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1章:魔眼の魔女の探索記
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薄暗い路地につい先程聞いたばかりの、澄んだ声色が響いた。カイは瞠目して、唯一自由に動く首をぐるんと回して、大男の背後を見た。
はたしてそこには、店から出てこちらに顔を向けている、迷子の少女が立っていた。カイの頭の中が何故、どうしてという言葉で埋め尽くされる。
「一体どうしたのですか?なぜそんなグルグル巻きになっているのですか?」
切迫した状況が見えているはずなのに、少女は無防備にこちらに歩み寄ってくる。
「~、~~‼(馬鹿、来るんじゃねえ‼)」
必死に叫ぶが、くぐもったうめき声のような音しか出ない。
「おやおや、こんな小さなお嬢さんが珍しい。親とはぐれてしまったのかな?」
「いいえ、先程道に迷っていたのをそちらの方に案内してもらったのです」
「ほう……お嬢さん、お名前は?」
「私は…エルと申します。あの、その方を放してはいただけませんか?さっきも言ったように私、彼に用があって……」
「エルさん、この男は優しさを装って貴女から金銭を巻き上げるつもりだったのだ。そうだろう?人狼族」
「…………え‼」
「……」
少女──エルがその言葉に驚いている様子を見て、カイは目線を反らした。自分を人狼族だと知った人間の反応はわかりやすい。意味もなく怯え迫害するか、捕まえて見世物にしようとするか、この商売人の様に奴隷商に売り飛ばそうとするか。そのどちらかのみである。
自分を案内したからと、お人好しな彼女はただならぬ状況に割って入って自分を救おうとしているのだろうが、その相手が人外で、しかも盗人だと知られた今、彼女も恐らく自分を見捨てるだろう。
カイは考えることを止めて、スッと目を閉じた。
何も言わない自分に軽蔑の視線を向けられるのを、カイは恐れなかった。恨まれて当然のことをしている自覚はあった。しかし、彼がここで生きるためには必要なことだった。だから彼は、後悔などしたことは──
「人狼族って本当ですか?私初めて見ました‼」
……何やらキラキラとした声が聞こえた気がして、カイは思わず目を開けてしまった。
エルは、何故か(恐らく)満面の笑みで、キラキラとした羨望の眼差し(?)を自分に向けていた。
「「「「………………………は?」」」」
エルを除いて、その場に居た全員が彼女の言葉に思考停止し固まっていた。
「あ、そうそう、私さっき貴方に預けたお財布を返してもらいにきたんですよ」
「え?預けた……?」
「ええ。先程店内で恐喝にあいそうになったんですけど、それを見越して彼に財布をあらかじめ盗っておいてもらったんですよ。なので一文無しの私は無事情報のみを頂いてきました♪」
ふわりと笑うエルに、全員が茫然とし、カイは瞠目した。まだ年端もいかぬ少女に自分が利用された──その事実に、彼は激しく動揺していた。不思議と怒りは湧かず、ただ彼女を凝視している。しばらくして、商売人が我に返ったようにエルに話しかけた。
「な、なるほど。貴女には見た目に合わず、聡明な方のようだ」
「いえいえ、そんな大層なものじゃ」
「では、この者が貴女から盗んだ物をお返ししよう」
「いえ、その必要はありませんよ」
「ん?何故?」
「大方、彼を人狼族だと知って捕まえたのでしょう?放してあげてください。お財布は彼から直接受け取ります。誘拐は犯罪でしょう」
エルの言葉に、商売人はピクリと眉をつり上げた。
「……つまり、我々の商売の邪魔をする、ということか?貴女のような小さな子供が?どうやって?」
理解するとともに嘲笑する商売人の質問に応えを返さずに、エルはチラリとカイの方を見たので、カイはハッとして彼女に向かって首をブンブン振った。恐らく自分を助けようとしている彼女が口パクで、
だ、い、じょ、ぶ、です
そう言って、笑ったから。
「……ならば、貴様も商品に入れてしまおう。女ならば買い手はつくだろう」
そう言って商売人はニヤリと笑い、エルに向かって腕を振った。同時に、カイの口に巻き付いていたツルが離れる。
「『大地の精霊に告ぐ』」
「!、ぷはっ!逃げろ‼」
カイの叫びとともに、魔術の植物が恐ろしい速さでエルに襲いかかろうとした、その瞬間。
「『止まりなさい』」
少女の言葉とともにパキン、という音がして、
世界が、静止した。
はたしてそこには、店から出てこちらに顔を向けている、迷子の少女が立っていた。カイの頭の中が何故、どうしてという言葉で埋め尽くされる。
「一体どうしたのですか?なぜそんなグルグル巻きになっているのですか?」
切迫した状況が見えているはずなのに、少女は無防備にこちらに歩み寄ってくる。
「~、~~‼(馬鹿、来るんじゃねえ‼)」
必死に叫ぶが、くぐもったうめき声のような音しか出ない。
「おやおや、こんな小さなお嬢さんが珍しい。親とはぐれてしまったのかな?」
「いいえ、先程道に迷っていたのをそちらの方に案内してもらったのです」
「ほう……お嬢さん、お名前は?」
「私は…エルと申します。あの、その方を放してはいただけませんか?さっきも言ったように私、彼に用があって……」
「エルさん、この男は優しさを装って貴女から金銭を巻き上げるつもりだったのだ。そうだろう?人狼族」
「…………え‼」
「……」
少女──エルがその言葉に驚いている様子を見て、カイは目線を反らした。自分を人狼族だと知った人間の反応はわかりやすい。意味もなく怯え迫害するか、捕まえて見世物にしようとするか、この商売人の様に奴隷商に売り飛ばそうとするか。そのどちらかのみである。
自分を案内したからと、お人好しな彼女はただならぬ状況に割って入って自分を救おうとしているのだろうが、その相手が人外で、しかも盗人だと知られた今、彼女も恐らく自分を見捨てるだろう。
カイは考えることを止めて、スッと目を閉じた。
何も言わない自分に軽蔑の視線を向けられるのを、カイは恐れなかった。恨まれて当然のことをしている自覚はあった。しかし、彼がここで生きるためには必要なことだった。だから彼は、後悔などしたことは──
「人狼族って本当ですか?私初めて見ました‼」
……何やらキラキラとした声が聞こえた気がして、カイは思わず目を開けてしまった。
エルは、何故か(恐らく)満面の笑みで、キラキラとした羨望の眼差し(?)を自分に向けていた。
「「「「………………………は?」」」」
エルを除いて、その場に居た全員が彼女の言葉に思考停止し固まっていた。
「あ、そうそう、私さっき貴方に預けたお財布を返してもらいにきたんですよ」
「え?預けた……?」
「ええ。先程店内で恐喝にあいそうになったんですけど、それを見越して彼に財布をあらかじめ盗っておいてもらったんですよ。なので一文無しの私は無事情報のみを頂いてきました♪」
ふわりと笑うエルに、全員が茫然とし、カイは瞠目した。まだ年端もいかぬ少女に自分が利用された──その事実に、彼は激しく動揺していた。不思議と怒りは湧かず、ただ彼女を凝視している。しばらくして、商売人が我に返ったようにエルに話しかけた。
「な、なるほど。貴女には見た目に合わず、聡明な方のようだ」
「いえいえ、そんな大層なものじゃ」
「では、この者が貴女から盗んだ物をお返ししよう」
「いえ、その必要はありませんよ」
「ん?何故?」
「大方、彼を人狼族だと知って捕まえたのでしょう?放してあげてください。お財布は彼から直接受け取ります。誘拐は犯罪でしょう」
エルの言葉に、商売人はピクリと眉をつり上げた。
「……つまり、我々の商売の邪魔をする、ということか?貴女のような小さな子供が?どうやって?」
理解するとともに嘲笑する商売人の質問に応えを返さずに、エルはチラリとカイの方を見たので、カイはハッとして彼女に向かって首をブンブン振った。恐らく自分を助けようとしている彼女が口パクで、
だ、い、じょ、ぶ、です
そう言って、笑ったから。
「……ならば、貴様も商品に入れてしまおう。女ならば買い手はつくだろう」
そう言って商売人はニヤリと笑い、エルに向かって腕を振った。同時に、カイの口に巻き付いていたツルが離れる。
「『大地の精霊に告ぐ』」
「!、ぷはっ!逃げろ‼」
カイの叫びとともに、魔術の植物が恐ろしい速さでエルに襲いかかろうとした、その瞬間。
「『止まりなさい』」
少女の言葉とともにパキン、という音がして、
世界が、静止した。
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