叶わぬ願いと望まぬ結末

第14章 伝わる力と秘儀

父親の初めて見せた姿 2

　母ラルフは知っていたのだろう、父ガルフの笑顔を…娘を慈しむ心とこの暖かい笑顔を…

　ミーラは知らなかった。厳格な父、絶対なる魔王。ーーそんな面だけしか見ていなかった。
　だからミーラは驚いた、初めて見る笑顔に目を心が惹かれる。だが、同時に何故？と思った。厳格で狡猾な魔王が何故娘にこんな笑顔を向ける？いつも昔からずっと、娘に愛しさを感じていたが魔王である為に表に出せなかったからか？例えそうであっても何故今…この時？

　混乱状態のミーラをガルフはベットから立ち上がりゆっくり近づく。そしてミーラを深く抱きしめた。まるで今までをこのひと時に閉じ込めておくかのように。

「父…様？」
「っ…」

　ミーラの肩口にあるガルフの顔は見る見るうちに陰り大粒の涙で埋もれた。その涙により訳が分からなくなるミーラをガルフは何も言わず抱きしめる。
　その時ミーラは一つの答えを導きだした。

ーー父様も居なくなる…

　母様が居なくなった様に次は父様が居なくなる。だから、父様は最期だと娘に会い話せるのが最期だと…今日の笑顔は最初で最期…

　ミーラは、喉の奥が詰まる感覚に思わず耐えた。泣きたい、けれど私は泣かない。父様の決意に対して私が泣いてしまうのは余りにも情け無い…
　
ーーだから父ガルフの娘として

「父様、私に"最期の秘儀を"教えて下さい。」

「ミーラ…あぁ、分かっているのだな…すまない。…これが"最期"だ。ようやくラルフに逢いに往ける。」

「っ…はい。父、様。母様にミーラは頑張りますと」

「あぁ…」

　父様はより深く抱きしめてくれた。家族だから言わなくても伝わる事がある。だけれど家族だから言わなきゃ伝わらない事もある…

「父様…大好き」

「私もだよ、ミーラ。我が愛しい娘よ。私の、私達の大切な宝物だ。」

　そっとミーラは、大好きな父の背に腕を伸ばした。そうして、亡くなった母へも運んで貰う様により強くギュッとした。