ヤンデレ公爵様は死に戻り令嬢に愛されたい

月咲やまな

文字の大きさ
50 / 88
【第四章】

【第三話】初めてのお仕事(カーネ・談)

しおりを挟む
 シスさんとの食事を終え、食器を洗ったり片付けといった作業を済ませると、そろそろ就業開始の時間である八時半が近くなってきた。掃除道具が仕舞っている場所も覚えているし、きっと大丈夫…… だよね?と考え始めると、つい壁掛け時計を見上げながらそわそわし始めてしまう。
「そろそろ仕事を始めますか?」
 ソファーに座って本を読んでいたシスさんに訊かれ、「はい」と返す。掃除を『仕事』としてやるのは初めての経験だからちょっと緊張してきた。
「じゃあ僕は一階にある事務室で書類作業をしているので、何かわからない事や疑問点などがありましたらそちらまで来てもらえますか?」
「わかりました」
「そうそう。折を見て、お茶を淹れてもらってもいいですか?一階にあるキッチンに茶葉が多数あるので試してみたいフレーバーの缶を持って来て下さい。事務室に置いてあるティーセットを使って、淹れ方からお教えします」
「ありがとうございます。じゃあ、きりの良いタイミングで伺いますね」
「お願いします。あと、貴女の休憩時間には間に合うように料理の基礎について書かれた本を探しておきます。確か、書棚の中に僕が昔読んでいたものがあった気がするので」
「色々すみません。感謝します」
 至れり尽くせりで申し訳ない気持ちになってくる。
「早速、夜ご飯は一緒に作ってみましょうか。実際にやって覚えるのが一番手っ取り早いですからね」
「わかりました。色々とお気遣いありがとうございます。よろしくお願いします」と答えて深く頷く。家族が碌でもない人達ばかりだったからか、『こんなに親切な人が世の中には居るのか』と不思議な気分になってきた。


       ◇


 シスさんと共に一階に降りると、彼はすぐに事務室に入って行った。私は早速使いそうな掃除道具を引っ張り出し、木製のバケツに水を一杯入れて床に敷いた布の上にそれを置く。私が暮らしていた旧邸は嫌がらせで水が止まっていたから水は外の井戸から運んで来ないといけなかったが、このシェアハウスは水道が完備されているおかげでとても楽だ。

(確か、カルム様が考案して街中に配備されたんだよね。…… 五百年以上も前の設備が今尚使えるだなんて、本物の聖女様はすごいや)

 無知で不出来な自分との差があまりにもあり過ぎて、やっぱり私は『聖女』なんて重荷は背負えないなと改めて思った。


「さて、まずは共有スペースから始めようかな」
 シスさんは魔法で一気にやってしまっても良いと言っていたけど、『仕事』でそれをやる気は流石に無い。…… どうしても取れない汚れがあったらその時だけは使うかもだけど…… 。
 だが、何よりもまずはこの爪のどうにかせねば。室内の中にあったペン立てからハサミを取り出し、出来うる範囲で短く切っていく。この体の爪はとても綺麗ではあるが掃除をするにはかなり不向きなものだ。構わず作業をしたら折れるか、最悪爪が剥がれかねないくらいに長いので、邪魔にならない様にバッサリ切っていく。爪磨きがあればもっときちんと整えられるのだが…… 。後でシスさんに持っていないか訊いてみよう。

 腕捲りをし、「よし、始めよう」と呟く。
『頑張ってネ、カカ様』
 大きな革製のソファーで寝転ぶララが応援してくれた。「ありがとう」と返し、窓を開けて上の方から早速掃除を始める。掃除は苦手だとシスさんは言っていたけど、思ったよりも室内は汚れていないからすぐに終わってしまいそうだ。
 窓拭き、棚の拭き掃除、固く絞った布で革製のソファーを拭いたりとしているうちに疲労感がじわじわと体に溜まっていく。これも絶対に体力不足のせいだ。これは一度休憩するべきだろう。体力がつくまでの間は休み休みやっていくしかないだろう。


 共有のキッチンスペースに行く。三階にあるものとは違い、一部屋丸ごと調理場になっていてゆったりと調理が出来そうだが、あまり使った形跡が無い。まだ此処の住人とは一人も会えていないし、自分達で料理をする人達ではないのかもしれない。
「宝の持ち腐れだね」
『そうねェ、確かに勿体無いワ』
 いつの間にやらついて来ていたララも同意してくれる。だが私もまだ料理が出来ない側の人間なので、それ以外には何も言えなかった。

 室内をぐるりと見渡す。様々な料理器具が壁に掛けられた状態で並ぶ中、硝子を使った棚の中に紅茶の缶がずらりと収められているのが見えた。扉を開け、缶を手に取ってフレーバーを確認していく。…… 残念ながらどの文字を読んでもどんな味なのかさっぱりわからない。ティアンに頼まれて、手順も知らずに淹れさせられた挙句に『美味しくない!』と顔にかけられた事はあっても、きちんと飲んだ事は無いのだから当然か。
『迷ってるわネェ。無難にアップルとかはどうかしラ?』
「アップルか。いいね」と返しはしたものの、手に取ったままになっている藤の花のフレーバーティーが気になってしまう。藤の花は大陸の東部である此処・セレネ王国では比較的ポピュラーな花らしいのだが、残念ながら私は実物を見た事がない。小さな花が沢山連なっていて綺麗らしいが、一体どんな香りがするんだろうか。

『気になるなラ、どっちも持って行ったラ?』

「…… そっか。そうだね、そうしよう」
 藤の花とアップルの缶を二つ持って、シスさんが仕事をする事務室に足を向ける。飢えに耐える必要もなく、仕事があるおかげで先行きの心配もせずに済み、意地悪をされるかもと悪意ある視線から逃げる必要も無いおかげか、自分の足取りがとても軽く感じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...