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アルフとフィーネの過去①
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アルフとフィーネは、女神真教の過激派組織である錬金術集団によって作られた人造人間、いわゆるホムンクルスである。
ホムンクルスとして生み出された時は、赤子も同然で言葉も分からなかった。
しかし、生みの親である狂気の錬金術師であるイゴールが、非常に喜んでいた事を何となく覚えている。
二人はそれぞれ、管理番号で呼ばれていた。
『男性型はM11号、女性型はF16号だ。』
その番号はこれまで失敗してきた回数を示しているのに気がつくのはそう遅くは無かった。
二人がこの世に作り出されてからは、実験の毎日だった。
痛覚や感情、また知性や身体能力がどれほどのものなのかの確認を毎日繰り返し、二人には自由は無かった。ただ、生まれてからずっとそれが当たり前だった為、それが不幸だと感じる事すら無かった状況である。
体に傷がついた場合の治癒効果などの実験は、二人にとっては苦痛以外の何でもなかったが、細胞が経年劣化しない事が関係あるのか、小さな傷などは直ぐに治った。
大きな火傷なども、やや日数はかかるが、やはり常人よりも治りが早く跡に残ることも無かったという。
流石に四肢欠損などの実験はしなかったそうだが、まるで拷問の様な実験は、生まれたばかりの二人には厳しいものだった。
感情の実験では、それぞれ犬と猫のペットを与え、世話をさせる事によりどの様な変化が起きるのかを確認した。結果、それは二人に人としての優しい感情を育ませ、辛い実験の間の癒しとなる。
二人が拷問時には苦痛の表情、ペットに対しては優しい笑顔が浮かぶのを見て感情は人並みにあると判断した錬金術師イゴールは非常に満足する。そして、次の実験は知識を与える事だった。
一般的な学問や、礼儀作法、魔法学や錬金術。
それらの能力については常人と成長速度は変わらず、何か天才的なものがあるわけでは無かった事が、イゴールには不満だった。
魔法も錬金術も、一般人より多少できる程度のレベルにはなったが、取り立てて目立つ実力でも無い事が、イゴールの望んだ基準に達さなかったのである。
そこから、武術や銃器の扱い、機械類の整備など一通りの教育を施すも全てがそこそこの能力で突出した実力が無かったのが、逆に二人にとっての転機となる。
イゴールは治癒速度が速い不老なだけのホムンクルスよりも、能力の高いホムンクルス制作に躍起になり出したのだ。
そうなると、二人の境遇は貴重な人工生命体の成功例のサンプルとしての価値しかなく、放置される事が多くなったのだ。
ペットとして与えられた犬と猫と共に、狭い部屋で与えられる粗末な飯を食い、組織の為に何か使える様になればと引き続き与えられる教育をこなす淡々とした毎日を送ることとなる。
それを不幸と思った事は無く、二人は自分の半身としてのパートナーが常に側におり、自分に懐いてくれる小さなペットに囲まれた狭い世界で満足していた。外の世界を知らないからこそ、勉強の機会と衣食住を提供してくれている事に感謝すらしていた。
ある日、一人の妙齢の女性研究者が二人の元へやってきた。
たまに教育で世界情勢の常識を教えてくれる教師としての認識しか持っていなかった人だ。
彼女の名はナタリーと言い、他の研究者とは違い二人に優しく接してくれていた稀有な人物である。
『ねぇ、いつまでも管理番号で呼ばれるのは困るでしょ?』
そう言って、こっそりとアルフとフィーネの名付け親になってくれた彼女は、組織のあり方にどうやら疑問を抱き始めているようだった。
『イゴール様はね、ホムンクルスの制作に心血を注いでいるの。ホムンクルスを作るために何が必要か知っている?』
アルフとフィーネは首を振りナタリーの回答を待つ。
『人と同じ作りをした入れ物はね、錬金術で作れるのよ。死体の偽造とかで昔からある技術だわ。ただ、そこにね、自我や心を入れる事が難しいのよ。貴方達が成功した時はね、本物の人間の心臓を利用したのよ。』
アルフとフィーネは二人して自分の胸を押さえて、驚愕の表情を浮かべた。
『錬金術で作った人型に適合する心臓を準備する為に、どうしているか想像がつくかしら?』
その問いに二人は答える事が出来なかった。
誰かの犠牲の元に作られたと知った今、自分達は存在していいものでは無いと理解したのだ。
『そう、今も実験の為、ひっそりと人を誘拐しては殺しているわ。貴方達みたいな成功例はその後一度も無いみたいだけど。無駄死によね、その人たち。もうね、貴方達にこんな事話すのは酷だけど、自分が何者かはしっかり知っておいた方がいいでしょう?意地悪よね、私。自分の罪悪感を少しでも軽くしたいからって、こんな暴露して。』
その話を聞いた数日後、彼女は罪悪感から逃げる様に組織からの脱走を試みたが失敗に終わり、密かに処分されたと別の研究者から聴かされた。アルフとフィーネはただ悲しむ事しか出来ず、自分達も逃げる事は叶わないと理解しただけであった。
ナタリーにつけて貰った名前は狭い部屋の中でお互い呼び合うだけとなった。そして、また研究者達からは管理番号で呼ばれる日々に戻ったのである。
そうしている内に、ペットの犬と猫は寿命を迎え、失意の内に大規模な内戦が勃発。イゴール率いる組織としては時期尚早との判断だったらしいが、女神真教の信徒は完全に暴徒と化し押さえつける事は叶わなかったとの事。
しかし組織の一味は、水面下で暴徒を誘導している様だった。イゴールはその内戦にホムンクルスを投入したかった様子だが、アルフとフィーネを作ってから15年程度たつにも関わらず、その後成功はしていなかった為、間に合わなかった。
内戦の最中、唐突にイゴールは妙案を思いついたと言い、アルフとフィーネに生殖能力の実験を課す。
ホムンクルス同士の子供はホムンクルス足り得るのか、というものだ。
二人は兄妹の様に一緒にいた為、そんな事はできないと激しく抵抗したが、聞き入れられるはずもなく。遂には押さえつけられ、媚薬を利用してまで、行為を無理強いされたのであった。
結果、望まぬままアルフとフィーネは一児の親となる。
ホムンクルスとして生み出された時は、赤子も同然で言葉も分からなかった。
しかし、生みの親である狂気の錬金術師であるイゴールが、非常に喜んでいた事を何となく覚えている。
二人はそれぞれ、管理番号で呼ばれていた。
『男性型はM11号、女性型はF16号だ。』
その番号はこれまで失敗してきた回数を示しているのに気がつくのはそう遅くは無かった。
二人がこの世に作り出されてからは、実験の毎日だった。
痛覚や感情、また知性や身体能力がどれほどのものなのかの確認を毎日繰り返し、二人には自由は無かった。ただ、生まれてからずっとそれが当たり前だった為、それが不幸だと感じる事すら無かった状況である。
体に傷がついた場合の治癒効果などの実験は、二人にとっては苦痛以外の何でもなかったが、細胞が経年劣化しない事が関係あるのか、小さな傷などは直ぐに治った。
大きな火傷なども、やや日数はかかるが、やはり常人よりも治りが早く跡に残ることも無かったという。
流石に四肢欠損などの実験はしなかったそうだが、まるで拷問の様な実験は、生まれたばかりの二人には厳しいものだった。
感情の実験では、それぞれ犬と猫のペットを与え、世話をさせる事によりどの様な変化が起きるのかを確認した。結果、それは二人に人としての優しい感情を育ませ、辛い実験の間の癒しとなる。
二人が拷問時には苦痛の表情、ペットに対しては優しい笑顔が浮かぶのを見て感情は人並みにあると判断した錬金術師イゴールは非常に満足する。そして、次の実験は知識を与える事だった。
一般的な学問や、礼儀作法、魔法学や錬金術。
それらの能力については常人と成長速度は変わらず、何か天才的なものがあるわけでは無かった事が、イゴールには不満だった。
魔法も錬金術も、一般人より多少できる程度のレベルにはなったが、取り立てて目立つ実力でも無い事が、イゴールの望んだ基準に達さなかったのである。
そこから、武術や銃器の扱い、機械類の整備など一通りの教育を施すも全てがそこそこの能力で突出した実力が無かったのが、逆に二人にとっての転機となる。
イゴールは治癒速度が速い不老なだけのホムンクルスよりも、能力の高いホムンクルス制作に躍起になり出したのだ。
そうなると、二人の境遇は貴重な人工生命体の成功例のサンプルとしての価値しかなく、放置される事が多くなったのだ。
ペットとして与えられた犬と猫と共に、狭い部屋で与えられる粗末な飯を食い、組織の為に何か使える様になればと引き続き与えられる教育をこなす淡々とした毎日を送ることとなる。
それを不幸と思った事は無く、二人は自分の半身としてのパートナーが常に側におり、自分に懐いてくれる小さなペットに囲まれた狭い世界で満足していた。外の世界を知らないからこそ、勉強の機会と衣食住を提供してくれている事に感謝すらしていた。
ある日、一人の妙齢の女性研究者が二人の元へやってきた。
たまに教育で世界情勢の常識を教えてくれる教師としての認識しか持っていなかった人だ。
彼女の名はナタリーと言い、他の研究者とは違い二人に優しく接してくれていた稀有な人物である。
『ねぇ、いつまでも管理番号で呼ばれるのは困るでしょ?』
そう言って、こっそりとアルフとフィーネの名付け親になってくれた彼女は、組織のあり方にどうやら疑問を抱き始めているようだった。
『イゴール様はね、ホムンクルスの制作に心血を注いでいるの。ホムンクルスを作るために何が必要か知っている?』
アルフとフィーネは首を振りナタリーの回答を待つ。
『人と同じ作りをした入れ物はね、錬金術で作れるのよ。死体の偽造とかで昔からある技術だわ。ただ、そこにね、自我や心を入れる事が難しいのよ。貴方達が成功した時はね、本物の人間の心臓を利用したのよ。』
アルフとフィーネは二人して自分の胸を押さえて、驚愕の表情を浮かべた。
『錬金術で作った人型に適合する心臓を準備する為に、どうしているか想像がつくかしら?』
その問いに二人は答える事が出来なかった。
誰かの犠牲の元に作られたと知った今、自分達は存在していいものでは無いと理解したのだ。
『そう、今も実験の為、ひっそりと人を誘拐しては殺しているわ。貴方達みたいな成功例はその後一度も無いみたいだけど。無駄死によね、その人たち。もうね、貴方達にこんな事話すのは酷だけど、自分が何者かはしっかり知っておいた方がいいでしょう?意地悪よね、私。自分の罪悪感を少しでも軽くしたいからって、こんな暴露して。』
その話を聞いた数日後、彼女は罪悪感から逃げる様に組織からの脱走を試みたが失敗に終わり、密かに処分されたと別の研究者から聴かされた。アルフとフィーネはただ悲しむ事しか出来ず、自分達も逃げる事は叶わないと理解しただけであった。
ナタリーにつけて貰った名前は狭い部屋の中でお互い呼び合うだけとなった。そして、また研究者達からは管理番号で呼ばれる日々に戻ったのである。
そうしている内に、ペットの犬と猫は寿命を迎え、失意の内に大規模な内戦が勃発。イゴール率いる組織としては時期尚早との判断だったらしいが、女神真教の信徒は完全に暴徒と化し押さえつける事は叶わなかったとの事。
しかし組織の一味は、水面下で暴徒を誘導している様だった。イゴールはその内戦にホムンクルスを投入したかった様子だが、アルフとフィーネを作ってから15年程度たつにも関わらず、その後成功はしていなかった為、間に合わなかった。
内戦の最中、唐突にイゴールは妙案を思いついたと言い、アルフとフィーネに生殖能力の実験を課す。
ホムンクルス同士の子供はホムンクルス足り得るのか、というものだ。
二人は兄妹の様に一緒にいた為、そんな事はできないと激しく抵抗したが、聞き入れられるはずもなく。遂には押さえつけられ、媚薬を利用してまで、行為を無理強いされたのであった。
結果、望まぬままアルフとフィーネは一児の親となる。
応援ありがとうございます!
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宰相夫人~とはまた違った雰囲気の小説ですね。
更新、楽しみにしています。
あうあう 様
宰相夫人の方も見ていただきありがとうございます!
なるべくカッコいい雰囲気を出したいのですが、難しいですね。
こちらもよろしくお願いします!