愛夫弁当はサンドイッチ─甘党憲兵と変態紳士な文官さん─

蔵持ひろ

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 あくまでアレックスが企てたのは小手先のもので、親子二人の気持ちを吐露し合うためのきっかけにしかすぎない。大切なのは、本当に互いを大切にしていたのなら膝を割って納得のいくまで話し合うこと。心を開示するのを臆病に思って、意地を張らないこと。
 近すぎたウドリゴとキアランはそれが今まで難しかった。だがこれからは大丈夫だと思う。アレックスはキアランを信じている。ウドリゴの親心も。
 アレックスは夕食は3人の邪魔をしないよう部屋に持ってきてもらい、食後はずっとベッドに寝っ転がっていた。夜も更け、漆黒だった空が明るくなり始めた頃、静かに扉が開いた。

「起きていてくれたんですか?」
「なんだか眠れなくてな」

 昼に見たままの格好でキアランが現れた。疲れたように動きがおぼつかないが落ち込んではいないようだ。きちんと伝えたいことを伝え聞きたいことを話してくれたと言うことなのだろう。アレックスは笑ってキアランの肩につきっぱなしだった芝生の草をとって床に落とした。

「今日はそのまま寝たらどうだ?疲れただろ」
「いえ、ベッドに入るには多少汚れているので湯を沸かしてきます」

 几帳面な恋人はヘロヘロな動きで風呂場へと向かっていった。遠くの方で水が流れる音が聞こえる。キアランは丁寧に体を洗うタイプだからもうしばらくかかるだろう。
 アレックスは両手を頭に乗せて天井を見つめていた。良かった。ここまで連れてかれたかいがあったというものだ。アレックスの所へと帰ってきてくれた安心感からだろうか、瞼が重くなりはじめていた。

「……ここどこだ」 

 久しぶりにスッキリと目が覚めた気がする。左側に心地よい体温。もちろんキアランのものだ。憑き物が落ちたかのように柔らかな表情で眠っている。心にわだかまっていたものが全て無くなったのだろう。

「綺麗な顔だな……」

 仕事の関係で元々朝早いアレックスの目はすっかり覚めてしまっていた。カーテンの隙間から漏れ出る外の明るさから、早朝あたりか。まだに使用人に呼ばれないしゆっくりする時間はある。
 再び愛しい人を眺める。まつ毛が影になってしまうくらい長く、瞳を閉じる姿はまるで彫刻の芸術品のようだ。この美しく完璧な顔を乱したい。うっすらとした欲望がアレックスにやってきた。

「ちょっとくらいいいよな……」

 恋人に、悪戯を仕掛けることにした。
 まずは、テントを張っているキアランの屹立をパジャマ越しにやわく握る。本人は体を軽く振るわせたが起きる気配はない。そのまま半勃ちのペニスを上下に扱く。血が凝集し全体の形がはっきりしてきて下着のゴムを押し上げるくらいにまでなっていそうだ。手で触れるだけじゃなく他の部分でもキアランのペニスを感じていたい。アレックスは布団に潜り込みキアランの下半身に頭を近づけた。そして、触れていたキアランの下衣を下ろした。

「でっか……」

 意識がなくても十分に大きく育っている。その屹立に自身の厚い唇を触れさせた。亀頭やカリ、張っている血管の裏筋まで優しく、丁寧に口付けを施す。満足いくまでキスをしたら、舌を伸ばす。もっとキアランのものを味わいたい。口の中で精を受け止めたい。

「は、ん……」

 まずは亀頭を丸々頬張る。舌と口蓋で挟んで感触を楽しんでいるとじわりと先走りが滲み出てきた。鈴口を舌先で穿うがってその塩味を啜ると後から後から溢れてくる。飲み込みきれなくなって口の端からこぼれた。野生の動物が大好物の肉を貪るようにアレックスはキアランの肉棒にむしゃぶりつく。

「ん……ぐ……」
「ん、は……」

 まだ寝ぼけているのだろう、キアランの気だるげな吐息が耳に入った。全て飲み込むために喉奥へと竿を誘う。喉を動かしてアナルの蠕動運動を真似て見る。面白いくらいにびくびくとペニスが口腔内で跳ねて硬くなっていく。
 頬が熱い。ベッドの中に潜って頭を動かしているのだから熱がこもってしまうのは当たり前か。ただ、そろそろ起きて欲しいなと思い始めていた。キアランの乱れた反応が見たい。

「アレックスさん?何をして……?」
「……おう、おはようございます。何ってフェラチオですけど?」
「敬語……している時は崩していますのに……」
「はは、ついな」

 そういえばここへきてからの初めてのセックスも敬語を使っていた気がする。それはいいとして、アレックスが寝込みを襲っているのに特段驚いた表情を見せず、些細な事を気にしているなと思った。

「それよりも、私にもさせてくれませんか?貴方のものを……」

 キアランはうっとり(難しい言葉)としてアレックスのものを舐めてくれるだろう。それを想像しただけで生唾を飲み込んだ。

「じゃあ、お願いできるか」

 下半身を晒したアレックスにキアランの頭が近付いてきたその時、容赦のないノックが部屋に響いた。

「キアラン、アレックス。その……なんだ食事を、しないか」

 ウドリゴがわざわざ部屋まで来てくれたのだ。これは無視するわけにはいかない。せっかくウドリゴの方から歩み寄ろうとしてくれているのだ。
 お互い不完全燃焼ではあったが、二人はさっきまでの淫靡な空気をかき消して急いで衣服を着替え始めた。

「すみません、準備があるので先に行ってください」
「なんだまだ支度をしていなかったのか……いや、わかった。終えたらすぐに来なさい」
「かしこまりました」

 ウドリゴの方も探り探りしているのか言葉がおぼつかない。だがこれはいい傾向だと思う。アレックス達は顔を洗い急いで寝巻きから衣服を身につけた。

「お待たせいたしました」

 食卓には昨日の場所と同じようにウドリゴ達が座っている。食事は何事もなく進んだ。言葉はないが、以前よりもギシギシとした雰囲気ではない。部屋に戻り荷物をまとめる。と言ってもほぼ身一つで来たのだからそんなにはない。

「この木剣って」
「ああ、これは私が子供の頃稽古をつけていただいていた時に使っていたものです」
「今持つと小ぶりですもんね」
「はい。そういえば子供の頃は稽古のたび父が着いてきてくれていたような気がします……」

 しみじみと木剣を見つめるキアラン。木を撫でるその手は優しい。物思いにふけっていたのは少しの間で、キアランはアレックスの方に顔を向けると改めて告げる。

「アレックスさん、父とも話したのですが王都に戻ることになりました」
「キアランさんがそう決めたなら、俺は一緒にいますよ」
「アレックスさん……ありがとうございます」

 そうして家へと帰るために屋敷の扉へと向かっていった。

 
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