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6分の1のサバイブ
白金龍一のサテライト・メビウス
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「じゃ、行ってらっしゃい、龍一」
「うん、行ってきます」
今日は日曜日。普通ならインターネット動画でも観ながら寝落ちして1日が終わるのだが白金龍一には向かわなければならない場所がある。彼方の家に皆が集まっている。そこに向かわなければならない。
彼方の家までは10分ほど歩けば着く。そこで皆とこれからについて話し合おうと考えた。
龍一は昨日、武情と2人で手に入れたプリントを思い出す。
吸血鬼の歴史、銀の弾丸とシルバー・ラーク……
吸血鬼の目的、楽園の実現、か……
龍一が思ったのは自分のおじに当たる男のことだ。名を白金龍也という。彼は20年ほど前、吸血鬼と戦った。ずっと昔から人知れず戦ってきた。だから、初めて吸血鬼に襲われた時、龍一は武器を手に取った。サテライト・メビウスは戦うための能力だ。2人もの吸血鬼を倒してきた。しかしだ。
大きな間違いがあった。何故襲われたのか。それに対するアンサーは無かった。考えたこともなかった。ヒーロー気取りで誰かの物真似を繰り返して今がある。
吸血鬼は悪なのか。それが龍一のもった疑問である。
中には良いやつもいる。例えば武情とカルマだ。2人は何故かつるんでいた。そして、何故か武情は自由になった。通じ合った仲だったのかも知れない。あの2人に答えがありそうだと思った。
ついこの間まで暑かったのに、気がつくと気持ちのいい涼し気な風が吹いている。景色が黄色く輝いて見える。龍一はふと、そんな秋の香りに気がつく。今まで考えていたことは、また後で考えてみよう。答えは出るだろう。そう感じた。
携帯電話を取り出して、地図アプリを見る。ここを左に曲がってしばらく裏道を直進か。
歩いていると、様々なものに目が行く。落ち葉だったり、雲だったり、影だったり。全部、ちょっと前とは色が違う。すっかり秋になっている。ふと、秋の模試のことを思い出す。龍一には夢がない。だから、大学に行くしかない。やりたいことを見つけることが出来ないから、次のステージに上がらなければならない。なんで勉強してんだろ。龍一は頭をかいた。俺の人生、楽しいことばっかで、つまんねえ。
ちょっと寒いくらいの風だ。龍一はそう思って、携帯電話ごと手をポケットに突っ込もうとした。その時、初めて気づいた。
携帯電話が手に張り付いている! 驚いて腕を降ると、剥がれた。接着していた面に目が行く。
「これは……」
携帯電話が凍りついている。凍ったことで張り付いていたのだった。
龍一はすぐに察する。やつだ。彼方と星子を瞬殺したあの吸血鬼だ。
「サテライト・メビウス!」
龍一は掌から、5機全てのサテライト・メビウスを展開し、
「さらに、サテライト・アイ!」
そう叫ぶと掌から出てきたのは、耳にかけて使うモノクル。スカウターのような装置だ。それをおもむろに片耳にはめて、戦闘態勢を整える。
全方位に精神をとがらせる。そして、何かに気づいた龍一は一直線に走り出した。
目の前にあるのは細い曲がり角。その曲がり道で足を止め、そのまま見もせずにサテライト・メビウスを構える!
「そこだ! 発射だーー!」
5機のドローンによる一斉射撃。しかしそこにあったのは、1枚の氷の板だった。
射撃に耐えきれずにビキビキとひび割れて、形が崩れる。まだまだ龍一は射撃を続ける。テンションが上がっていく。必ず倒す!
その時だった。氷の板を蹴破ってテラスが踏み込んできた!
「や、やべえ!」
目と目があった瞬間、龍一は右に跳んでテラスの特攻をかわした。バックステップを取って、距離を離してドローンの銃口を見せて威嚇する。
テラスと目が合う。凍てつくように鋭く冷徹な青の瞳。龍一は負けずと睨む。目の前の吸血鬼へと照準を合わせる。そして、龍一はテラスの手元へと2発発射した。
テラスが気づいた時にはもう遅かった。右腕に握っていたつららが砕け散る。そしてこの一瞬を、右手に気を取られた一瞬を龍一はきっちりロックオンしていた!
テラスが再び龍一の方を見ると、既に龍一はドローンを展開し、射撃体勢に入っていた。
「食らえ、テラス! サテライト・メビウス、発……」
腕へ不意に感じた衝撃に、龍一はうずくまる。さらに背中へ続けざまの衝撃に龍一は倒れ込んだ。その瞬間、龍一は腕を見る。そこには、1本のつららが突き刺さっていた。
そして理解した。頭上だ。頭上につららを作って待機していたのか! 気づいた瞬間にあおむけになり、サテライト・メビウスを頭上に発射する。何本かのつららは割れたが、2本のつららが龍一の腹を直撃し、1本が刺さってしまった。
「な、なんだと……」
倒れ込んだ隙を逃さず、テラスは龍一の元へ走り出す。龍一は立ち上がろうとするが、腹筋に力を入れると腹部に鋭い痛みを感じた。
「いてっ!」
一瞬、力が抜ける。そしてテラスはもう目の前に来ていた。
テラスは龍一を氷漬けにすべく、氷の能力アーク・ロイヤルを指先に溜め、龍一の腕を掴みにかかる。
しかし、テラスは腕を掴めなかった。ドローンの一撃を腹部に食らってよろめいた。
見ると、龍一の腹部からドローンの銃口がある。ジャケットの下に忍ばせて近距離で気付かれずに発射したのだった。
龍一はすかさず腹部のドローンを離陸させ、指をひっかけて上空へと逃げる。4機のドローンを招集し、頭上から再び攻撃を仕掛ける!
「行け、サテライト・メビウス!」
テラスはすぐに氷の盾を生成し、頭上に構える。太陽エネルギー弾は弾かれるも、じわじわと氷にダメージを与えていく。
龍一は1度体勢を整えて、盾の真ん中へと照準を合わせる。
「お前の盾じゃ遮れないぜ、俺のサテライト・メビウスは!」
一点集中の一斉射撃! 氷の盾は衝撃でひびが入り、大きく音を立ててぶち割れた!
目と目が合う。見上げるテラス。見下ろす龍一。
テラスはこの光景を目に焼きつける。この男がウィリアムと龍也の一族。何度でも楽園を邪魔してきた一族。その子孫だ。この男だけは吸血鬼の手で葬り去る。誰にも任せることは出来ない!
怒りに任せて両腕でマントに隠した何かを掴む。そこには、既に生成したつららがあった。冷徹に凍てつく瞳が、逆に龍一をロックオンする。
「げっ、まじかよ!」
完全に油断していた龍一は意表をつかれた。何段構えで戦ってんだ、こいつ!
「死になさい……白金」
右、左と腕を振り抜き、上空へとつららを投げ飛ばした。何個もの鋭いつららが龍一へと飛んでいく!
「く、くそっ!」
身をかわすべく龍一は、自身を釣り上げていたドローンのローターの稼働を止める。羽の止まったドローンは揚力を失い、重力にまかせて落ちていく。瞬間、つららが鼻をかすめていく。その時、龍一に真剣勝負のスイッチが入った。テラスを見据える。こいつが仲間を倒した強敵だ。何がなんでもこの勝負、勝ってやる!
ドローンを自分の元へ戻しながら着地点を見て、思わず
「嘘だろ……」
そう呟いた。そこにあったのは、1メートルほどの大きさの氷の針。このまま落下していけば、自分から突き刺さってしまう。
地上のテラスはさらに、龍一の右腕目掛けてつららを投げる。龍一は驚いて咄嗟に右腕を背中で隠す。瞬間、鋭い痛みを背中から感じた。
まだつららのストックがある。ならばこのままでは相当ヤバい。ドローンを起動すれば地上の針は避けられるが、またつららに串刺しにされて終わりだ。その逆、つまり起動しなければつららは1発ずつしか投げられない。しかし、地上の槍のような氷の針に串刺しにされてしまう!
コペルなら、星子なら、彼方なら、武情なら……こんな罠なら楽勝で切り抜けられるだろう。結局俺ってこんなんだ、そう龍一は思った。いつまで経っても誰かのフリして生きてるから、こういう時こそ駄目なんだ。
落下速度は着実に上がる。ブレた視界の先にテラスが見える。手に握ったドローンの感触が身に染みる。そして思い出す。俺が白金龍一であるということを。
白金龍一は何でもこなしてきた。勉強でも、運動でも、誰にも越えられないようなラインを軽々と超えてきた。その実、自分をよく見せようとして嘘をついた。名誉が欲しくて、悪い所は隠したまま、いい所だけを見せびらかした。自分を嫌ってなりたい誰かのフリをし続けた。
そんな龍一はいつも思うことがあった。こんなやつ、どこがかっこいいんだ、と。分かっていたが取り繕うことを止めることは無かった。勝ちこそがかっこよさだった。
だが今ならわかる。勝ち負けじゃない。例えばコペル。何回も負けているのに、かっこ悪いなんて思ってなどいない。それと同じように、勝ち負けじゃない所に白金龍一のかっこよさが存在している。しかも勝っちゃうのが白金龍一だ。
そうだ。俺が。誰にも超えられないこの白金龍一が負けるはずなど無い。さっき背中を向けたから、身体は上下逆さになってしまった。どうせもう手に持ったドローンは起動できない。
だが白金龍一だからこそ。誰にも超えられないラインで勝負なんかしない。誰にも真似出来ない方法で切り抜ける。そうやっていくのが俺らしいやり方だぜ!
逆さまのままドローンをテラスに向けて差し出す。テラスは冷静につららを1本握りしめる。
「こい! サテライト・メビウス!」
そう叫ぶと4機のドローンは龍一の元へと集まってくる。そして、うち1機が手に持ったドローンのアタッチメントにガチャリとハマり、連結した。
残りも電車のようにガチャガチャと連結していく。そしてグリップとスコープが展開される。5機のドローンは合体し、1丁のスナイパー・ライフルへと姿を変えた。
テラスの瞳が初めて揺らぐ。それとは対照的に、ライフルから真っ直ぐ伸びた赤外線の丸い点が胸元に映し出される。
「上手く意表を突くのは俺もだ! メビウス・インパクト・ファイブ!!」
トリガーを引く。瞬間、銃口から太陽エネルギーのビームが撃ち出される。衝撃で龍一の身体が後方へと飛ばされる。それほどに凄まじい威力の一撃が、テラスを襲う!
テラスはすぐに壁状に盾を張り後退する。しかし、瞬く間に盾は破壊され、一瞬前までテラスのいた場所にレーザービームが着弾する。
その風圧とエネルギーにテラスの身体は浮き上がり、後方へと吹き飛ばされる。破壊された氷の破片がテラスのマントを切り裂き、隙間から見える肌が太陽エネルギーに焼かれていく。文字通りの焼けるような痛みを味わいながら、テラスは地面を転がっていった。
テラスはすぐに穴の空いた腕を隠し、しゃがんだ体勢で前を見る。そびえ立つ氷の針が突如破壊され四散する。その先には罠を切り抜けて生き残った龍一が立っていた。
「俺、1個気がかりなことがあるんだよ、どうしても」
龍一はテラスを睨みつけて歩き出す。テラスはゆっくりと立ち上がる。
「俺ら本当は戦う必要なんかないんじゃないかって思うよ。楽園かなんか知らないけどな、人間に邪魔されない場所なんかさ、そんなもん探せばどっかにあるだろ」
龍一はライフルを分解し、ドローンを再展開する。
「でもな、お前は彼方の脚を砕いた。俺に塩送ってくれたぜ」
2人の瞳見据える。見上げる瞳と見下ろす瞳。
「丁度いいぜ。仇とってやるよ、彼方。この女ぶっ倒してな」
ニヤリと口角を上げる。そうだ。これが俺だよ。このカッコいい男が白金龍一だ。
テラスの瞳が、その奥の心が何を想うか。答えは勝ち負けの先にある未来だ。だったら掴んでみせるのが龍一だ。
一筋の風が吹き抜ける。龍一の髪を揺らして通り過ぎていく。その瞬間、5機のドローンをテラスへと仕向ける。
「勝負だ、テラス! 俺のインパクトで片をつけるぜ!」
「うん、行ってきます」
今日は日曜日。普通ならインターネット動画でも観ながら寝落ちして1日が終わるのだが白金龍一には向かわなければならない場所がある。彼方の家に皆が集まっている。そこに向かわなければならない。
彼方の家までは10分ほど歩けば着く。そこで皆とこれからについて話し合おうと考えた。
龍一は昨日、武情と2人で手に入れたプリントを思い出す。
吸血鬼の歴史、銀の弾丸とシルバー・ラーク……
吸血鬼の目的、楽園の実現、か……
龍一が思ったのは自分のおじに当たる男のことだ。名を白金龍也という。彼は20年ほど前、吸血鬼と戦った。ずっと昔から人知れず戦ってきた。だから、初めて吸血鬼に襲われた時、龍一は武器を手に取った。サテライト・メビウスは戦うための能力だ。2人もの吸血鬼を倒してきた。しかしだ。
大きな間違いがあった。何故襲われたのか。それに対するアンサーは無かった。考えたこともなかった。ヒーロー気取りで誰かの物真似を繰り返して今がある。
吸血鬼は悪なのか。それが龍一のもった疑問である。
中には良いやつもいる。例えば武情とカルマだ。2人は何故かつるんでいた。そして、何故か武情は自由になった。通じ合った仲だったのかも知れない。あの2人に答えがありそうだと思った。
ついこの間まで暑かったのに、気がつくと気持ちのいい涼し気な風が吹いている。景色が黄色く輝いて見える。龍一はふと、そんな秋の香りに気がつく。今まで考えていたことは、また後で考えてみよう。答えは出るだろう。そう感じた。
携帯電話を取り出して、地図アプリを見る。ここを左に曲がってしばらく裏道を直進か。
歩いていると、様々なものに目が行く。落ち葉だったり、雲だったり、影だったり。全部、ちょっと前とは色が違う。すっかり秋になっている。ふと、秋の模試のことを思い出す。龍一には夢がない。だから、大学に行くしかない。やりたいことを見つけることが出来ないから、次のステージに上がらなければならない。なんで勉強してんだろ。龍一は頭をかいた。俺の人生、楽しいことばっかで、つまんねえ。
ちょっと寒いくらいの風だ。龍一はそう思って、携帯電話ごと手をポケットに突っ込もうとした。その時、初めて気づいた。
携帯電話が手に張り付いている! 驚いて腕を降ると、剥がれた。接着していた面に目が行く。
「これは……」
携帯電話が凍りついている。凍ったことで張り付いていたのだった。
龍一はすぐに察する。やつだ。彼方と星子を瞬殺したあの吸血鬼だ。
「サテライト・メビウス!」
龍一は掌から、5機全てのサテライト・メビウスを展開し、
「さらに、サテライト・アイ!」
そう叫ぶと掌から出てきたのは、耳にかけて使うモノクル。スカウターのような装置だ。それをおもむろに片耳にはめて、戦闘態勢を整える。
全方位に精神をとがらせる。そして、何かに気づいた龍一は一直線に走り出した。
目の前にあるのは細い曲がり角。その曲がり道で足を止め、そのまま見もせずにサテライト・メビウスを構える!
「そこだ! 発射だーー!」
5機のドローンによる一斉射撃。しかしそこにあったのは、1枚の氷の板だった。
射撃に耐えきれずにビキビキとひび割れて、形が崩れる。まだまだ龍一は射撃を続ける。テンションが上がっていく。必ず倒す!
その時だった。氷の板を蹴破ってテラスが踏み込んできた!
「や、やべえ!」
目と目があった瞬間、龍一は右に跳んでテラスの特攻をかわした。バックステップを取って、距離を離してドローンの銃口を見せて威嚇する。
テラスと目が合う。凍てつくように鋭く冷徹な青の瞳。龍一は負けずと睨む。目の前の吸血鬼へと照準を合わせる。そして、龍一はテラスの手元へと2発発射した。
テラスが気づいた時にはもう遅かった。右腕に握っていたつららが砕け散る。そしてこの一瞬を、右手に気を取られた一瞬を龍一はきっちりロックオンしていた!
テラスが再び龍一の方を見ると、既に龍一はドローンを展開し、射撃体勢に入っていた。
「食らえ、テラス! サテライト・メビウス、発……」
腕へ不意に感じた衝撃に、龍一はうずくまる。さらに背中へ続けざまの衝撃に龍一は倒れ込んだ。その瞬間、龍一は腕を見る。そこには、1本のつららが突き刺さっていた。
そして理解した。頭上だ。頭上につららを作って待機していたのか! 気づいた瞬間にあおむけになり、サテライト・メビウスを頭上に発射する。何本かのつららは割れたが、2本のつららが龍一の腹を直撃し、1本が刺さってしまった。
「な、なんだと……」
倒れ込んだ隙を逃さず、テラスは龍一の元へ走り出す。龍一は立ち上がろうとするが、腹筋に力を入れると腹部に鋭い痛みを感じた。
「いてっ!」
一瞬、力が抜ける。そしてテラスはもう目の前に来ていた。
テラスは龍一を氷漬けにすべく、氷の能力アーク・ロイヤルを指先に溜め、龍一の腕を掴みにかかる。
しかし、テラスは腕を掴めなかった。ドローンの一撃を腹部に食らってよろめいた。
見ると、龍一の腹部からドローンの銃口がある。ジャケットの下に忍ばせて近距離で気付かれずに発射したのだった。
龍一はすかさず腹部のドローンを離陸させ、指をひっかけて上空へと逃げる。4機のドローンを招集し、頭上から再び攻撃を仕掛ける!
「行け、サテライト・メビウス!」
テラスはすぐに氷の盾を生成し、頭上に構える。太陽エネルギー弾は弾かれるも、じわじわと氷にダメージを与えていく。
龍一は1度体勢を整えて、盾の真ん中へと照準を合わせる。
「お前の盾じゃ遮れないぜ、俺のサテライト・メビウスは!」
一点集中の一斉射撃! 氷の盾は衝撃でひびが入り、大きく音を立ててぶち割れた!
目と目が合う。見上げるテラス。見下ろす龍一。
テラスはこの光景を目に焼きつける。この男がウィリアムと龍也の一族。何度でも楽園を邪魔してきた一族。その子孫だ。この男だけは吸血鬼の手で葬り去る。誰にも任せることは出来ない!
怒りに任せて両腕でマントに隠した何かを掴む。そこには、既に生成したつららがあった。冷徹に凍てつく瞳が、逆に龍一をロックオンする。
「げっ、まじかよ!」
完全に油断していた龍一は意表をつかれた。何段構えで戦ってんだ、こいつ!
「死になさい……白金」
右、左と腕を振り抜き、上空へとつららを投げ飛ばした。何個もの鋭いつららが龍一へと飛んでいく!
「く、くそっ!」
身をかわすべく龍一は、自身を釣り上げていたドローンのローターの稼働を止める。羽の止まったドローンは揚力を失い、重力にまかせて落ちていく。瞬間、つららが鼻をかすめていく。その時、龍一に真剣勝負のスイッチが入った。テラスを見据える。こいつが仲間を倒した強敵だ。何がなんでもこの勝負、勝ってやる!
ドローンを自分の元へ戻しながら着地点を見て、思わず
「嘘だろ……」
そう呟いた。そこにあったのは、1メートルほどの大きさの氷の針。このまま落下していけば、自分から突き刺さってしまう。
地上のテラスはさらに、龍一の右腕目掛けてつららを投げる。龍一は驚いて咄嗟に右腕を背中で隠す。瞬間、鋭い痛みを背中から感じた。
まだつららのストックがある。ならばこのままでは相当ヤバい。ドローンを起動すれば地上の針は避けられるが、またつららに串刺しにされて終わりだ。その逆、つまり起動しなければつららは1発ずつしか投げられない。しかし、地上の槍のような氷の針に串刺しにされてしまう!
コペルなら、星子なら、彼方なら、武情なら……こんな罠なら楽勝で切り抜けられるだろう。結局俺ってこんなんだ、そう龍一は思った。いつまで経っても誰かのフリして生きてるから、こういう時こそ駄目なんだ。
落下速度は着実に上がる。ブレた視界の先にテラスが見える。手に握ったドローンの感触が身に染みる。そして思い出す。俺が白金龍一であるということを。
白金龍一は何でもこなしてきた。勉強でも、運動でも、誰にも越えられないようなラインを軽々と超えてきた。その実、自分をよく見せようとして嘘をついた。名誉が欲しくて、悪い所は隠したまま、いい所だけを見せびらかした。自分を嫌ってなりたい誰かのフリをし続けた。
そんな龍一はいつも思うことがあった。こんなやつ、どこがかっこいいんだ、と。分かっていたが取り繕うことを止めることは無かった。勝ちこそがかっこよさだった。
だが今ならわかる。勝ち負けじゃない。例えばコペル。何回も負けているのに、かっこ悪いなんて思ってなどいない。それと同じように、勝ち負けじゃない所に白金龍一のかっこよさが存在している。しかも勝っちゃうのが白金龍一だ。
そうだ。俺が。誰にも超えられないこの白金龍一が負けるはずなど無い。さっき背中を向けたから、身体は上下逆さになってしまった。どうせもう手に持ったドローンは起動できない。
だが白金龍一だからこそ。誰にも超えられないラインで勝負なんかしない。誰にも真似出来ない方法で切り抜ける。そうやっていくのが俺らしいやり方だぜ!
逆さまのままドローンをテラスに向けて差し出す。テラスは冷静につららを1本握りしめる。
「こい! サテライト・メビウス!」
そう叫ぶと4機のドローンは龍一の元へと集まってくる。そして、うち1機が手に持ったドローンのアタッチメントにガチャリとハマり、連結した。
残りも電車のようにガチャガチャと連結していく。そしてグリップとスコープが展開される。5機のドローンは合体し、1丁のスナイパー・ライフルへと姿を変えた。
テラスの瞳が初めて揺らぐ。それとは対照的に、ライフルから真っ直ぐ伸びた赤外線の丸い点が胸元に映し出される。
「上手く意表を突くのは俺もだ! メビウス・インパクト・ファイブ!!」
トリガーを引く。瞬間、銃口から太陽エネルギーのビームが撃ち出される。衝撃で龍一の身体が後方へと飛ばされる。それほどに凄まじい威力の一撃が、テラスを襲う!
テラスはすぐに壁状に盾を張り後退する。しかし、瞬く間に盾は破壊され、一瞬前までテラスのいた場所にレーザービームが着弾する。
その風圧とエネルギーにテラスの身体は浮き上がり、後方へと吹き飛ばされる。破壊された氷の破片がテラスのマントを切り裂き、隙間から見える肌が太陽エネルギーに焼かれていく。文字通りの焼けるような痛みを味わいながら、テラスは地面を転がっていった。
テラスはすぐに穴の空いた腕を隠し、しゃがんだ体勢で前を見る。そびえ立つ氷の針が突如破壊され四散する。その先には罠を切り抜けて生き残った龍一が立っていた。
「俺、1個気がかりなことがあるんだよ、どうしても」
龍一はテラスを睨みつけて歩き出す。テラスはゆっくりと立ち上がる。
「俺ら本当は戦う必要なんかないんじゃないかって思うよ。楽園かなんか知らないけどな、人間に邪魔されない場所なんかさ、そんなもん探せばどっかにあるだろ」
龍一はライフルを分解し、ドローンを再展開する。
「でもな、お前は彼方の脚を砕いた。俺に塩送ってくれたぜ」
2人の瞳見据える。見上げる瞳と見下ろす瞳。
「丁度いいぜ。仇とってやるよ、彼方。この女ぶっ倒してな」
ニヤリと口角を上げる。そうだ。これが俺だよ。このカッコいい男が白金龍一だ。
テラスの瞳が、その奥の心が何を想うか。答えは勝ち負けの先にある未来だ。だったら掴んでみせるのが龍一だ。
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