喪われた世界の再興

エムポチ

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生存者

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 マキ達は翌日に再び、防衛省へと向かう事になる。
 今度はマザーとの通信網を構築する為の機材を載せたトラックや電源車も車列に連ねている。
 すでに地上の通信網は完全に途絶しており、人工衛星の殆どは機能を停止、または墜落している。
 マザーとは言え、単独でこれらを維持する事は不可能であった。
 長距離のデータリンクを安定的に行う為に高出力の通信機が用いられる。
 防衛省にも大規模な通信設備はあるが、すでに劣化している為、再整備するには資材と時間、労力が必要であった。その為、敷地内に持ち込まれた移動型通信アンテナが設置される。高出力通信機と電源車が接続され、マザーとの通信が確認される。通信機から通信ケーブルが伸ばされ、地下シェルターのセキュリティ操作盤との接続が試された。
 数分でセキュリティが解除された。重たい扉の手動ロックを解除する為、マキが手回し式ハンドルを回す。
 重たい扉は徐々に開いた。すると下の階へ続く階段が現れる。
 「空気に問題無し」
 マキは検知器で中の空気を調べた。
 「罠のある可能性は否定が出来ない。注意して進め」
 分隊長の指示を受けて、マキは銃を構えながら、地下へと進む。
 地下へ続く階段には微かながら灯りがある。それでも暗い場所は多く、手探りに近い状態で罠が無いかを確認している。幸いにも罠に遭遇する事なく、フロアに出た。
 フロアには幾つか人間が入れるほどのカプセルが存在した。
 「中身は・・・人間か?」
 彼女達はカプセルの中を覗いた。そこには確かに裸の人が入っていた。
 「生きている?」
 生命維持装置のような物なら生きている可能性はあった。カプセルの中には若い男女ばかりだ。
 これをどうするかは彼女達では判断が出来なかった。マザーに映像情報を送り、判断を仰ぐ。
 マザーは生存者の可能性を示唆して、通信ケーブルをこのカプセルの装置に繋ぐ事を指示する。
 生命維持装置に指示された通りにケーブルが接続された。
 マザーはすぐに解析を始め、生命維持装置への関与を始めた。
 その間にマキ達は施設内の検索を始める。
 「小型原子炉を発見。稼働しています」
 施設内の電源であろう小型原子炉を発見した。
 「電源の確保。状態を確認しろ」
 電源の確保は今後の活動において必要不可欠であった。
 マザーは将来的には休眠状態にある発電所の復活もあったが、老朽化は避けられない為、どこまで使えるか解らなかった。その為、稼働中の電源に関しては高い興味を示した。
 数時間後、マザーは生命維持装置を掌握した。その結果、生命維持装置は人を冷凍保存するシステムであった。
 仮死状態とされた人々の多くは冷凍状態から解凍して、蘇生させる必要があった。
 マザーは手順に従い、彼らを解凍させ、蘇生を行う。マキ達は蘇生された人を保護する為に準備を始めた。
 だが、このシステムは完璧では無い。マザーは可能性として、蘇生が成功するのはほぼ不可能であった。
 全部で20のカプセルで次々と蘇生が行われるが大抵は失敗に終わり、死亡が確認された。
 「この少年・・・生きてます」
 唯一、15歳前後の少年だけが蘇生に成功した。意識は回復して無いが、心肺機能は正常値を取り戻していた。
 「この少年はウィルスに感染していない。感染防止処置を行い、連れ帰る」
 マキの指示で少年は無菌カプセルに入れて、連れ帰る事になった。
 そして、マキ達はここで死亡が確認された遺体を死体袋に入れて、彼らも車両に載せる。
 防衛省では多くの資料が確保されたが、マザーの欲する物は無かった。

 マキ達は慎重に帰路に着く。
 小型原子炉の稼働を確認した事でマザーは防衛省を拠点として確保する事を決定した。今後は少数部隊が派遣され、常時、電源の確保と警備がなされる事になった。
 マキ達が運んできた遺体は細かく検査がなされた後、荼毘され、近くに埋葬された。
 すでに宗教的な風習は失われていたが、データから仏教の一般的な葬儀が見様見真似で行われた。
 そして、生存していた唯一と思われる人類。
 彼が入っていたカプセルに添付されていたデータから身元が解る。
 藤堂 正樹
 都内に住んでいた中学生。父親が防衛省の幹部であった。
 凍結保存前のデータでは健康状態は良好。知能、運動能力も良好。
 健全な男子と呼べる存在。
 マザーは正樹を人類再興のために最良の存在だと確信した。
 その為、正樹の身体は意識を取り戻すことを最優先として、集中治療室での治療が始まった。
 
 マキ達の調査は想像以上の成果を出した。
 正常な男性の遺伝子を獲得したマザーはすぐに解析を始め、新人類へ応用する準備を始めた。
 これで数か月後には男性型の新人類が生まれてくる。だが、それは人類の復興には程遠く、彼らが繁殖可能な状態を考えたとしても十数年後になると考えられた。
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