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ホムンクルスと温かいご飯

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「…ここ、俺の家の前なんだわ。ボロ小屋だけどな。疲れてんだろ?とって食いやしねぇさ。少し休んでけ。」

 ブレッドのぶっきらぼうながらも、少年たちを気遣う声色に二人は泣きそうな顔を浮かべる。

「…ゲホッ、気遣ってくれて…ありがとうございます。でも、迷惑になるので…」

 少年のほうが、かすれた声で申し出を断ろうとしたのを、ブレッドは途中で遮った。

「バーカ、ガキが遠慮なんてするんじゃねぇ。このままだとお前ら死ぬぞ。俺の家の前でくたばられると逆に迷惑なんだよ。ここで出会ったのも何かの縁だ。普段こんな偽善者みてぇな真似はしねえが、俺の自己満足に付き合え。」

 そう言って、ブレッドは無遠慮に少年と少女の腕をとり、無理やり立たせた。
 つかんだ二の腕は、驚くほど細くその低い体温にブレッドは再度眉をしかめた。

(危険だな。孤児院にいた餓死寸前のガキどもを思い出すぜ。)

 ブレッドはそのまま二人を両脇に抱え、自宅に入る。
 少年と少女は二人ともブレッドの突然の行動に目を丸くし、軽々と抱えられたことに羞恥を感じたのか顔をやや赤らめ口をきつく閉じていた。

 ブレッドの家は、路地裏にあり、過去の内戦で使われなくなった一軒家を無断で拝借しているものだ。
 治安も日当たりも悪いが、家の中はそこそこ広い。ただ男一人で住んでいるため、掃除が行き届いておらず、タンスの上や部屋の隅には埃が積もっている。

 ブレッドはリビングに二人を誘導し、席に座らせる。

「お茶でも飲んで、ゆっくりしとけ。今からマズイ飯くれてやるからな。文句言うなよ。死ぬよかましだろ。」

 そう言ってキッチンに入っていたブレッドの背後から、消え去りそうな二人の声が聞こえてきた。

「「ありがとうございます。」」

 人からの好意に慣れていないのか、二人は隣同士に座りながら手をつなぎ、静かに涙をながしていた。その涙にブレッドは気が付いていない振りをし、飯を作り始めた。

 ブレッドは料理をしながら、二人の子供を観察する。二人ともくすんだ金髪で、緑の瞳をしている。この辺の地域ではありきたりの組み合わせではあるが、少年のほうは肩まで髪がボサボサに伸び、髪も泥と埃で汚れている。少女も同じようにボサボサに汚れた金髪を腰まで整えられる事なく、無造作に伸びてしまっている様子だ。

 顔立ちは悪くないのだから身綺麗にしたら化けるだろうな、と思いながらブレッドは料理を仕上げていく。

「ほら、適当に作った飯だが、食え。チキンの薬草焼きと、豆のスープだ。」

 子供二人は目の前に出された粗末な飯を、まるで初めて見るご馳走を目の前にした様に目を輝かせて見つめている。

「これ、食べていいんですか?」
「私たち、お兄さんに何も返せないですよ?」

 ブレッドは苦笑いしながらうなずく。久しぶりの食べ物を口に入れた二人は、静かに涙をながし嗚咽しながらも、たどたどしい所作でナイフとフォークを使いチキンを口にしだした。

 ブレッドも一緒に飯を食べ終え、二人が落ち着くのを待ってから自己紹介を始めた。

「俺はブレッドだ。元傭兵で日雇いの仕事で食い扶持を繋いでる見ての通りの貧乏人だが、何とか飢えること無く暮らしている。お前らは?名前は何ていうんだ?」

 少年と少女はオドオドしながらも、二人ともまっすぐにブレッドの目を見て返事をする。

「あ、ご…ご馳走様でした。あの、僕はアルフと言います。」
「わ、私はフィーネです。ご飯、美味しかったです。ありがとうございます。」

 見た目が薄汚れた子供だから礼儀などは一切期待していなかったが、予想を裏切りしっかりとお礼を述べてきたのにブレッドは驚いた。喋り方もどこか知性を感じさせ、二人の境遇と喋り方に違和感を感じたブレッドは、その疑問を口にした。

「お前ら、そこそこの教育を受けているな?親はどうした?何で空腹で死にかけていたんだ?」

 アルフとフィーネは、気まずそうに視線を交えた後、二人の境遇を喋り出した。

「あの、詳しく話すとブレッドさんに迷惑をかけてしまうのですが…。」
 とアルフ。

 しかし、言葉とは裏腹にアルフもフィーネもどこか自分に助けを求めている様な上目遣いを無意識にしており、とりあえず聞いてみない事にはどうしようもないとブレッドは腹をくくる。

「今更だ。とりあえず、話してみろ。乗りかかった船だ、何かお前らの助けになれる様な事を紹介出来るかもしれねぇだろ?」

 実際、ブレッドは話を聞いたら、警備隊の駐屯署に申し出て、孤児院や住み込みの働き口など紹介出来たらなと考えを巡らせていたのだが、そう事は上手いこといかないものである。

「私達、過去の内戦の原因である女神真教の過激派に属する狂錬金術師・イゴールが運営する組織から逃げてきたんです。私たちは、禁忌の錬金術で作られた人造人間… いわゆるホムンクルスなんです。」
「それで……僕達はその組織から、追われてるんです。」
「… え?なんだって?」

 ブレッドは耳を疑ったが、フィーネの発した言葉は取り消される事は無かった。
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