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 アレックスがベッドへ仰向けに寝ている隙にキアランは下半身をアレックスのそれに押しつけてきた。棒のような硬いものが局部にあたって、同じ男として正体にすぐ気がついた。

「ああ……はしたなくてごめんなさい。けれど貴方を抱きたいと思って……」
「やっぱり俺を抱きたいのか?」
「はい」

 アレックスは思わぬ申し出にキアランの前に片手を上げ口付けを一旦止めた。思わず言葉も崩れてしまった。何かおかしなことでも言ったかと首を緩やかにかしげられながら、アレックスは言いたいことを頭の中で整理する。

「すまん、薄々気が付いてはいたが言葉に出されるとな」
「男性ならそうですね……ましてや貴方は異性愛者でしたし。ですが嫌な思いはさせません、気分が悪くなったら私のことを蹴って止めてくださってもいいです。ですからあなたを抱かせていただけませんか……?」

 瞳をうるうるとさせて渾身の表情で頼まれると抱かれるくらいならいいかと思ってしまう。今まで男らしくありたいと、キアランのことを守りたいと思っていたのにこの顔を見つめるだけで軟化してしまう。
 それに、キアランが自身を乱暴にして怪我させるとは考えられないし、いざとなったら殴ってでもベッドから起き上がることもできる。……気持ちが良ければ幸運だ。
 瞬時にそれだけの考えを巡らせて返事を待っている恋人に口を開く。

「わかった。俺も遠慮しない」
「はい……!精一杯心地良くさせて頂きますね」

 キアランの行動は早かった。アレックスの上着を躊躇いなく解く。上までボタンを止めていたシャツの前を開き中のノースリーブを上にあげる。

「ちょ、おっ……」
「この胸にずっと触れたかった……」

 谷間に顔を寄せ、何回も息継ぎをされる。熱心な吐息が胸全体に当たってくすぐったい。それにしてもさっきまで外にいて汗臭いだろうに物好きである。

「もちろんキスも……」

 今度はキアランの端正な顔面がアレックスの男臭いそれに近づいてくる。顔全体をじっと見つめていたかと思うと、アレックスの肉厚な唇に触れるだけの口付けを行う。一度だけに留まらず二回、三回とだんだん唇を押し付ける強さが強まる。五回目には、アレックスの唇全体にかぶりついた。

「ん……」
「んふ、ちゅっ……アレックスさん……」

 深い口付けの合間にキアランの手のひらは肩甲骨や背中、腰を撫で太ももまで降りていく。その触れ方はまるでアレックスの性感帯を探しているようだった。
 キアランの白魚のような繊細な手が下履きをおろす。アレックスの逸物はぶるんと跳ね返ったあと、そそり立つ。

「ペニスまでかっこいいのですね……」
「あっ……」

 恍惚な表情でアレックスのものを見つめていると思ったら躊躇いもなく口に含んでいく。途端、ぬるついた人肌の感触。はるか昔に味わったことのある久しぶりの気持ちよさ。
 ぬちゅぬちゅと下品な水音をわざと立てて、美しい男に肉棒を口腔内から出し入れされる。アレックスが今まで生きていた中で一番淫靡な口淫だと思った。

「あっ……くぅ……んん、それやばい……」

 大っぴらに喘ぐのも恥ずかしくて唇を噛み締める。隙間から声が漏らしているとキアランがチラリと上目遣いでこちらを見てくる。目元の緩んだその顔を見た瞬間より自身が膨らんでしまった。
 敏感な亀頭部分をぬるつく舌で舐め取られ、先走りがさらに溢れる。そのせいで口の中に納めきれなくなったのか口の端から唾液と先走りが混じった液体がこぼれていた。
 アレックスはキアランの綺麗に整えられた御髪に手を入れてぐしゃりと乱してしまう。謝る前に顔を上げられると、頬に軽いキスをして中途半端に脱げた衣服を全てはがさせようとしてきた。
 負けじとアレックスもキアランのものを脱がせる。キアランが着ていたものはシンプルな衣服だったためアレックスのものより早く肌があらわになった。式典等でよく見る文官衣であったなら腰紐や装飾品が多く脱がせ方もわからないので、キアランに手伝ってもらわなければならなかっただろう。
 日焼けして男性らしい毛深さとは無縁な、白くて透き通るような肌。汚れを知らないような白さ。そんな肌を持つ人と淫靡な事を今から始めるのだ。

「肌が……暖かいですね……」

 キアランがアレックスの胸板に片頬を寄せる。子供が親の心音を確かめ安心するような仕草。その純粋さに性欲は感じられない。深く息を吸って吐くのを続ける。やっと、安心できる場所へと帰ってきたのだ。
 乱していた髪を今度は梳いていく。捕まる前は艶々だったそれは、留置所生活で少しパサついていた。石鹸なんかも粗悪品だったろうし、下手したら水だけで体を洗わされていた可能性もある。
 証拠を取ることに必死だったが、キアランのことを気にかけるのに欠けていた。どれだけ不安だったろうか。
 切なくて。母性……いや、父性にも似た気持ちが湧き上がり、ぎゅっとキアランに自身の胸を押し付ける。むさい男の胸で癒されるかどうかはわからないが、今アレックスができる精一杯だ。
 恋人はもぞもぞと動いたかと思うと、胸の突起に荒い鼻息がかかる。いいぞとでもいうように優しく頭を撫でると、ゆっくりと二つの唇でそれを挟まれる。
 はじめはくすぐったいだけだった。だが次第にむず痒さの中から背筋へと続くピリピリとした電流のようなものが走っていくようになる。

「くっ……胸なんかで気持ちよく……なるかっ……!ふっ……」
「貴方の声、聞かせてくださいっ……ん……」

 愛撫を与えているはずなのに快楽を堪えるように息を詰めた気配がする。何かを擦っている動きがシーツの擦れる音のように聞こえる。アレックスが下半身を覗くとキアランは衣類をずり下げ、自らの手で屹立を慰めていた。

「何してんだ……」
「何って……ん……限界だったので一回出してしまおうかとっ……」
「なんでだよ!俺たちはセックスしてるんじゃないのか?」
「だって……」
 
 キアランの手が気持ちいいところを扱いたのか、一瞬息を詰めるとこちらを見つめる。さっきまで安心してとろりとした目つきだったのが今は焦燥で雄の、狩猟者としての顔つきになっている。額も汗ばんでゆっくりと頬に水滴が落ちてきた。

「俺がやる……お前は胸でも吸っておけ」

 キアランの返事を聞かずアレックスの利き手は陰茎を撫でる。マグマの様に熱い。それだけで先走りをひとしずくこぼしている。そうして勃っているペニスを掴んで複数往復していった。
 キアランの頭を膝枕して口元はアレックスの乳房に。無防備なペニスはアレックスによって愛撫されている。キアランは鬱陶しく感じたのか焦るように上半身の衣服も脱いでいく。ついでにアレックスのものも全て剥がされてしまった。

「もっと強くてもいいんですよ……?」
「はいはい、いじめられるのか好きなんだなあんた……んっ」

 手のひらで熱さと硬さを感じていたら、胸元にちりりとした刺激。キアランに胸元をいじられていた。小さな粒だった乳首は、吸われるだけでも気持ちよさを拾う様になっている。息継ぎのために一旦口から離されるとそれは赤く充血して乳輪までふっくらとしていた。
 負けじとアレックスの手が動く。自らを慰めるときの様に、先走りを肉茎にまといつかせ射精までせまっていく。まるで乳房を吸う赤ん坊に愛撫を施しているみたいで倒錯的な感情に支配されそうになる。キアラン本人は恥ずかしさよりも目の前の恋人の胸に夢中だ。
 限界らしく、太ももが時折硬直したり、吐息が少し荒かったり時折息を詰めようとすると歯の先が胸の飾りに当たることがあった。それに合わせてアレックスのペニスがゆるく反応してしまう。キアランの屹立がより重く、血管が目立って汗をかいてしっとりとしてきた。

「……アレックスさん……ああっ……」

 胸にかぶりついていたキアランが口を離すと勢いよく吐精していく。見事にそそりたったペニスから濃くて量の多い白濁が射精した本人の腹を汚す。アレックスは扱くのを止めず、キアランのものを出し切ると下腹部をきれいにしようとタオルを取ろうとした。しかしキアラン自身に止められる。

「とても……気持ちよかったです。次は貴方に……」

 そう言うとアレックスをあっという間に組み敷き、たった今出した精液を手のひらにつけてアレックスの臀部の最奥へとベッタリつけた。

「ああ……やはりここには白いものが大変よく似合う……」

 陶然とした表情でつぶやかれ、呆れる。やっぱりキアランの趣味はわからない。
 それよりアナルに塗りつけているものが問題だ。

「おいキアランさん!……なんかないのか油とかっ……」
「申し訳ありません、ワセリンがあったのですがあいにく職場に置きっ放しになっていまして……今から取りにいくこともできませんし」
「……ならしょうがないけどよ……」

 足から手を離させて体を起き上げる。申し訳なさそうに言われるがキアランの陰部は再び兆していて全く申し訳なさそうに見えない。

「ったく……続けろよ」

 しおらしくされるのにアレックスは弱い。同僚だったり気の置けない友人だったりしたら「メソメソするな!」と喝を入れていただろうが、何せ相手は久しぶりの恋人だ。しかも美人。ついつい甘やかしたくなるのが本音だ。
 バッチリ鍛えられた太ももを全開して腰を上げる。そのタイミングでキアランが枕を差し込んでくれたので幾分楽だ。これで恋人の目には陰茎から会陰、臀部の合間のアナルを白濁で濡らした光景が広がっているはずだ。

「……絶景です」

 今にも鼻血でも出してしまわないか。そう心配するアレックスとは裏腹に、ペニスにむしゃぶりつかれる。後孔へと指も差し込まれた。

「んぅっ……」

 今までにない異物感に襲われたが、その度にペニスを口で吸われてそちらに意識がいく。キアランの指をぎゅぎゅうに締め付けていると本当に解れるのか疑問に思ってしまう。
 じっくりと体内を探られているのはまだ気分が悪い。やはり女役は今回だけにしてもらおうと思ったその時、しこりがキアランの指に触れた。

「っ……あっ……」

 鼻に抜ける声を出してしまって慌てて手のひらで口を塞ぐ。まさか尻の中で気持ちいい部分があるなんて理解できず、どうしてこんな声が出るのかがわからない。
 アレックスが混乱している中でも指とペニスへの愛撫は止まらなかった。むしろ、気持ちがいいところを探し当てた事で勢いづいている。

「あっ……ふ、ん……んぁ……」

 タップされるように触られ、頑なだった後孔がだんだんと解けていく。これは……もしかしたらできてしまうのではないか。そんな思いがアレックスを支配する。

「まっ……んんぁっ……」

 気持ちよさで自分が自分で無くなるのが怖くてキアランを止めようとするもペニスとアナルを一気に攻められる。
 ぬちぬちと音を立てて容赦のない二点攻めがアレックスを襲う。達しようとすると刺激を抑えられ鈴口の穴を押される。出ようとする熱がペニスに渦巻いて苦しい。

「っ……なんか、話してくれよ……黙ってると怖いぞ」

 いつもならアレックスの姿を止める暇もなく語っているだろうキアランが静かだ。それがなんだか不気味でこちらの方から声をかけた。

「ごめんなさい……気を抜いているとあなたの痴態だけで達してしまいそうで……」
「なっ……馬鹿野郎っ!」

 アレックスが想像するよりはるかに変態だった。でもそのおかげで堅かった体はリラックスした気がする。

「じゃあその前に俺の中に入ってこいよ……もう入れられるだろ?」

 身体的にはもう十分ほぐれて柔らかくなっているはずだ。問題だったのは精神的の方。受け入れる心の準備がアレックスには少し足りなかったのだ。
 けれども今やっと抱かれてもいいと思い始めている。こんなにアレックスの体を大事に扱おうとする初めての男に対して。

「いいですか?……ではゆっくりといきますね……ん」

 我慢していたものが与えられて喜ぶ子供のように嬉しそうにしている。それでも動作はアレックスを傷つけないよう、傷つけないように……と慎重だ。
 細く長い指の代わり硬い肉棒がアレックスの中に侵入してくる。内臓を押しつぶすような圧迫感に襲われて顔を歪めると、侵入は止まる。キアランはこちらの様子をつぶさに観察しているようだった。ずっと自分が渋い顔をしているといつまで経っても全て収める事ができない。そう考えたアレックスは無理やり笑顔を作ると苦しそうな顔をしたキアランの頬を撫でる。

「なんでいきなり行儀良くなってるんだよ。俺は平気だ。体も丈夫だし、いい年したおっさんなんだから」
「おっさんではありません。アレックスさんは、アレックスさんです……これは初めての行為なんでしょう?でしたら精一杯優しく……」
「いいっていいって……ほら、だらだらしてたら勝手に気持ちよくなってるぞ?……はっ、あ……んっ」

 アレックスは垂れてしまった自身を手に取るとわざと煽るようにゆるく扱いていく。見せつけるようなその自慰にキアランの喉がなった。

「……誘っているということですよね?」

 中途半端に入ったキアランのペニスが再び奥を目指し進んでいく。絶妙なタイミング、アレックスが息を吐く合間に押し進められるが痛くはない。そうしてある程度のところまで来ると動きを止めた。下生えの当たる感覚から最後まで入ったらしい。
 アレックスは陰茎に添えていた手を離すとキアランの背中に手を回した。こうすると密着してより心地いい。

「うっ……ぐ、んんっ……」

 キアランが腰を動かしていく。はじめは違和感しかなかったものの、指で触られて反応したところを擦られると体の力が抜けていく。

「ああ……いいです……ここを突くときゅっと締まって、アレックスさんのお顔が蕩けるのがなんとも色っぽくて……幸せです、ずっと私のものにしたかった……」

 感極まったようにアレックスの頭を抱えて腰のストロークをはやめていく。
 
「……ぐぁっっ!!……」

 穴の浅いところにある前立腺を攻められて、みっともない声が上がる。弱点を知られたことでフィンレーの本気を垣間見えることになった。

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