パラノイア・アルケミスト〜逃走ホムンクルスの生存戦略〜

森樹

文字の大きさ
5 / 5

アルフとフィーネの過去①

しおりを挟む
 アルフとフィーネは、女神真教の過激派組織である錬金術集団によって作られた人造人間、いわゆるホムンクルスである。

 ホムンクルスとして生み出された時は、赤子も同然で言葉も分からなかった。

 しかし、生みの親である狂気の錬金術師であるイゴールが、非常に喜んでいた事を何となく覚えている。

 二人はそれぞれ、管理番号で呼ばれていた。

『男性型はM11号、女性型はF16号だ。』

 その番号はこれまで失敗してきた回数を示しているのに気がつくのはそう遅くは無かった。

 二人がこの世に作り出されてからは、実験の毎日だった。
 痛覚や感情、また知性や身体能力がどれほどのものなのかの確認を毎日繰り返し、二人には自由は無かった。ただ、生まれてからずっとそれが当たり前だった為、それが不幸だと感じる事すら無かった状況である。

 体に傷がついた場合の治癒効果などの実験は、二人にとっては苦痛以外の何でもなかったが、細胞が経年劣化しない事が関係あるのか、小さな傷などは直ぐに治った。

 大きな火傷なども、やや日数はかかるが、やはり常人よりも治りが早く跡に残ることも無かったという。

 流石に四肢欠損などの実験はしなかったそうだが、まるで拷問の様な実験は、生まれたばかりの二人には厳しいものだった。

 感情の実験では、それぞれ犬と猫のペットを与え、世話をさせる事によりどの様な変化が起きるのかを確認した。結果、それは二人に人としての優しい感情を育ませ、辛い実験の間の癒しとなる。

 二人が拷問時には苦痛の表情、ペットに対しては優しい笑顔が浮かぶのを見て感情は人並みにあると判断した錬金術師イゴールは非常に満足する。そして、次の実験は知識を与える事だった。

 一般的な学問や、礼儀作法、魔法学や錬金術。
 それらの能力については常人と成長速度は変わらず、何か天才的なものがあるわけでは無かった事が、イゴールには不満だった。

 魔法も錬金術も、一般人より多少できる程度のレベルにはなったが、取り立てて目立つ実力でも無い事が、イゴールの望んだ基準に達さなかったのである。

 そこから、武術や銃器の扱い、機械類の整備など一通りの教育を施すも全てがそこそこの能力で突出した実力が無かったのが、逆に二人にとっての転機となる。

 イゴールは治癒速度が速い不老なだけのホムンクルスよりも、能力の高いホムンクルス制作に躍起になり出したのだ。

 そうなると、二人の境遇は貴重な人工生命体の成功例のサンプルとしての価値しかなく、放置される事が多くなったのだ。

 ペットとして与えられた犬と猫と共に、狭い部屋で与えられる粗末な飯を食い、組織の為に何か使える様になればと引き続き与えられる教育をこなす淡々とした毎日を送ることとなる。

 それを不幸と思った事は無く、二人は自分の半身としてのパートナーが常に側におり、自分に懐いてくれる小さなペットに囲まれた狭い世界で満足していた。外の世界を知らないからこそ、勉強の機会と衣食住を提供してくれている事に感謝すらしていた。

 ある日、一人の妙齢の女性研究者が二人の元へやってきた。
 たまに教育で世界情勢の常識を教えてくれる教師としての認識しか持っていなかった人だ。
 彼女の名はナタリーと言い、他の研究者とは違い二人に優しく接してくれていた稀有な人物である。

『ねぇ、いつまでも管理番号で呼ばれるのは困るでしょ?』

 そう言って、こっそりとアルフとフィーネの名付け親になってくれた彼女は、組織のあり方にどうやら疑問を抱き始めているようだった。

『イゴール様はね、ホムンクルスの制作に心血を注いでいるの。ホムンクルスを作るために何が必要か知っている?』

 アルフとフィーネは首を振りナタリーの回答を待つ。

『人と同じ作りをした入れ物はね、錬金術で作れるのよ。死体の偽造とかで昔からある技術だわ。ただ、そこにね、自我や心を入れる事が難しいのよ。貴方達が成功した時はね、本物の人間の心臓を利用したのよ。』

 アルフとフィーネは二人して自分の胸を押さえて、驚愕の表情を浮かべた。

『錬金術で作った人型に適合する心臓を準備する為に、どうしているか想像がつくかしら?』

 その問いに二人は答える事が出来なかった。
 誰かの犠牲の元に作られたと知った今、自分達は存在していいものでは無いと理解したのだ。

『そう、今も実験の為、ひっそりと人を誘拐しては殺しているわ。貴方達みたいな成功例はその後一度も無いみたいだけど。無駄死によね、その人たち。もうね、貴方達にこんな事話すのは酷だけど、自分が何者かはしっかり知っておいた方がいいでしょう?意地悪よね、私。自分の罪悪感を少しでも軽くしたいからって、こんな暴露して。』

 その話を聞いた数日後、彼女は罪悪感から逃げる様に組織からの脱走を試みたが失敗に終わり、密かに処分されたと別の研究者から聴かされた。アルフとフィーネはただ悲しむ事しか出来ず、自分達も逃げる事は叶わないと理解しただけであった。

 ナタリーにつけて貰った名前は狭い部屋の中でお互い呼び合うだけとなった。そして、また研究者達からは管理番号で呼ばれる日々に戻ったのである。

 そうしている内に、ペットの犬と猫は寿命を迎え、失意の内に大規模な内戦が勃発。イゴール率いる組織としては時期尚早との判断だったらしいが、女神真教の信徒は完全に暴徒と化し押さえつける事は叶わなかったとの事。
 しかし組織の一味は、水面下で暴徒を誘導している様だった。イゴールはその内戦にホムンクルスを投入したかった様子だが、アルフとフィーネを作ってから15年程度たつにも関わらず、その後成功はしていなかった為、間に合わなかった。

 内戦の最中、唐突にイゴールは妙案を思いついたと言い、アルフとフィーネに生殖能力の実験を課す。
 ホムンクルス同士の子供はホムンクルス足り得るのか、というものだ。

 二人は兄妹の様に一緒にいた為、そんな事はできないと激しく抵抗したが、聞き入れられるはずもなく。遂には押さえつけられ、媚薬を利用してまで、行為を無理強いされたのであった。


 結果、望まぬままアルフとフィーネは一児の親となる。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

あうあう
2019.10.29 あうあう

宰相夫人~とはまた違った雰囲気の小説ですね。

更新、楽しみにしています。

2019.10.29 森樹

あうあう 様

宰相夫人の方も見ていただきありがとうございます!

なるべくカッコいい雰囲気を出したいのですが、難しいですね。
こちらもよろしくお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。