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第14章 伝わる力と秘儀

父親の初めて見せた姿 3

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 その日ミーラは父ガルフの側から離れなかった。離れられなかった。この日が今日が終わるとまた"父"とは会えない。"魔王"に会えても、違う。
 それが分かったし、気付いてしまった。決定的な言葉は誰も言わない、分かっても声は出さない。出してしまったら今居る父が…困るから。母様も父様も居なくなるのは辛い。けれどそれぞれの覚悟と決意がそこには存在していた。だから今父様に言いたい事もして欲しい事も沢山あるけれど、聞かない。
 母様も私に何も言わなかった。何も望まなかった。例え自分が死んでしまっても…
 最後まで側に居て、微笑んでくれて、助けてくれた。そんな母様を知っている父様だから、唇を噛み締めながらも、ミーラを離さない。そして母様の様にこれから自分が何をするのかなんて言わない。

 そうして父様の腕の中でミーラは、父の最後ともなる呟きを聞いた。

ーー魔王は魔王の義務と意思がある。
ーー家族は家族の絆がある。

 例え離れて居ても、家族を感じられなくても側に居なくても大丈夫。私達は一本の絆で繋がっている。だから、一人じゃない。

 そう聞こえ、そんな風にミーラは大好きな父から感じた。ミーラは父の胸に涙を零した。
 「ありがとう」じゃ足りないくらいの感謝と「大好き」では足りないくらいの誇らしい気持ち。この全てが伝わるだろうか?言葉足らずの父や母に伝わるだろうか?最期だから伝えなきゃ本当はいけないと思う。けれど…

ーーどうか、どうか…

ーーこの人達を助けて…

 "力の無い"自分だからわかる。
 例え"力"があってもそれは多分意味がない。そんなのじゃ無くて、もっともっと早くに誰も近づけない様な力が絆が有れば… 
 この未来は変わるだろうか?
 私が魔王の娘じゃなく、勇者だったら。

ーー救えるだろうか?

 娘の嗚咽をその胸に抱き、溢れる涙を感情を父は受け止めた。泣き止むまで。今日が終わるまで。ずっとずっと、出来なかった父の思い。

 そして、呪文を授けた。

"炎の中に 我が身を そして彼の地へ 絆は祈り 祈りは誓い かの者を 愛しき者へ 今授けん"
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