今日も誰かが掛けてくる

ぬまちゃん

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アンタの言ってる事、よくわかんないなあ(その2)

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「私が電話しておきますね。どうぞ用事を済ませに家に戻ってください。」

そう言って、お金を下ろそうとしてATMトラブルに巻き込まれて気が動転している人に近寄るのです。
お金をおろしたお客様は、安心してコンビニを出て行ってしまいます。そこで、その親切な人はおもむろにATMの電話機を取って……

「すみません、ATMが故障しちゃって、が下したお金が詰まっちゃったみたいなんです」

そう言ってATMセンターに連絡してくるのです。

その時に具体的なトラブル内容を聞かないで、電話の向こうの人の事を信じてATMを遠隔操作してお金を出しちゃうと、気が動転している人のお金は親切に電話した人のお金になっちゃうんです。

「そんな馬鹿な!」と思っているあなた。そんなあなたが危ないんですよ。
詐欺に引っかかる人は『おれは絶対に詐欺に引っかからない』と豪語する人の方が多いらしいですからね。

話が長くなってしまいましたが、それが二つ目の理由ですね。

ですからオペレーターさんは必ずトラブルの内容を聞きます。もしも教えてくれない場合は、他人のお金を盗んじゃう人の可能性もあるからです。

どうしても電話の相手がお金を下ろした本人であるという確認がはっきりしない場合は、ATMが飲み込んだお金は後日正式な手続きを経て銀行口座に再入金されます。

それが分かっているので、オペレーターさんは電話の相手からトラブルの内容を聞きたいのですね。

「オレは何も言わないよ、オタクがなんとかしてよ」

こういう風にいうお客様は、オペレーターが何を求めているか分かっているんです。分かった上で、ワザとトラブルの内容を喋りません。
それに、そもそもトラブル自体もない可能性があります。オペレーターさんは、困ってしまいました。衝立のパトランプを点灯させます。

「リーダー。どうもタチの悪いクレーマーさんに当たってしまったみたいなんです。ヘルプをお願いします」

リーダーの小田さんと新人オペレーターの岩寺さんは、直ぐにその子の席に移動します。

「大丈夫?美奈ちゃん」

オペレーターさんの衝立には、ピンク色の大きな文字で『青山美奈』と書いてあります。名札には可愛いピンクのウサギがチョコンと二匹座っています。

リーダーは自分のプラグを美奈さんの机の予備ジャックにつないで、直ぐに会話に割り込みます。

「突然で失礼致します。私オペレーションセンターのリーダーを拝命しているもので、小田紹子と申します。お客様の口から直接語って頂かないと、処理が進められない規則になっているのです」

口当たりは丁寧ですけど、頑として譲れない切迫感を含んだ言い回しです。小田さんもさっきまでの柔かにこやかな態度から戦闘モードに切り替わった様です。

「別に俺は何も悪りぃ事してないぜ。録音を聞けば一目瞭然だ。ただ、そっちの言ってることがわかんねえ、って言ってるだけだ」

電話の相手はのらりくらりと会話を続けようとします。オペレーターから電話を切れない事を百も承知の様です。

「それでは、もう一度申し上げますのでシッカリと聞いてくださいね。予め申し上げている様にこの通話は録音されていて証拠として提出可能なのですよ」

リーダーの小田さん、攻めてきます。

「いやあ、別に俺はオペレーターのお姉ちゃんを困らせたい訳じゃあねえよ。言ってることがわかんねえ、って言っただけだぜ。そんな証拠とか物騒な話はやめてくれ」

電話の向こうのおじちゃん(?)、リーダーの迫力に負けて腰が引けている様です。やぶを突いたらヘビが出ちゃった、そんなところでしょうか。

「それでは、もう一度申し上げますね。よく聞いてください。私達の説明が理解できないと言うのであれば、第三者にも聞いていただきますので」

正しく説明しているのに『分からない』を繰り返すのは明らかな迷惑行為に当たると言う事ですね。それをリーダーさんは暗に言っているのです。

「わかってるよ。ハイハイ。まあ、俺もチョット感に触ったところがあるから、チョットいじっただけだよ。まあ、今日のところはこれで勘弁してやるからさ。じゃあ俺も忙しいので切るぜ」

ガチャ!

結局クレーマーさんはサッサと逃げ出してしまいました。個人宅の電話や携帯電話では無いので、通話して来た人が誰かは特定出来ないのです。電話を切って、サッサと逃げられたらオペレーションセンターとしては何も出来ません。オペレーターが不快な思いをするだけなのです。

「リーダー、ありがとうございます。あー怖かった」

オペレーターの青山美奈さんは、リーダの小田さんにお礼を言います。やはり会話をしてくれない人は怖いです。岩寺裕子さんも、リーダとクレーマーさんとのやり取りを聞いてドキドキしてしまいました。

でも、嫌な事はリーダーを呼んで助けてもらえることが実感できて、少し安心です。ここでのアルバイトは、これなら続けられそうかな?と思った岩寺裕子さんでした。

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