、完全に洋画のアレだ。金髪の碧眼には似合い過ぎる。
「ロイの事はもういいでしょう。那緒、これ以上雨が激しくなる前に帰りますよ」
そう言い、大和兄さんが私の傘を渡してくれた。
制服に合わせて、大和兄さんとは違い、和傘では無い。雨に濡れると桜の花弁が浮き出る作りになっているこの赤い傘は私のお気に入りで、大和兄さんの贈り物だ。
「あ…… 」
傘を開き、私は残念な気持ちになった。
内側が壊れていたみたいで、金属の骨組みが傘の布地部分に突き刺さり裂けていたのだ。これでは傘を差しても役割を果たす事は出来ないだろう。
「…… 壊れていますね」
「おや、これでは使えないな」
二人が私の開く傘を覗き込み、言った。
「傘を貸そうか?ちょっと取りに行くのに時間がかかるけど」
「いえ結構です。あまりこの気温の中で待っていたくはありませんから。那緒、僕の傘で一緒に帰りましょう」
「…… 一緒の傘、ですか?」
って事は、相合傘?
ただ同じ傘で帰るというだけなのに、考えただけで少し頰が熱を持つのがわかる。恋に関しての知識なんか、小説の世界でしか知らない私には充分照れ臭いものだ。
返答に困っていると、大和兄さんが自分の傘を私の方へと差し出してきた。
「さぁ、帰りましょう」
見慣れた笑みに促され、無言のままそっと従う。
肩が触れそうで触れない、微妙な距離。幼い頃以来の距離に、否応無しに心臓が速さを増す。
「おやおや。仕方ない、邪魔者は消えるとするか」
腰に手を当ててロイがそう言うと、私達に背を向けて校舎の中へ、先に戻って行った。
「えっと…… お先に失礼します」
背に向かい声をかける。ロイは振り返る事無く、手を軽く振って返事をしてくれる。
あぁ、何度見ても行動が洋画のワンシーンの様だ。ここまでくるともう、わざとかもとまで思えた。
◇
シトシトというには少しだけ強い雨の降る中を、一本の和傘を差して帰路につく。
「体調は大丈夫ですか?もう辛いなら、タクシーを拾いましょうか?」
私に向かい心配そうな顔を向け、大和兄さんが気遣いの言葉をくれた。
「大丈夫ですよ」
緊張から、ぎこちない声になる。
こんな距離では心臓がもちそうにない。相合傘の予想外の攻撃力に私の心はもうパンク寸前だ。文字での描写を読んでいただけではわからなかった。相合傘は、互いの距離が半端なく近くなるから、こんなにドキドキしてしまうのか。
家まではそう遠くない。タクシーをわざわざ拾う為に大きな通りまで出るよりもきっと、このまま歩いた方が早いだろう。
「こ、このまま帰りましょう?」
このまま相合傘でという事には抵抗があったが、側に居られる事を役得と考えなければ。
「わかりました」
短く答え、彼は頷いた。
触れそうな、でも触れない二人の隙間。
本心では触れてしまいたい私の心は、彼の肩を容易く濡らす雨にすらも嫉妬してしまいそうだ。
どうして私は、彼の妹の様な立場なのだろう?
もし違う出会い方をしていたら、関係を壊したくないと心を閉ざす事もせずに済んだだろうに。
いや……違う。
きっと私は、どんな出逢い方をしたとしても、大和兄さんへのこの気持ちは隠そうとしただろう。彼からもらえる親愛は、何物にも変えられぬ程大事なものだから。
シンと静まり返る住宅街の中に静かな雨音と、二人の足音だけが響いている。
雨音の中に、少しくらい素直になったら?って声が混じる気がした。
そんな事考えてしまうのはきっと、大和兄さんが当たり前の様に私の歩幅に合わせて歩いてくれているからろう。
どこまでも深く優しい彼の行動に、結局私は益々気持ちを押し殺した。
たとえ少しだろうと、気持ちを伝える事でこの関係を壊してしまいたくない。
その想いはもう、不動のものなのだ。
◇
あれから特に会話をする事無く、家まで着いた。
会話が無いとはいっても気不味い空気ではない。いつも通りの事だ。沈黙が苦しくない相手だという事も、とても嬉しい。
大和兄さんが傘立てに和傘を戻し、靴を脱ぐ。二人で室内へと足を向けると、彼がそっと私の背中へ触れてきた。
何年…… ぶりの、事だろうか。
「那緒、貴女は部屋で休んでいて下さい。無理をして、倒れてしまってはいけませんから。食事はもう作ってありますから、用意が済みましたら呼びますね」
「そんな、私も手伝います」
首を振って答えたが、背を押され部屋へと促された。
「今日は、無理はいけません。きちんと食事を取り、体を休めて下さい」
背中に感じる体温に私は、首肯する事しか出来なかった。
◇
自室に入り、濡れた制服から浴衣に着替える。洋服にしようかとも思ったが、久方ぶりに触れてくれた彼の体温に触発され、浴衣を着たい気分になった。お祭りなどで着る様なしっかりした物では無く、温泉地で着るラフな物だ。
十分程度で食事に呼ばれ、二人で夕食を済ませる。年季の入った大和兄さんの手料理はどれも美味しく、健康的なメニューばかりだ。彼ならばいつでも子育てだって出来そうだと思う。私には、無関係な話だが…… 。
食事に対しお礼を告げ、片付けを申し出ると予想通り断られた。
「片付けの後になりますが、お風呂場を洗い終わったら呼びますね。それまでは休んでいて下さい。雨に濡れたのですから、慎重に行動せねば」
彼はそう言うも、私は殆ど濡れていない。傘はほぼ私に向かって差してあって、濡れたのは大和兄さんの方ばかりだ。それを指摘したかったが、体調管理を優先し甘えたのは自分なのだと口を閉ざす。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
私は一礼し、自室へと戻った。
◇
——瞼が、ゆっくりと開いていく。
背中には布団の柔らかな感触があり、掛け布団がしっかり体にかかっている。どうやら私は寝てしまったみたいだ。
自室で本を読んでいてうたた寝でもしてしまったのだろう。それを、大和兄さんが布団へと運んでくれたのだろうか?だとしたら恥ずかしい事をしてしまったな…… 子供みたいで、居た堪れない。
そんな気持ちのまま壁掛け時計へ目をやると、とんでもない時間でなっていて驚いた。もうあと五分程度で日付が変わってしまう。
まだお風呂に入っていないのにどうしよう?
少し迷ったが、早起きするのは苦手なので、私は朝お風呂に入るよりは今入ってしまう事にした。
箪笥から着替えを出しそれら一式を持った私は、風呂場へと急いだ。
この家のお風呂は純和風の家屋に相応しく、檜作りの設えだ。小さめの旅館程度の広さがあり、しかも温泉掛け流し。大和兄さんの祖父が、リフォームする時気紛れに業者に頼んで地下を掘ってみたら湧いて出たという代物だ。有効活用しているのは我々だけで、お爺様がまだ使っていないのは勿体無いと思う。
持ってきた着替えやバスタオルを棚に置き、長い髪を無造作に結い上げてゴムでまとめる。浴衣の帯を落とし浴衣や下着も脱ぐと、それらを全て脱衣籠へとしまった。
引き戸を開けて中へ入る。
洗い場のスペースで、室内に置かれている低めの椅子へと腰をおろした。
「ふぅ…… 」と息を吐き、シャワーへと手を伸ばした時だ——私に、予期せぬ事が起こった。
「…… えっと、これはどう捉えたら?」
聞き知った声が耳に入ったのだ。
掠れていて、とても小さい。
珍しく少し上擦っている感じもある。
…… ?…… っ⁈
ギ…… ギギギッと、音をたてる錆びついた人形の様な動きで、私はゆっくり声のした方へと顔を向けた。
まさか、ありえない。
だって…… ここはお風呂場だ。
頭が必死に叫んでいる。
必死の叫び虚しく、口元を手で隠しながらこちらを向いて湯船に入っている大和兄さんと私はバッチリ目が合ってしまった。
「——っ!!!!!!」
声にならない叫びをあげ、私はその場で丸まり前面を隠した。
時間も時間だ、居るはずが無いという思い込みで全然大和兄さんがお風呂に入っている事に気が付かなかった。脱衣場の籠で気がつく事だって出来たはずなのに!
「ご、ごめんなさいっ」
茹で蛸並みの顔の赤さのまま、顔は向けずに私は必死に声を出した。ワザとだなんて思われたくない。こんな、恥ずかしい事、自分からするはずが無いのだから。
「なぜ謝るのです?悪い事をしていないのに、謝るのは感心出来ません」
「は、入っているとは思わなかったんですっ。すぐにでま…… 」
無理だ!立ったら見えるっ。
出られない、でもこのままココには居られない。
かと言って、大和兄さんに助けてもらいたくもない!
もう完全に四面楚歌の気分だった。
パニックになる頭の中は考えが纏まらず、答えが出せない。硬直状態の私を更に追い詰めたのは、困った事に大和兄さんだった。
「那緒、お湯に入って下さい。体を冷やしてはいけません」
大和兄さんはそう言い、私の腕を引っ張り上げた。
いつの間に近くに⁈
もう慌て過ぎて頭が真っ白になっている私では、彼がお風呂から出て、こちらに近づいていた事にすら気がつく事が出来なかった。
されるがまま、全裸の大和兄さんに腕を引かれ、湯船へと促される。
視界に映る水に濡れる男性的な背中に、心が騒つく。好きな人の肌を伝い落ちる雫をつい目で追ってしまい、私はゴクッと喉を鳴らしてしまった。
ろくな抵抗も出来ないまま、二人で湯船に入る。
離れて…… ならばまだ冷静になる余裕がミリ単位程度には得られただろうが、そうでは無かった。
どうしてこうなった!
その一言しか、私は考えられなくなった。
当然だろう、私の背後に全裸の想い人が居て、肩には額まで乗せてこられているのだから。二の腕を固定され、離れる事も出来ない。『完全に包囲された!』と、友達のアプリゲームで聞いた効果音が聴こえた気さえした。
「はぁ…… 」
大和兄さんの吐き出す息の意味がわからない。呆れて…… いるのだろうか?こんな、子供みたいな失敗を。
「日付…… は、変わりましたか?」
「え?」
問いの真意がよくわからない。なので仕方なく、私は言葉通りに捉えて首肯した。
私の反応に対し、「良かった…… 」と大和兄さんが零した瞬間、彼は私の首へ何かを当ててきた。
それがなんなのか、一瞬わからなかった。でも、その正体不明の感触が、ヌメりを帯びながら肌の上を滑った事で、それが舌だという事にやっと気が付いた。
「えっ⁈」
驚き、声が上がる。
抵抗し、体を動かす。すると二の腕を掴んでいた大和兄さんの手が離れ、私の事を背後から完全に抱きしめた。
「やっと、やっとだ…… 」
切なさを帯びた声に、私は抵抗する気持ちを削がれた。
こんな声…… 初めて聞いた。
「那緒…… 私はね、ずっと待っていたのですよ、この日を…… ずっつ、ずっとずっと」
私の頭に、大和兄さんが頬擦りをする。
「こ、この日を…… ?」
「免罪符を得られる日、ですからね」
クスクスと笑い、そう言う彼に少し違和感を感じた。
こんな彼…… 知らない。
でもそんな違和感は、私を抱き締める腕が離れ、両胸にそっと手が添えられた事で一気に私の中から消え去った。
何が起きているの⁈
「や、やまとにぃ…… ぁっ——」
羞恥に彼の腕を胸から引き剥がそうとして、声が出せなくなった。胸に添えてあっただけの手が意思を持ち、動き始めたからだ。大和兄さんの手にすっぽり収まる程度しか無い私の胸が、強く揉まれ、形を変える。
激しい動きに水飛沫がたち、水音が浴室内に響いた。
「そんな…… まって…… だめぇ」
初めての刺激が少し痛い。熟していない私の体では、その刺激は気持ちいというより、違和感の方が強い。こんな事をされる理由も分からず、私は拒否の声をあげた。
それでも大和兄さんは行為を止める事無く、胸を刺激し続けた。
「…… な、なんでこんなっ」
わからない。
どうしてこんな状況に?
必死に考えて、何となく察しがついてしまった。
普段大和兄さんは、彼女を作る事も合コンへ行ったりする事もせず、驚く程禁欲的な生活をしている。そんな彼の前に全裸の異性が現れれば、如何に自制的な彼でも理性が飛ぶ事だってあるだろう。
その事に気が付いた私に、悪魔が囁いた。
『——このまま、彼に捧げてしまえば?』
妹の様という立場では一生叶わぬ行為でも、今なら勢いのまま愛しい人に抱いてもらえるかもしれない。彼が抱いた事を後悔し忘れても、私がその事さえ覚えていれば…… 。
一生気持ちを伝えられなくとも、その事実さえあれば慰めにはなるかもしれない、と。
耳元に大和兄さんに荒い吐息が聞こえる。興奮していて、予想通り自身を制御出来ていないのだと確信出来た。
抵抗の声をあげられなくなってきた事に気がついたのか、彼の手の動きが大胆になってきた。揉んでいた手の動きが止み、指先が胸の尖に触れる。指がギュッと先を摘み、私は耽美な声をあげてしまった。
「んあぁぁっ!」
「…… 気持ちいいですか?」
掠れる声で訊かれても、答えなんか言えなかった。
恥ずかしいとかじゃない、もう頭が働かない。体が熱くなるが、温泉のせいでなのか、行為によるものなのか、わからない。
「あぁ…… 可愛いですね。こんなに乱れるなんて、思ってもいませんでした」
両の尖りから感じる快感に、この身が溶ける。お腹の奥がギュッとなり、私は経験の無い疼きを感じた。
「那緒、こちらを向いて…… 」
懇願する声に逆らえない。
私は言われるまま振り返り、大和兄さんの顔を見上げた。
高揚し、男性的な色香を放つ姿に心臓が激しく跳ねるのを感じる。
いつもの穏やかで慈しみ深い彼はどこにも居ない。でも、その事になぜかひどく安堵する自分がいる。私の中に常にあるタガが、外れていくみたいだ。
「僕を受け入れて下さい、那緒…… 」
そっと頰に大和兄さんが触れ、顔を近づけてくる。愛しい人の接近はとても魅惑的で、避ける事が出来ない。
「…… 一生大事にすると誓います。だから僕に、貴女の口付けを…… 」
蠱惑的な言葉に高揚し、私は瞼を閉じてしまった。欲望を吐露する為の囁きだとしても、やっぱり嬉しい。
それを合図に、重なる唇。初めてのそれはとても熱くて、でも少しぎこちないものだった。行為を知らぬ者同士のような触れ合いが、しばらく続く。
唇が啄まれ、軽く吸われる。
呼吸したさに私が少し口を開くと、それを待っていたみたいに大和兄さんが口腔へと入ってきた。甘い吐息を零しながら、舌が絡まり合う。
眦に涙が溜まり、スッと喜び落ちた。
「んぁ…… んっ」
呼吸が上手く出来ず苦しいのに、やめたくない。この甘さがもっと欲しいと、私は彼の胸へを縋り付いてしまう。
そんな私を大和兄さんは抱き締めると、唇を離しながら持ち上げた。
「このままでは、のぼせてしまいますね」
微笑みがいつものもので、私は一瞬強張ってしまった。本当にこのまま付け込むような真似をしていいの?と、我に返ったのだ。
「あ、あの…… 」
でもそんな考えがまた、簡単に消えていく。
湯船の縁に座らされ、胸の先を口に含まれてしまったからだ。丹念に優しく吸われ、カリッと甘噛みされる。舌先で尖りを転がされては、もう喘ぎ声を抑えることも出来なくなった。
「ああぁっ!ぃっ…… んんっ」
自分の声なのに、他人の喘ぎを聴かされているみたいに他人事に感じる。
(こんな声知らない…… )
やわやわと胸の膨らみにも触れられると、私は双方の脚をモジッと動かしてしまった。でも、自分が何故そうしたのかわからない。
大和兄さんには私の反応が理解出来たのか、うっすらと微笑み、足湯に入る様な状態にある私の膝へと手を置いた。力の入らぬ脚を、ゆっくり彼が開いていく。
「ぃ、いやぁ!」
彼がしようとしている事に対し、羞恥に声を上げて私は脚を閉じようとした。が、それは難無く阻まれてしまい、大和兄さんの前に秘部を晒してしまった。
体が震え、前を向けない。唇を噛み、辱めに堪える。
「怖いですか?…… 大丈夫、優しくしますよ」
「ほら…… 」と言いながら、大和兄さんが私の脚の間に入り込むと、そっと指で秘部の陰裂をなぞった。零れだす蜜が指に絡み、淫猥に光る。指が動くたびに蜜は増え、太ももまでもを伝い落ちた。
その様にうっとりとした顔を彼はすると、蜜の絡む指をくぷっと中へ浅く沈めてきた。同時に和毛を軽く撫で遊び、その指をずらし、くいっと肉芽を押し潰した。
「ひゃっぅ!」
変な声が出て、全身が跳ねる。その事で湯船の縁から落ちないかと怖くなったが、太めの縁のお陰でなんとか堪えた。
秘部へと顔が近づき、快楽よりも羞恥が増す。
「ダメ!ダメェェッ」
大和兄さんの頭を押して止めようとしたが、ぬるつく舌が肉芽を舐めた瞬間、背が仰け反り全身が快楽に染まった。入り込む指が深さを増し、より深く膣内に入り込み内部を犯す。刺激の強さに驚き、私は彼のお湯に濡れる髪をギュッと掴んでしまった。
それでも構わず、大和兄さんが貪る様に舌を絡ませ、自身の指が沈む陰裂をも舐めた。甘い吐息が秘部に触れ、心地よい快楽を生む。でもそれは膣内に与えられる違和感の方が強い刺激により簡単に身を潜める。
中で質量が増し、大和兄さんの指が増えたのがわかった。膣壁が少し引っ張られた事で軽い痛みを感じたが、それもすぐに散っていく。
『優しくする』という言葉通りに、じっくり時間をかけて中を解される。
更に質量を増して膣内を撫で上げる事が出来る様になると、大和兄さんはゆっくり指を抜き取った。抜ける瞬間感じる、切なさと甘い刺激。もっと欲しかったのにとでも言いたげに膣内がヒクつき、また蜜が溢れ出た。
「那緒…… 僕は、貴女を…… 」
思い詰めた顔で、大和兄さんが私の頰をそっと包んだ。
「一緒になりましょう?貴女だけを、僕は…… 」
熱に浮かされたみたいな声で、彼が囁く。
色々と限界の近い私では声が出ず、ただそっと腕に手を添える事しか出来なかった。
そんな私を大和兄さんは立たせ、浴室の壁側へと誘導する。両手を壁に添えて体を支える私の後ろに彼は立つと、私のお尻に何かを擦り付けてきた。
すぐにそれが、何なのかわかってしまった。
「やまと、にぃさ…… 」
ダメ…… と懇願する目を向けると、大和兄さんが困った顔をしてしまった。
「那緒?貴女は兄と…… こんな事をする様な、いけない子なんですか?」
耳元で囁かれ、ギュッとお尻を掴まれた。
「し、しなぃ…… ですぅ…… 」
小さい声でどうにか答え、首を軽く横へ振る。
「じゃぁ、もう僕を兄とは呼んではいけません。一緒になるなら、もっと相応しい呼び方があるでしょう?」
一緒に…… って、えっと、この先をするって事だよね?
で、でも、こんな事。
どうしよう、私は、どうしたら…… 。
大好きな人に求めらて、嬉しくない筈が無い。
でも、でも…… 。
お尻に怒張を押し付けられるたびに双丘が彼の先走りで濡れ、身が震える。
「あぁぁっ」
「…… 那緒、愛していますよ。だから…… 貴女を貰いますね」
言うと同時に、大和兄さんの怒張が私の陰裂に触れ、蜜をまといながらゆっくり挿入されてきた。膣壁がギチギチ音をたて無理矢理拡がっていく様な感覚が、下腹部を占有する。
「愛してます、心から貴女だけを」
何度もうわ言の様に、あり得ない言葉を大和兄さんが口にする。
何故そんな事まで言ってくれるの?
「ひぅ…… ぃた…… んんっ!」
破瓜の痛みに体が硬くなり、呼吸が上手く出来ない。
知識では知っていても、まさかこんなに早く自分が体験してしまうとは思っていなかったこの身では、いくら捧げようと覚悟しようとも簡単に耐えられそうなものでは無かった。
「はぁはぁ…… はっ… は… 」
「な…… 那緒、息を止めてはいけません。もう少しですから、力を抜いて」
なだめる様に、大和兄さんが私の肌を優しく撫でた。子供をあやすような動きが、この空間には合わず、背徳的な行為に思える。
「那緒…… あまり、しめないで」
辛そうに声を発し、大和兄さんが私の後頭部へ額を押し当てた。
何かを耐えるようにその額を擦り付け、息を吐き出しす。
動きたそうに中で怒張がヒクつき、少し…… また少しとゆっくり入ってくる。
浅い呼吸を繰り返しながら私は、必至に挿入の違和感に耐えた。痛みは、幸いもう余り無い。峠は越えたのだろうか。
最奥を触れられる様な感じがして、ビクッと体が動いた。指ではそこまで触れられてはおらず、知らぬ刺激に膣壁がギュッと彼を抱きとめる。
「ぁ…… 」と大和兄さんが甘い声を零す。
震える手で背中をすっと撫でられ、お尻を軽く揉まれた。その愛撫にうっとりとした気持ちになる。誘発されるかの様に私まで甘い吐息をもらすと、大和兄さんが私を気遣いながら快楽を欲し始めた。
ゆっくりとギリギリまで引き抜き、また押し込める。何度も何度も、その身を私へ刻み付けるように挿入される。
「ぁ…… んあぁ…… っんん」
最奥に、起立する先端がキスでもするかの様に当たるたびに、私の嬌声が室内に響いた。お湯がバシャッと脚にあたり、こんな場所で初体験とは淫乱だな…… と羞恥を叩きつけてくるみたいだ。
狭隘な中は彼を掴んで離さず、もっとしてと催促しているみたいだった。
視界の端に大和兄さんの恍惚とした表情が見え、更に膣内がギュッと収斂する。どこまでも献身的だった彼の乱れる姿にゾクッと体が震えた。
「く…… 」
彼が唇を一瞬噛み吐息を吐き出すと、動きが早さを増し、肌のぶつかる音が大きくなった。
心の体も快感に支配され、享楽的に腰が動く。自らの動きのせいで快楽は更に増し、劣情にふけってしまう。
「那緒、那緒…… っ」
名前を呼ばれただけで心地いい。
「や、大和にぃ——」
兄さんと続けそうになった事に気がついた彼が、背後から私の肩を甘噛みしてきた。
「違いますよね?…… 名前だけで、呼ばないと」
噛んだ箇所をペロッと舐め、また挿入を楽しむ。
緩急をつけて繰り返される動きにいたぶられ続け、私の体がもう限界に達しそうだ。噂にきく絶頂というものが近いの?と思うと不安になる。
初めてでは経験出来ないと聞いていたのに何故?私の体は、そんなに淫猥なの?
「あぁぁ!もう、むりぃっ…… 」
体を支える手に力が入り、壁を勢い余って引っ掻いてしまいそうだ。そんな私の手をそっと掴み、爪を痛めそうになるのをやめさせてくれた。
「大丈夫ですよ、流れに任せて下さい、那緒」
熱い吐息交じりの声で大和兄さんが耳元に囁き、耳の中を舌で愛撫された。
「あぁ!んぅっ!」
耳朶を舐め、吸われ、噛まれる。膣内に入る怒張は淫楽を楽しみ続け、とうとう私を絶頂へと完全に押し上げた。
「んんんっ!」
白い喉元だけでなく、背をも反らせ全身が震える。頭の中が真っ白になり、奥からは蜜が溢れ出て太ももを伝い落ちた。ビクッビクッと何度も体が痙攣し、徐々に体から力が抜けていく。
「ぅぁっ…… 」
大和兄さんが短い声をあげ体を強張らせた。膣内で享楽に耽っていた怒張が二、三回中でヒクついたと思ったら、私は最奥に熱いモノを注がれるのを感じた。
「あぁぁ!ダメっ…… そんな…… 」
そこまでされるなんてと思うのに、本能的にその熱い白濁としたモノを貰えた事に喜び、震えるてしまった。
「やま…… とさ…… ——」
ブルッと一瞬体が震えた後、私は快楽の余韻とのぼせた事が原因で、意識から手を離してしまった。
「…… 那緒?」
壁に手をついて体を支えていた彼女の体から力が抜ける。自身の突起を彼女の秘部からズルッと抜き、それにつく破瓜の血に恍惚としながらもお湯へと沈みそうになる那緒を支え、抱きとめた。気を失っている事をすぐに悟り、私は急いで彼女を横抱きにし持ち上げ、風呂場から自室へと急いだ。
廊下が濡れるのも構わず全裸のままだったが部屋へと急ぐ。
襖を足で無理やり開け中に入ると、畳の上に敷いてあった布団に那緒を寝かせた。新しい布団を出したり、体を拭いたり、着替えたり——。それらの作業をさっと済ませ、自室へと戻る。
私は一息つこうと那緒の側に腰掛けた。
そっと頰に触れると、心が満たされる。
「やっと、私のモノになったのですね…… 」
嬉しさからつい、囁いてしまうのを我慢出来ない。
「愛してます、私を受け入れてくれて…… 本当に嬉しいですよ」
那緒の眠る布団に手を入れて、彼女の左腕を中から引き出す。左手を持ち上げ、私はその手の甲へと口付けを落とした。
「証を、差し上げますね」
眠ってしまっている事は残念だが、明日の朝彼女がこれを見た時の反応を思うと、自然と口元が緩んでしまう。喜ぶ顔が楽しみだ。
手の中にあるプラチナで出来た指輪を、那緒の薬指へと通す。私の者である証をつけた指に心がとても満たされ、人生の中で初めての安息を得た気がした。
「誰にも渡す気などありませんでしたが、本当に手に入るなんて…… 」
指輪にまで口付け、ギュッと手を握った。
「では、私も休まないと」
彼女の眠る布団へ私も潜り込み、背後から那緒を抱きしめる。ずっと夢見ていた状況に私は、幸せな夢を見られる確信を持ちながら眠りの底へと落ちていった。
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