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柊彩 藍

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偽りの可能性

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 黒い狼は、残酷にも蒼太の存在を知るものの前で殺された。それもあまりにひどい状態で。そこに残された痕跡と言えば飛び散った血肉であろう。どれも、それを見ただけで蒼太と判断できるものはなかった。その場にいたものは複雑な気持ちを抱えた。命を助けられた事に対する感謝と、仲間を目の前で殺された怒りや憎しみを抱えていた。しかし、ただでさえ手も足も出なかったのに、その蒼太を一瞬にして肉片に変えるほどの強さを持つ相手に武器を向ける勇気すら出てこなかった。そして、誰もがその狼を前に見ているしか出来ないうちに、狼は黒雲の中へと消えていった。やがて、黒雲は晴れ清々しいほどの日光が何もないさら地に降り注いだ。
 
 一度writerSに戻り事後処理を行った。が、目の前で仲間を殺された光景が目に焼き付いてしまってなかなか作業に手がつかない。それは、その光景を実際に見ていない志穂も同じであった。志穂は、なんとなく屋上へ登った。
 「うん、うまい」
 インスタントコーヒーを手にただ風景を眺めていた。別に何を考える訳でも、何を思う訳でもない。ただボーッと時間が過ぎるのを感じていた。しかし、頭の中を空っぽにしても時々頭に出てくるものがある。それは蒼太の事である。志穂は、短い間ながらも蒼太の事を大切に思っていた。これまでいた仲間のように。さらには、ボスの命令とは言え、蒼太の監視を任されていたのだ。それなのに、蒼太の何かに気づいてやれなかったことへの後悔と罪悪感がどうしても拭えなかった。一番、見ていたものとしてどうしてもそれを考えずにはいられなかったのだ。何か見落としがあったのではないか、些細な変化を見逃していたのではないかと、ただただそれを繰り返すばかりだった。次第に、目に涙が浮かんできた。
 「泣いていいのはやることをやったやつだけだろ。こんな私にそんな資格ないのに……」
 志穂は、しばらく屋上で座り込んで泣いていた。手に握りしめたホットコーヒーが冷めてしまうまで。志穂は、これからの事など考える気にもなれなかったのでしばらくこの仕事からおろしてもらおうと考えていた。こんな心境では他の人に迷惑をかけかねないと。だがすぐにその考えは変わった。志穂は、屋上の柵に何か紙が引っ掛かっているのを見つけた。そしてその紙に引かれるように手をとった。そこにはこう書かれていた。
 『過去にしか真実は存在しない。過去は、事実のみをさらす。それに代わりなどない。現在は、事実を生み出す。しかし、ある日を境にそれは変わってしまった。目の前で起こる現実が偽りを産み出してしまった。』
 言葉の選び方からして絶対に考えられない書き手が頭に浮かんだ。
 「蒼………太…?」
 志穂自身も自分で何を考えているんだと思った。そんなバカげた話があるはずがない。実際にその光景を見たわけではないがそれを見たものからの話を聞いたのだから。死者からのメッセージなどあり得ない。この書き手が蒼太である前提と考えてこれを書いた時期はそれよりも前だということになる。しかし、そこに志穂は違和感を覚えた。これがもし蒼太が書いたとするならばまだ自分は死んでいないと解釈することが出来る。蒼太が、死んだという偽りを現実が産み出したと。ならば、これをここにおいたのは志穂がここに来る少し前でも可能だ。志穂は、一度自分のラボに戻って蒼太のデータを見直した。すると、見落としていた可能性を拾い上げることが出来た。それぞれは、大したことのない情報でも繋げればまた、別の可能性が出てきた。まず、蒼太に繋いでいた魔力のパスが切れた時の状況について。志穂は、蒼太自身がたったのだと思っていた。しかし、そのときのデータを詳しく調べると部分的に切ったり繋げたりを繰り返していることが分かった。まるで、何かを探っているように。蒼太の事だから魔力のパスに気づいていたとすると繋いでいるのが志穂だということには気づいていただろう。だとすればそのように調べる必要はない。そのまま切ればいいだけだ。しかし、誰に繋がれているかも分からない状況ではそうもいかない。もし、それが何かの仕掛けだとしたら蒼太自身に被害が及ぶという可能性を考えられる。その事から恐らく蒼太の事を気遣った誰かが解除したと考える方が可能性が高くなってきた。さらにまた、別のデータからもそれが想像できた。魔力のパスが切れる数分前に蒼太の活動が停止しているのだ。眠っているに近いが魔力の痕跡があったため強制的にそうさせられているのだろうが。これも魔力のパスの解除をするための前段階として判断することが出来る。だとすれば蒼太は誰かに匿われている可能性があるのではないかと志穂は考え始めた。
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