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サイドストーリー
アイスクリーム
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気温は三十五度近く。暑い気温にこの歳になっても順応出来ていない僕は、浴衣姿で縁側につった簾のおかげで出来た影の中に倒れていた。
「どうして、日本の夏はもこうも暑いんでしょうね…… 」
僕の隣に座り、団扇で僕を扇いでくれている那緒に、呟くように愚痴を言う。
「今日はまだ風があるぶんいいじゃないですか」
風鈴の涼しげな音と那緒の声に少し和むも、暑さを和らげる程の効果は無く、拗ねた顔で「ここまで暑いと那緒にすら触れないじゃないですか」と文句を言った。
「私は大和さんがそこまでダレてる姿が見られただけで、この夏にも充分価値はあると思いますよ」
ニコニコ笑いながら那緒が言う。ちょっと悔しくなるも、彼女が幸せならそれもありですねと、割り切ってみた。
「あっ」と那緒が声をあげ、扇ぐ手が止まる。
「どうしました?」
うつ伏せになっていた怠い体を仰向けに回転させ、近くに那緒が置いてくれていた大きな氷を大量にぶちまけた桶に入っているタオルを取り、ほぼ絞らずに目の上にのせた。水分が沢山顔にかかるが、暑いのでとても気持ちがいい。
「近所に新しいソフトクリームのお店が出来たの、知ってます?」
両手を合わせながら那緒が教えてくれた。そういえば、この間友達も同じような話をしてましたね。
「ええ、存在だけなら…… 」
搾り出すような声で答えながら、手の上に置いたタオルを除け、上半身を起こす。那緒がお店の話を持ち出したという事は、そこに行きたいということだ。
彼女の事はよくわかってる。しかも僕の為にしてくれた提案である事も安易に想像がつくので、少しつらいが那緒の希望は無碍には出来ない。
「行きたいんですもんね」
ちょっと無理にではあるも、笑顔を作りながら立ち上がると、那緒の顔がパァと明るくなり嬉しそうに微笑んだ。
ソフトクリーム屋でなければ行かなかったという本心はぐっと飲み込み、立ち上がって浴衣を調える。
着替えた方がいいでしょうかねぇ。
ちょっと悩むも、このまま行こうと決め、財布を取りに自分の部屋へ。財布を手に玄関へ向うと、僕と同じく浴衣姿の那緒が嬉しそうに待ってた。
玄関を開け、一緒に揃って外に出ると、那緒が日傘を差して僕の上に影を作ってくれる。その日傘を受け取り、傘に一緒に入る。初めて一緒に雨傘を差し、雨の中を歩いた日を思い出して…… ちょっと幸せな気分になった。
「こうも暑いのに、子供はどうして外で遊べるんでしょうか」
蝉の鳴き声を聞きつつ、那緒に訊ねる。
「私達は、いつも庭か家の中ですものね」
「…… 限られた世界は嫌ですか?」
少し不安になる。
閉じ込める様に生活させている事に対し、全く罪悪感が無い程僕は心無い人間じゃ無い。
「いいえ、大和さんが居るだけで幸せですよ」
肌をよせては流石に暑いと察してくれたのか、袖だけを掴み、那緒が僕に笑いかける。些細な心遣いと彼女の可愛い微笑みに、心の中にほんわかとした温かいものが込み上げてきた。
日傘を少し倒し、周囲の視線を隠しながら那緒の頬に軽く口付けをおとす。すると彼女の顔が桜色に染まり、頬を押えながら恥ずかしそうに微笑んでくれた。
◇
目的のお店の前に着くと、暑さのせいか行列が出来ていた。
「ここで待っていて下さい。私が買ってきますから」
僕を木の下にできている日陰の場所へ誘導しながら言われたが、さすがに悪いと断る。
「せっかくなので一緒に並びましょう?混んでる中一人で並ぶのもつまらないでしょうし」
せいぜい待っても十分か十五分くらいだろう。アイスを片手に歩く人を見ながらそう思っていると、那緒が鞄の中からペットボトルに入ったお茶を出してくれた。
「水分取って下さいね、倒れたら大変」
「ありがとう」
素直に受け取ると、今まで凍らせてあったのか、中が半分以上氷になっていた。
気が利くというか…… ここまできたら、お母さんみたいですね。そう思うも言わないでおく。怒られるか拗ねてしまうのが目に見えているから。でも、そんな顔も見たいと思う僕はちょっと意地悪でしょうか。
アイスを口に運びながら、先頭に立っていた女の人が僕の横を歩いて行く。…… その姿に目をとられていると、少し那緒が拗ねた顔をした。
「違いますよ、彼女を見ていたんじゃないです。アイスは冷たくて気持ちいいだろうなと思っていただけですから」
那緒の頭を撫でながら、嘘をつく。
ソフトクリームを丹念に舐めあげる那緒の姿を想像して、ちょっとゾクッとしたもの感じ浸っていたのだが、さすがに人前じゃ言えない。
アイスクリームよりは、出来ればソフトクリームがいい。溶けて落ちていくものを、下から舐めあげたり、小さく可愛いおちょぼ口を大きく開けてかぶりつく。コーンの部分をカリッと音をたてながら、食べる仕草もきっと可愛いだろう…… 。
暑さで茹ってきている頭でそんな事を考えながら並んでいると、やっと僕達の順番が来た。
「ご注文をどうぞ」
暑い中だというのに、店員の声は明るい。
素晴らしいサービス精神に感服し、心の中で褒めながらメニューを見ていると那緒はもう既に選んでいたらしく、ソフトクリームのバニラを注文した。
「同じものを」
選ぶもの面倒で、そう伝える。
「かしこまりました!」
元気に返事し、店員がコーンにソフトクリームを盛り付けていく。
「お待たせしましたー」
店員が那緒にソフトクリームを一つ渡し、僕が受け取る。
もう一つも彼女が受け取った時だ——
「スプーンつけて下さい」と那緒の声。
——なっ⁈
思わず叫んでしまいそうになり口を開けだが、自制心が勝ち、口に手をあてて声を押えた。
何故⁈
そんなもの必要ないじゃないですか!
那緒が舐めて、口の周りを白く汚し、滴るクリームの卑猥な光景を楽しみにここまで暑いのを我慢して歩いてきたというのに!
——とは、大人である僕は叫べるはずも、人前で奥さんに言えるはずもなく…… 。
「美味しいですね」
無邪気に笑いながら、スプーンでソフトクリームを口に運ぶ那緒を恨めしげに見詰める。人の楽しみを取っておいて、その笑顔は許せませんねぇ。
「そうですね」
笑みで返すも、心の中はドロドロだ。
エアコンは嫌いですが、これは帰ったらすぐに空調のきいた部屋でお仕置きですね、と考えながら買ったソフトクリームを口に運ぶ。暑さで溶け始めているクリームが口の端から、少し垂れてしまった。
それが目に入った那緒が「垂れてますよ」と言いながら手を伸ばし、指で拭う。汚れた指を自分の口に運び、ペロッと舐め取った。
那緒の舌の動きが卑猥で、背中にゾクッとしたものが走る。
……これが見られただけでも、ここまで来た甲斐はあったかもしれません。
そう思う事にする。
だって、僕は大人ですから。
でも、帰ったらお仕置きだけは、しないといけませんね。
【終わり】
「どうして、日本の夏はもこうも暑いんでしょうね…… 」
僕の隣に座り、団扇で僕を扇いでくれている那緒に、呟くように愚痴を言う。
「今日はまだ風があるぶんいいじゃないですか」
風鈴の涼しげな音と那緒の声に少し和むも、暑さを和らげる程の効果は無く、拗ねた顔で「ここまで暑いと那緒にすら触れないじゃないですか」と文句を言った。
「私は大和さんがそこまでダレてる姿が見られただけで、この夏にも充分価値はあると思いますよ」
ニコニコ笑いながら那緒が言う。ちょっと悔しくなるも、彼女が幸せならそれもありですねと、割り切ってみた。
「あっ」と那緒が声をあげ、扇ぐ手が止まる。
「どうしました?」
うつ伏せになっていた怠い体を仰向けに回転させ、近くに那緒が置いてくれていた大きな氷を大量にぶちまけた桶に入っているタオルを取り、ほぼ絞らずに目の上にのせた。水分が沢山顔にかかるが、暑いのでとても気持ちがいい。
「近所に新しいソフトクリームのお店が出来たの、知ってます?」
両手を合わせながら那緒が教えてくれた。そういえば、この間友達も同じような話をしてましたね。
「ええ、存在だけなら…… 」
搾り出すような声で答えながら、手の上に置いたタオルを除け、上半身を起こす。那緒がお店の話を持ち出したという事は、そこに行きたいということだ。
彼女の事はよくわかってる。しかも僕の為にしてくれた提案である事も安易に想像がつくので、少しつらいが那緒の希望は無碍には出来ない。
「行きたいんですもんね」
ちょっと無理にではあるも、笑顔を作りながら立ち上がると、那緒の顔がパァと明るくなり嬉しそうに微笑んだ。
ソフトクリーム屋でなければ行かなかったという本心はぐっと飲み込み、立ち上がって浴衣を調える。
着替えた方がいいでしょうかねぇ。
ちょっと悩むも、このまま行こうと決め、財布を取りに自分の部屋へ。財布を手に玄関へ向うと、僕と同じく浴衣姿の那緒が嬉しそうに待ってた。
玄関を開け、一緒に揃って外に出ると、那緒が日傘を差して僕の上に影を作ってくれる。その日傘を受け取り、傘に一緒に入る。初めて一緒に雨傘を差し、雨の中を歩いた日を思い出して…… ちょっと幸せな気分になった。
「こうも暑いのに、子供はどうして外で遊べるんでしょうか」
蝉の鳴き声を聞きつつ、那緒に訊ねる。
「私達は、いつも庭か家の中ですものね」
「…… 限られた世界は嫌ですか?」
少し不安になる。
閉じ込める様に生活させている事に対し、全く罪悪感が無い程僕は心無い人間じゃ無い。
「いいえ、大和さんが居るだけで幸せですよ」
肌をよせては流石に暑いと察してくれたのか、袖だけを掴み、那緒が僕に笑いかける。些細な心遣いと彼女の可愛い微笑みに、心の中にほんわかとした温かいものが込み上げてきた。
日傘を少し倒し、周囲の視線を隠しながら那緒の頬に軽く口付けをおとす。すると彼女の顔が桜色に染まり、頬を押えながら恥ずかしそうに微笑んでくれた。
◇
目的のお店の前に着くと、暑さのせいか行列が出来ていた。
「ここで待っていて下さい。私が買ってきますから」
僕を木の下にできている日陰の場所へ誘導しながら言われたが、さすがに悪いと断る。
「せっかくなので一緒に並びましょう?混んでる中一人で並ぶのもつまらないでしょうし」
せいぜい待っても十分か十五分くらいだろう。アイスを片手に歩く人を見ながらそう思っていると、那緒が鞄の中からペットボトルに入ったお茶を出してくれた。
「水分取って下さいね、倒れたら大変」
「ありがとう」
素直に受け取ると、今まで凍らせてあったのか、中が半分以上氷になっていた。
気が利くというか…… ここまできたら、お母さんみたいですね。そう思うも言わないでおく。怒られるか拗ねてしまうのが目に見えているから。でも、そんな顔も見たいと思う僕はちょっと意地悪でしょうか。
アイスを口に運びながら、先頭に立っていた女の人が僕の横を歩いて行く。…… その姿に目をとられていると、少し那緒が拗ねた顔をした。
「違いますよ、彼女を見ていたんじゃないです。アイスは冷たくて気持ちいいだろうなと思っていただけですから」
那緒の頭を撫でながら、嘘をつく。
ソフトクリームを丹念に舐めあげる那緒の姿を想像して、ちょっとゾクッとしたもの感じ浸っていたのだが、さすがに人前じゃ言えない。
アイスクリームよりは、出来ればソフトクリームがいい。溶けて落ちていくものを、下から舐めあげたり、小さく可愛いおちょぼ口を大きく開けてかぶりつく。コーンの部分をカリッと音をたてながら、食べる仕草もきっと可愛いだろう…… 。
暑さで茹ってきている頭でそんな事を考えながら並んでいると、やっと僕達の順番が来た。
「ご注文をどうぞ」
暑い中だというのに、店員の声は明るい。
素晴らしいサービス精神に感服し、心の中で褒めながらメニューを見ていると那緒はもう既に選んでいたらしく、ソフトクリームのバニラを注文した。
「同じものを」
選ぶもの面倒で、そう伝える。
「かしこまりました!」
元気に返事し、店員がコーンにソフトクリームを盛り付けていく。
「お待たせしましたー」
店員が那緒にソフトクリームを一つ渡し、僕が受け取る。
もう一つも彼女が受け取った時だ——
「スプーンつけて下さい」と那緒の声。
——なっ⁈
思わず叫んでしまいそうになり口を開けだが、自制心が勝ち、口に手をあてて声を押えた。
何故⁈
そんなもの必要ないじゃないですか!
那緒が舐めて、口の周りを白く汚し、滴るクリームの卑猥な光景を楽しみにここまで暑いのを我慢して歩いてきたというのに!
——とは、大人である僕は叫べるはずも、人前で奥さんに言えるはずもなく…… 。
「美味しいですね」
無邪気に笑いながら、スプーンでソフトクリームを口に運ぶ那緒を恨めしげに見詰める。人の楽しみを取っておいて、その笑顔は許せませんねぇ。
「そうですね」
笑みで返すも、心の中はドロドロだ。
エアコンは嫌いですが、これは帰ったらすぐに空調のきいた部屋でお仕置きですね、と考えながら買ったソフトクリームを口に運ぶ。暑さで溶け始めているクリームが口の端から、少し垂れてしまった。
それが目に入った那緒が「垂れてますよ」と言いながら手を伸ばし、指で拭う。汚れた指を自分の口に運び、ペロッと舐め取った。
那緒の舌の動きが卑猥で、背中にゾクッとしたものが走る。
……これが見られただけでも、ここまで来た甲斐はあったかもしれません。
そう思う事にする。
だって、僕は大人ですから。
でも、帰ったらお仕置きだけは、しないといけませんね。
【終わり】
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