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第16章  笑顔のラルフ

使用人ゼーラルと人間ラルフ 6

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 ゼーラルは、ラルフの手を握った。
 ラルフの手は握り返す力すらない。ただただ、呟く。何度も何度も自分より子供達を心配するラルフにゼーラルは何も返せない。
 「大丈夫だから」や「助けますから」なんて気の利いた言葉の一つや二つこんな時に言えれば…と思っても何も出てこない。これがゼーラルの限界なのだと自身に自覚させられた。
 そんなラルフと子供達を未だ魔物達は餌と思って森の中を彷徨い歩く。だからこそ、ラルフが子供達を魔物から守ったように今はゼーラルがラルフ達を守り援軍が来るまでの時間を稼がなければならない。しかし、ラルフは動けず、体力も魔力もない為話す事も出来ない。このままだと意識すら戻らなくなるかもしれない…
 焦るゼーラルに追い討ちをかけるように森中は魔物達の唸り声や魔力が渦巻く。その気配は、みるみる内にゼーラル達に近づく。魔物は強い魔力を持つ者達に引かれ集まる。
 今のゼーラル達は久々の獲物なのだ。
 そんな時、ゼーラルは一か八かの手に出た。

「守護結界展開、時間退行魔法、時間治癒魔法開始…今、何とかします‼︎」

 守護結界をラルフ達の周りゼーラルを囲う様に展開した。万が一魔物達が来た時少しでも時間を稼げる様にする為だ。
 そして時間退行魔法。これはゼーラルにしか出来ない時間魔法。
 今のラルフ達の怪我の侵襲スピードを遅らせなるべくリスクを低くする為の魔法だ。だが、この魔法はこの時のゼーラルにはある一部の時間操作しか出来ない為危険はあった。
 そして最後の時間治癒魔法。一般的な治癒魔法を使える者は数少ない。そんな中ゼーラルが使える魔法の中での唯一の治癒魔法。普通の治癒魔法よりかなり時間はかかるが応急処置にしかならないけれど使える魔法だ。
 だが、この三つの魔法を使用した事でゼーラルの魔力が危ないのは確実だ。
 ゼーラルには自分の魔力より大切なのだ。それでもしなくてはいけないと必死にゼーラルは魔法を使い続けた。
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