クロスフューチャー

柊彩 藍

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6章~正義の制裁者~

曇る思い

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 「なあ、少し聞いてもいいか?」
 おじさんの話を聞いて帰って来たハルトは、アルビオンと蓮を呼んで話を持ちかけた。
 「どうした、そんなに改まって。」
 「答えられることなら何でも。」
 二人はこの時あることを思い出していた。それは、クルーピエでの出来事である。ハルトが、自分自身の気持ちを失ってしまった時のことだ。なぜ今それを思い出したのかと言うとそのときの表情と、今のハルトの表情がそっくりだったからだ。あのときのように自分を見失っているわけではないとは思うが何かしら悩んでいることなのだろうと思って力になりたいと思った。
 「聖帝戒についてどう思う?」
 二人は正直に自らの気持ちと考えを打ち明けた。そして、それをハルトは、真剣に耳を傾けていた。
 「俺は、正直あいつらのことは許せないし、倒すべき悪なんだと思う。それは、迅を殺されたからっていう理由もあるし勿論それが一番の理由だけどシルヴァヌスでの事からも考えられる見たいに他のところでも許されないことをたくさんやってきていると思う。だから、俺はいずれあの組織を倒したいと思っている。けどまあ、ハルトが手を出すなって言うなら俺はそれに従う。理由には、よるけど俺はお前に着いていくって決めたから。」
 「俺は、蓮とは少し違う。完全に憎むことが出来ない。勿論、蓮をあんな体にしたやつらとかシルヴァヌスを襲ったやつは許せないし、憎めない訳ではない。けど、はっきりとは言葉に出来ないけど、ハルトを狙っていたあの銃使いの人は、少し違う気がする。これは俺にしか感じれないかもしれないけどあの人には悪意というものを感じなかった。むしろ善意とか、不安、罪悪感とかが伝わってきた。もしかしたら話したら何か理解出来るところがあるんじゃないかって思ってる。」
 二人の意見を聞いて、ハルトは自分の考えも述べた。
 「俺ははじめは悪いやつだとばかり思っていた。実際悪いことはしているし、それを許せない気持ちは本当なんだと思う。けど、今日の話を聞いて俺はそれがわからなくなった。聖帝戒は本当にこの国の英雄だったんだ。お飾りでも、偽りでもない。それを聞いたときに素直にすごいと思った。だからこそ聖帝戒を俺はどういう目で見ているのかが分からなくなった。俺が二人にあんな質問をしたのは少しでも整理がつくかと思ったからだ。」
 ハルトは、まだ何かモヤモヤしているからと少し夜の町を散歩してくると言った。
 すると暗い道をほのかに照らす街灯が、ある人物をうつした。
 「あぁ、君この前はありがとう。」
 亡霊が現れた時にあとから駆けつけてきた人だった。
 「いや、結局なにもできなかったので…」
 「それでも、あれ以上ひがっ…」
 ハルトはとっさに胸ぐらを掴んで後ろに投げ捨てた。
 「な、なにをするんですか!」
 「うるさいちょっと黙ってろ死ぬぞ!」
 そのハルトの言葉でようやく状況を理解することが出来た。自分の番が来てしまったのだと。
 「いやぁ、素晴らしいいつから気づいていたんだ?」
 ハルトは静かに警戒しながら答えた。
 「お前がナイフを抜いた直後だ。ナイフを研いできたのがダメだったな。反射で見えた。お前が割と几帳面なやつで助かったよ。」
 「なるほど、だったらこれは予想出来ていないんじゃないか?」
 ハルトは、身動きが取れなかった。
 「糸か…」
 細い糸が無数にハルトに絡まっていた。力で引きちぎろうと試みたが、硬く細いその糸は無理に引きちぎろうとすると体に食い込んで肉を裂くような作りだった。
 「それは特殊な鉱石を魔法で無理やり糸状にしたものだ並の力じゃまずちぎれない。それに千切れるほどの力があったところで肉が先に切れる。」
 スタスタと、亡霊は警備員のもとへと歩いていく。警備員は恐怖からまともに逃げることが出来ていない。そして、警備員の肉に刃を立てたその時、三回の銃声が響いた。亡霊はすぐさま退き銃声の方を睨んだ。
 「偽の英雄か…」
 「私のことなどどうでもいい。貴様はこの国に害をもたらすもの、ならば消すまで。」
 「流石に手練れ二人はきついか。引き時だ。じゃあな」
 亡霊は闇に身を隠した。
 「時間稼ぎご苦労。」
 「お前これをほどけ」
 「自分でどうにか出来るくせになにを言っている。私を引きずりだすためにあえてそのままでいたのだろう?」
 ハルトは糸をテレポートで飛ばした。
 「じゃあ俺はもう戻るし。ちゃんと守ってやれよ」
 ミシュリは、ある質問をした。
 「なぜこいつを助けた。貴様はどちらかと言うとああいう類いの人物ではないのか」
 「あれと一緒にするな、俺はただ手の届く命は拾いたいだけだ。目の前で命が失われるほど悲しいことはないからな。」
 ミシュリは、分からなくなった。聖帝戒から教えられていた情報とハルト自身の言動が異なっていたからだ。
 「なんなんだあいつは…」
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