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第16章  笑顔のラルフ

使用人ゼーラルと人間ラルフ 5

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 ゼーラルは、目の前の光景に目を見開いた。
 子供達がライガルに襲われる直前、光がライガルを貫いた。子供達は眩い光と恐怖に意識を失い倒れたが、その光の先にラルフ様が立っていた。
 そう、ラルフ様が子供達を救う為に力を魔法を使ったのだ。しかし、ラルフ様はゼーラルと目を一瞬合わせただけですぐに倒れた。

 ゼーラルはラルフを子供達の側に運び、離れて震えていた子供達と意識を失い倒れてしまった子供達を囲う程の大きな障壁を広げた。幸い子供達に傷も無く小さく息をしているくらいに安静な状態だった。が、やはりラルフ様だけが、力を使った代償として体力も魔力も全てがギリギリの状態だった。
 息をするのもやっとなくらいだ。
 そんなゼーラルに1人の魔族の少年が言った。

「僕たちの魔力があれば、おねぇちゃん助かる?」

「それは…」

「おねぇちゃんは、僕たちを助けてくれた。だから!」

 少年の言う事は、現実には可能だ。ただの人に魔力を分ける事は難しく、下手をすれば死を意味するが、ラルフ様は人であって人ではない存在だ。負担は両者共少ないだろう。
 だが、それでも救えるかなんて言えはしない。下手をすれば片方が死んでしまう可能性だってあった。
 ゼーラルは、唇を噛み目を伏せた。
 ゼーラルにとっては人間ラルフをどれだけ民が王が崇めようと弱く非道な人間にしかやっぱり感じられないのだ。だから、ゼーラルの時を戻す魔法は使いたくは無い。
 そんなゼーラルに少年は何も言わずにずっとラルフの動かない右手を握って離さない。
 すると、ラルフは小さく呟いた。

「子供…達…は、無…事……か…し…」
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