乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン

文字の大きさ
8 / 53

転生はオプション付きでした

しおりを挟む
 私がお父様の魔法ローブを切り裂いてしまった事件から、三日後。
 私は、プロテッツィオーネ王国の魔法教会に来ています。
 ソレイユ学園で毎年魔力測定をしていた。
 その時に測定した資料は、その生徒の出身国に送られ、その国の魔法教会に保管される。
 魔力測定は、5歳の頃にはじめの1回をして、魔力があるか調べる。
 というか、この世界は大体の人が魔力を持っていて、その魔力が規定以上あったら、身分関係なくソレイユ学園へと入学する。
 希に、歳を重ねるごとに魔力が強くなっていって、暴走させてしまう人がいる。
 そういう人は、何か特殊な加護などがついている事が多いらしい。
 そういう資料が保管されていて、歴史に名を残すようなことをした人以外の資料は、その人物が亡くなった後は、その人物に関する資料は、処分する。
 情報の流出を防ぐためらしい。

「ディーオ?大丈夫かい?」
「え、ええ。大丈夫ですわ。お父様」
 私はボーッとしていたみたいで、お父様に心配そうな顔で声をかけられた。
 慌てて笑顔を作り、大丈夫だと返事をした。
 実際は全く大丈夫ではない。
 今は、魔力測定の準備のために待たされている最中だ。
 前世でも苦手だった、こういう待ち時間。
 例えるならば、健康診断とかで、結果を待っているような感覚だ。
 胸の動機が凄すぎる。
「ディーオ・アンジェロ様。準備が終わりました。こちらへどうぞ」
「は、はい」
 神官の服装をした人に先導されながら、教会の奥へと進む。
 しばらく進むと、大理石のような壁で囲まれた部屋に入った。
 部屋の中は、建物の中なのに明るく、中心には太い柱がいくつか円状に立っていて、その中に、水晶のような物が浮いていた。
 その水晶には見覚えがあった。
 魔力測定用の水晶だ。
「それでは、水晶に触ってください」
「はい」
 私は、おそるおそる水晶に触れる。
「っ!」
「「うわ!」」

 結果から言おう。
 私はチートになった。
 私が水晶に触れた瞬間。七色と言っていいかもわからないほど、様々な光が水晶から放たれた。
 思わず水晶から手をすぐに離したが、すぐには光は収まらず、しばらく光り続けた。
 光が収まったら、すぐに神官はなにか叫びながら部屋を出ていった。
 その後、すぐにヒゲを生やした神官の服装の人が来て、熱をはかられたり体はダルくないかなど聞かれたが、私は大丈夫だった。
 さらに言うなら、水晶を触る前より気分というか、体が軽くなったような気がする。
 すぐに私の魔力測定の資料ができた。
 苦笑いしながら神官は、その資料を私に見せてくれた。
  魔力量  ・測定不能
    魔力    ・測定不能
 適正魔法・測定不能( 全能神の加護 )
 とまあ、全てが測定不能だった。
 しかも、全能神の加護とかいう奴は、私しか見えないようにしてある。
 神官が苦笑いする意味が分かった。
 私の横にいて、私の資料を見たお父様も、「これは‥‥」とか言って、驚いてるよ。

 家に帰ってすぐ、私は自室のベッドに飛び込んだ。
「‥‥チートとか、もっと早くわかりたかったわー」
 そうすれば、ソレイユ学園を追い出される他に、道があったかもしれないのに。
 今更後悔しても遅いことは分かってる。だけど、後悔してしまう。
「‥‥はぁー」
「お嬢様。ため息をすると、運気が逃げますよ?」
「うわあぁ!いつの間にいたの!?」
 いつの間にか、ルルンが私のベッドの横にいた。
 何?ルルンさんは、忍者かなにかなの!?それとも何?ルルンさんの固有スキルかなんか!?
「‥‥お嬢様。すべて声に出ております」
「え、マジ?」
「大マジです。それと、わたくし達使用人は、これぐらいは普通です。固有スキルなど、希少なものを私が持っているはずないではないですか」
 無表情でそうルルンに返されると、少々心が傷つく気がする。
 ま、あくまで傷つくだけだけどね。
「あ、何かようだった?ルルン」
 何か言いたげな目をしているので、私がそう聞くと、ルルンは「‥いいえ」と答えた。
「そう。ルルンちょっと悪いけど、私を1人にしてくれない?考え事をしたいの」
「嫌です」
 ルルンはキッパリそう言った。
 私は顔を上げ、ルルンを睨んだ。
「なんでよ!私は1人になりたいの!今すぐ出て行って!!」
 普段の私でないのは、自分でわかってるつもりだ。
 けど、何故か苛立ってしょうがない。
 ただたんに、ルルンに八つ当たりしてるだけだ。だけど、ルルンにあたってしまう。
「嫌です」
 またも、ルルンに断られた。
「‥‥なんでよ‥なんでよ!出ていって!さもないと‥‥魔法で強制的に外に出すわよ!」
「お嬢様を今1人にしたら!お嬢様が壊れてしまいそうで怖いんです!お嬢様がどこかに消えてしまいそうで怖いんです!!」
「っ」
 ルルンが無表情を崩し、顔を歪めて本気で怒ってきた。本気で自分の気持ちを私にぶつけてきた。
 私は、ルルンの息切れしてまで言ってくれた、ルルンの本気の気持ちに、呆然としてしまった。
「‥‥何言ってるのよ‥‥‥私がいなくなるわけ‥‥壊れるわけないでし」
「なら、なんで‥‥なんでお嬢様は涙を流していらっしゃるのですか」
「え」
 私は自分の頬を触れてみた。
 すると、指先が濡れた。
 自分で泣いていると自覚すると、どんどん涙が溢れてきた。
 拭いても拭いても。どんどん溢れてくる涙。自分の力では止めることも出来ず、ただ涙を拭うことしか出来なかった。

「‥‥お嬢様。これをどうぞ」
 私の涙が収まってきた頃、ルルンが蒸したタオルを持ってきてくれた。
 私は無表情に戻ったルルンからタオルを受け取り、目元に当てる。
「ねぇ、ルルン」
「はい」
「ルルンは‥‥っ」
 怖い。
 この続きを言って、もしもルルンに嫌われたらと思うと、怖くてしょうがない。
 言葉に詰まっている私を見て、ルルンは私の背中をゆっくりさすり始めた。
「‥‥ゆっくりで大丈夫ですよ?私はお嬢様の側にいますから」
 ルルンの言葉にまた涙が出た。
「う‥うっ‥‥でも‥こわ‥‥いの」
「大丈夫です‥‥大丈夫」
 ルルンは小さな子供をあやす様に、私を落ち着かせた。
「‥‥‥ルルンは‥ルルンは!‥‥‥私がでも‥‥そばにいてくれる?」
 魔力測定の結果、私は自分が『チート』であることを知った。
 『チート』は、何でもできる。
 下手したら、この世界の規律を崩して、世界を滅亡に向かわせるかもしれない。
 そんな小説を、前世で見たことがある。

 そんなの嫌だ。

 前世のアニメや小説なら、主人公は簡単にその力を制御して、いい方向に使っていた。
 でも、私は制御できる自信が無いのに加え、ゲーム内の悪役令嬢。
 ここから先どうなるかわからない。
 もしも悪用されるようなことがあれば、私はどうすればいい。
 自分の力が怖くてしょうがなかった。
 婚約者のアインハイトは、もうそばにいない。
 私に優しかったブランシュ様もいない。
 家族に頼るとしても、お父様は王宮に使えている。もし何かあった時のことを考えると、頼れない。
「‥‥お嬢様」
 私は、震えている体を少し飛び上がらせ、ルルンを見た。
 ルルンこちらをまっすぐ力強い目で見ていた。
 もし、ルルンに私のそばを離れられたら、私はそれこそ1人になってしまいそうで怖い。

 もし‥‥もしも‥もしも!拒否されたら‥‥

 でも、私の心配はルルンによって裏切られた。
「‥‥私は、お嬢様がもし今の姿からどんな風に変わってもそばにいます。どんなことがあっても。何があっても!お嬢様のそばを離れません」
 ルルンは、私の心配をいい意味で裏切ってくれた。
「‥‥本当に?」
「はい」
 私が聞き返すと、ルルンは頷きながら返事をした。
「‥‥‥嘘じゃない?」
「お嬢様にこのような嘘をついてどうするんですか」
 ルルンが笑った。
 私はこの笑顔を知っている。
 ルルンが私付きのメイドと決まった時の笑顔だ。
 私はまた涙が流れ出した。
 私‥‥最近泣きっぱなしだな~っと、思いながら。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「‥‥もう少し‥‥‥もう少しだけ。お願いします!」
 教会の中で1人。祭壇に向かって拝み続ける男がいた。
 男は必死な様子だった。
「‥‥‥あの方の心の拠り所に‥‥なりたかった」
 急にたってそう言ったと思うと、男は祭壇に背を向けて、月明かりだけが照らす教会の中から出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?

無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。 「いいんですか?その態度」

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

処理中です...