毒にも薬にもなりたくないっ

新堂茶美

文字の大きさ
48 / 71

40.

しおりを挟む
「あっ! しまった……また忘れてた……」

「忘れてた?」

ビクリと跳ねたリエンナに、スイレンは青ざめた顔で縋り付く。

「大魔王がいるんです……」

「え?」

困った顔でスイレンの背中を擦るリエンナが夫を見る。
同じく困った顔の旦那さんがスイレンの肩に手を起き、優しく声をかけた。

「スイレンさん、一緒に謝りましょう。

リエンナ、着替えておいで……ミケラウス殿下とニール様が御見えだよ」

「大魔王に睨まれる……またお小言をチクチク言われるぅ。嫌だぁ」

「ミケ坊っちゃま……」




リエンナの夫の背後から、そっと客間を覗くとドス黒いオーラが充満していた。

「……ヒィッ」

「遅かったな、まさか私達の存在を忘れていたなどと言わないよなぁ?」

鋭い視線と真っ黒い笑顔がスイレンを突き刺し、胃をキリキリと締め付けているようだ。

「ミケラウス殿下、ニール様。お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「申し訳ありません!!!」

スイレンを詰めようとしたミケラウスがリエンナの夫が目元を赤くし、少し腫らしているのを見つけ、動きを止める。

「何があった……」

「妻の……不調を治していただきました……本当に、ありがとうございますッ」

涙声になるリエンナの夫に、2人はそれ以上、何も言えなかった。

やがて、スイレンとリエンナの夫の後ろから足音が聞こえてくる。
白いワンピースにストールを羽織ったリエンナが遠慮がちに夫の後ろから顔を出した。

ミケラウスは勢いよく目を逸らし、ニールが微笑みかける。

「リエンナさん、お久しぶりです。お元気そうで……安心しました」

「ミケラウス殿下、ニール様、ご心配お掛けし……お待たせしてしまい、その上このような格好で……何から何まで申し訳ありません。言ってくだされば私の方からお城へ参りましたのに……」

「頭を上げてくれ、身体に障る」

相変わらずそっぽを向いたままのミケラウスがすぐに答える。

一先ずリエンナを椅子に座らせ、御夫婦と向き合う形で、ミケラウスの隣に座ったスイレンはテーブルの下でその膝に置かれた拳の上に自分の手を重ねた。

「大丈夫です。もう解けてますから」

ビクリと跳ねたミケラウスがゆっくりと顔をあげ、正面のリエンナの視線と重なる。
目が合ったリエンナも僅かに顔を強ばらせた。
気付いたミケラウスが慌てて視線を逸らすが、スイレンの手を握りしめ真っ直ぐにリエンナを見る。


「ッ……すまない。私は、呪いのせいとは言え……いくらでも伝える方法はあったというのに、心を尽くしてくれているもの達を蔑ろにし、その気持ちを踏みにじった。私だけが苦しいのだと、誰もわかってはくれないのだと……確かに小さな私はリエンナに沢山の愛を貰っていたはずなのに。だから、寝る前や病に寝込んだ時、ふとした時にいつも私に声をかけるリエンナの笑顔が浮かぶんだ。長い間、苦しめて本当にすまなかった」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

処理中です...