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本編
【第九話】結果のみえた勝負の始まり
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カイルの神殿へロシェル達が帰還した翌日。
パンとスープ、果物にサラダなどで軽く朝ご飯を済ませた彼女らは揃って、滞在者・サキュロスと会うために応接室へとやって来た。客人の姿はまだ無く、室内ではエレーナがお茶の用意をしている。
ロシェル、レイナード、アル、シュウ、カイルとイレイラらがソファーに座り、彼が来るのを待っていた。
「まだ寝ているのかな、マイペースな奴だねぇホント」
ゆったりとソファーに腰掛け、膝に妻のイレイラを座らせているカイルが、彼女の黒髪で遊びながらボヤいたが『君が言っていいセリフじゃない』と、レイナード以外の者達は思っていた。
永劫の時を生きるせいか、時間感覚に関して神子達は驚くほど周囲と合わない。カイルのスケジュールはイレイラが管理しているので随分改善されたが、妻を娶る前までは散々だった。神官が言ったくらいで聞くような者もいないので、どこの神子に仕える神官達も主人に予定を守らせる事には苦戦している。
「セナが迎えに行っていますのでもう少しではないかと。サキュロス様は、セナの言葉は比較的聞いてくれますので」
紅茶を各人の前へ出すと、エレーナがカイルへと告げた。
それを聞き「ならいいけど」と答えるカイル。イレイラの頭に顔を寄せ、ちょっと眠たそうに瞼を閉じた。
「紅茶頂くわね、エレーナ」
「あぁ、そうだな」
ロシェルとレイナードが揃って紅茶のカップを手に取り、一緒にそれを飲む。
ふっとお互い目が合い、いつもの癖で彼は微笑みかけたのだが、ロシェルの方は少しぎこちない笑みになってしまう。昨日知った件を、一晩経ったくらいでは割り切る事が出来ていなかった。
「美味しいわね、これはラズベリーかしら」
「よくお分かりになりましたね。お口に合ったようで嬉しいですわ」
ロシェル達に続き紅茶へ口をつけたイレイラが褒めると、エレーナが年相応に柔らかく笑った。
「ケーキやクッキーなどもご用意しましたので、後程お持ちいたしますわね」
エレーナがそう言ったと同時に、応接室の扉がノックされる音が聞こえた。
カイルが扉に向かい「どうぞ」と声をかける。
「失礼いたします。遅くなりましたが、サキュロス様をお連れしました」
セナが引きつった笑みを顔に浮かべながら、応接室へと入って来たのだが……夜着姿の神子・サキュロスの首根っこを捕まえて引きずりながらだった。
「何度も起こしましたが起きようとしませんので、無理に連れて来ました。それでもまだ寝ているので、不敬罪には当たりませんよね?カイル様」
そう問うセナに向かい、カイルが「問題無い、僕が許す」と答える。
「もうさ、面倒だからこのまま奴の神殿へ送り返しちゃわない?森の一件はバルドニスの国王か、サキュロスの神官達と話した方が絶対的確に対処してくれるって」
それを聞き、セナとエレーナは『確かに!』と思ったが、それを口にしてしまうと本気でカイルは『サキュロスを送り返せ』と言い出すので言葉にはしなかった。このまま送り返しても、目覚めた途端また来るに決まってる。
「カイル様、流石にそれは駄目です。話を聞いてから、後腐れなくお帰り願いましょう」
レイナードがそう言うと、カイルは渋々頷いた。
「じゃあ、起こすか」
グシャと前髪をかくと、カイルがふうと息を吐いた。
淡いピンク色をしたワンピース姿のイレイラが彼の膝から降りる。妻の体温が離れる事に名残惜しさを感じつつカイルは立ち上がると、床で死人のように寝たままになっているサキュロスの側へと近寄った。
「サキュロス起きろ。朝だぞ!」
言うと同時に彼の頭へ魔力を込めた蹴りをカイルがいれる。キツイ一撃が後頭部へと入ったサキュロスは、「ぶへぇ!」と情けない声をあげて目を覚ました。
「っくあぁぁぁ!痛ったいなぁ‼︎私の頭に何をするんだっ」
首がもげ飛んでもおかしくない蹴りを受けた頭を両手で押さえながら、サキュロスが叫んだ。
「起きないお前が悪い。いっそ永眠してればよかったのに」
痛みに悶え、床に這いつくばるサキュロスに向かい、カイルが酷く冷めた視線を投げつける。神子の来訪は良い事が起きた試しがない為、容赦がなかった。例外は、昔から仲の良いハクとウィルだけだ。
「はじめまして。そして、おはようございますサキュロス様。カイルの妻、イレイラと申します。こちらは娘のロシェルです」
夫が頭を蹴った事をサラッと流しながらイレイラが恭しく頭を下げると、母に続きロシェルもソファーから立ち上がり頭を下げた。
「あぁ、初めてだっけ。噂はあちこちから聞いてるよ、イレイラ。でも猫じゃないねぇ?カイルは猫と異種族婚したって話だったけど。娘が出来たって聞いた時は、猫とやっちゃったかーってビックリしたもんさ」
イレイラは人として転生する前は黒猫だった為、サキュロスはその時の事を言っているのだろう。
「もうそれ、数十年も前の情報だよ」
「数十年の誤差なんて、数秒みたいなもんじゃん」
呆れるカイルへ向かい、サキュロスは神経質な顔立ちで拗ねてみせた。何度見てもやっぱり似合わない。
「ところでさ、森に来た子に逢いたくて来たんだけど……」
サキュロスはそう言いながら周囲を見渡し、目的の存在を見つけた途端「居た!逢いたかったよ!」と叫んだ。
大声に驚き、ロシェルとレイナード、シュウ、アルの二人と二匹が体をビクッと震わせた。
「今回来たのは森の一件に関しての苦情じゃないの?それなら責任を持ってこちらで対処するから、直接彼等に文句を言うのはやめて欲しいんだけど」
「違うよーカイル。苦情を言いになんてわざわざ来ないさ。そういった事は私の神官達が対処してくれる。私が出しゃばると拗れるからって迷惑がられるからねー」
安易に想像でき、セナとエレーナがうんうんと頷いた。
床から立ち上がり、サキュロスがニマァと笑いながらロシェル達へとゆっくり近づく。彼女らの前に立つと、胸の前で祈るように手を組み、つり目がちの瞳を輝かせた。
「一目惚れしたんだ!森の件の詫びとして、コレ私に頂戴よ!カイルゥ」
「はぁぁぁ⁈」
サキュロスの言葉に、一同が反感丸出しの大声をあげ部屋中に響いた。
「ウチの子は物じゃありません!巫山戯ないで‼︎」
真っ先に文句を言ったのは、イレイラだった。
即座に娘を庇い、ギュッと抱き締める。レイナードもロシェルに寄り添い、サキュロスの視界から守る様に遮った。
「帰れ、サキュロス。娘をお前に嫁がせる気など無い」
カイルが睨みつけ、問答無用で強制送還の魔法を発動させ始めた。
「え⁈いや!ま、待って待って待って!違う!カイルの娘とか、違うって!んな怖い事流石に言わないって!一生業火に焼かれ続ける呪いとかしれっとかけてきそうじゃん!死なないからって痛くない訳じゃないんだから止めてよね!」
「よくわかってるじゃないか!死ね‼︎」
敵意剥き出しのカイルが大声で叫んだ。
「帰すだけじゃないのかよ!ホントに違うってば!ストォォップッ!」
両手を上げて、サキュロスが降参のポーズをする。
羊の角がよく似合う、悪魔を彷彿させる禍々しい顔で魔法発動寸前のカイルが「じゃあ……まさか……」と言いながら、チラッと視線をレイナードへとやった。状況が読め、カイルが手の中の魔法を握り潰したが、表情はとても渋いものだった。
「そう、彼の方だよ!」
神経質そうなサキュロスの顔が、トロンと蕩ける。
「は⁈駄目よ!」
『阿呆言うな!』
ロシェルとアルが同時に声をあげ、レイナードに抱きついた。キッと威嚇した眼差しをサキュロスに対し、一人と一匹が向ける。
レイナードは困惑顔で、何が起きているのかよくわからないといった感じだ。
「……何なの君達は。彼とはどういう関係?」
不機嫌そうにサキュロスが顔を歪める。惚れた相手に抱きつく存在に不快感が隠せない。
『儂はシドの契約者じゃ』
「俺はアルの主人で、ロシェルの使い魔だ」
「私はシドの主人です。黒竜様は私の、もう一匹いる使い魔のお友達よ」
アル、レイナード、ロシェルが順番に答える。シュウはそれを聞き、その通りだと言いたげに頷いた。
「何その三角関係!意味わかんないんだけど」
サキュロスが呆れた顔をした。
「わからなくてもわかれ。そして帰れ」
「はーなーしーをー聞いて!」
睨みつけるままのカイルに対し、サキュロスが宥めるように手を振る。
「私が一目惚れしたのは……えっと、シド?だっけ。彼だよ!黒竜に乗って魔物を蹂躙する姿に、一瞬で恋に落ちたんだよねー」
そう言い、線の細い体を身悶えさせるサキュロス。
「俺は男です。……サキュロス様も男性では?」
「え、シドってそんな些末事気にするタイプ?」
「……同性愛に偏見はありませんが、自分は異性愛者なので、そのような話をされても無理です」
そう言うレイナードに横から抱きついているロシェルの手に力が入る。口元をへの字に曲げ、彼女はサキュロスを無意識に睨みつけた。
「主従関係なだけなのに、随分仲良さそうだね。まさか……付き合ってるの?」
彼の言葉を聞きロシェルとレイナードが同時に「いいえ!」と言った。息の合った見事なハモリだ。
「じゃあ、私がシドに求愛してもいいじゃん」
ロシェルがウッと声を詰まらせる。反論できなかった。
「俺はロシェルと離れる事は出来ない。なので貴方の話はお断りします」
キッパリそう言い切ったレイナードの言葉に、ロシェルは胸を高鳴らせた。同じ想いを共有している事が嬉しくて堪らない。
「それでも私はシドが欲しいなぁ。使い魔だって言うけど、契約はしてないよね君達。黒竜の方はきちんと契約関係にあるから一緒に連れて行かないとだけど、ロシェルの方は居なくても問題無いじゃない」
「いいえ、俺はロシェルに従うと誓いを立てていますので」
「それは仕事として、だよね。まるで騎士みたーい」
「まぁ、元は騎士でしたので」
「仕える相手がいても、別に恋愛ごとや結婚は別じゃないか。私とシドが愛し合っても問題無いじゃない」
「別だという主張はわかるとして、貴方は私にとって対象外ですので根本的に無理です」
「んー……つまりだ。私が女の子になれば全て解決する訳だね?よし、良いでしょう。なろうじゃないか。あ、でも月一ではこっちで抱かせて欲しいなー」
要求されてもいない事を話しながら頰を両手で覆い「テヘ、言っちゃった☆」と、サキュロスが似合わぬ声で言った。
知りたくも無かった情報に、カイルらが顔をしかめる。『その見た目でレイナードを襲いたい側なのか!』とイレイラが叫びそうになったが必死に堪えた。
「ハッキリ言うよ、シド。私は君に求婚する。異論は認めない。森の惨事の詫びとして、私の神殿に来るんだ」
腰に手を当てて、踏ん反り返るサキュロス。
「レイナードはこの世界の人間じゃ無いから、そんな事言われても従わないよ。森の一件はこちらで全て処理したら代償として彼を差し出す理由にはならない。それ以前に、魔物を一掃したんだから詫びが必要だとは思えないけど」
「そうですわ。レオナードの意思ならいざ知らず、先程ハッキリ断られましたわよね?それなのに、そんな阿呆みたいな要求を受け入れる事は出来ません」
カイルに続き、イレイラも異論を唱えた。
「私も反対です」と、ロシェルも言う。
『儂もじゃ。やっとこうしてカイルの側に居られる理由も得たのに、円満な場所から離れるなんぞ絶対に嫌じゃぞ。なぁ?カイルもそうじゃろう?』
アルが嬉しそうに体を揺らしながら、カイルの方を見た。
「そうだね、うん」
レイナードとの約束通り、うんうんとカイルが素直に頷いてみせる。小さくなった姿は彼から見ても愛らしく、これならば普通に接するのも苦じゃないなと思った。
味方が誰もいない状況に、サキュロスがムスッとした顔をする。
「じゃあ、私が真っ当にシドを惚れさせたなら、連れて行ってもいいよね?」
「いや待ってくれ、そもそも対象じゃないと——」
レイナードの言葉を遮るようにサキュロスが「えい!」と言い、その場で魔力の満ちた小さな光を撒き散らしながら一回転する。すると彼の姿は男性のものから、女性へと変化した。
夜着の中で胸が過剰に大きく、主張が激しい。それ以外は今まで通り、長い深緑の髪にヤギの角。神経質そうな顔が少し女性らしさをもったかな?程度のもので、大差はなかった。
「これならどうだ!さぁこれで問題は無くなったよね?一緒に私の神殿に行こう!」
自慢げに胸を張り、皆に姿を見せびらかす。
「どうだって言われてもねぇ……」
『体が女性になったからって即求婚に応じる訳は無いだろ!発情期の獣じゃ無いんだぞ⁈』と、一同ツッコミたかった。もちろん当事者のレイナードが一番強くそう思っている。
(確かにコッソリ嫁探しをしようと昨夜決めたが、まずは仕事を得てからの話だと考えていた。それがまさか、翌日にこんな奴に出くわすとは…… )
サキュロスの発言を聞き、ロシェルが彼にしがみつきながら『シドと離れたく無い』病をジワジワと拗らせていた。行かせないで済む方法は何か無いのかと必死に考え、閃いた思いを深く考えもせず口にする。
「わ、私も立候補します!シドが私に惚れれば、彼を連れて行くとは二度と言わないで!」
ロシェルがギュッと目を瞑り、声をあげた。
抱きつく腕にも力が入っていて、胸が思いっ切りレイナードの腕に当たる。そんな状況ながらも、彼は頰を赤らめ「は⁈」と叫んだ。
「……え?」
娘の意外な発言にカイルとイレイラが驚き、セナとエレーナは『やっと決意しましたかロシェル様!』と心の中で褒め称えた。
「——いいだろう。私は公平な神子だからね、受けて立つよロシェル。勝った方がシドを嫁に貰う。いいよね、カイル」
「嫁?レイナードが嫁なの⁈」とカイルが驚く。
一方イレイラは「わかりました。その提案をお受けしましょう。神子である貴方と争うのです、ハンデとして私は全面的に娘をバックアップさせて頂きます。異論はありませんわよね?」と、サキュロスを睨みつけながら言った。
「あぁいいよ、問題無い」
自信満々に、サキュロスが頷く。その自信の根拠はどこにあるんだ?とカイルは不思議に思った。
「安心してロシェル。母が絶対にレイナード様と結婚させてあげるわ!」
「え?あの……母さん、私そこまでは——」
「勝つのは私だけどねー!」
当事者を無視したまま話が進んでいくが、レイナードは口を挟めなかった。女同士(?)の言い合いが始まり、そんな隙がまるで無い。
『おい、なんだかよくわからぬ方向に話が進んでおるのではないか?』
アルが小声で言いながら、不思議そうに頭を傾げる。
「シー!関わったら終わりだよ、アルシェナ」
口元に指を当てるカイル。
『アルと呼べ、カイル。お主達以外に真名は知られると後々面倒じゃ。人の始祖だというだけで無闇矢鱈に持ち上げる輩もおるでのう』
「あ、ごめんね。……ところで、どうするの?レイナード」
「俺に拒否権があるんですか?コレは」
彼女達の輪からコッソリ逃げ出したレイナードが、彼らに習い小声で訊く。
「……無いね、残念ながら」
『無いのう』
「……ですよねぇ」
額に手を当て、レイナードが深いため息をついた。
(サキュロス様を選ぶ事など無いのに何故こうなった?かといって、ロシェルと……というのも、彼女は仕える主人なのだから無理がある。——あぁそうか、断る正当な流れを作る為か!)
納得出来る答えを得て、レイナードが成る程っと手を軽く叩いた。
「魅了や誘惑系の魔法や魔法具の使用は一切禁止。正々堂々と対等なタイミングで惚れさせる。わかりましたか、サキュロス様」
イレイラの言葉を聞き、チッと舌打ちしてから「……んーわかった。いいよそれで」と、サキュロスが頷く。
それからも詳細なルールが勝手にどんどん決まっていき、レイナードに惚れてもらうという意味不明な勝負は午後からのスタートとなった。
◇
客室に運んでもらった昼ご飯をフォークでつつきながら、レイナードは進まぬ食事を前にため息を吐いた。これを食べ終わると勝負事が始まってしまうのだと思うと、空腹がどこかへと消えていく気がする。
『食べないのか?』
ニコニコ顔で首を傾げ、問いかけるアル。
先程までカイルと一対一で沢山話してきた為とっても機嫌が良い。たいした内容では無かったらしいが、長年待ち望んだ時間だったので中身などどうでもよかったみたいだ。
「きちんと食べてはおきたいんだが、これが終わったらアレだろう?どんな手を使うのか見当もつかないが、もう既に待機しているんじゃないかと思うと、気が滅入る」
『あぁ、一人待機しておるぞ。部屋のドアの前でな。さっき戻る時に会った』
(なんてこった……)
レイナードはフォークを皿に置き、頭を抱えた。
「——レイナード様、入ってもいいかしら?」
イレイラの声と同時に、ドアのノックする音がする。一瞬応える事にレイナードは躊躇したが、諦めて「どうぞ」と言った。
「お邪魔するわね」
遠慮がちに扉を開けて、イレイラが客室へと入って行く。先程の話し合いでは興奮気味だった彼女はすっかり落ち着き、すまなそうな表情をレイナードに向けた。
「お食事中にごめんなさいね。最初の勝負が決まったのよ。面倒でもお付き合い願えるかしら」
『結果は見えておるだろうに、馬鹿馬鹿しいのう』
まったくもってその通りで、レイナードは渋い顔をした。
「貴方の気持ちはわかってる、わかっているわ。でもね、ちょっとでも彼に付き合わないと帰らないと思って」
『まぁ確かに。そんな奴っぽかったのう』
「仕事だと、思って欲しいの。ロシェルの護衛よ。神子は機嫌を悪くすると、何をしでかすかわからないから」
体験談なのか、とても重たい表情と言葉だった。
「仕事ですね、了解です」
そう割り切れば、少し気が楽になった。今までも戦時下で理不尽な命令を何度も経験している。その一つだと思えば良いだけだ。内容が……かなりくだらないのが難点だが。
「ありがとうレイナード様。ロシェルもね、とってもやる気なの。結婚相手をゼロから探さないと行き遅れてしまうから、必死なのかしら。それとも、相手が貴方だからかしらね?」
チラッとレイナードの顔色を伺いながら、イレイラが言った。
「それは……どういう意味で?」
「断ったのよ、求婚者達からきていたお話を全て。だからね、ロシェルは好きに結婚相手を探せるの」
「そうなんですか」
読み難い微妙な表情をされてしまい、イレイラが困った。ロシェルの勝算が上がればと思った発言だったのだが、失敗だったかしらと少し不安になる。
「良かったですね」
素っ気ない言葉しか出なかったが、内心どういう意図でその話をしているんだ?とレイナードは焦っていた。
(つまり……ロシェルは本気で自分の気を引く気なのか?いやまさか、そんなはずは無い)
色々な考えが、浮かんでは消える。
(嫁は欲しい。欲しいが……追い返す口実を作る為にしているだけだ!)
勘違いしまいと必死に言い聞かせるが、そんな素振りを一切表に出さないのでイレイラは全く気が付かなかった。
「あ、あのねレイナード。食事が済んだら一緒に来て欲しいの。ここじゃない場所で二人は待機しているのよ」
「わかりました、もう行きましょうか」
「あらいいの?まだ結構お料理が残っているけど」
チラッと食事に目をやると、イレイラの瞳が気まずげに揺れた。
「えぇ、あまり食欲が無いので」
「じゃあコレが終わったらまたゆっくり食べるといいわ。一段落したら、少しはお腹も減るんじゃないかしら」
苦笑いするイレイラに対し、レイナードが頷く。
「そうですね、そうさせてもらいましょう」
椅子から立ち上がり、レイナードはイレイラと一緒に、ロシェル達の待つ場所へと向かうこととなった。
◇
二人が廊下を歩きながら、レイナードはイレイラに気になっていた点を今のうちに訊いてみることにした。
「ところで、惚れさせるとかいうお題でしたが、いったい何をするつもりで?」
「最初はね、手っ取り早く魅了系の魔法を使う気だったのよ、あの卑怯者は。それであの自信だった訳。話していてすぐにわかったから、それらの不安要素は全て潰しておいたわ。……約束を守る保証などどこにも無いから安心は出来ないけど。それでね、それらの行為が通用しないように、念の為魔法具を用意したのよ。コレを身に付けていてくれる?」
そう言いイレイラは立ち止まると、ワンピースのポケットからネックレスを取り出し、レイナードへと渡した。
それを彼は受け取ると、素直に首へとかける。青い雫型のペンダントトップがプラチナのチェーンにぶら下がり、とても綺麗だ。
「ありがとうございます」
レイナードがイレイラへ頭を下げる。イレイラは彼の胸元に手を伸ばすと、ネックレスに触れ魔法をかけた。
「これで私じゃ無いとこのネックレスは外せないわ。念の為の用心よ。もしそれでも無理に壊そうとしたら、対抗策として“貴方の望む状況”に変化する様にしておくわね」
「重ね重ねありがとうございます」
「いいのよ。くだらないやり取りに巻き込むんですからね」
そう話し、再び廊下を二人が歩き始める。
「それにしても、惚れさせるなんて無茶苦茶よね。魅力系の魔法を使わなくてもどうにかなると思っている辺り、神官達が彼の我儘を許しまくった結果だと考えると……ホント殴ってやりたくなるわ。無駄に自信家でイヤになる」
肩を竦めてみせるイレイラに、レイナードが「困った方ですね」と同意した。
「いずれ飽きるか、諦めるかすると思うからそれまでの辛抱ね」
「そうですね、まぁしばらくはお付き合いしますよ」
「ありがとう。……あのね、レイナード様」
「なんですか?」
「私、貴方なら本気で娘を預けられると思っているの。だからね、うちの子の事をちょっとは真面目に考えておいてくれないかしら。お願い」
眉を下げ、少し首を軽く傾げるイレイラ。子供っぽい仕草が妙に似合い、とてもじゃないが子持ちの母には見えない。
イレイラの言葉を聞き「……えっと」とレイナードが声を詰まらせる。彼にとって、ロシェル本人の了承も無く答えられる内容では無かった。
「いいのよ、何も答えなくて。でも考えてはあげてね。あの子を行き遅れにしたくないのよ」
「さて——」と、言い立ち止まるイレイラ。大きな扉を前にして「ここよ」と話しながら扉を押し開け、中へと入っていく。
『大浴場で待機など、イヤな予感しかしないのう』
レイナードの肩の上で、先程までダンマリをきめていたアルが、彼の心を見透かしたかのようにボソッと呟いた。
◇
「よく来たね!」
「わざわざすみません」
楽しそうにしているサキュロスと、すまなそうに肩を落とすロシェル。二人は白いタオルで全身を隠していて、レイナードとアルは揃って『イヤな予感が本当に的中しそうだ』と思った。
「あ、大丈夫よレイナード。何も背中を流すとかそういったものじゃないの。プールが無いからここになっただけよ」
イレイラの言葉を聞いても、レイナードは安心出来なかった。プールと聞いて、連想できる姿など一つしかない。
「自信あるよ、これでシドは私にイチコロさ!」
にっしっしっと笑い声をあげ、神経質そうな顔なのにサキュロスが楽しそうにはしゃぐ。
ロシェルの方は、気乗りしていないのがありありとわかる。勝負に参戦した事をもの凄く後悔している様だった。
「さぁロシェル、どっちが先に披露する?」
「どうぞお先に」
ロシェルの言葉を聞き「んじゃ遠慮無く!」とサキュロスがニヤッと笑った。お互いにどういった格好かは知らない。だが、自分相手にロシェルが勝てる訳がないと彼は確信しているのか、誇らしげな笑みを浮かべながら、バッと勢いよくタオルを脱ぎ捨てた。
「どうだい?セクシーだろう?」
長身で素晴らしいスタイルを惜しげもなく晒しながらグルンッと回って見せるサキュロス。
マゼンタ色の水着を着ているのだが、布部分がほぼ無い。水着として見せてはいけない部分はかろうじて隠れているが、お尻はTバックになっていて丸見えだ。
プロポーションには自信がある。そういう風に変身したのだから当然だ。これでレイナードもアッサリ堕ちただろう。と、確信に近い気持ちのまま、仁王立ちになってレイナードの方へ顔を向け——サキュロスは叫んだ。
「ちょ‼︎何でレイナードは見てくれてもいないの!」
レイナードは、サキュロスの方を見てすらいなかった。それどころか、ドアに手をつき床を見て項垂れている。
「当然じゃない!彼は騎士なのよ?理性的で自制心のある紳士なの!最初に忠告したわよね⁈」
イレイラがサキュロスへと向かい、呆れた声をあげた。
「肌を見せればいいってもんじゃないと公平に勝負で出来るよう最初に言ったのに、意味が無いじゃない!」
「だって、レイナードも男じゃん?男なら好きでしょ?こういう格好」
全然反省の色がないサキュロスを見て、イレイラは唖然とした。
「……それはどうかしら。好きな相手のだったらまぁそうでしょうけど、今そんな格好をされてもただの犯罪者にしか見えないわ」とロシェルがハッキリと告げる。
「は、犯罪者⁈それは言い過ぎじゃないかなぁ!」
「少なくとも、見てはいけないもの扱いはされていると思いますよ?」
「じゃあロシェルはどんなの着たっていうのさ!」
ロシェルにまで格好を否定され、サキュロスが不満を口にする。
イレイラは無言のままサキュロスが放り投げたタオルを拾い、それを彼に渡した。このままでは絶対にレイナードが振り向かないとわかっていての配慮だ。
サキュロスは不満げな顔をしたが、渋々タオルをロシェルから受け取り、風呂上がりの女性のようにそれを体に巻く。
「いいわよ、レイナード」
それを聞いても固まったままの彼に代わり、アルが後ろを向いて確認する。
『いいぞレイナード。嘘じゃない』
アルの言葉でやっと安心したのか、レイナードが青ざめた顔のままゆっくりと振り返る。異性っぽい者の痴態を見て喜んだといった様子が微塵も無いのは明らかだった。
次はロシェルの番だ。
「て、照れますね。改めて水着姿を披露するというのは」
頰を薄く染め、イレイラが軽く首を傾げる。
とんでもないモノを見せられて一気に閉ざしたレイナードの心が、少しほぐれた。口に出してなど絶対に言えないが、女性が恥じらう姿が彼は正直とても好きだった。ロシェルのが、特に。
スルッとタオルを足元へと落とし、ロシェルが水着姿をレイナードの前に晒す。
長い黒髪は緩くアップにしてあり、白いハイビスカスの生花を飾ってる。上はスカイブルー、下へいくほど白くなっていくグラデーションで配色された水着はタートルネックの様なデザインで、上半身は腕以外全て見えない。腰には大きな髪飾りとお揃いで、ハイビスカスが刺繍してある白いパレオが巻かれ、脚をしっかりと隠していた。
「どうかしら?」
照れ臭そうにするロシェルに向かい、レイナードがこの日始めて笑ってみせた。
「とっても似合っている」
「本当に?嬉しいわ」
クルッとその場で回り、ロシェルがレイナードに全身を見せる。背中もしっかり隠れてはいるが、スタイルはしっかりわかってしまい、彼は無意識に口元を緩ませてしまった。『色っぽいな』と叫びたいくらいな気持ちだったが、そちらは寸前で堪えた。
「ほらね?」
イレイラがサキュロスに向かいニヤッと勝ち誇った顔を向けると、彼はめちゃくちゃ悔しそうに不貞腐れていた。
「事前情報はあげていたわ。不公平だとは言わせないわよ」
年下に釘を刺されてしまい、サキュロスは頬を膨らませて「ふんっ!」とそっぽを向いた。
「さぁ負けを認めて、退散しましょう」
その言葉を聞き、サキュロスが素直に従う。気持ちはもう次回の事を考えていた。
イレイラとサキュロスの二人が、こっそり大浴場を退出する。
アルとレイナードは風呂場に取り残され『この後はどうしたものか』と困惑気味であったが、ロシェルは一仕事終えてホッとした様子だった。
「さて、戻るか。もう終わったんだよな?」
首の後ろをさすりながらそう言ったレイナードを、ロシェルは気まずげに見上げた。
「母さんから聞いていないの?」
「何をだ?」
彼の反応を見て、慌てるロシェル。何かを言うから言わないかで、迷っている。
「どうしたんだ?」
「……あのね、シド。実は勝負に勝った方は……しばらく二人きりですごしましょうと約束しているの。ほ、惚れてもらうには、二人で沢山お話するのが一番でしょう?それでね、あなたの分の水着もあるから、一緒に足湯でもしないさいって言われてるのよ」
「足湯?」
「えぇ。お風呂の縁に座って、足だけお湯に入れるの。シドの水着は脱衣場にあるから、足湯が嫌じゃ無いなら着替えてきて」
『儂は先に入るから、早く着替えて来い』
アルが肩から飛び立ち、勢いよくお湯へと飛び込む。尻尾を使い器用に泳ぐ姿に、ロシェル達は微笑ましい気持ちになった。
「……どうします?」
チラッとレイナードの様子を伺うと、彼はまぁいいかと言いたげに息を吐いた。
「わかった。着替えてこよう」
脱衣場まで一旦戻り、用意済みだった水着へレイナードが着替える。
灰色をした膝丈まである無地の水着を着て大浴場まで彼が戻ると、ロシェルは既に浴槽の縁に座って足を湯へと入れていた。
彼が来たことに気が付き、振り返ってレイナードの方をロシェルが向くと、彼女は一気に破顔し、それを隠す為に両手で顔を覆った。だが、眼福を逃す手はないと、指が少し開いていて隙間からコッソリ覗いてしまう。
筋肉質の上半身が惜しげも無く晒され、腹筋や胸筋にかけてラインの美しさは惚れ惚れする程だ。あの上腕二頭筋で腕枕をしてもらえた日が少し恋しいとまで思えてしまう。白い肌は傷跡が多くあり、歴戦の過去を連想させるには充分過ぎるものだった。
アルと契約した事により薄く鎖の紋様が全身にあり、タトゥーが施されているみたいになっていた。
手で隠れた顔がどうしてもニマニマと崩れてしまう。そんなロシェルの様子を不思議に思いレイナードは首を軽く傾げると、一人と一匹が入る大きな浴槽まで歩いていく。
彼女の側へ座り、彼も脚をお湯の中へと入れた。
「ふぅ……」
レイナードがリラックスし、息を吐く。ロシェルがゆっくり手を下ろすと、真っ赤な顔で俯きながら両手を膝の上に置いた。ドキドキする気持ちを抑えようとしてもなかなか落ち着かない。自分はそんな状態なのに、彼はどうして平気でいられるのだろうとロシェルが少しだけ拗ねてしまった。
「足だけもいいもんだな」
「でしょう?私はたまに自室でも入ったりするの。足が疲れた時とかにやると、ホント楽になるわ」
「マッサージもやると効果的だろうな」
「そうね、きっと気持ちがいいわ」
「やろうか?得意だぞ」
そう言い、レイナードが立ち上がってロシェルの前に跪く。
彼女が断る隙も無いまま、お湯の中にある彼女の右足を自分の膝の上に乗せると、両手を使って足裏をマッサージし始めた。
『ひゃぁぁぁぁ!』と叫びそうになるのをロシェルが必死に堪える。力が強く、ツボを的確に押しこまれ、「ふぐあ!」と変な声を出してしまった。
「すまない、加減がマズかったな。これならどうだ?」
「……んっ」
今度は絶妙な押し具合で、ロシェルは嬌声に近い声をもらす。その類の声を聞いた経験が無い二人は、気にすることなく互いに行為を続けた。
「あ……きもちぃ」
「ここならどうだ?」
「いいわ、とても……上手なのね。スゴイわ、シド」
足の指と指の間全てにレイナードは自身の指を入れて、間を広げていく。
「こう広げると、後で楽になる」
「そうなの?嬉しいわ」
指を間を充分に解し、また足裏へと手が戻る。
「全体的に固いな、もっと解さないと」
「んあぁぁ!」
足裏の目に効くツボを思いっ切り押され、ロシェルが背を反らせて声をあげた。
『……御主らは何をしておるのじゃ』
お湯の中から顔だけ出したアルが、呆れた声で問いかけてきた。
「マッサージだが?」
レイナードに続き、コクコクと頷くロシェル。触れられていた事に対してはドキドキしてしまってはいたが、後ろめたい行為はしていなかったので、何故わざわざ問われたのか不思議でならなかった。
『そうなのか、ほぉ……そうなのか』
疑いの目を一瞬向けたと思うと、アルがまたスッーと奥へ泳いで消えていった。
「……どうしたのかしら?」
「さぁな」
同時に首を傾げて泳ぎ去るアルを見送ると、レイナードはもう片方の足もマッサージする。一通り解し終わるまで、二人は他者へは聞かせられない内容のまま言葉のやり取りをし続けた。
「ありがとう、シド。とってもスッキリしたわ!」
お湯の中で脚を軽くバタつかせ、ロシェルが子供みたいにはしゃいでみせる。
「だろう?行軍の後よく皆に頼まれてな、気が付いたら得意になっていたんだ」
「是非私にも教えて欲しいわ」
「あぁ、今度な。香り付きのオイルなんかもあると、もっと気持ちいいぞ」
「わかったわ、約束ね?絶対よ」
「仰せにままに、ご主人様」
微笑み合い、二人が見つめ合う。
先に逸らしたのは、レイナードの方だった。
「……なぁロシェル。今回の件なんだが——」
レイナードの言葉を遮り「迷惑だったかしら?」と、ロシェルが彼の腕にしがみつき、問いただす様な顔をした。
腕に胸が当たり、レイナードが困惑する。何度経験しても彼女のこの柔らかな感触には慣れる事が出来ず、顔を赤くしながら正反対の方へ慌てて顔を向けた。
「違う、そうじゃない。ただ、ありがとうと言いたかっただけだ。その……嬉しかったんだ、ロシェルが立候補してくれて」
「……え」
彼の言葉を聞き、ロシェルは固まった。
(私が対象者の一人である事が嬉しい?惚れさせるって勝負内容なのに嬉しいって……それって、シドは私に惚れたいと思っているってこと?)
「程々に付き合えば、そのうち諦めて帰るだろうから立候補してくれたんだろう?追い返す正当な理由作りだとはいえ、こんな事に進んで参加してくれるなんて、ロシェルは本当に優しいんだな」
彼が続けた言葉をロシェルは全く聞いていなかった。
『嬉しかった』と言う言葉だけが、こだまの様に耳の奥で繰り返され、心を震わせる。
(惚れて欲しいって事は、惚れているって意味よね?……私を?シドが?……そうだったら、私に断る理由なんか無いわ!)
彼にしがみつくロシェルの腕に力が入る。それにより食い込んだ胸は形を変えて水着の上からでもわかるほどの谷間を作り、目の毒となっていた。だが、そっぽを向いていた事が救いとなり、レイナードはその姿を見てはいない。現状でも限界寸前なのに、もし見ていたら、一気にのぼせて湯船の中へと倒れていただろう。
「聞いているのか?ロシェル」
返事の無い事を不思議に思い、レイナードは訊いた。平静を装ったが、相手がロシェルでなければ動揺しているのは明らかな声だった。
「え?……えぇ聞いていたわ、もちろん」
先程の発言は、彼からの遠回しな告白だったのかもと勘違いしたロシェルが、何度も頷く。一緒に居たいと何度も何度も考えてしまう理由が、やっと少しわかった気さえしていた。
「シドの考えはよくわかったわ。早々にサキュロス様には帰って頂きましょう」
決意し、力強くロシェルが言った。
「どんな事があっても私を選んでね、シド」
そっと彼から離れ、ロシェルがレイナードの顔を軽く覗き込む。未消化だった気持ちがスッキリした事で、彼女はとても晴れやかな笑顔になっている。
「あぁ、勿論だ。むしろサキュロス様を選ぶかもなど、無駄な心配をする要素なんかあるのか?俺はロシェルしか選ばないのに」
腕に当たっていた感触が離れた事に複雑な心境になりながら、レイナードは頷いてみせた。
告白した扱いになっている事など、全く気が付いてもいないので、より勘違いさせる発言を被せてしまう。
「嬉しいわ、シド!自信を持って挑むわね!」
認識にズレが生じたまま一回戦目が終了し、この後二人が大浴場から各自の部屋へと帰っていく。心理的疲労しか生み出さない無駄な勝負は、まだしばらく続きそうだった。
パンとスープ、果物にサラダなどで軽く朝ご飯を済ませた彼女らは揃って、滞在者・サキュロスと会うために応接室へとやって来た。客人の姿はまだ無く、室内ではエレーナがお茶の用意をしている。
ロシェル、レイナード、アル、シュウ、カイルとイレイラらがソファーに座り、彼が来るのを待っていた。
「まだ寝ているのかな、マイペースな奴だねぇホント」
ゆったりとソファーに腰掛け、膝に妻のイレイラを座らせているカイルが、彼女の黒髪で遊びながらボヤいたが『君が言っていいセリフじゃない』と、レイナード以外の者達は思っていた。
永劫の時を生きるせいか、時間感覚に関して神子達は驚くほど周囲と合わない。カイルのスケジュールはイレイラが管理しているので随分改善されたが、妻を娶る前までは散々だった。神官が言ったくらいで聞くような者もいないので、どこの神子に仕える神官達も主人に予定を守らせる事には苦戦している。
「セナが迎えに行っていますのでもう少しではないかと。サキュロス様は、セナの言葉は比較的聞いてくれますので」
紅茶を各人の前へ出すと、エレーナがカイルへと告げた。
それを聞き「ならいいけど」と答えるカイル。イレイラの頭に顔を寄せ、ちょっと眠たそうに瞼を閉じた。
「紅茶頂くわね、エレーナ」
「あぁ、そうだな」
ロシェルとレイナードが揃って紅茶のカップを手に取り、一緒にそれを飲む。
ふっとお互い目が合い、いつもの癖で彼は微笑みかけたのだが、ロシェルの方は少しぎこちない笑みになってしまう。昨日知った件を、一晩経ったくらいでは割り切る事が出来ていなかった。
「美味しいわね、これはラズベリーかしら」
「よくお分かりになりましたね。お口に合ったようで嬉しいですわ」
ロシェル達に続き紅茶へ口をつけたイレイラが褒めると、エレーナが年相応に柔らかく笑った。
「ケーキやクッキーなどもご用意しましたので、後程お持ちいたしますわね」
エレーナがそう言ったと同時に、応接室の扉がノックされる音が聞こえた。
カイルが扉に向かい「どうぞ」と声をかける。
「失礼いたします。遅くなりましたが、サキュロス様をお連れしました」
セナが引きつった笑みを顔に浮かべながら、応接室へと入って来たのだが……夜着姿の神子・サキュロスの首根っこを捕まえて引きずりながらだった。
「何度も起こしましたが起きようとしませんので、無理に連れて来ました。それでもまだ寝ているので、不敬罪には当たりませんよね?カイル様」
そう問うセナに向かい、カイルが「問題無い、僕が許す」と答える。
「もうさ、面倒だからこのまま奴の神殿へ送り返しちゃわない?森の一件はバルドニスの国王か、サキュロスの神官達と話した方が絶対的確に対処してくれるって」
それを聞き、セナとエレーナは『確かに!』と思ったが、それを口にしてしまうと本気でカイルは『サキュロスを送り返せ』と言い出すので言葉にはしなかった。このまま送り返しても、目覚めた途端また来るに決まってる。
「カイル様、流石にそれは駄目です。話を聞いてから、後腐れなくお帰り願いましょう」
レイナードがそう言うと、カイルは渋々頷いた。
「じゃあ、起こすか」
グシャと前髪をかくと、カイルがふうと息を吐いた。
淡いピンク色をしたワンピース姿のイレイラが彼の膝から降りる。妻の体温が離れる事に名残惜しさを感じつつカイルは立ち上がると、床で死人のように寝たままになっているサキュロスの側へと近寄った。
「サキュロス起きろ。朝だぞ!」
言うと同時に彼の頭へ魔力を込めた蹴りをカイルがいれる。キツイ一撃が後頭部へと入ったサキュロスは、「ぶへぇ!」と情けない声をあげて目を覚ました。
「っくあぁぁぁ!痛ったいなぁ‼︎私の頭に何をするんだっ」
首がもげ飛んでもおかしくない蹴りを受けた頭を両手で押さえながら、サキュロスが叫んだ。
「起きないお前が悪い。いっそ永眠してればよかったのに」
痛みに悶え、床に這いつくばるサキュロスに向かい、カイルが酷く冷めた視線を投げつける。神子の来訪は良い事が起きた試しがない為、容赦がなかった。例外は、昔から仲の良いハクとウィルだけだ。
「はじめまして。そして、おはようございますサキュロス様。カイルの妻、イレイラと申します。こちらは娘のロシェルです」
夫が頭を蹴った事をサラッと流しながらイレイラが恭しく頭を下げると、母に続きロシェルもソファーから立ち上がり頭を下げた。
「あぁ、初めてだっけ。噂はあちこちから聞いてるよ、イレイラ。でも猫じゃないねぇ?カイルは猫と異種族婚したって話だったけど。娘が出来たって聞いた時は、猫とやっちゃったかーってビックリしたもんさ」
イレイラは人として転生する前は黒猫だった為、サキュロスはその時の事を言っているのだろう。
「もうそれ、数十年も前の情報だよ」
「数十年の誤差なんて、数秒みたいなもんじゃん」
呆れるカイルへ向かい、サキュロスは神経質な顔立ちで拗ねてみせた。何度見てもやっぱり似合わない。
「ところでさ、森に来た子に逢いたくて来たんだけど……」
サキュロスはそう言いながら周囲を見渡し、目的の存在を見つけた途端「居た!逢いたかったよ!」と叫んだ。
大声に驚き、ロシェルとレイナード、シュウ、アルの二人と二匹が体をビクッと震わせた。
「今回来たのは森の一件に関しての苦情じゃないの?それなら責任を持ってこちらで対処するから、直接彼等に文句を言うのはやめて欲しいんだけど」
「違うよーカイル。苦情を言いになんてわざわざ来ないさ。そういった事は私の神官達が対処してくれる。私が出しゃばると拗れるからって迷惑がられるからねー」
安易に想像でき、セナとエレーナがうんうんと頷いた。
床から立ち上がり、サキュロスがニマァと笑いながらロシェル達へとゆっくり近づく。彼女らの前に立つと、胸の前で祈るように手を組み、つり目がちの瞳を輝かせた。
「一目惚れしたんだ!森の件の詫びとして、コレ私に頂戴よ!カイルゥ」
「はぁぁぁ⁈」
サキュロスの言葉に、一同が反感丸出しの大声をあげ部屋中に響いた。
「ウチの子は物じゃありません!巫山戯ないで‼︎」
真っ先に文句を言ったのは、イレイラだった。
即座に娘を庇い、ギュッと抱き締める。レイナードもロシェルに寄り添い、サキュロスの視界から守る様に遮った。
「帰れ、サキュロス。娘をお前に嫁がせる気など無い」
カイルが睨みつけ、問答無用で強制送還の魔法を発動させ始めた。
「え⁈いや!ま、待って待って待って!違う!カイルの娘とか、違うって!んな怖い事流石に言わないって!一生業火に焼かれ続ける呪いとかしれっとかけてきそうじゃん!死なないからって痛くない訳じゃないんだから止めてよね!」
「よくわかってるじゃないか!死ね‼︎」
敵意剥き出しのカイルが大声で叫んだ。
「帰すだけじゃないのかよ!ホントに違うってば!ストォォップッ!」
両手を上げて、サキュロスが降参のポーズをする。
羊の角がよく似合う、悪魔を彷彿させる禍々しい顔で魔法発動寸前のカイルが「じゃあ……まさか……」と言いながら、チラッと視線をレイナードへとやった。状況が読め、カイルが手の中の魔法を握り潰したが、表情はとても渋いものだった。
「そう、彼の方だよ!」
神経質そうなサキュロスの顔が、トロンと蕩ける。
「は⁈駄目よ!」
『阿呆言うな!』
ロシェルとアルが同時に声をあげ、レイナードに抱きついた。キッと威嚇した眼差しをサキュロスに対し、一人と一匹が向ける。
レイナードは困惑顔で、何が起きているのかよくわからないといった感じだ。
「……何なの君達は。彼とはどういう関係?」
不機嫌そうにサキュロスが顔を歪める。惚れた相手に抱きつく存在に不快感が隠せない。
『儂はシドの契約者じゃ』
「俺はアルの主人で、ロシェルの使い魔だ」
「私はシドの主人です。黒竜様は私の、もう一匹いる使い魔のお友達よ」
アル、レイナード、ロシェルが順番に答える。シュウはそれを聞き、その通りだと言いたげに頷いた。
「何その三角関係!意味わかんないんだけど」
サキュロスが呆れた顔をした。
「わからなくてもわかれ。そして帰れ」
「はーなーしーをー聞いて!」
睨みつけるままのカイルに対し、サキュロスが宥めるように手を振る。
「私が一目惚れしたのは……えっと、シド?だっけ。彼だよ!黒竜に乗って魔物を蹂躙する姿に、一瞬で恋に落ちたんだよねー」
そう言い、線の細い体を身悶えさせるサキュロス。
「俺は男です。……サキュロス様も男性では?」
「え、シドってそんな些末事気にするタイプ?」
「……同性愛に偏見はありませんが、自分は異性愛者なので、そのような話をされても無理です」
そう言うレイナードに横から抱きついているロシェルの手に力が入る。口元をへの字に曲げ、彼女はサキュロスを無意識に睨みつけた。
「主従関係なだけなのに、随分仲良さそうだね。まさか……付き合ってるの?」
彼の言葉を聞きロシェルとレイナードが同時に「いいえ!」と言った。息の合った見事なハモリだ。
「じゃあ、私がシドに求愛してもいいじゃん」
ロシェルがウッと声を詰まらせる。反論できなかった。
「俺はロシェルと離れる事は出来ない。なので貴方の話はお断りします」
キッパリそう言い切ったレイナードの言葉に、ロシェルは胸を高鳴らせた。同じ想いを共有している事が嬉しくて堪らない。
「それでも私はシドが欲しいなぁ。使い魔だって言うけど、契約はしてないよね君達。黒竜の方はきちんと契約関係にあるから一緒に連れて行かないとだけど、ロシェルの方は居なくても問題無いじゃない」
「いいえ、俺はロシェルに従うと誓いを立てていますので」
「それは仕事として、だよね。まるで騎士みたーい」
「まぁ、元は騎士でしたので」
「仕える相手がいても、別に恋愛ごとや結婚は別じゃないか。私とシドが愛し合っても問題無いじゃない」
「別だという主張はわかるとして、貴方は私にとって対象外ですので根本的に無理です」
「んー……つまりだ。私が女の子になれば全て解決する訳だね?よし、良いでしょう。なろうじゃないか。あ、でも月一ではこっちで抱かせて欲しいなー」
要求されてもいない事を話しながら頰を両手で覆い「テヘ、言っちゃった☆」と、サキュロスが似合わぬ声で言った。
知りたくも無かった情報に、カイルらが顔をしかめる。『その見た目でレイナードを襲いたい側なのか!』とイレイラが叫びそうになったが必死に堪えた。
「ハッキリ言うよ、シド。私は君に求婚する。異論は認めない。森の惨事の詫びとして、私の神殿に来るんだ」
腰に手を当てて、踏ん反り返るサキュロス。
「レイナードはこの世界の人間じゃ無いから、そんな事言われても従わないよ。森の一件はこちらで全て処理したら代償として彼を差し出す理由にはならない。それ以前に、魔物を一掃したんだから詫びが必要だとは思えないけど」
「そうですわ。レオナードの意思ならいざ知らず、先程ハッキリ断られましたわよね?それなのに、そんな阿呆みたいな要求を受け入れる事は出来ません」
カイルに続き、イレイラも異論を唱えた。
「私も反対です」と、ロシェルも言う。
『儂もじゃ。やっとこうしてカイルの側に居られる理由も得たのに、円満な場所から離れるなんぞ絶対に嫌じゃぞ。なぁ?カイルもそうじゃろう?』
アルが嬉しそうに体を揺らしながら、カイルの方を見た。
「そうだね、うん」
レイナードとの約束通り、うんうんとカイルが素直に頷いてみせる。小さくなった姿は彼から見ても愛らしく、これならば普通に接するのも苦じゃないなと思った。
味方が誰もいない状況に、サキュロスがムスッとした顔をする。
「じゃあ、私が真っ当にシドを惚れさせたなら、連れて行ってもいいよね?」
「いや待ってくれ、そもそも対象じゃないと——」
レイナードの言葉を遮るようにサキュロスが「えい!」と言い、その場で魔力の満ちた小さな光を撒き散らしながら一回転する。すると彼の姿は男性のものから、女性へと変化した。
夜着の中で胸が過剰に大きく、主張が激しい。それ以外は今まで通り、長い深緑の髪にヤギの角。神経質そうな顔が少し女性らしさをもったかな?程度のもので、大差はなかった。
「これならどうだ!さぁこれで問題は無くなったよね?一緒に私の神殿に行こう!」
自慢げに胸を張り、皆に姿を見せびらかす。
「どうだって言われてもねぇ……」
『体が女性になったからって即求婚に応じる訳は無いだろ!発情期の獣じゃ無いんだぞ⁈』と、一同ツッコミたかった。もちろん当事者のレイナードが一番強くそう思っている。
(確かにコッソリ嫁探しをしようと昨夜決めたが、まずは仕事を得てからの話だと考えていた。それがまさか、翌日にこんな奴に出くわすとは…… )
サキュロスの発言を聞き、ロシェルが彼にしがみつきながら『シドと離れたく無い』病をジワジワと拗らせていた。行かせないで済む方法は何か無いのかと必死に考え、閃いた思いを深く考えもせず口にする。
「わ、私も立候補します!シドが私に惚れれば、彼を連れて行くとは二度と言わないで!」
ロシェルがギュッと目を瞑り、声をあげた。
抱きつく腕にも力が入っていて、胸が思いっ切りレイナードの腕に当たる。そんな状況ながらも、彼は頰を赤らめ「は⁈」と叫んだ。
「……え?」
娘の意外な発言にカイルとイレイラが驚き、セナとエレーナは『やっと決意しましたかロシェル様!』と心の中で褒め称えた。
「——いいだろう。私は公平な神子だからね、受けて立つよロシェル。勝った方がシドを嫁に貰う。いいよね、カイル」
「嫁?レイナードが嫁なの⁈」とカイルが驚く。
一方イレイラは「わかりました。その提案をお受けしましょう。神子である貴方と争うのです、ハンデとして私は全面的に娘をバックアップさせて頂きます。異論はありませんわよね?」と、サキュロスを睨みつけながら言った。
「あぁいいよ、問題無い」
自信満々に、サキュロスが頷く。その自信の根拠はどこにあるんだ?とカイルは不思議に思った。
「安心してロシェル。母が絶対にレイナード様と結婚させてあげるわ!」
「え?あの……母さん、私そこまでは——」
「勝つのは私だけどねー!」
当事者を無視したまま話が進んでいくが、レイナードは口を挟めなかった。女同士(?)の言い合いが始まり、そんな隙がまるで無い。
『おい、なんだかよくわからぬ方向に話が進んでおるのではないか?』
アルが小声で言いながら、不思議そうに頭を傾げる。
「シー!関わったら終わりだよ、アルシェナ」
口元に指を当てるカイル。
『アルと呼べ、カイル。お主達以外に真名は知られると後々面倒じゃ。人の始祖だというだけで無闇矢鱈に持ち上げる輩もおるでのう』
「あ、ごめんね。……ところで、どうするの?レイナード」
「俺に拒否権があるんですか?コレは」
彼女達の輪からコッソリ逃げ出したレイナードが、彼らに習い小声で訊く。
「……無いね、残念ながら」
『無いのう』
「……ですよねぇ」
額に手を当て、レイナードが深いため息をついた。
(サキュロス様を選ぶ事など無いのに何故こうなった?かといって、ロシェルと……というのも、彼女は仕える主人なのだから無理がある。——あぁそうか、断る正当な流れを作る為か!)
納得出来る答えを得て、レイナードが成る程っと手を軽く叩いた。
「魅了や誘惑系の魔法や魔法具の使用は一切禁止。正々堂々と対等なタイミングで惚れさせる。わかりましたか、サキュロス様」
イレイラの言葉を聞き、チッと舌打ちしてから「……んーわかった。いいよそれで」と、サキュロスが頷く。
それからも詳細なルールが勝手にどんどん決まっていき、レイナードに惚れてもらうという意味不明な勝負は午後からのスタートとなった。
◇
客室に運んでもらった昼ご飯をフォークでつつきながら、レイナードは進まぬ食事を前にため息を吐いた。これを食べ終わると勝負事が始まってしまうのだと思うと、空腹がどこかへと消えていく気がする。
『食べないのか?』
ニコニコ顔で首を傾げ、問いかけるアル。
先程までカイルと一対一で沢山話してきた為とっても機嫌が良い。たいした内容では無かったらしいが、長年待ち望んだ時間だったので中身などどうでもよかったみたいだ。
「きちんと食べてはおきたいんだが、これが終わったらアレだろう?どんな手を使うのか見当もつかないが、もう既に待機しているんじゃないかと思うと、気が滅入る」
『あぁ、一人待機しておるぞ。部屋のドアの前でな。さっき戻る時に会った』
(なんてこった……)
レイナードはフォークを皿に置き、頭を抱えた。
「——レイナード様、入ってもいいかしら?」
イレイラの声と同時に、ドアのノックする音がする。一瞬応える事にレイナードは躊躇したが、諦めて「どうぞ」と言った。
「お邪魔するわね」
遠慮がちに扉を開けて、イレイラが客室へと入って行く。先程の話し合いでは興奮気味だった彼女はすっかり落ち着き、すまなそうな表情をレイナードに向けた。
「お食事中にごめんなさいね。最初の勝負が決まったのよ。面倒でもお付き合い願えるかしら」
『結果は見えておるだろうに、馬鹿馬鹿しいのう』
まったくもってその通りで、レイナードは渋い顔をした。
「貴方の気持ちはわかってる、わかっているわ。でもね、ちょっとでも彼に付き合わないと帰らないと思って」
『まぁ確かに。そんな奴っぽかったのう』
「仕事だと、思って欲しいの。ロシェルの護衛よ。神子は機嫌を悪くすると、何をしでかすかわからないから」
体験談なのか、とても重たい表情と言葉だった。
「仕事ですね、了解です」
そう割り切れば、少し気が楽になった。今までも戦時下で理不尽な命令を何度も経験している。その一つだと思えば良いだけだ。内容が……かなりくだらないのが難点だが。
「ありがとうレイナード様。ロシェルもね、とってもやる気なの。結婚相手をゼロから探さないと行き遅れてしまうから、必死なのかしら。それとも、相手が貴方だからかしらね?」
チラッとレイナードの顔色を伺いながら、イレイラが言った。
「それは……どういう意味で?」
「断ったのよ、求婚者達からきていたお話を全て。だからね、ロシェルは好きに結婚相手を探せるの」
「そうなんですか」
読み難い微妙な表情をされてしまい、イレイラが困った。ロシェルの勝算が上がればと思った発言だったのだが、失敗だったかしらと少し不安になる。
「良かったですね」
素っ気ない言葉しか出なかったが、内心どういう意図でその話をしているんだ?とレイナードは焦っていた。
(つまり……ロシェルは本気で自分の気を引く気なのか?いやまさか、そんなはずは無い)
色々な考えが、浮かんでは消える。
(嫁は欲しい。欲しいが……追い返す口実を作る為にしているだけだ!)
勘違いしまいと必死に言い聞かせるが、そんな素振りを一切表に出さないのでイレイラは全く気が付かなかった。
「あ、あのねレイナード。食事が済んだら一緒に来て欲しいの。ここじゃない場所で二人は待機しているのよ」
「わかりました、もう行きましょうか」
「あらいいの?まだ結構お料理が残っているけど」
チラッと食事に目をやると、イレイラの瞳が気まずげに揺れた。
「えぇ、あまり食欲が無いので」
「じゃあコレが終わったらまたゆっくり食べるといいわ。一段落したら、少しはお腹も減るんじゃないかしら」
苦笑いするイレイラに対し、レイナードが頷く。
「そうですね、そうさせてもらいましょう」
椅子から立ち上がり、レイナードはイレイラと一緒に、ロシェル達の待つ場所へと向かうこととなった。
◇
二人が廊下を歩きながら、レイナードはイレイラに気になっていた点を今のうちに訊いてみることにした。
「ところで、惚れさせるとかいうお題でしたが、いったい何をするつもりで?」
「最初はね、手っ取り早く魅了系の魔法を使う気だったのよ、あの卑怯者は。それであの自信だった訳。話していてすぐにわかったから、それらの不安要素は全て潰しておいたわ。……約束を守る保証などどこにも無いから安心は出来ないけど。それでね、それらの行為が通用しないように、念の為魔法具を用意したのよ。コレを身に付けていてくれる?」
そう言いイレイラは立ち止まると、ワンピースのポケットからネックレスを取り出し、レイナードへと渡した。
それを彼は受け取ると、素直に首へとかける。青い雫型のペンダントトップがプラチナのチェーンにぶら下がり、とても綺麗だ。
「ありがとうございます」
レイナードがイレイラへ頭を下げる。イレイラは彼の胸元に手を伸ばすと、ネックレスに触れ魔法をかけた。
「これで私じゃ無いとこのネックレスは外せないわ。念の為の用心よ。もしそれでも無理に壊そうとしたら、対抗策として“貴方の望む状況”に変化する様にしておくわね」
「重ね重ねありがとうございます」
「いいのよ。くだらないやり取りに巻き込むんですからね」
そう話し、再び廊下を二人が歩き始める。
「それにしても、惚れさせるなんて無茶苦茶よね。魅力系の魔法を使わなくてもどうにかなると思っている辺り、神官達が彼の我儘を許しまくった結果だと考えると……ホント殴ってやりたくなるわ。無駄に自信家でイヤになる」
肩を竦めてみせるイレイラに、レイナードが「困った方ですね」と同意した。
「いずれ飽きるか、諦めるかすると思うからそれまでの辛抱ね」
「そうですね、まぁしばらくはお付き合いしますよ」
「ありがとう。……あのね、レイナード様」
「なんですか?」
「私、貴方なら本気で娘を預けられると思っているの。だからね、うちの子の事をちょっとは真面目に考えておいてくれないかしら。お願い」
眉を下げ、少し首を軽く傾げるイレイラ。子供っぽい仕草が妙に似合い、とてもじゃないが子持ちの母には見えない。
イレイラの言葉を聞き「……えっと」とレイナードが声を詰まらせる。彼にとって、ロシェル本人の了承も無く答えられる内容では無かった。
「いいのよ、何も答えなくて。でも考えてはあげてね。あの子を行き遅れにしたくないのよ」
「さて——」と、言い立ち止まるイレイラ。大きな扉を前にして「ここよ」と話しながら扉を押し開け、中へと入っていく。
『大浴場で待機など、イヤな予感しかしないのう』
レイナードの肩の上で、先程までダンマリをきめていたアルが、彼の心を見透かしたかのようにボソッと呟いた。
◇
「よく来たね!」
「わざわざすみません」
楽しそうにしているサキュロスと、すまなそうに肩を落とすロシェル。二人は白いタオルで全身を隠していて、レイナードとアルは揃って『イヤな予感が本当に的中しそうだ』と思った。
「あ、大丈夫よレイナード。何も背中を流すとかそういったものじゃないの。プールが無いからここになっただけよ」
イレイラの言葉を聞いても、レイナードは安心出来なかった。プールと聞いて、連想できる姿など一つしかない。
「自信あるよ、これでシドは私にイチコロさ!」
にっしっしっと笑い声をあげ、神経質そうな顔なのにサキュロスが楽しそうにはしゃぐ。
ロシェルの方は、気乗りしていないのがありありとわかる。勝負に参戦した事をもの凄く後悔している様だった。
「さぁロシェル、どっちが先に披露する?」
「どうぞお先に」
ロシェルの言葉を聞き「んじゃ遠慮無く!」とサキュロスがニヤッと笑った。お互いにどういった格好かは知らない。だが、自分相手にロシェルが勝てる訳がないと彼は確信しているのか、誇らしげな笑みを浮かべながら、バッと勢いよくタオルを脱ぎ捨てた。
「どうだい?セクシーだろう?」
長身で素晴らしいスタイルを惜しげもなく晒しながらグルンッと回って見せるサキュロス。
マゼンタ色の水着を着ているのだが、布部分がほぼ無い。水着として見せてはいけない部分はかろうじて隠れているが、お尻はTバックになっていて丸見えだ。
プロポーションには自信がある。そういう風に変身したのだから当然だ。これでレイナードもアッサリ堕ちただろう。と、確信に近い気持ちのまま、仁王立ちになってレイナードの方へ顔を向け——サキュロスは叫んだ。
「ちょ‼︎何でレイナードは見てくれてもいないの!」
レイナードは、サキュロスの方を見てすらいなかった。それどころか、ドアに手をつき床を見て項垂れている。
「当然じゃない!彼は騎士なのよ?理性的で自制心のある紳士なの!最初に忠告したわよね⁈」
イレイラがサキュロスへと向かい、呆れた声をあげた。
「肌を見せればいいってもんじゃないと公平に勝負で出来るよう最初に言ったのに、意味が無いじゃない!」
「だって、レイナードも男じゃん?男なら好きでしょ?こういう格好」
全然反省の色がないサキュロスを見て、イレイラは唖然とした。
「……それはどうかしら。好きな相手のだったらまぁそうでしょうけど、今そんな格好をされてもただの犯罪者にしか見えないわ」とロシェルがハッキリと告げる。
「は、犯罪者⁈それは言い過ぎじゃないかなぁ!」
「少なくとも、見てはいけないもの扱いはされていると思いますよ?」
「じゃあロシェルはどんなの着たっていうのさ!」
ロシェルにまで格好を否定され、サキュロスが不満を口にする。
イレイラは無言のままサキュロスが放り投げたタオルを拾い、それを彼に渡した。このままでは絶対にレイナードが振り向かないとわかっていての配慮だ。
サキュロスは不満げな顔をしたが、渋々タオルをロシェルから受け取り、風呂上がりの女性のようにそれを体に巻く。
「いいわよ、レイナード」
それを聞いても固まったままの彼に代わり、アルが後ろを向いて確認する。
『いいぞレイナード。嘘じゃない』
アルの言葉でやっと安心したのか、レイナードが青ざめた顔のままゆっくりと振り返る。異性っぽい者の痴態を見て喜んだといった様子が微塵も無いのは明らかだった。
次はロシェルの番だ。
「て、照れますね。改めて水着姿を披露するというのは」
頰を薄く染め、イレイラが軽く首を傾げる。
とんでもないモノを見せられて一気に閉ざしたレイナードの心が、少しほぐれた。口に出してなど絶対に言えないが、女性が恥じらう姿が彼は正直とても好きだった。ロシェルのが、特に。
スルッとタオルを足元へと落とし、ロシェルが水着姿をレイナードの前に晒す。
長い黒髪は緩くアップにしてあり、白いハイビスカスの生花を飾ってる。上はスカイブルー、下へいくほど白くなっていくグラデーションで配色された水着はタートルネックの様なデザインで、上半身は腕以外全て見えない。腰には大きな髪飾りとお揃いで、ハイビスカスが刺繍してある白いパレオが巻かれ、脚をしっかりと隠していた。
「どうかしら?」
照れ臭そうにするロシェルに向かい、レイナードがこの日始めて笑ってみせた。
「とっても似合っている」
「本当に?嬉しいわ」
クルッとその場で回り、ロシェルがレイナードに全身を見せる。背中もしっかり隠れてはいるが、スタイルはしっかりわかってしまい、彼は無意識に口元を緩ませてしまった。『色っぽいな』と叫びたいくらいな気持ちだったが、そちらは寸前で堪えた。
「ほらね?」
イレイラがサキュロスに向かいニヤッと勝ち誇った顔を向けると、彼はめちゃくちゃ悔しそうに不貞腐れていた。
「事前情報はあげていたわ。不公平だとは言わせないわよ」
年下に釘を刺されてしまい、サキュロスは頬を膨らませて「ふんっ!」とそっぽを向いた。
「さぁ負けを認めて、退散しましょう」
その言葉を聞き、サキュロスが素直に従う。気持ちはもう次回の事を考えていた。
イレイラとサキュロスの二人が、こっそり大浴場を退出する。
アルとレイナードは風呂場に取り残され『この後はどうしたものか』と困惑気味であったが、ロシェルは一仕事終えてホッとした様子だった。
「さて、戻るか。もう終わったんだよな?」
首の後ろをさすりながらそう言ったレイナードを、ロシェルは気まずげに見上げた。
「母さんから聞いていないの?」
「何をだ?」
彼の反応を見て、慌てるロシェル。何かを言うから言わないかで、迷っている。
「どうしたんだ?」
「……あのね、シド。実は勝負に勝った方は……しばらく二人きりですごしましょうと約束しているの。ほ、惚れてもらうには、二人で沢山お話するのが一番でしょう?それでね、あなたの分の水着もあるから、一緒に足湯でもしないさいって言われてるのよ」
「足湯?」
「えぇ。お風呂の縁に座って、足だけお湯に入れるの。シドの水着は脱衣場にあるから、足湯が嫌じゃ無いなら着替えてきて」
『儂は先に入るから、早く着替えて来い』
アルが肩から飛び立ち、勢いよくお湯へと飛び込む。尻尾を使い器用に泳ぐ姿に、ロシェル達は微笑ましい気持ちになった。
「……どうします?」
チラッとレイナードの様子を伺うと、彼はまぁいいかと言いたげに息を吐いた。
「わかった。着替えてこよう」
脱衣場まで一旦戻り、用意済みだった水着へレイナードが着替える。
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彼が来たことに気が付き、振り返ってレイナードの方をロシェルが向くと、彼女は一気に破顔し、それを隠す為に両手で顔を覆った。だが、眼福を逃す手はないと、指が少し開いていて隙間からコッソリ覗いてしまう。
筋肉質の上半身が惜しげも無く晒され、腹筋や胸筋にかけてラインの美しさは惚れ惚れする程だ。あの上腕二頭筋で腕枕をしてもらえた日が少し恋しいとまで思えてしまう。白い肌は傷跡が多くあり、歴戦の過去を連想させるには充分過ぎるものだった。
アルと契約した事により薄く鎖の紋様が全身にあり、タトゥーが施されているみたいになっていた。
手で隠れた顔がどうしてもニマニマと崩れてしまう。そんなロシェルの様子を不思議に思いレイナードは首を軽く傾げると、一人と一匹が入る大きな浴槽まで歩いていく。
彼女の側へ座り、彼も脚をお湯の中へと入れた。
「ふぅ……」
レイナードがリラックスし、息を吐く。ロシェルがゆっくり手を下ろすと、真っ赤な顔で俯きながら両手を膝の上に置いた。ドキドキする気持ちを抑えようとしてもなかなか落ち着かない。自分はそんな状態なのに、彼はどうして平気でいられるのだろうとロシェルが少しだけ拗ねてしまった。
「足だけもいいもんだな」
「でしょう?私はたまに自室でも入ったりするの。足が疲れた時とかにやると、ホント楽になるわ」
「マッサージもやると効果的だろうな」
「そうね、きっと気持ちがいいわ」
「やろうか?得意だぞ」
そう言い、レイナードが立ち上がってロシェルの前に跪く。
彼女が断る隙も無いまま、お湯の中にある彼女の右足を自分の膝の上に乗せると、両手を使って足裏をマッサージし始めた。
『ひゃぁぁぁぁ!』と叫びそうになるのをロシェルが必死に堪える。力が強く、ツボを的確に押しこまれ、「ふぐあ!」と変な声を出してしまった。
「すまない、加減がマズかったな。これならどうだ?」
「……んっ」
今度は絶妙な押し具合で、ロシェルは嬌声に近い声をもらす。その類の声を聞いた経験が無い二人は、気にすることなく互いに行為を続けた。
「あ……きもちぃ」
「ここならどうだ?」
「いいわ、とても……上手なのね。スゴイわ、シド」
足の指と指の間全てにレイナードは自身の指を入れて、間を広げていく。
「こう広げると、後で楽になる」
「そうなの?嬉しいわ」
指を間を充分に解し、また足裏へと手が戻る。
「全体的に固いな、もっと解さないと」
「んあぁぁ!」
足裏の目に効くツボを思いっ切り押され、ロシェルが背を反らせて声をあげた。
『……御主らは何をしておるのじゃ』
お湯の中から顔だけ出したアルが、呆れた声で問いかけてきた。
「マッサージだが?」
レイナードに続き、コクコクと頷くロシェル。触れられていた事に対してはドキドキしてしまってはいたが、後ろめたい行為はしていなかったので、何故わざわざ問われたのか不思議でならなかった。
『そうなのか、ほぉ……そうなのか』
疑いの目を一瞬向けたと思うと、アルがまたスッーと奥へ泳いで消えていった。
「……どうしたのかしら?」
「さぁな」
同時に首を傾げて泳ぎ去るアルを見送ると、レイナードはもう片方の足もマッサージする。一通り解し終わるまで、二人は他者へは聞かせられない内容のまま言葉のやり取りをし続けた。
「ありがとう、シド。とってもスッキリしたわ!」
お湯の中で脚を軽くバタつかせ、ロシェルが子供みたいにはしゃいでみせる。
「だろう?行軍の後よく皆に頼まれてな、気が付いたら得意になっていたんだ」
「是非私にも教えて欲しいわ」
「あぁ、今度な。香り付きのオイルなんかもあると、もっと気持ちいいぞ」
「わかったわ、約束ね?絶対よ」
「仰せにままに、ご主人様」
微笑み合い、二人が見つめ合う。
先に逸らしたのは、レイナードの方だった。
「……なぁロシェル。今回の件なんだが——」
レイナードの言葉を遮り「迷惑だったかしら?」と、ロシェルが彼の腕にしがみつき、問いただす様な顔をした。
腕に胸が当たり、レイナードが困惑する。何度経験しても彼女のこの柔らかな感触には慣れる事が出来ず、顔を赤くしながら正反対の方へ慌てて顔を向けた。
「違う、そうじゃない。ただ、ありがとうと言いたかっただけだ。その……嬉しかったんだ、ロシェルが立候補してくれて」
「……え」
彼の言葉を聞き、ロシェルは固まった。
(私が対象者の一人である事が嬉しい?惚れさせるって勝負内容なのに嬉しいって……それって、シドは私に惚れたいと思っているってこと?)
「程々に付き合えば、そのうち諦めて帰るだろうから立候補してくれたんだろう?追い返す正当な理由作りだとはいえ、こんな事に進んで参加してくれるなんて、ロシェルは本当に優しいんだな」
彼が続けた言葉をロシェルは全く聞いていなかった。
『嬉しかった』と言う言葉だけが、こだまの様に耳の奥で繰り返され、心を震わせる。
(惚れて欲しいって事は、惚れているって意味よね?……私を?シドが?……そうだったら、私に断る理由なんか無いわ!)
彼にしがみつくロシェルの腕に力が入る。それにより食い込んだ胸は形を変えて水着の上からでもわかるほどの谷間を作り、目の毒となっていた。だが、そっぽを向いていた事が救いとなり、レイナードはその姿を見てはいない。現状でも限界寸前なのに、もし見ていたら、一気にのぼせて湯船の中へと倒れていただろう。
「聞いているのか?ロシェル」
返事の無い事を不思議に思い、レイナードは訊いた。平静を装ったが、相手がロシェルでなければ動揺しているのは明らかな声だった。
「え?……えぇ聞いていたわ、もちろん」
先程の発言は、彼からの遠回しな告白だったのかもと勘違いしたロシェルが、何度も頷く。一緒に居たいと何度も何度も考えてしまう理由が、やっと少しわかった気さえしていた。
「シドの考えはよくわかったわ。早々にサキュロス様には帰って頂きましょう」
決意し、力強くロシェルが言った。
「どんな事があっても私を選んでね、シド」
そっと彼から離れ、ロシェルがレイナードの顔を軽く覗き込む。未消化だった気持ちがスッキリした事で、彼女はとても晴れやかな笑顔になっている。
「あぁ、勿論だ。むしろサキュロス様を選ぶかもなど、無駄な心配をする要素なんかあるのか?俺はロシェルしか選ばないのに」
腕に当たっていた感触が離れた事に複雑な心境になりながら、レイナードは頷いてみせた。
告白した扱いになっている事など、全く気が付いてもいないので、より勘違いさせる発言を被せてしまう。
「嬉しいわ、シド!自信を持って挑むわね!」
認識にズレが生じたまま一回戦目が終了し、この後二人が大浴場から各自の部屋へと帰っていく。心理的疲労しか生み出さない無駄な勝負は、まだしばらく続きそうだった。
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