喪われた世界の再興

エムポチ

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東京

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 マキ達は朝早くから軽装甲機動車の整備をしていた。
 燃料は劣化している可能性があったが、幸いにもエンジンを始動させる事に成功した。
 「予備燃料も載せました」
 3台の軽装甲機動車が暖機運転をしていた。
 当初は電気自動車を確保して、使用する案もあったが、20年の間、放置された車両がそのまま使える見込みは無く、燃料に問題があっても、燃料を高圧縮する事で動かすディーゼルエンジンなら、使えるだろうとこちらが採用された。ただし、今後は放置されたEV車などを回収して、可能ならば、修理。燃料電池車ならば、製鉄所などを稼働させ、液化水素を製造して用いるなど、日本国内で確保が難しいガソリン等の燃料以外の方法を模索しないといけないとマザーは考えていた。
 そして、現在、マザーが最も欲しているのは雄の生産であった。
 マザーは当初、雌雄で新人類の生産を計画していた。それは将来的に人工子宮の劣化や人口増加を考えるならば、自然交配をさせるべきだからだ。だが、5年の間、遺伝子配列などを操作している中で、雄を生産させる為に必要な遺伝子情報が欠けてしまったのだ。不完全な生命体を産むわけにもいかず、マザーは雄の生産を断念した。
 しかしながら、将来的な事を考えて、彼女は雄の生産に必要な情報の獲得を新人類に命じている。
 その一つは人類再興計画のデータ獲得である。
 それらは防衛省、または各省庁や重要な研究機関にあるとされる。それらは完全に電力を消失して、アクセス不能になっていると同時に極秘裏にされていた為、ガードが堅い事からマザーはデータを共有してなかったのである。その中にマザーが必要とする情報がある可能性があるとされていた。
 別の手段として、人類に比較的近い知能があるとされるエルフ、天使の捕獲。
 そして、汚染に免疫のある人類、または汚染されていない人類。
 これらが人類再興にとって、最重要な問題としている。
 これらを特務として、新人類は命令を受けている。
 マキ達は特務隊として、この命令の専属部隊として選別された。
 分隊長のエマは虎柄の髪を持つ少女。眼鏡を掛けているが、あくまでも紫外線や火薬ガスなどから目を守るためだ。
 彼女が分隊長に選ばれたのは単純に成績優秀だからに過ぎない。
 マザーより下は隊長か分隊長、班長などの役職しか存在しない。
 当然ながらマキに階級も役職も無い。
 与えられたのは小銃手と言う役目だけだ。
 
 マキ達は装甲車に乗り込み、シェルターから出発した。
 目的地は防衛省のある保土谷。
 20年が経ち、都市部も至る場所で崩落が起きている。殆どが高架である高速道路も安易には使えない。
 自然の少ない都市部には食料が少ない事もあり、あまり動物は存在しない。
 だが、まったく居ないわけでは無い。都市部には多くのスーパーマーケットや商店がある。生鮮食品は当然、朽ち果てるが保存食などはかなりの量が残っており、それらを食べる動物も存在する。
 つまり、都市部は完全な無人では無い為、安全とは言えない。
 装甲車の天井ではM249ミニミ軽機関銃を構えた隊員が緊張感を持って、警戒している。
 運転を任せられた隊員は運転シミレーターで成績の良かった者だが、それでも初めての実車の運転はかなり違っていた。
 「結構、揺れるわね」
 狭い車内で路面も悪化している為、派手に揺れる事で、気分を悪くする隊員もいた。
 マキは車酔いをする事は無かったが、気分を悪くした隊員の体調を考え、休憩が多めに取られる。
 休憩中は体調の良い隊員は車から降りて、周囲を警戒する。
 マキは無人となった大都市を眺めた。
 路上に放置された車。人骨かどうかも解らぬ骨。
 すでに食料の殆どは無いせいか、カラスさえも見当たらぬ。
 「寂しい光景。昔は多くの人が住んでいたのかな?」
 マキは街を見渡しながら呟く。その問いに答える者は居ない。
 車列は再び、走り出し、保土谷へと到着した。
 防衛省の建物は左程、壊れた様子は無い。すでに電源は消失しているので、セキュリティなどは皆無。
 装甲車から降りた隊員は何があってもすぐに対応が可能なように警戒して行動をしている。
 マキはライトを装着した自動小銃を構えて、建物へと迫る。
 入り口はしっかりと閉じている為、爆薬を使い、破壊した。
 暗い屋内をライトで照らしつつ、彼女達はマザーから提供された屋内情報に従い、探索を始める。
 幾つかの紙資料、電子情報を獲得しつつ、彼女達は地下に設けられたシェルターへと向かった。
 核攻撃に備える為に設けられたシェルターに何か重要な情報が秘匿されている可能性があるとマザーは考えたためである。無論、マザーはそこに何があるかを把握していない。
 地下に向かう為には頑丈なドアに阻まれる。
 「電源が生きている・・・地下シェルターには電源があるみたいだな」
 分隊長はセキュリティ操作盤を前に思案する。彼女達が携帯してきた小型コンピューターではセキュリティを突破して解除する事は困難であった。
 「爆破するにも・・・これは・・・核爆弾にも耐える代物だな。セキュリティの突破が必要だ。一度、戻り、マザーに相談しよう。ここはマーキングだけしておけ」
 分隊長の指示に従い、マップに位置だけが記された。
 特務を受けたマキ達の成果は芳しくは無かった。
 防衛省に残された資料の多くはマザーの思惑を満たすには不十分であった。
 だが、これは予測の範囲内であり、むしろ、マザーは地下シェルターの電源は現在も稼働している事に大きな興味を示した。セキュリティ突破の為にマザーと情報共有が可能なように通信網構築が命じられた。
 
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