本より好きになれるなら

黒狼 リュイ

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第2話

不穏な手紙と穏やかな空間

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 ある日、本屋に定期的に配達している男の人が訪れレミーは母さんの代わりに母さん宛の手紙を受け取った。…受けとらない方が良かった…今ならそう宣言できる。
 差出人は父さんだった。私は、母さんに宛てられた手紙ではあるが嫌な予感と母さんに渡したくないという気持ちが先行してしまった為に無断で手紙の封を切った。

”我が娘、レミーを伯爵家次男ザッティス・ト・バーンに譲る契約を交わした。よって明日、伯爵家次男ザティス様が婚約者としてレミーを迎えに行く予定である。丁重に迎えいれ、送り出すように。また反対は受け付けない。
ーー侯爵家 当主 ディラスト・アリッサ”

 正直…私はこの手紙を破り棄ててやろうかと考え手に力を込め引き裂こうとした。が、しなかった…
 手紙は一枚では無かったからだ…
 中に入っていたのは一枚の契約書。

【レミー・ロアーをバーン伯爵家に未来の妻として迎い入れる。
 その際、元侯爵令嬢であったレミーの父であるアリッサ侯爵家現当主ディラスト・アリッサには寄付と今後の身の上を守る為の後ろ盾となる書状を贈る。】

「…くっ…あのやろうっ‼︎人を…娘を売りやがった…」

 レミーは、怒りのままに拳を握りしめ側にあった机を殴った。
 ゴンっガタンっ…チリン。
「くっ…!!」
(なんで、もう居ない奴にまた…私達が苦しめられなきゃいけない…)チリン。

 すると、本屋のカウンターに置いてある呼び鈴が何度も鳴っている事にようやく気づいた。
 鳴らして居たのは1人の男性。
 キラキラした金髪で瞳は蒼色の聡明そうな青年。
 
「やぁ、こんにちは。レミロア、今日も来たよ。」
「あっ…あぁ、こんにちはハルー。今日は何?」

 彼は、ハルー。私を愛称レミロアと呼び(本名を言った日からハルーが勝手に付けた愛称)親しい間柄ではある。彼は、ロアー家がこの本屋を営む事になった日からずっと通ってくれている唯一のお客様だ。
 
「新しい本が入っていないかと、レミロアのおすすめを聞きにね。」
「そう。なら少し待って」
「分かったよ。なら椅子借りて座って待ってるね。」
「えぇ、今持ってくるわ。」

 彼と出会ったのは、この本屋に住む事になった初日。管理を適当にされていたのだろう。本はそれぞれ古かろうが新しかろうがバラバラ。古い本は埃を被ったり帯は千切れたり大変だった。
 そんな日私は何冊か腕に抱え店の前に天日干しをする為運んでいた。この日母さん達は修復の為の材料を買いに近くの店へ買い出しに行っていた。

「…ほっ。よいしょ…ふぅ…」
(あと半分くらい…多いわね。…いよっ!)

 私は早めに終わらせようと一気に15冊もの本を持ち上げ運ぼうとして店の扉を出た。

 ドンっ!バサッ…
「うっ…」
「あっ…」

「「ごめん」なさい」
 この時前方不注意の私が悪かった。目の前の人にぶつかった事に気付いたのは抱えた本が衝撃に耐えられず地面に叩きつけられた瞬間だった。
 自分より大きな胸板に私ごと本がぶつかった。すると目の前の人は、本を拾おうとする私の両肩に手を当て私の体に傷が無いか確認しだした。
 私はこの時頭には本しか無かった為呆然と立ち尽くしていた。

「良かった。大丈夫そうだね…」
「そんな事より!本はっ‼︎」
「え?あぁ、本…」
「あぁ、少し砂利が付いたくらい…なら良かったわ。気をつけてよね⁈私も前が見えてなかったから悪いわ。でも貴方は前が見えてたわよね?なら避けてちょうだいよ‼︎」
「あっ…ごめん」
「謝罪は要らないわ。早く退いてちょうだい。」
「あっ…」

 私は彼を押し退け本を一冊ずつ拾い上げ砂利を丁寧に服の裾で拭きながらハンカチを地面に広げ積み上げていく。それを見た彼は、クスッと笑い「俺も手伝うよ。」と私と同じように本を丁寧に綺麗にしてくれた。
 そして、落とした本もまだ棚に残っていた本も彼は私と一緒に綺麗にする為、手伝ってくれた。
 一通り終わった後、私は彼に名前を聞いた。

「俺は…皆んなから”ハルー”って呼ばれているからハルーって呼んで。君は?」
「私は”レミー・ロアー”よ。好きなように呼んでハルー。」
「じゃぁ、”レミロア”なんてどうだい?俺だけが呼ぶ君の愛称。どう?」
「…”好きなように”って言ったはずよ。構わないわ。」

 そしてこの日からハルーは、毎日のように店を訪れ私に最近見つけたものや面白かった事などを話すついでに、本を何冊か借りたり私からおすすめを聞いて借りて読んだりした。
 そして借りた次の日や2、3日の間にまた店を訪れ私に本の感想を聞かせてくれた。
…ほんとマメな人。私の印象は初めは邪魔や鬱陶しいと思っていた時もあったが、今は私にとって”そんなに嫌じゃない”印象に変わっていた。

「この間の本は興味深い内容だったよ!」
「そう。」

 にっこりと笑顔で話す彼とそれの話しを心地よく聞く私。
 最近ではこの空間を私は、いつからか穏やかに感じていた。
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