上 下
2 / 13

隊長は異星人

しおりを挟む
 案内された扉のまえに立つ。
 アステルは強張った身体を緩めるように息を吐き、意を決してノックした。
 ガチャリとドアノブを回す。

「失礼します」

 奥の机で窓の外へ目をやっていた男が振り返る。
 後ろで一つに束ねられたダークブルーの長い髪。ロイヤルパープルの切れ長の目。
 彼こそ、隊長のメテオシュタイン・プエルトである。

「来たまえ」

 アステルはゆっくりと足を進める。
 組織の上に立つ者は多くが異星人で、メテオシュタインも例に洩れずそうだった。
 異星人といっても、見た目が大きく異なるわけではない。
 高い身長、この星の者にはない髪や目の色、氣質。それらが、自分たちとは異なる存在なのだと思わせた。

「君が来てから、討伐にかかる時間が大幅に短縮され、死傷者が減った。討伐隊に、よく来てくれた」

 アステルは小さくお辞儀した。
 
「生活のためだったな」
「……はい」

 死の恐れすらある討伐隊に志願して入る者の半分は、のっぴきならない事情があるからで。残りの半分は、ここで手柄を上げて、権威でも手に入れたいのかもしれない。

「出身は」
「G地区の、」
「いや。原初の森だ」

 断定のごとき強い口調に、アステルは思わず息を飲む。
 
「違うか? 君は "純血" だろう」

  この星本来のエネルギーのみを身体に宿す者を、彼らはそう呼んでいる。 
 今や、この星の大部分が彼ら異星人由来のエネルギーに満ちており、純粋なるこの星のエネルギーを保つ場所といえば、シールドを張り巡らせて守られている、原初の森だけだった。


 百年くらい前のことである。
 星に満ちるプラーヌと呼ばれるエネルギーを、固体化する技術が開発されたのだ。固体化し鉱物となったプラーヌは使い勝手が良く、プラネトリウムと呼ばれ、重宝された。
 時は流れ、次第に荒廃してゆく自然に疑問を抱く者が現れた。
 彼らの研究により、プラネトリウムから得られるエネルギーは、元のエネルギーであるプラーヌとは組成が異なることが判明する。

 それは僅かな違いのように思われた。
 しかし、それこそが、この星の終わりの始まりだったのだ。

 エネルギーは、この星を循環し続ける。
 プラネトリウムが普及して、変異したエネルギーの占める割合が元のエネルギーを上回るようになると、荒廃していた自然が嘘のように復活し始めた。
 以前のように作物がたくさん採れるようになり、人々は喜んでそれを食した。――変異したエネルギーを、体内に取り込むことになるとも知らずに。
 それが異なる星に由来するものだと気付くころ、異星人たちが飛来して、この星はあっという間に彼らの支配下に収まった。

 プラーヌをプラネタリウムにする素材には、隕石が使用されていた。
 異星人が、故意にこの星へ持ち込んだのだろう。
 しかし、それを利用する決断をしたのは、この星の人なのだ。

 星のエネルギーが支配されていく過程で自然が荒廃したとき、飢えた人々は攻撃的になり、これまでの調和のとれた美しい日常は露と消えた。それで、異星人が支配する土台が完成したというわけだ。
 異星人好みの競争社会や支配構造。
 順応することが出来るのは、そういった因子を持つ者のみ。平穏を望み、調和を好む種族であれば、適応できない。

 原初の森には、この星のエネルギーの源泉がある。
 そこに住まう者たちが、早い段階で気づいてシールドを張り巡らせたため、今でも純粋なこの星のエネルギーを保つことが出来ているのだ。そこに住まう者たちは調和を好む。
 つまり、異星人や、異星人風情のこの星の多くの人々とは、相入れない。

しおりを挟む

処理中です...