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第10章 初めての討伐 ラルトside

疑う事実と真実 2

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 そうしてラルトは、走った。
 ようやく"気がついた"ラルトの目の前には、魔獣グラピーが群れを引いていった森があった。そこは村から少し離れた小さな森。ミーラと出会った森に似てはいるがあの森よりもとても小さい印象のある森。ラルトが着いたその場所は、物すごく殺気立っていた。
 ラルトは、聖剣をと腰に手を伸ばすがそこに聖剣は無い。それもそのはず、グラピーのあの姿を見た瞬間からラルトは何も持たず全力で走ったのだから。
 ラルトは、もう終わりだと思ったし感じた。それと同時に「良かった」と思った。
 それは、ミーラの事を一番に考えここまで来たラルトが思うはずもない感情。
 彼は諦めたかったのだ。全てにおいて諦めただの人間として1人の人間として生きたいと心の何処かで願っていた自分の本当の気持ち。
 それに気づいてしまったラルトはもう遅い。
 気づいてしまった心はまるで海の底に埋もれてしまうかの様に暗く深く淀んで行く。

「俺を仇と思うならいっそ俺を…」

 1人の殺気立った森の中呟く声は誰にも届かない。誰も居ない誰も聞こえない森の中ラルトは心も身体も壊れてしまうように感じた。
 森の暗さと寒さだけが今のラルトを覆い尽くす。

 すると光を感じた。森の中あるはずのない光。
 ラルトは自然と光に手を伸ばす。縋るように…

 掴んだように感じた。右の手がそれに触れた気がした。それは冷たいが暖かいように感じる不思議な感覚だけをラルトに残した。
 そうしてラルトは森の中で倒れた。

「貴方はまだ生きなければなりません。彼女ミーラ様の為に、世界の為に貴方にはやるべき事があります。」

 そう暗闇の中。薄れゆく意識の中聞こえた。

 ミーラのため…そうだミーラの為。

「…ミ…ミーラ…お…れ…は…」

「…魔獣グラピーに仕える者達よ。この者と話がしたい。しばし時間をいただきたい。これは魔王ミーラの意思であり命令です。」

  この時ラルトの意識はすでに無かった。
 次に目覚めた瞬間ラルトの旅の目的が決意と覚悟を決める事になる。
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