神様に愛されている α×α(→Ω) 

尾高志咲/しさ

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第一章 出会い

5 伊織の告白

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 比企さんは通いだそうで、明日の朝食の準備を終えると帰っていった。てっきり大輝も一緒に泊まるのかと思ったら、ぶんぶんと首を横に振る。

「あのさ、志乃。俺も命は惜しいんだ」

 何の話? と聞こうと思った時には、素早くドアの向こうに消えていた。
 伊織と二人きりになると、部屋の中はしんと静かになる。マンションは防音がしっかりしていて、外からの物音一つ聞こえない。

「志乃。先に風呂入る? もうお湯張ってあるよ」
「あ、うん」

 使い方を教えてもらって、広い湯船につかる。体が温まると、少しずつ疲れがとれていくのがわかる。
 思い出そうとしても、今日の学校での記憶は、やはり曖昧あいまいだ。僕がもっと強かったら、こんなことにはならなかったんだろうか。
 ざばっと湯から上がって、鏡に映る体を眺めた。細身の体に姉たちによく似た顔。必死で努力しても上にはなれないアルファ。やけに自分が中途半端に思えた。
 僕は鏡にシャワーのお湯をかけた。あっという間に自分の姿が消える。頭にもシャワーをかけて、全身をくまなく洗う。

 ……弱い心も全部洗い流せればいいのに。

 風呂を出て用意してもらったパジャマを着ると、やはり大きかった。伊織のだと思うけれど、彼は着痩せするんだろうか。引きずりそうになった足元だけを折り畳む。
 タオルで髪を拭きながら出て行くと、伊織が冷蔵庫から飲み物を出してくれた。好きなメーカーのものだった。

「ありがとう。この麦茶、好きなんだ。パジャマは伊織のだよね。やっぱり大きかった」

 袖口からぐんと手を伸ばすと、伊織はなぜか顔を背けた。

「……あの、さ。志乃」
「ん?」
「髪、早く乾かさないとまずいだろ。風邪ひくから」

 うん、と頷くと伊織はさっと立ちあがってドライヤーとブラシを持ってきた。そして僕をじっと見て、決心したように言う。

「俺……。志乃の髪を乾かしてもいい?」
「え? あ、うん。乾かしてくれるの?」

 いいのかなと伊織を見れば、こくこく頷いている。

「志乃の髪は綺麗だから、ずっと乾かしてみたいと思ってたんだ」

 ……そんなものだろうか。姉たちも昔はよく僕の髪をいじっていたけれど。

 ソファーに座ると、伊織は後ろに立って髪を乾かしてくれた。優しく温風を当てられ、長い指が髪の間を丁寧にすいていく。まるで撫でられているようで、とろりと眠気が訪れる。気持ちが穏やかになって、思っていたことがするりと口に出た。

「伊織はいいな。強くて何でもできて、羨ましい」 
「志乃は、まじめで努力家だ。誰にでも出来ることじゃない」
「僕は全然ダメだよ。努力したって、たかが知れてる。一族では役立たず扱いだし」

 伊織はブラシで仕上げをすると、ぼくの前に来てしゃがみこんだ。美しい瞳が真っ直ぐに僕を見る。

「志乃は、役立たずなんかじゃない」
「……ありがとう。でも、氷室には、アルファは跡取りの兄さえいればいいんだ。僕はずっと、オメガだったらよかったのに、って言われてきた」

 伊織は眉を寄せ、まるで痛ましいものを見るように僕を見た。

「母がいつも庇ってくれたから、なんとかもっと頑張りたかったけど。この先は、付属の大学を出て就職したら、決められたオメガと結婚するんだと思う。その位しか僕にはできることがないんだ」
「ちょっと待て! も、もう相手は決まってるのか?」

 伊織は顔色を変えた。まだだけど、そのうち決まると思うと答えた。アルファやオメガで名の知れた家は、幼い頃から婚約者がいる場合が多い。氷室のアルファは人気がないけど、大抵、一族のオメガたちが結婚相手を見つけてくれる。

「し、志乃はそれでいいのか? 自分のことなのに」
「僕? あまり考えたことがないな。好きな相手もいないし」

 伊織はうつむいたまま、動かない。ああ、僕のことばかり話しすぎだ。

「ごめん、伊織。暗い話ばかりして……」

 その後は言葉が続かなかった。顔を上げた伊織が指で僕の顎を取り、唇をそっと重ねたから。

 ……? 

 呆然としていると、伊織は自分の唇を離して、僕の頬を両手で包んだ。

「志乃を役立たずなんて言うなら、俺がもらう。俺は、志乃が必要だから」
「……伊織」
「志乃が好きだ」
「ほ、本気で言ってる? 僕も伊織も、アルファだよ」
「アルファかオメガかは関係ない」
「僕……僕は、よくわからない。ずっと……、アルファはオメガとつがうものだと、そう思ってきたから」

 伊織は僕から目を逸らさずに、ゆっくりと顔を寄せる。

「じゃあこれから、俺を見て。第二の性なんか関係なく、好きになって。志乃に振り向いてもらえるように、必死で頑張るから」

 伊織は僕を優しく抱きしめた。腕の中は温かくて、胸がどきどきと鳴る。触れられても、もう体は震えていなかった。胸の音だけが、自分のものとは思えないほど大きく響いていた。
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