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1章:魔眼の魔女の探索記
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「で、何て名前?その店」
「えっと、『居酒屋キーロン』です」
「なんだキーロンの店か、すぐそこだ。むしろこの短い距離をどうして迷った」
「いつのまにかですね~」
「……そうか」
カイは暗い路地を、小柄な少女とともに歩いていた。話によると、どうやら目当ての店を見つけたはいいものの、珍しい店の数々に目を奪われて歩いているうちに自分がどこにいるのかわからなくなったらしい。彼が心の中で呆れ返っていると、彼女がおずおずと口を開いた。
「あの、何かお礼をしたいんですけど」
「!……礼?」
「はい。私そんなにお金は持ってないんですけど、そのお店のご飯くらいはご馳走できると思うので」
どうですか?と訪ねてくる少女に、カイは内心顔をしかめた。店に着いたら、気づかれないように少女の財布を奪って、そのまま別れるつもりだったからだ。彼女と食事をしたら、彼女の分まで財布の中身が減ってしまう。
「いらねえよ、道案内ぐらいで」
「……でも」
「無理すんなよ、お前だってそんなに持ってねえなら自分のために使えよ」
(使いたい時にあれば、の話だが)
財布を奪われた後の少女がどうなろうと知ったことではない。彼がそう考えながら言った言葉に、少女は渋々といった感じで小さく頷いた。
「ッと、ほら、着いたぞ」
目の前に薄汚れた、しかしなかなかの大きさの看板が現れる。少女もそれに気がつき、
「そうです、このお店です!あの、本当にありがとうございました!」
「ああ、もう迷うなよ」
「はい!」
こちらに小さな手を振ってから、少女は店に駆けていった。彼女を見送るカイの手の中には、少女のものと思わしき緑色の小さな財布があった。
「さて、帰るか…………!」
カイは財布をズボンのポケットにねじ込み、踵を返そうとした。しかし、彼は立ち止まり、前方に突然立ち塞がってきた者達を睨んだ。三人の大柄な男が、彼の行く手を阻んでいる。
「……なんだ、お前ら。俺に何か、」
「ここに居たか、薄汚いガキめ」
「!?」
背後から聞こえてきた、ねっとりとした不快な太い声音に、カイが顔を歪めて振り返ると、そこには厭らしい笑みを浮かべた坊主頭の男が立っていた。高価な生地でヌラヌラと光るローブの首もとに付けた宝石類を、ジャラジャラとうるさく鳴らしながらこちらへ歩いてくる。 昨日の晩、カイは別の店から出てきたこの商売人の男から財布をすろうとして失敗し、顔を見られたため、二度とこの人物は狙わないことに決めていた。
「……なんだ、アンタまだここに居たのか」
「ああ、昨夜は残念だったな、小僧。私から財布を盗めなくて」
「まあな。で?そんなこと言うためにここに来て、わざわざ薄汚い俺に構ってる訳じゃないよな?」
「勿論。ちゃあんと理由はある」
そこで一旦言葉を区切った商売人はギラリと目を光らせてカイを見た。
「この醜いスラム街に貴様のようなスリを生業としている奴はごまんといる。しかし、貴様は他の者達とは違うものを持っている。しかも、その価値は計り知れない……」
「何の話かわからねえな。俺みたいなスラムの住人が、アンタが身に付けてるような宝石を持ってるわけ」
「『人狼族』」
「!?」
自分の言葉を遮って放たれたその単語に、不覚にもカイは動揺し、右手を握り締めた。そんな彼の様子に、商売人は満足そうにほくそえんだ。
「やはりな。あの時に一瞬見た耳。その美しい銀の毛並みが忘れられなかった。そんなはずはないと自分に言い聞かせていたが、念のために確認しに来て正解だったようだ」
商売人の言葉に、カイは盛大に舌打ちをした。スリに失敗したあの時、フードが一瞬脱げて、彼の銀色のの耳が見られてしまっていたのだ。
「で?それを知って、どうするつもりだ?」
「決まっているだろう。人狼族の生き残りなど、大貴族も喉から手が出るほど欲しがるだろう。それこそ金貨一万を積んでも、な。お前達、捕まえろ。なるべく傷をつけるなよ」
商売人の言葉を合図に、三人の大男の内の一人が手を伸ばしてきた。とっさにそれをかいくぐり、カイはその場から逃げ出そうとした。しかし、
「『大地の精霊に告ぐ』」
「!?…ぐっ!」
商売人が言葉を発した瞬間、地面から長い植物のツルが生えてきた。それはカイの足に絡まり、巻き取り、締めつけて、彼を地面に倒してしまった。
「くそ!お前、魔道師か‼」
「いやいや、そんな大層なものではない。貴様のような下賎の輩に狙われることが多いのでな、護身用に身に付けただけだからな。本物の魔道師様にお目通りする機会など、今後貴様にはないだろうがなぁ」
「クソ野郎ッ!」
カイは奥歯を噛み締めて商売人を睨み上げたが、本人はその視線すらも楽しげにして彼を眺めていた。
「連れてこい」
「はっ」
「!放せ‼この人でなしどもが!」
「ハッ。人でなしは貴様だろうが」
嘲り笑いながらカイを一瞥すると、商売人は歩き出した。それに続いて、動けないカイを肩に担いだ男も歩き出す。向かう先は、恐らく奴隷市か奴隷商人の問屋だろう。カイは焦り、大声を出そうとしたが、植物のツルが猿ぐつわのように口を覆って彼の声を封じた。
「~~~‼」
「静かにしておけよ。大切な商品を傷つけたくはないからな、ククッ」
邪悪な笑みを浮かべる商売人に、カイの背中に冷たい汗が流れた、その時。
「案内人さん?」
「えっと、『居酒屋キーロン』です」
「なんだキーロンの店か、すぐそこだ。むしろこの短い距離をどうして迷った」
「いつのまにかですね~」
「……そうか」
カイは暗い路地を、小柄な少女とともに歩いていた。話によると、どうやら目当ての店を見つけたはいいものの、珍しい店の数々に目を奪われて歩いているうちに自分がどこにいるのかわからなくなったらしい。彼が心の中で呆れ返っていると、彼女がおずおずと口を開いた。
「あの、何かお礼をしたいんですけど」
「!……礼?」
「はい。私そんなにお金は持ってないんですけど、そのお店のご飯くらいはご馳走できると思うので」
どうですか?と訪ねてくる少女に、カイは内心顔をしかめた。店に着いたら、気づかれないように少女の財布を奪って、そのまま別れるつもりだったからだ。彼女と食事をしたら、彼女の分まで財布の中身が減ってしまう。
「いらねえよ、道案内ぐらいで」
「……でも」
「無理すんなよ、お前だってそんなに持ってねえなら自分のために使えよ」
(使いたい時にあれば、の話だが)
財布を奪われた後の少女がどうなろうと知ったことではない。彼がそう考えながら言った言葉に、少女は渋々といった感じで小さく頷いた。
「ッと、ほら、着いたぞ」
目の前に薄汚れた、しかしなかなかの大きさの看板が現れる。少女もそれに気がつき、
「そうです、このお店です!あの、本当にありがとうございました!」
「ああ、もう迷うなよ」
「はい!」
こちらに小さな手を振ってから、少女は店に駆けていった。彼女を見送るカイの手の中には、少女のものと思わしき緑色の小さな財布があった。
「さて、帰るか…………!」
カイは財布をズボンのポケットにねじ込み、踵を返そうとした。しかし、彼は立ち止まり、前方に突然立ち塞がってきた者達を睨んだ。三人の大柄な男が、彼の行く手を阻んでいる。
「……なんだ、お前ら。俺に何か、」
「ここに居たか、薄汚いガキめ」
「!?」
背後から聞こえてきた、ねっとりとした不快な太い声音に、カイが顔を歪めて振り返ると、そこには厭らしい笑みを浮かべた坊主頭の男が立っていた。高価な生地でヌラヌラと光るローブの首もとに付けた宝石類を、ジャラジャラとうるさく鳴らしながらこちらへ歩いてくる。 昨日の晩、カイは別の店から出てきたこの商売人の男から財布をすろうとして失敗し、顔を見られたため、二度とこの人物は狙わないことに決めていた。
「……なんだ、アンタまだここに居たのか」
「ああ、昨夜は残念だったな、小僧。私から財布を盗めなくて」
「まあな。で?そんなこと言うためにここに来て、わざわざ薄汚い俺に構ってる訳じゃないよな?」
「勿論。ちゃあんと理由はある」
そこで一旦言葉を区切った商売人はギラリと目を光らせてカイを見た。
「この醜いスラム街に貴様のようなスリを生業としている奴はごまんといる。しかし、貴様は他の者達とは違うものを持っている。しかも、その価値は計り知れない……」
「何の話かわからねえな。俺みたいなスラムの住人が、アンタが身に付けてるような宝石を持ってるわけ」
「『人狼族』」
「!?」
自分の言葉を遮って放たれたその単語に、不覚にもカイは動揺し、右手を握り締めた。そんな彼の様子に、商売人は満足そうにほくそえんだ。
「やはりな。あの時に一瞬見た耳。その美しい銀の毛並みが忘れられなかった。そんなはずはないと自分に言い聞かせていたが、念のために確認しに来て正解だったようだ」
商売人の言葉に、カイは盛大に舌打ちをした。スリに失敗したあの時、フードが一瞬脱げて、彼の銀色のの耳が見られてしまっていたのだ。
「で?それを知って、どうするつもりだ?」
「決まっているだろう。人狼族の生き残りなど、大貴族も喉から手が出るほど欲しがるだろう。それこそ金貨一万を積んでも、な。お前達、捕まえろ。なるべく傷をつけるなよ」
商売人の言葉を合図に、三人の大男の内の一人が手を伸ばしてきた。とっさにそれをかいくぐり、カイはその場から逃げ出そうとした。しかし、
「『大地の精霊に告ぐ』」
「!?…ぐっ!」
商売人が言葉を発した瞬間、地面から長い植物のツルが生えてきた。それはカイの足に絡まり、巻き取り、締めつけて、彼を地面に倒してしまった。
「くそ!お前、魔道師か‼」
「いやいや、そんな大層なものではない。貴様のような下賎の輩に狙われることが多いのでな、護身用に身に付けただけだからな。本物の魔道師様にお目通りする機会など、今後貴様にはないだろうがなぁ」
「クソ野郎ッ!」
カイは奥歯を噛み締めて商売人を睨み上げたが、本人はその視線すらも楽しげにして彼を眺めていた。
「連れてこい」
「はっ」
「!放せ‼この人でなしどもが!」
「ハッ。人でなしは貴様だろうが」
嘲り笑いながらカイを一瞥すると、商売人は歩き出した。それに続いて、動けないカイを肩に担いだ男も歩き出す。向かう先は、恐らく奴隷市か奴隷商人の問屋だろう。カイは焦り、大声を出そうとしたが、植物のツルが猿ぐつわのように口を覆って彼の声を封じた。
「~~~‼」
「静かにしておけよ。大切な商品を傷つけたくはないからな、ククッ」
邪悪な笑みを浮かべる商売人に、カイの背中に冷たい汗が流れた、その時。
「案内人さん?」
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