叶わぬ願いと望まぬ結末

第16章 笑顔のラルフ

使用人ゼーラルと人間ラルフ 1

　ある日突然ラルフ様からお呼びがかかったゼーラルはラルフの元に渋々といった様子で歩みを進めた。
　何故ならゼーラルにとってこの頃のラルフは、未だ見知らぬ人間でしか無かったのだ。
　ゼーラルは初めてラルフを人間を見た時に自分達とは違う存在に恐怖と苛立ちを感じていた。そんなゼーラルを使用人にしたのは現魔王ガルフの父だ。

「何故、人間なんかを…」

　ゼーラルにとって不愉快でしか無かった。どうせならまだ何も知らない新入りにでも任せれば良いのに！といつも心で苛立っていた。
　だが、そんなゼーラルも今では渋々仕事をしている。何故なら魔王様の意思に反対なんか出来ないからでもあるが、その魔王が"頼む"と頭を下げたからだった。
　魔王直々に頭を下げて願われた事は未だかつて無かったらしい。そんなに期待をされているなら何か理由があるはずだとゼーラルは思い、嫌々ではあるが仕事として毎日を過ごしていた。

　そんなゼーラルに対して、人間であるラルフは他の魔族から煙たがられているのにも関わらずいつも笑顔でいた。
　廊下ですれ違う魔族の使用人や給仕係達、果ては魔族達を守る騎士隊にまで顔を出し毎日笑顔で過ごされている。
　泣いた姿すら側で仕えるゼーラルは見たことすらない。そしてそんなラルフを魔族達は少しずつ受け入れ始めた。

"笑顔のラルフ"

　と呼び名が付く程に浸透した。人間がそこまで悪い存在とは思わないとまで噂されるようになったのだ。
　だが、まだゼーラルはラルフを認めはしなかった。

(気を抜いてはいけない！まだ、真っ白とは言えないのだ！魔界に波乱を持つ奴かもしれないのだから、私が見極め無くてはいけない！)

　いつになっても、気軽に話しかけるラルフを余所にゼーラルは全く気を緩めなかった。