吸血鬼のいる街

北岡元

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クール・ブラスト

吸血鬼、マクスウェルは銀を装飾する

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 この街、F市M区は大して広い地区ではないのだが、付近に高校があるのである程度学生や学生の両親が不自由なく暮らせる程度の設備は整っている。インフラの中枢である駅から隣町までずっと続く大通りには飲食店やコンビニやドラッグストアがいくつもある。駅前にはカラオケもパチ屋もあるし、少し路地裏に入れば公園ももあるので、学生は基本的に駅前に溜まるし、そもそも駅というのは通勤通学にはなくてはならない存在である。
 この人が自然と集まるエリア、街の北側とは真反対に位置する南側は一転して自然の多い地域である。このエリアは山を開拓した地域であり、至るところに森や林があり、道の傾斜も縦に大きな起伏があるので、大して人が住んでいないのだが、この森林地帯の一角には遥か古代、まだ人類がこの地に住み着く前から住んでいた種族がいた。
 彼らは動物の血をエネルギーにして生きることが出来た。動物ごとの血に対し美味いとか不味いとかの区別をつけることが出来た。言語を発してコミュニケーションをはかり、恋愛を愉しむことができた。美人がいればブスもいた。喜怒哀楽を認識し、理解していた。彼らは太陽の光に照らされると灰になって死ぬという弱点を持ちながら、人間に決して見つからずに、小規模ながら人間のような社会を形成し、ひっそりと暮らしていた。誕生の歴史は未だに不明だが、その歴史は、実に西暦1800年代まで、人間に悟られることなく続いたのである。
「だが、我々の中には禁忌が存在した。人間を襲ってはならない」
 彼らには鉄の掟が存在した。人間の血を啜ることを禁じていたのである。彼らは、彼ら自身と同等の知能をもった人間を手にかけることで、自分たちを人間の敵と認識され、やがて争いへと発展するのではないかと考えた。
「いずれ禁忌は侵され、1人の同胞が人間の血を啜るようになった。そのことは人間たちに悟られ、人間は我々を敵と見なした。我々には超能力が備わっている。しかし、それでも人間は数と、科学があった」
 彼らは、特に広く分布していたヨーロッパを中心に世界中に同胞がいた。彼らなりの幸福をひっそりと噛み締めながら、知的生命体としての誇りと道徳をもって生活していた。しかし、1人の同胞は誘惑に耐えきれず1人の人間の女を襲った。未知の生物に恐れを抱きながらも激怒した人類は、彼らを悪の存在として武器を取った。やがて全ての同胞がヨーロッパへと集結し、大きな争いへと発展することとなる。
「私にも人間の友がいた。私たちは種族の壁に疑問を抱き、正義を疑い、善を投げ捨て悪を見限り戦い続けたのだ」
 かつては人ならざる自身の素性を隠し、人間と夜の間のみの仲を築く仲間もいた。そういう者たちの中には友好的な関係を訴えるべきだと叫ぶものもいた。しかし、人間は喰われることの恐怖、人類側の正義をかなぐり捨てることが出来なかった。人間は彼らを次々に十字架へかけ、彼らは種の個体数を10まで減らした。そこで、日本にかつて同胞が住処としていた、陽の当たらない洞窟があると知った。
「今では都市伝説だろう、我々のことは……。誰も私の名を知るものはいないのだから」
 日本に着く頃には4人もの同胞が灰となり、彼らはたったの6人で200年もの年月を、この洞穴で暮らし続けた。残ったものを統率する男には目的があった。偶然か、宿命か。この街にはかつての友の血を継ぐ子孫がいるのだ。
「友よ……。お前が私に撃ち込んだ純銀の弾丸は……、私に思いがけない力を与えたぞ……」
 男は洞窟の奥に並ぶ銀像を眺める。自分の名を知らぬ愚か者……、つまりは先祖の過ちすら覚えていない者たちの辿った末路を。
「誰も私の名を……。マクスウェルの名を呼べる者はいない」
 かつて人類はマクスウェルを恐れた。しかし人類はマクスウェルの名を覚えなかった。
「お前たちは私たちに恐れをもった」
 人間の血を啜り生きる下等な怪物を。
「だから、お前たちは逆に私たちに名を与えた」
 そう、我々人類は名付けたのだ。
「私たちのことを」
 彼らを。この人類の血液を糧として生きると言われたこの生物を。
 人類は、「吸血鬼」と呼んだ。
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